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第四十五話~迎撃~


第四十五話~迎撃~



 研究所へ戻ったあと、シュネがオルとセレンの装備を更新した。

 荒事確定な状況において、二人の装備が弱いというのはいささか不味いというのが彼女の言い分である。至極もっともな言い分であり、否定する要素を全く見いだせない提案であった。





 オルにしてもセレンにしても、新しい装備に問題はない。シュネとセレンの間で、若干だが意見の相違があるようにも感じるが、気のせいとしておいた方がいいだろう。これ以上、追及してはいけないと、俺の中の何かがささやくのだ。

 それはもう、ひしひしと。

 それだけに、装備の話題はもう仲間内へ振らないでおくことした。代わりにというわけでもないが、シュネたちにそろそろ現地へ向かおうと提案する。我ながらいい判断だと思いつつ述べたその言葉に、予想通り誰からも否定の言葉は出なかった。

 いや、ただ一人だけ不満が顔に現れている人物がいる。それは、キャスであった。一応は了承したとはいえ、やはり一緒に行きたいのだろう。だが、まだ幼いキャスを戦場へ連れて行く気にはどうしてもなれなかったのだ。


「キャス。必ず帰ってくるから」

「ぶう。きっと、だからね! シーグお兄ちゃん」

「ああ。必ず、だ」


 不満ですと全身からアピールしているキャスの頭を撫でながら、約束する。その直後、彼女は小指を差し出してきた。いわゆる、指切りげんまんである。元々、このフィルリーアにはこういった仕草はなかったのだが、シュネが教えて以来、キャスは気に入ったらしい。彼女にとって大事だと思える事柄に際しては、必ず指切りを求めてくようになっていたのだ。

 そして、俺としてもその要望を断る選択はない。素直に小指を出して、キャスと指切りをした。その後、キャスのことはアリナに任せると、現地へ転送をする。そうして現れた先は、平原であった。しかも視界の先には、整然とは言えないがそれでも万を超えるだろう魔物がこちらへ向かってくる様子が見て取れたのである。


「シュネ、オル、セレン! 始めるぞ、いいな!!」

「分かったわ」

「ええ!」

「はい!」

転装てんそう!』


 直後、俺とシュネとオルとセレンがデュエルテクターを装着する。それからスラスターを使い、俺とシュネは魔物の集団へある程度の距離まで近づいた。

 なお、セレンだが彼女はシュネに抱えられている。まだデュエルテクターの扱いに慣れていないということもあり、シュネが面倒を見ているのだ。そして残されたオルはというと、転生した場所で変身して大型の黒犬へ変身している。その後、俺たちを追って地上を疾走していた。

 なお、地上を走っているのは、ビルギッタとエイニも同じである。そんな様子を視界の隅に収めながら、彼女たちへも何か手当てをしておいた方がいいなと考えていた。


「まずは、先制攻撃といくか」


 それから間もなく、俺の周囲が転送の光に覆われる。やがてその光が消えたあとの姿は、大きく変貌していた。その理由は、デュエルテクターへ重火器による武装を追加した状態となっているからである。これはシュネやキャスやセレンに比べて、魔術が得意ではないという俺の弱点を補う為の装備なのだ。

 そしてその内わけだが、両肩には魔力を砲弾として打ち出せるマジックカノンが装填されている。右足には三連式マジックミサイルが、左足には同じく三連式のミサイルランチャーがマウントされている。そして両手に持つのは、三銃身ガトリング式重魔機関銃であった。

 ガトリングのモデルとしたのは、GAU-19である。ガトリング式としたのは、圧倒的な発射速度と弾幕展開能力を期待してであった。

 なお、武器の転装だが個別にも行える。しかし今回は敵の数が万を越えていることもあって、初めから出し惜しみなしで攻撃を仕掛けるつもりだった。


「さて……食らえ!」


 マジックミサイルと通常のミサイルが発射され、マジックカノンからは純粋に魔力だけで構成された砲弾がビーム状に打ち出される。そして手にしたGAU-19から、連続的に魔力でコートされている弾丸が発射された。

 どうやら不意はつけたらしく、敵となる魔物の集団はまともに攻撃を食らっている。そこから被害を拡大させる為に。少しずつ着弾ポイントをずらしていった。

 何せ、相手には困らない。魔物の群れがいる方向へ撃てば、先ず当たるからだ。兎に角、敵から近接されるまでは、このまま撃ち続けるつもりだった。とはいうものの、魔物の数は万を超えている。この攻撃でも、殲滅せんめつさせることはできないでいる。まだ少なくない数の魔物が、こちらへ向かってくるのが見て取れた。

 その時、満を持してシュネとセレンが魔術を行使する。先手はセレンの魔術であり、いわゆる上級とランク付けされている攻撃魔術だった。それはアイス・ショットと名称される魔術で、拳大ほどの大きさを持つ鋭利に尖った氷の破片を、術者の正面へ扇状に多数撃ち出すという魔術となる。

 そのアイス・ショットの魔術が放たれから間もなく、シュネも魔術を解き放つ。彼女が放った魔術は、上級のさらに上をいく魔術だった。その術はファイヤー・ストームと名称されており、いわゆる火災旋風かさいせんぷうを巻き起こす。その威力と規模から上級を超える魔術、即ち超級とカテゴライズされていたのだ。

 先の俺の過剰なまでの重火器による遠距離からの攻撃とシュネとセレンの放った魔術によって、かなりの被害が魔物の軍勢に降り掛かっている。しかしそれでも、敵はまだ数は残っていた。


「じゃ、行くか」

「うん」


 続いて放たれている魔術の間にも俺は撃ち続けていたのだが、やがて近接といっていい距離まで踏み込まれると俺は武器を研究所へ戻す。その後、俺とオルとビルギッタとエイニは魔物の群れへと吶喊とっかんした。

 ビルギッタとエイニは自動魔小銃を撃ちながらの接近であり、そして俺は短魔機関銃を持ってである。そしてオルはというと、変身して四つ足となっているので、そもそもからして武器を持てる状況になかったので携帯はしていなかった。

 やがて短魔機関銃の有効射程に入った俺は、引き金を引く。同時に腰から短杖を引き抜くと魔刃まじんを発生させると、手あたり次第魔物を切り捨てていった。暫くのち、手持ちのマガジンに込められていた弾丸を全て撃ち尽くすと、短魔機関銃をしまう。そのあとは、体術とツインマジックブレードを駆使して、魔物を屠り続けていた。

 とはいえ、全てを相手にしていてはこちらの不利は否めない。そこで俺たちが主に狙ったのは、リーダーと思われる魔物の個体であった。 

 実は相対して分かったことだが、シュネが以前予想した通り魔物は種類ごとに集団が別れていたのである。その数は最小単位の二体からだが、それでもやはりリーダーとなる個体が集団ごとに存在している。つまりリーダー格となる存在さえほふってしまえば、無謀な攻撃はしなくなるのだ。

 あとはそれぞれの魔物が持つ本能次第となるので、現状のように当たると幸いとばかりに討ち続けている状況では二の足を踏んで向かってこなくなるだろう。しかし、数が多いことは間違いなく、鬱陶うっとうしいことに変わりはなかった。


「邪魔くさい、失せろ! 雑魚ども!!」


 多分に殺気を込めて、周囲を威圧する。すると、リーダーを討たれ二の足を踏んでいた魔物がその圧力に負けたようで、逃げ出すものが出始めた。しかしそれでも、リーダーが残っているからかそもそも逃げることを考えていないからなのか踏み止まっている魔物もいる。だが影響は受けているので、いささか動きが鈍い。そんな魔物らを、俺とオルとビルギッタとエイニで屠り続けていた。

 するとその時、戦場に近づく強い気配を感じる。その気配が持つ強さは、魔物の群れから感じたどの気配とも一線を画していた。流石にそれだけの気配ならば、オルも感じるらしく警戒してうなり声をあげている。しかしビルギッタとエイニは気付いていないのか、変わらずに周囲の魔物へ攻撃を仕掛けていた。


「オル! 俺が相手をする。お前はビルギッタとエイニと一緒に、魔物の群れを駆逐することに専念しろ!」

「……シーグ兄貴、分かった!」


俺の指示のあと、一瞬だけ気配を感じた方に視線を向けてから、オルは頷く。それから、ビルギッタとエイニの二人と合流した。


「ビルギッタ! エイニ!」

『はい。シーグヴァルド様』

「オルと共に、距離をとれ」

『承知しました』


 三人は合流後、協力して魔物の群れを駆逐していきつつも、同時に現地点より移動していく、その様子を確認したあと、俺は視線を気配の方に向けた。果たしてそこには、背中に生やした蝙蝠のような羽を使い空中で停止している一体の悪魔の姿が見て取れる。その羽だが、セレンが普段隠している小さな羽を、そのまま大きくしたような羽だった。

 空中にいる悪魔へ視線を向けている俺を隙と見たのか、魔物が数体攻撃を仕掛けてくる。確かに視線こそ向けていたが、別に周囲の警戒を怠っていたわけでもない。俺は片足を軸にしてその場で回転して、襲ってきた魔物全てを短杖に展開した魔刃で切り捨てていた。

 隙を突いたつもりが逆に殺されたことで躊躇したのか、続いて魔物が接近してくることはない。それどころか、少しずつ距離を取り始めているので、俺と魔物との間に奇妙な空間ができ上っていた。


「大した、ものだ。下等な魔物とはいえ、これだけの数を相手に怯むどころか逆に押し返しているとは……いったい何者だ?」

「……」


 悪魔からの問いには答えず、魔刃を展開していない状態の短杖を肩に添えてとんとんしてみる。その状態で、仮面を被った頭をそちらに向けるだけに留めていた。


「ふむ……答える気はないか。ならば、勝手に言わせて貰おう。その力、我らの為に使う気はないか?」


 意外な提案に、仮面の下で目を丸くする。少しの間絶句したあと、俺はその問いへ答えてやった。


「……勧誘とか、本気か?」

「無論だ。どこのだれかは分からんが、それだけの力を失うのは惜しい。それに我らにつけば、さらなる力を身に着けられるぞ」

「なるほど。だが……断る!」

「一応、理由を聞いていいか?」

「貴様らのように、別の生き物になり替わる気はないからな」

「なっ! 何で!!」

「知っているか、か? そんな愚問に、答える理由こそないな」


 仮面の下でにやりと笑みを浮かべながら、驚きの表情を浮かべている悪魔へ答えてやる。同時に、まるで大した相手でもないような雰囲気で、手をひらひらとさせてやった。するとその仕草が癇に障ったのか、悪魔の表情から驚きの色が消える。そして代わりに浮かび上がってきたのは、怒りの表情だった。

 しかし、怒りに任せて襲い掛かってくるというほど短絡的でもないらしい。それでも怒りは抑えきれないらしく、表情もさることだがこめかみの辺りの青筋が浮かび上がっていたのだった。


「……貴様、何を知っている……いや、一体何者だ?」

「お前は耳が遠いのか? 答える理由はないと、ついさっき言ったばかりだ」

「そうか。ならば、この場で死んで貰う! 冥途の土産に貴様を殺す者の名前ぐらいは教えてやろう。我はアルバ! 四魔将が一柱、風のアルバなり!!」


 そう宣言すると、悪魔は空中から逆落としのように突撃してくる。しかも指を揃え手刀のようにしており、殺すという言葉に嘘がないことは明白だった。

 しかし俺は、その攻撃を回転しながら避けると、その勢いを殺さずに悪魔の腹へ回し蹴りを叩き込む。その蹴りによってアルバと名乗った悪魔は、地面と水平に飛んでいく。しかも途中で、少し遠巻きに見ていた魔物を巻き込みながらという副次効果を生み出してであった。


「おー。これは、楽でいいわ」


 すると巻き添えは御免だとばかりに、辺りにいた魔物が慌ててさらに距離をとる。そしてアルバはというと、そんな周りの状況など気にせず、自らの羽を広げて空へと舞い上がっていた。

 どうやら蝙蝠のような羽を展開して、力のベクトル変えたらしい。だからといって、ダメージが消えるわけではない。羽をはばたかせて滞空しつつも、蹴りを食らった腹を押さえていた。


「ゴホッ! ゴホッ!!」

「どうした。それで終わりか?」

「舐めるな!」


 その直後、悪魔は自身の周りに不可視の何かを展開した。それと同時に風が生まれ、悪魔の方へと集まっていく。その様子に、俺はなるほどと納得した。つまりアルバは、名前の前に「風の」と冠するぐらい、風系の攻撃が得意ということなのだろう。

 やがて十分だと感じたのか、上から俺を見下ろすアルバの表情に笑みが浮かぶ。それから右手を突き出すと、俺に向けて渦巻く風を放っていた。


「ハアッ!」


 その動きに合わせる感じで、短杖から片方だけ魔刃を展開して振り降ろす。すると魔刃は、アルバから放たれた風を奇麗に両断したようであった。しかも威力は、それだけにとどまらない。魔刃より発した攻撃は、そのまま飛ぶ斬撃となって光の刃という形で風を切り裂きながら向かっていった。

 多少でも距離があったからか、慌ててアルバが避けている。だが完全には避けきれなかったようで、光の刃が悪魔の羽を一枚切り裂いたのであった。


魔物の軍勢と対決します。

そして、悪魔側の高級幹部か? と思える存在も現れました。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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