第四十七話~定番~
第四十七話~定番~
万を超える魔物を撃退した戦場に佇んでいた三体の悪魔、そいつらから得られた情報をもとにして色々と調べ始めたのであった。
研究所で目を覚ましたあと、全員で一まずエッガーの町近くへと転送すると、町へ入り宿へと向かう。町から離れる際にチェックアウトなどはしていないので、相変わらず部屋は確保したままとなっており問題とならないのだ。
宿の部屋に一旦戻ったあと、適当に荷物を置いてから町へ繰り出す。適当に店をひやかしつつ、ちょっとした買い物をしながらルドア王国南部で起きた悪魔襲撃に関する情報を集めてみた。
しかし、駆逐した魔物の集団に関する情報のような物は全くない。情報統制がなされているからなのか、それともまだエッガーの町にまで伝わってきていないからなのか、までは判別はできなかった。
そこで、冒険者ギルドに向かってみる。建物内ではちらほらと冒険者の姿も見えるが、まだ早い時間ということもあってか数は少なく閑散としている。そんな冒険者ギルド内では、情報集めも厳しいかなと思えたので、もう少し遅い時間に改めて出直すことにした。
再度町へと戻ったのだが、前回のように情報集めがメインなわけではない。そこで俺たちは、純粋にエッガーの町を楽しんでいた。とはいえ、中心となるのは女性のシュネやキャスやセレンである。また、女性は彼女たちだけではない。ビルギッタやアリナやエイニという三人のガイノイドも加わっているのだ。
それでなくても、三人寄れば姦しいなどといわれることもある女性が、倍の六人もいる。二人しかいない男である俺とオルは、本日二度目にも関わらずいわゆるウインドショッピングに興じている彼女たちのあとを静かについていくだけだった。
「いつも思うが、このバイタリティには、負ける」
「うん。そうだね、シーグ兄貴」
「だが、文句でも言おうものなら……」
「そうだよねぇ……」
何となく、遠い目をしながら彼女たちを見ていたのであった。
エッガーの町を散策する途中でちょっとしたもの食べながら、やがていい時間かなと思えたので、少し控えめにだが女性陣へと声を掛けてみる。すると、幸いなことに彼女たちから反対はない。その時には少しだけ、本当に少しだけだが安堵したものだった。
取り分けて急ぐ理由もないので、ゆっくりと冒険者ギルドへ向かう。ただ、キャスに関しては、アリナに同行させて宿屋へ戻らせていた。こうしてキャスとアリナの二人と別れたあと、到着した冒険者ギルドには人が多くいる。だが、それ以上に気になったことがある。それは少しだけだが、冒険者ギルド内に穏やかではない感じがしたのだ。
理由は何だろうと思いつつ情報集めを始めると、驚くことが分かる。何と眉唾の噂レベルであったが、ルドア王国南部地域で起きた事態についての話が僅かだけだが流れていたのだ。無論、しっかりとした情報なのではなく、あくまでルドア王国南部で何かが起きているのではないかといった程度のものでしかない。しかし、ルドア王国東部地域にあるエイガー辺境伯の領都であるエッガーの町にまで話が流れていたのは事実だった。
「なるほど……建物に入って時に微かだが感じた不穏な雰囲気はこれか」
「とはいっても、話は事件があった程度だね。それも、確定じゃないし」
「セレン。それは、仕方ないだろう? どうしたって距離がある。俺たちのように、距離を無視できるわけじゃない」
「それもそうだね。実際、あたしもシーグたちと知り合わなければ、同じ立場だろうからね」
「ま、そうだろうな」
セレンが俺たちと共に行動をするようにならなければ、昨日の魔物の群れとの一戦など巻き込まれるか、事態がもっと進んで依頼のような物が出ない限り関わることなどなかった筈だ。
もし巻き込まれていたとしても、昨日の今日でルドア王国南部地域から東部地域へ移動しているなどということもできない。それを考えれば、寧ろエッガーの町までよく話が流れてきているものだと驚くところなのかも知れない。
「とはいえ、どうやったのだろう」
「可能性としては、バートの町でしょうね。町の生き残りが、それこそ必死に王都まで知らせた。そのせいで、話が広まり始めている。といったところじゃないかしら」
「ふーん。シュネ姉、そういうものなのか?」
「オル、多分ね」
これは、明日にでも研究所に戻ってみよう。たとえ噂レベルでも話が流れ始めているのなら、各地域から情報が入っている可能性があるからだ。それに何より、ルドア王国の王都に向っていると予測した勇者一行の動き。彼ら次第では、このルドア王国の対応が分かるかも知れないのだ。
ドローンが発見されてしまったという話は聞いていないので、まだ勇者一行をドローンの一機が追跡している筈である。その勇者一行にルドア王国側からの接触でもあれば、何か分かるだろう。そこには、悪魔に通じる情報もあるかも知れないのだ。その辺りを通信で聞いてもいいが、研究所で直接ネルトゥースから情報を得ることにした。
その日は、そのまま宿屋へと戻り、翌日になってから俺とシュネだけが研究所へ戻ることにする。情報の確認だけなので、全員で戻る必要が感じられないのだ。朝食後に宿屋を出てから、人目がない路地へ移動すると周囲の気配やディテクトスコープによる町の住人等の存在の有無を確認してから研究所へと転送する。それからネルトゥースのところへ行き、彼女に情報収集の進捗状況がどういった塩梅なのかについて尋ねてみた。
ネルトゥースからの話では、バートの町が落とされたという話は既に王都へ届いているらしい。報告を受けたルドア王国は、すぐに動きを見せて軍の派遣準備を行ったようだ。実際に軍勢が召集されているのが、その証拠だろう。しかしながらこの行動が原因となって、市井へ魔物の大規模集団がルドア王国南部地域に現れているという噂が流れてしまったというわけだ。
情報を隠蔽していたルドア王国は、慌てて噂の帳消しに走ったようがもう遅い。人の口に戸はたてられないという言葉通り、あっという間に拡散したというわけであった。ことここに至りもうどうしようもないと諦めたのか、ルドア王国は噂の火消しは諦めて軍の派遣に注力している。同時に、勇者一行への救援を頼むことにしたらしく人を派遣していた。
勇者一行の動向自体は把握していたようで、すぐにルドア王国の出した使者は接触を果たしている。話を聞いた勇者である祐樹は了承すると、行先をルドア王国南部地域へと変更していた。
「やっぱり、勇者に接触したのか」
「国内にいるのだから、当然よ。それに、性格もお人よしみたいだからね」
シュネの言葉に、俺は首を傾げた。もし彼女のいう通りだったとしても、転生したというかさせられた勇者たちがそうそう現地の人間を信じられるのだろうかという思いがあるからだ。
「それは、どうだろう。シュネのいう通りお人よしなのか、それとも祐樹と名乗っている勇者の性格がいかにも勇者をしているのか。はたまた、強い力を得たことで有頂天なのか。その辺りは、分からないな」
「……それも、そうね。あとは頼みごとを解決すると、何か要望がかなうとかそういった条件があるかも知れないわね」
「それもありと言えば、ありか。だけどそうなると、今回の一件にアシャン神皇国も関わってくるかも知れない」
「そうね。あり得そうだわ」
だが現状、アシャン神皇国はあまり関係がないだろうと思っている。それに、悪魔の企みは既に潰した。この瞬間にも次の動きがあるかも知れないが、たとえそうであったとしても情報が入らなければどうしようもないので、ここは追加で得た情報を持って、一度エッガーの町へ戻ることにする。
さて転送先の目標となるのは、あえてエッガーの町へ残したビルギッタとエイニとなる。先に連絡を入れて人目のない場所まで移動して貰い、彼女らに周囲を確認して貰った上で転送を行う。やがて転送の際に起きる光も収まり、視界に入ったのはビルギッタとエイニの二人だった。
『お帰りなさいませ』
「ああ。ビルギッタもエイニもご苦労さん」
『はい』
その後は、合流するべく人気のない路地から出る。すると、ビルギッタとエイニはエッガーの町のある方へと向かっていく。方向としては、町の中央にある広場のようだ。宿屋ではなく広場に向かうのだから、何か意味があるのだろうと思って付いて行く。やがて広場に着くと、その片隅の方へ移動していった。
そこには木が何本も植えられてあり、ベンチのような座るところが幾つも設置されている。一種、憩いの広場といっていいだろう。その広場にあるベンチに、オルとキャスとエレンが腰を降ろしている。そしてアリナだけは、ベンチへ腰を降ろさず立っていた。
「あ、きたね」
「おかえりー。シーグお兄ちゃん、シュネお姉ちゃん」
「ああ。ただいま」
ベンチに座りながら何か飲んでいたキャスが、ベンチから降りて出迎えてくれたので、頭を優しくなでながら返答する。するとキャスは、嬉しそうに笑っていた。その笑みが微笑ましくて、もう少しだけ頭を撫でる。だが、いつまでも撫でていても仕方がない。一まず俺たちも、開いているベンチへ腰を降ろした。
それから、研究所で手に入れた情報についての知識を共有していく。キャスだけは少しつまらなそうな雰囲気があったが、それでも全員が黙って話を聞いていた。
「なーるほど……それでこれからだけどシーグ、どうするの?」
「もう少し、情報を集めるしかないな。相手の動向が分からない以上は受け身となるから、仕方がないんだが」
「それもそうか。それじゃ、一つ依頼でも受けてみる?」
「ふーむ。ま、一回ぐらいいいか。それでセレン、何かいい依頼でもあるか?」
「分からないわよ、冒険者ギルドに行かないと」
「悪い。それはそうだよな」
とはいえ、今日のところは冒険者ギルドへは行かず、明日向うことにして、このまま夕方まで町をぶらつくと宿屋へ戻った。翌日、冒険者ギルドに行き依頼を見ていると、やがて草集めの依頼が見付かった。実はこれも、恒常的に出されている依頼となる。薬草に代表される野草は医師や薬師など需要があるので、討伐依頼と並んで恒常的な依頼としている冒険者ギルドはそれなりにあるのだ。
ただ、前者の討伐依頼は国や領主などいわゆる公的機関が依頼主となることが多い。しかし薬草集めは、先に挙げた医師や薬師、それと冒険者ギルドが依頼主となることが多いという違いはあった。
そういえば今までに出に立ち寄った冒険者ギルドにも、あったような気もする。そもそも、どこかの町を拠点として活動するような依頼を受ける候補としていなかったので、あまり気にしていなかったのだ。
薬草集めは定番ともいっていい依頼なので、一回ぐらいは受けてみようという軽い気持ちで受けることにした。そして薬草を探すのは、さほど難しくはないとのことである。それには理由があり、セレンがまだ駆け出しだった頃にかなり依頼をこなしたことがあるらしいのだ。
いわゆる植生に関しては、地域によって違いがある。だがそのようなことは、事前に情報を得てしまえばいい。冒険者ギルドで聞けば教えてくれるので、その点に関しては問題とはならないからだ
既に彼女自身は銀という中堅クラスの冒険者だが、俺を含めて他のメンバーはまだ最低ランクの銅としてランク付けされている。その為、薬草の情報を得ようとしたセレンに対応した冒険者ギルドのスタッフは、普通は彼女クラスの冒険者が受けないような情報について聞かれたことに納得顔をしていた。
冒険者ギルドで薬草が生えている場所の情報を得たあとで町を出ると、馬車に揺られながら進んでいく。やがて目的地近くへ到着すると、馬車の番ということでエイニを残すと薬草集めを行う。念の為に、二人ほどが周囲への警戒に当たる。ビルギッタとアリナが立候補してくれたので、二人に任せて俺たちは薬草集めを開始した。
ただ、俺たちのような低ランクでも問題なく受けられる依頼である。身の危険を感じるような存在が簡単に出没するような場所でもないので、あくまで念の為に過ぎない。薬草なのか、それとも依頼に該当しない野草かの違いをセレンから教わりつつ、実に和気藹々と薬草を集めていた。
事実、危険が少ないことを証明するかのように、偶に動物の気配などがするが、魔物の気配はほぼなかったのである。
それから適当な時間まで集めていたのだが、経験者であるセレンの言葉でそれも切り上げる。その後、馬車の番をしていたエイニと合流したあと、やはりゆっくりとエッガーの町へと戻る。それから冒険者ギルドへ薬草を持ち込み、報酬を受け取ってから町で食事をしてから宿屋へ戻り眠りについた。
因みに、報酬の殆どは宿代と食事代で消えている。これだと需要がないのではないかとセレンに尋ねてみたところ、普通駆け出しの冒険者は俺たちが確保しているような宿には泊まらず、もっと安い宿屋か、それこそ冒険者ギルドが冒険者に対する福祉として準備している冒険者ギルド内にあるバーと同じく用意している宿泊施設に泊まるらしい。
そういえば、冒険者ギルドに所属する際に渡された小雑誌にも宿泊や食事に関する福祉について書かれていたことを、今さらのように思い出す。俺たちは初めから金を持っていたことから、それらの施設を使うつもりがなかったので気にもしていなかったのだ。
「シーグたちは初めからお金を持っていたから気にしなかったのかだろうけど、駆け出し冒険者が、今あたしたちが確保しているような宿など泊まらないから。主に金銭的な問題で」
「そう、なのか……」
「そうなのよ。今後は気を付けてね。もし他の冒険者にそんなことを言ったら、不思議がられるわ。それだけじゃなくて、エイムの町でつけられたように因縁を吹っ掛けられるかも知れないから。今度は強請り集りということで」
「わかった。以後は気を付ける」
俺だけの話ではない、シュネたちも人ごとではないのでセレンを除く全員が揃って頷いていたのであった。
事件後の動きに関してといったところです。
基本的にシーグたちが受け身な状態なので、動きも穏やかになりますね。
ご一読いただき、ありがとうございました。




