第四十八話~襲来~
第四十八話~襲来~
駆け出し冒険者の定番ともいえる薬草集め、その依頼を今さらながらに受けてみる。するとその依頼を受けている間には何も起きず、実に長閑といえる時間を過ごしていたのであった。
明くる日になると、冒険者ギルドへと向かった。
しかし昨日の今日で、情報が増えているとは思えないので、情報集めなどはしない。代わりというわけではないが、届け物の依頼があった。俺たちが今いるエッガーの町は、ルドア王国東部にある有力貴族家の一つとなるエイガー辺境伯の領都である。ゆえに中核都市の一つといってよく、こういった届け物のような依頼があることが多いとはセレンの弁だ。
こういった傾向は、他の国や地域でも変わりはしないらしい。つまり必ずあるというわけではないが、大体の確率であるのだそうだ。そして案の定、エッガーの町でも見つけたというわけである。そして見つけた依頼だが、行先については二つであった。
一つは、ルドア王国西部にある侯爵家の領都までとなっている。そしてもう一つは、ルドア王国北部辺境伯の領都までとなっていた。
流石に、きな臭い噂が流れ始めている南部へ向かうような依頼というのはない。そのような依頼があればきっと受けただろうなどと思いつつ、俺はどちらにしようか考えていた。
ただ、この町で依頼を受けずに、勝手に南部地域へ行くというのもありといえばありである。その場合、別行動をしている行商をエッガーの町へ向かわせて、隊商の護衛とでもしてしまえば理由付けとしては十分だからだ。
「さて、どうする?」
「一まずは、西へ向かってみましょう」
「シュネ。西とした根拠は?」
「これといってないわね。強いて理由を上げるとすれば、ルドア王国の王都を通るからかしら?」
確かに、ルドア王国の王都には行ったことがない。そしてルドア王国東部から同国の西部に向かう場合、王都を通ってルドア王国を横断するのが最短距離となるのだ。一方で北部に向かう場合だと、ルドア王国東部から北部へ抜ける街道がある。ゆえに初めから、王都に向かうという選択肢がなくなるのだ。
「じゃあ、ルドア王国の西部に行くか」
『うん!』
オルとキャスが返事をする傍らで、シュネとセレンが頷いていた。
その後、カウンターで依頼を受ける旨を告げてから、一度宿屋へと戻るとチェックアウトをする。それから、再び冒険者ギルドへ戻ってきた。そこで届け物となる荷を、馬車へ積み込んで貰うと、エッガーの町をあとにしたのであった。
俺たちは、ゆっくりと王都へ向かう街道を進んで行く。この街道は、ルドア王国東部と同国中央地域を結ぶメイン街道でもあるので、利用する者は多い。だからこそルドア王国も、治安には力を入れている。その為、街道を進む限り危険なことなどほぼなかった。それゆえ、シュネは一行から離れて研究所へ戻っている。そしてセレンも同様に、研究所に戻っていた。
その一方で残った俺たちはというと、街道を西へ進みながら忠実に依頼をこなしていく。街道上にある幾つかの町で冒険者ギルドに寄って届け物を渡しながら、寄った先で観光などを楽しみつつ街道を進んで行った。
道中ではこれといった出来事も、誰からか狙われるなどといったこともない。実に平和な旅であったと言えるだろう。やがて、無事に王都近郊へ到着した。すると研究所から連絡が入り、シュネとセレンとエイニが合流する。メンバーが全員揃ったのを確認すると、王都へと入った。
その王都だが、お祭り騒ぎである。それは、ルドア王国が南部へ派遣した軍が戻ってきたことに原因があるらしい。ルドア王国の軍勢が王都へ戻ってきたことで、王国より南部に現れた魔物の群れが討ち滅ぼされたとされたとの公式発表があったのだ。
しかしこの発表だが、事実の全てが明らかにされたわけではない。ルドア王国は、魔物の群れが討たれたとの発表はしているが、その魔物の群れを誰が討ったかまでは明らかにしていないのだ。
だが、ルドア王国が派遣した軍が戻ってきてから魔物の群れが討たれたとの発表があったので、ルドア王国の民衆が勝手に誤解したのである。即ち、ルドア王国の軍が、魔物の群れを駆逐したのだと。
「それで、戦勝を祝してのお祭りというわけか」
「民衆からすれば、自分が襲われるかもしれないという脅威がなくなればいいだけだからね」
セレンが、その辺りにある屋台で買った果物を頬張りつつ意見を述べたが、その言葉はすごく冷めている。臆面もなく自国の手柄と民衆が誤解するように仕向けて発表したルドア王国に対して、呆れているのかも知れない。もっともその心持ちは、結果的に魔物の群れを撃ったという手柄を掠め取られた形となっている俺たちも同じだった。
ルドア王国も含めて、国や貴族にはできるならば関わりたくはないから、発表自体に何らかの動きをする気はない。だからといって、手柄を掠め取られたのは事実であるので気分はよくなかった。それにもまして、誤解するように仕向けられたとはいえ、民衆が国から踊らされているのを目の当たりにしている。その点についても、気分がいいわけではないのだ。
「とはいえ、気にしてもしょうがないか。ところで王城だけど、勇者一行がいるよな」
「ええ。そうみたいね」
事態が終了したとの知らせを持った使者が勇者一行に再度接触したことで、彼らはルドア王国南部行き変更している。その後、当初の目的であったであろうルドア王国王都へと向かったのだ。
確かに、事態が終了したとなれば勇者一行がルドア王国南部地域へ向かう必要はない。そもそも彼らがルドア王国から頼まれたのは、助力である。その助力が必要なくなったのだから、本来の目的である表敬訪問を優先させるという判断をしても不思議なことはなかった。
だた、騒動があったルドア王国南部のことは気になっているようで、ルドア国王へ表敬訪問を行ったあとには南部地域へ向かうつもりらしい。その勇者一行が王都に到着したのは、俺たちが到着する数日前のこととなる。王都に到着後はすぐに国王へ謁見した彼らであるが、ルドア国王から歓待を受けたこともあってそのままと留まっているようなのだ。
さて、勇者の動向を追っているとはいえ、基本的には彼らの動向を把握できていればいいという判断をしている。だが、悪魔王の手下となる四魔将が勇者一行を狙っているかのような雰囲気があった。そこで、勇者に張り付けているドローンを一台から二台に増やして監視の目は強化している。たが、現状でこれ以上、彼らに関与するする気はなかった。
だがピンチにでもなれば、勇者一行を助けるのも吝かではないが。
「どんな歓待なのか気にならないといえば嘘になるけど、そっちはどうでもいいか。それより、宿屋をとろう」
「そうだね……でも、とれるかな」
「どうかしらね。まずは、当たってみましょうか」
その後、宿屋に向かったが、セレンが懸念した通り満室だった。他にも数件ほど宿屋を回ってみたが、どこも同じで部屋を確保できない。最後に寄った宿屋では、今の王都ではまず部屋を取れないとまで忠告されてしまったぐらいなのだ。そこで、俺たちは宿の確保は諦めて、王都の外で馬車を使って寝泊まりすることに決める。それぐらいであれば、場所はあるのだ。
事実上、野宿と変わりがないので、王都近郊にいながら野宿というのも少し物悲しいものがある。だが、宿屋が確保できないのだから仕方がないのだ。その馬車の中で俺たちは、これからどうしようかと相談をする。このまま王都観光をしてもいいのだが、現状の王都はお祭り騒ぎでごった返しているといっていいだろう。これでは観光をしたくても、できるとは思えない。となれば、これ以上は王都にいる必要を感じなかったので、早々に出発することとした。
それでも王都から出発前に、冒険者ギルドへ向かうと届け物をする。実は今回の依頼で一番届け物が多い届け先は、この王都だったのだ。そんな多い荷物を馬車内に抱えながら冒険者ギルドに行ってみると、受け付けの女性が仏頂面をしてだらけていたのであった。
当直となった為に王都のお祭り騒ぎに加われないこと、それが不満だったのだろうことは想像に難くなかった。
「すいませーん。届け物ですけど」
「え? あ、ああ! すみません」
声を掛けたことで、漸く気付いたらしい受け付けの女性が慌てていた。
それでも間もなく落ち着くと、コホンと一つ咳払いをして場の空気を換えようとする。しかし先ほどの姿はばっちり把握しているので、こちらとしては生暖かい目を向けるだけである。その為、冒険者ギルド内には微妙な空気が流れたままだった。
但し、彼女の姿を見たのは俺たちだけしかいない。冒険者ギルドのスタッフも、最低限だけ残して祭りの方へ参加しているらしく、受け付けをしているのは彼女一人だけである。そして冒険者ギルドの建物内にも、冒険者はいなかった。
つまり彼女一人だけであり、それが幸いといえば幸いなのだろう。少なくとも、俺たち以外には知られていない。その俺たちも、届け物を渡せばすぐに王都から離れる予定なのだ。
「えっと……これが、届け物です。量がそれなりにありますが、裏に運び込みますか?」
「あ、はい。お願いします。それと、ご苦労様でした」
「いえ。依頼ですから」
その後、彼女に案内して貰って届け物を運び込んでおく。それが済み次第、王都から離れた。すると王都から距離をとるに従って、街道を利用する人が減っていく。ある程度王都から距離をとったところで、休憩する判断をする。俺たちは街道から少しだけ離れると、そこで馬車を停めた。
「……ふぅ。これで、落ち着けるな」
「そうね。正に、やれやれね」
『うんうん』
俺が呟いた言葉に対してシュネが出した言葉こそ、みんなの心持と言えるだろう。そういった理由もあって、全員が声を出して頷きあっていた。
一応、警戒用の魔道具を稼働させた上での休憩であり、万が一にも奇襲を受けることはないだろう。しかも、街道から大きく距離をとっているわけでもないのでなおさらに襲われることはない。実際、何も問題なく休憩を終えたことが、その証明だろう。休憩を終えた俺たちは、街道に戻ると目的地に向けて街道を西へ進んで行った。
まったりと街道を進み、王都のあるルドア王国の中央地域から西部地域に入ってから暫くした頃、緊急の情報が飛び込んでくる。その要件を届けたのは、勇者一行に付けているドローンからのものだった。たまさか研究所に戻っていたシュネ経由で入ったその情報によれば、勇者一行は襲われているというのだ。
彼らは王都での歓待後にルドア王国南部へと向かったのだが、残念ながら魔物の群れに襲われたバートの町へは立ち寄れなかった。そこで、他の南部地域にある町へ寄ったところで襲撃をうけたらしい。しかも襲撃しているのは四魔将……今は一人欠けているから三魔将だろうか? 何であれ、四魔将を名乗っている悪魔たちからの襲撃だった。
この襲撃だが、勇者一行を狙ったものなのか。それとも、勇者一行が町に立ち寄った時と悪魔の襲撃が、偶々重なったからなのか分からない。しかし、悪魔による襲撃が行われているのは事実だった。
「……王都で勇者の一行が襲われたら助けるのは吝かじゃないとは思ったけど、本当に襲われたのか」
≪何、そのフラグ。シーグ、そんなフラグを立てていたの?≫
「シュネ。フラグ立てる気は、さらさらなかったんだよ」
確かに、フラグなど立てる気はなかった。だが、考えたことでフラグが立ってしまったのだろうか。
≪それで、助けるの?≫
「どうやら、同郷みたいだからな。助けてもいいと、思ってはいる」
≪そうね。それに、セレンとの約束もあるわ。何より、悪魔を放ってほけないものね≫
「そういうこと」
なお、現地へ向かう方法だが、バートの町が襲われた際に行った方法と同じとなる。つまり、研究所経由で転送して、現地へ向かうのだ。正確な座標は、勇者に付けたドローンがあるので問題ない。襲撃されている場所より少し離れた場所に転送することになるが、それでもそんなに距離があるわけではないので、大した問題にはならないだろう。
取りあえずの方針が決まったところで周囲を確認したが、流石に多くはないが人の目がある。その目から逃れる為に、街道から離れることにした。やがて視線を感じない距離まで街道から離れると、そこで転送をする。研究所に戻りシュネやセレンと合流してから、再度転送を行った。
因みに、今回もキャスはお留守番である。そのことを伝えられると、頬を膨らませて思いっきり不満を表している。しかしそれが逆に、キャスのかわいらしさを強調させていたのだった。
今度は、勇者が襲撃されました。
文中にあるように、勇者が襲われたのか、それとも勇者が巻き込まれたのかは定かではありませんが。
ご一読いただき、ありがとうございました。




