第四十六話~情報~
第四十六話~情報~
魔物の群れに対して損害を与えていると、流石に無視できなくなったのか漸く魔物の群れを率いていたと思われる悪魔が出現する。しかしその悪魔は、何と勧誘を仕掛けてきたのだ。
勧誘を受ける気もないのでその申し出を断ると、風のアルバと名乗った悪魔が攻撃を仕掛けてきたのだった。
どうやら自分の羽が切り取られることなど想定してなかったらしく、まるで墜落でもするように落ちていく。しかしまだ損傷のない羽を使うことで、何とか硬着陸に近い形ではあっても墜落という結果からは逃れていた。
しかし羽を失ったことに続いて墜落にも等しい着地であり、負っただろう怪我は浅いものではい。そのことを証明するかのように、立ち上がったアルバは片足を引きずっている。その様子から、着陸した際に足の骨にひびが入ったか、もしくは折れたのだろうと思われた。
「どうした。それで終わりか?」
「ふざけるな!」
あえて挑発とも嘲るとも取れるかのように問い掛けると、アルバはあっさりと乗ってくる。吠えつつも怒りの籠った目でこちらを睨み返してくる。そしてその直後には、何かの術を使用していた。
すると切れた羽が再生したばかりか、足を引きずっていた為にバランス悪かったアルバの立ち姿が普通になる。その様子から治癒術か、それに類似する術を使用したらしい。その後、自身の具合を確かめるように、アルバはその場でジャンプをしたり羽を動かしたりしていた。
「どうやら、本気で相手をしなければならないらしいな」
「本気って……十分に本気だっただろうが」
「やかましいわ!」
少し顔を赤らめながらそう叫ぶと、アルバは軽く浮かび上がった。
悪魔の容姿とはいえ、顔だけ見れば悪くはないので見られないことはない。ただ、男の俺から正直に言わせてもらえば、気持ち悪い以外の何ものでもなかった。
「整っているとはいえ、男の赤面とか、誰得だよ」
思わず呟いてしまったが、仮面越しなので聞こえることはないだろう。実際、気にした様子は見られない。しかしてそのアルバだが、空中で数回ほど自前の羽を羽ばたかせたかと思うと、一気に加速すると接近してきた。しかもその速度は、先ほどとは比べ物とならないぐらいに早い。どうやら本気という言葉も、必ずしも嘘でもなかったらしいようだ。
すぐに身構えて待ち受けたが、アルバは俺の直前で急に体を回転させながら蹴りを放ってくる。回し蹴りとも浴びせ蹴りとも取れる蹴りだったが、接近の速度も相まってか中々の威力の蹴りだと感じられた。
咄嗟に腕を交差させてその蹴りを受け止めてみせるが、アルバの攻撃はそこで止まらない。蹴りを放っていないもう片方の足で地面を蹴って俺を飛び越えると、羽を駆使して空中に浮かびつつ後方から蹴りを放ってきたからだ。
しかし俺は、体を沈ませることで避けてみせると、その直後には地面を蹴って背中から空中にいるアルバに対して突きあげるような体当たりを行うことで上空へ吹き飛ばした。それから、スラスターを吹かせて飛びあがったが、どうやら虚はつけたらしい。その証拠にアルバは、驚愕の表情を浮かべていた。
そのまますれ違いざま腹に膝を入れてダメージを与えた直後、組んだ両拳をアルバの背中へ叩き込んで地面へ送り返した。
「ガハッ!」
かなりの勢いで地面に叩きつけられたアルバへ、遠慮なく追撃を行う。再度スラスターを吹かせて追い縋ると、組んだ拳を叩き込んだ背中へ今度は蹴りを叩き込もうとした。しかし直前で察知したのか、アルバは蹴りを避けている。だがその避け方は、自身を弾かせたかのような不自然な避け方に感じられる。
しかし、アルバが避けたことに変わりはない。俺の蹴りは、虚しく地面に大きな凹みを作っただけだった。
その後、俺が作ってしまった小さなクレーターといっていい凹みの外縁部に倒れているアルバが、ゆっくりと立ち上がってくる。しかし、よろめきながらであり、その様子に俺は訝しげに眉を寄せた。
確かに腹へ膝を叩き込み、それから背中へ組んだ両拳を叩き込んで地面に送り返したとはいえ、相手は身体的には人など遥かに及ばないぐらいに強化されている悪魔である。しかも四魔将などという大層な肩書を持っているぐらいだから、かなり上位といっていいだろう。そんな悪魔が、あの程度の攻撃だけで相応にダメージを負うとはいささか腑に落ちなかったからだ。
「避けたのはたいしたものだと思うが、妙な避け方だったな。それと、思いの外ダメージを負っているようだが?」
「う、うるさい。貴様には、関係なかろう」
「……ふむ。それもそうだ、な!」
気にならないわけではないが、確かにその通りだろう。倒してしまえば、同じなのだ。そこで俺は一気に踏み込み接近するが、アルバの直前でフェイントをかける。急襲したことも相まってか、見事フェイントに引っ掛かっていたので、俺は生まれた隙を突いて鳩尾へ拳をアッパー気味に叩き込んだ。
いわゆるソーラープレキサスブローであり、ここを叩かれると人間なら横隔膜の動きが一時的に止まるので呼吸困難になる。さらに言うと、神経が集まっている場所でもあるのでより痛みが増すのだ。
悪魔にも通用するかは分からなかったが、少なくともアルバには有効だったようで腹を押さえつつ膝をついている。俺はすかさずアルバの頭を片脇に抱え込むと、そのまま後ろへ倒れ込んでいた。
腹と頭という二重にダメージを負っているアルバを離すと、すぐにジャンプする。頭と腹を抱えてのたうち回っている相手に対し、もう一度空中からの蹴りを叩き込んだ。その蹴りは、アルバの背中にめり込んでいる。どうやら、偶々背中を向けた時だったようだ。
声にならない声を叫んでいるアルバの背中から降りると、度重なるダメージからか動かなくなったアルバの首元を掴む。やはり負ったダメージが大きいのだろうだが、抵抗らしい抵抗を見せなかった。
とはいえ、まだ死んではいない。悪魔は、死ねば体から粒子のような物が立ち上がり消えていく。その兆候が見られない以上は、油断はできないので気を引き締める。正にその時、項垂れていたアルバの頭がいきなり動いたかと思うと、何らかの攻撃を解き放っていた。
その攻撃だが、指向性を持たせた上に圧縮された何かを放ったと思われる。これが、もしアルバを倒したと考えていたら間違いなくまともに食らっていたかも知れない。そう思えるぐらい、見事な不意打ちであった。
「……あぶない、あぶない。悪魔の生態を知らなかったら、もろに食らっていたところだ」
「ば! ばかな……避けた……だと!?」
「手前らは、死ねば消えるだろう。だから、警戒していたお陰だ!」
「グフッ!!」
悪魔の首を掴んだまま、額を地面へ叩き付ける。そして追い打ちを掛けるように、アルバの後頭部へと膝を落とした。その後、頭を掴んで持ち上げると、もう一度地面へ叩き付ける。それを三度ほど繰り返したあとで、四度目は地面に叩きつけずに空中へ放り投げた。
すぐにスラスターを使って飛びあがり、放り投げたアルバを追い抜く。そして、空中で両腕を掴んで極めると同時に首を足で挟んで固定し、そのまま頭を地面に向けさせた状態でスラスターを吹かせて地面に叩きつけてやった。
声すら上げることもできないアルバの頭が、地面にめり込んでいる。これで決まったかなと思えたが、何と弱々しいながらも体が微かに動いている。この生命力の高さは、流石に悪魔だと思える。正に、呆れるほどの生命力と言っていい。しかもアルバは、治癒術かそれに類似する術を使い自身の回復ができる。となれば、下手をするとまたぞろ復活しかねないので、早々に止めを刺して決着をつけることにした。
地面にめり込みながらも微かに蠢いているアルバの頭を掴んで地面から引き抜くと、腰にある短杖を引き抜く。そして片側からだけ魔刃を展開すると、掴んでいた頭を離し、即座に魔刃を振り抜いてアルバの首を断った。
光の線が奇麗に悪魔の首を抜けると、まず体が地面に落ちる。それから一瞬だけ遅れて、頭が落ちる。するとその頭は、先に地面に伏していたアルバの体の上へ見事に鎮座していた。
それから念の為に残心をしていたが、アルバに全く動く様子はない。流石に首を断たれれば、生きてはいられないようである。すると間もなく、アルバの死体から光る粒子が立ち上り始め、そして体が消えていった。
やがて完全に遺体が消えたことを確認すると、今度は周囲の確認に入る。だが、既に魔物たちの姿はない。ふと見ると、魔物たちはてんでばらばらにこの場から離れていっている。しかもその魔物たちに対して魔術が放たれたりしているので、シュネたちによる追撃は行われているようであった。
「ふむ……ということは、こいつが魔物の群れを操っていたのか……不味いことしたかな。もう少し、情報を引き出した方がよかったかも知れない」
しかし、俺に技量はないので、結局のところは同じだろう。そう自分を納得させるように呟いていると、近くに気配を感じたので視線を向ける。誰かと思えば、シュネであった。
多分、スラスターでも使って近づいてきたのだろうと思われた。
「シーグ、何かあったの?」
「どうしてだ?」
「だって、何か考えている感じだから」
「ああ、そのことか。いや、何も聞き出さずに首を討ったのは早まったかなと思ったんだよ」
「でも、もう仕方がないわよ。それより、一まずこの地から離れましょう?」
「そうだな……!!」
シュネの言葉に同意したその時、微かに気配を感じた。
勿論、必死に逃げを打ってこの場から離れていく魔物たちとは別である。思わず周囲を探ってみたが、少なくとも見える範囲に人影などは見えない。だが、確かに感じる気配に精神を集中しようとした。しかしその時、シュネから声が掛かる。不思議そうな表情をしていることから、あからさまに表情を変えた俺を不審にでも思ったらしい。返事をしないのも悪いので、手を上げることで答えとしていた。
それから改めて気配を探ってみたが、今度は全く感知できない。その理由が分からないのは不気味だが、感じられないのならば手の打ちようがない。内心でもやもやしつつ、シュネの方へ向かう。だが最後に一回だけ、気配を感じた方へ視線を向ける。すると一瞬だけだが、影が見えたような気がしなくもなかった。
慌てて目を凝らしたが、やはりそこには何もない。相変わらず胸のうちに判然としない何かを抱きながらもその場を離れると、今度こそシュネと合流した。
「何かあったの?」
「……いや、何でもない」
「そう……ネルトゥース、全員が揃ったら転送をお願いね」
≪承知しました、シュネ―リア様≫
間もなく全員が揃うと、転送の光に包まれる。そして次の瞬間には、研究所へ戻ってきた。一戦闘を終えたことで、仲間が安心した表情を浮かべながらそれぞれの部屋へと戻って行く。だが俺は、自分の部屋にではなくネルトゥースが鎮座するコンピュータールームへと向かった。
「シーグヴァルド様、どうなされました?」
「さっきまでいた戦場だが、映像に出せるか? もし可能なら、出してくれ」
「了解しました」
間もなく、大型モニターにさっきまでいた戦場が映り込む。しかし魔物の死体が大量に転がるだけで、目立つようなものはない。気にしすぎたかと思えたが、しかしそうではなかった。
何と画面の端の方に、数名の影が見えたからである。慌ててドローンのカメラを向けさせると、確かに人影が三つある。その人影だが、転がる魔物の死体を持ち上げて矯めつ眇めつ眺めてはあらぬ方向へと放り投げている。そんな、何とも怪しい行動に、俺はドローンを近付かせるよう指示を出した。
その指示に従って、ネルトゥースがドローンを向かわせたその時、コンピュータールームの入り口が開く。外からの光でシルエットしか見えないが、気配まではごまかせない。そのシルエットの正体は、シュネに間違いなかった。
「シュネ、何か用か?」
「何か、じゃないわよ。どうも様子がおかしいと思ったら、何をしているの」
「ちょっとな。ま、気付いたのならちょうどいい。見てくれ」
大型モニターの画面には、戦場をうろつく三人が映っている。そのどれもが、容姿から悪魔だと認識できた。その悪魔たちだが、何か会話をしているようである。しかし距離が少しある為か、声を拾いきれていないので切れ切れの会話となっていた。
「悪魔の声だが、拾えるか?」
「はい」
間もなく、会話が分かるぐらいには聞こえてくる。その後、ネルトゥースが調整したのか、はっきりと聞こえてくるようになった。
≪……魔術はまだ分かる。だが、この穿たれたような跡は何だ?≫
≪分からん。少なくとも、我らが知るものとは思えん≫
≪全く未知の攻撃、ということか。これは、悪魔王様にお知らせしなければなるまい≫
≪ですが……スイフル様のご機嫌を損ねませんか?≫
≪サラサ。それは、今さらだろう。幾ら我ら四魔将の中で最弱とはいえ、風のアルバが倒されたのだ。どのみち、叱責を受ける。一番責任を負わぬものが死している以上、俺たちが叱責を受けるのも、仕方がないのかも知れん≫
≪確かに。しかし、ワヒドよ。勇者はどうする? あちらも、厄介といえば厄介だぞ≫
≪そうだな、イスーン。あちらもどうにか……誰だ!≫
その時、三人のうちの一人がこちらに気付いたらしく、明らかに視線を向けている。距離もあり、しかも光学迷彩を展開しているにも関わらずしっかり把握しているようだ。慌ててドローンを転送させようとしたが、その前に攻撃を受けてしまったらしい。ドローンに搭載されているカメラに炎が広がったかと思った次の瞬間、モニターの映像は消えていたのだった。
既に何も映していない大型モニターの前で、俺とシュネがじっとそのモニターを見ている。無論、映像が現れることはない。既にネルトゥースからの報告で、ドローンの反応が消えていることは承知している。つまり、戦場へ派遣されていたドローンは既に破壊されたといっていいだろう。そして映像が途絶える直前に映った現象から、炎による攻撃を当てられ壊されたのだと推察できた。
「……ドローンは破壊されたみたいだが、図らずも色々と情報が入ったな」
「ええ。多分だけど、スイフルというのは悪魔王の名前よね」
「だろうな。それと、四魔将とやらの顔と四魔将を構成していた悪魔の名前だな。サラサにワビトにイスーン……それに俺が倒したアルバだったか?」
「そうね。結果論だけど、悪魔の侵攻も阻止できたし、大成功といっていいのかしら」
「ルドア王国は、被害甚大といった感じだけどな」
バートの町を潰されたことで、ルドア王国南部地域を結ぶ主要街道にも被害が及んだだろう。ルドア王国南部へ続く街道はもう一つあるので、完全に遮断されたわけではないのだが、やはり影響はぬぐえないことは間違いなかった。
「これ以上は、情報が欲しいところだな……ネルトゥース。これらの情報から、探りを入れられるか?」
「お任せください」
「頼んだ」
「はい」
ネルトゥースへ任せたが、俺たちでも調べてはみるつもりだ。
名前が何人か分かったので、そこから限定できるかも知れない。あくまで可能性の問題でしかないから、上手くいくとも分からない。だが、名前すら分かっていなかった今までよりは探り易い筈であった。
四魔将の一人、風のアルバ(最弱)との戦いが決着です。
それと、情報が齎されました。
これで話が進む、筈!
ご一読いただき、ありがとうございました。




