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第四十四話~装備~


第四十四話~装備~



 エイガー辺境伯の領都となるエッガーの町で情報収集を行ったが、手に入ったのは勇者に関することだけで悪魔関連の話はない。そのことを少し残念に思いつつも、エッガーの町にある植物園を観光したのであった。





 それからも暫くエッガーの町に逗留していたのだが、そのあいだにも情報が舞い込んでくる。その一つに、勇者一行の動向があった。アシャン神皇国からルドア王国へと入ったあと、彼らはシュネが予想した通り王都に向ったようである。見付けたのはもっけの幸いとして、専属にドローンを配置して追わせているとのことだった。

 無論、気付かれないのかと質問したが、超望遠レンズをしようしてかなり距離を取っているので大丈夫らしい。これで気付かれたら、あとは人工衛星を使うしかないとのことだった。


「現状、その実力がよく分かっていない勇者一行に、人工衛星一基はもったいないよな」

「うん。だから、気付かれたら追わないわ。噂を追うだけにするつもりよ」

「そっちはそれでいいとして、だ。この情報、マジか?」

「残念だけどね」


 もう一つ入った情報。それは何と、ルドア王国南部地域にある都市が一つ落とされたというものだった。しかも、その町だけでは終わらず、その後に近隣の村が一つ襲われてこちらも陥落したという情報なのだ。しかも襲ったのは、集団化した魔物である。それもただ襲ったわけではなく、魔物の集団を率いている存在が見え隠れしているらしいのだ。


「そんなこと、できるのか?」

「分からないわ。でも、実際に行っているのだからできるのでしょうね」

「それで、ルドア王国はどうしている?」

「そこが、おかしいのよ。知っての通り、ルドア王国南部地域は王家直轄領よ。それなのにルドア王国王都は、平穏そのものなの」

「え?」


 どうにも、分からない。王家直轄領が襲われたにも関わらず、王国そのものに動きがないとは。何か、非常にちぐはぐな気がする。話は繋がっているのに、動きは繋がっていない。そんな雰囲気を、ひしひしと感じたのだ。

 さらに言えば魔物の集団化、これもよくわからない事態だった。

 研究所に残っている過去の事例から、魔物の集団暴走、いわゆるスタンピードというのも確かに存在していたようである。事例こそ少なかったが、今まで全くなかったというわけでもないらしい。しかしそれらは偶然が重なった産物でしかなく、偶発的に発生した現象であった。

 ひるがえって今回の魔物集団化だが、率いている存在が見え隠れしている。そうである以上、偶発的な事故などあり得ない。明確な意図を持って行われている、そう考える方が自然な筈だ。

 そうなると、今度は誰が行っているのかということになる。とはいえ、今のフィルリーアでそんなことを仕出かしそうな存在といえば、悪魔王か彼の旗下にある悪魔が行っているというのが一番の候補であった。


「やっぱり、悪魔関連か?」

「証拠がないから、断定はできないわ。だけど、可能性は一番高い。これは、ネルトゥースも同じ見解よ」

「だろうな。そもそも、ルドア王国内でこんなことをする勢力や国がないだろう」

「それこそ、メリットがないから。悪魔王と組んだ国でもあれば別だけど、そういった話もないわ」


 ああ、そうか。悪魔王と手を組む国や勢力という可能性も、ないわけではないのか。

 でも、シュネがないといっているのだから、可能性としてはかなり低いのだろう。そうなれば、やっぱり一番可能性が高いのは悪魔関連ということになる。状況から予想される動きとしては、集団化した魔物を使っての侵攻といったところだろう。


「となると、何でルドア王国が動いていない?」

「これは、あくまで私の推察よ。多分、電撃的な侵攻だったから、まだ王都にまで情報が伝わっていないのではないかしら」

「……電撃戦って、どう考えてもフィルリーアでの戦争じゃないだろ」

「ええ。魔物を機甲師団に見立てての機動戦、フィルリーアにはない戦闘ドクトリンよ」


 これは悪魔側にも、こちらが知らない事情でもあるのだろうか。それを想像したところで、分かるわけでもないが。

 それは一まず置いておくとして、今は魔物の襲撃こそが問題だ。はっきりと覚えているわけではないが、電撃戦は意思疎通と指揮能力が必要だとか聞いたことがある。魔物にそんなことが、可能なのだろうか。


「可能か不可能かで言えば、可能なのでしょうね。こうして、実際に行われているのだから。多分だけど、集団ごとにいる魔物のリーダー辺りを従えることで、完全とは言えないまでも可能としているのではないかしら」

「そうか。リーダーか」


 単独で行動する魔物は別にして、群れを作る魔物にリーダーがいる。そんな群れのリーダーを従えることができれば、結果として群れを間接的とはいえ管理下におけるだろう。それをもって、電撃戦もどきを可能としたのか知れない。


「ちょっと! 何を冷静に分析しているの!! 町が襲われたのよ!」

「セレン、分かっているから落ち着いて。それでネルトゥース、続報は?」

≪はい。魔物の集団は、バートという名の町を陥落させたあと、その町を蹂躙したようです。今はバートの町を出て、近隣の村を一つ襲ったあとで次の町へと向かっています≫

「ネルトゥース、悪魔の狙いは何だ?」

≪現状から予想されるもので最も確率が高いのは、ルドア王国南部地域の蹂躙じゅうりん。もしくは、陥落かと≫


 情報伝達の速さから考えてみるに、このままいくともう一つ町が落ちる可能性が高い。となると、この落した二つの町を拠点とするなりしてルドア王国南部を攻略することを考えているのだろうか。

 因みに陥落したというバートの町だが、この町はルドア王国南部地域に幾つかある都市の一つである。かつ、同地域とルドア王国の王都がある中央域とを隔てている山域の近くにある町だ……いや、陥落してしまったので町だったというべきだろうか?

 しかも、バートの町はルドア王国王都と同国の南部地域を結ぶ主要街道上にある。このことも、多分だが情報の伝達を遅らせている要因だと考えられるのだ。

 なお、ルドア王国南部地域に向かう街道は、西側にももう一つあるので全く途絶えたわけでもない。それは、ルドア王国にとってはせめてもの救いだろう。


「ほら! どうするのよ!!」 

「セレン、既に手は打ってあるわ。ネルトゥース、準備は完了した?」

≪はい。現地へは、研究所経由で侵攻している魔物たちの前へ転送することができます≫

「だそうよ、セレン。だから慌てないで」

「……あ、うん」

「では、シーグ。行きましょうか」

「そうだな。でも、一度は町を出てからにしよう」


 いきなり宿屋で転送して消えると、何かの拍子でバレないとも限らない。しかし、ちゃんとした手続きをした上で町を出れば、そんなことを考慮する必要もないのだ。


「ああ。それと、流石にキャスは連れて行かないわよ」

「ええー。シュネお姉ちゃん、駄目なの?」

「せめて、オルぐらいにならないとね。偶発的な遭遇ならまだしも、流石に戦場へは無理よ」

「ぶぅ」

「かわいらしく拗ねてもダメ。アリナと大人しく、研究所で待っていなさい」

「は~い」


 渋々しぶしぶといった感じで、キャスが了承した。これで、キャスに関しては心配ないといえるだろう。

 ともあれ、一旦研究所へ戻る。そこからすぐにと考えたが、その前にシュネから止められた。彼女が俺たちを止めた理由、それはオルとセレンだった。これから多数の魔物で構成されているだろう相手と大立ち回りをしようというのに、二人の装備は俺やシュネに比べると貧弱である。というのが、彼女に言い分だった。

 確かに、セレンの格好は冒険者としては普通と言える。しかし悪魔が率いていると思われる魔物の集団を相手にするには、貧弱といっていいだろう。オルに至っては、旅装用の服でしかない。生地は丈夫だし、いい物を使っている。だが、所詮は服でしかないのだ。

 というか、俺とシュネの装備が異常なのだが、それは考慮しないことにする。

 何であれシュネは、オルとセレンの防御力の底上げを行うつもりのようである。その彼女が持ち出した装備、それが目の前にある装備となる。シュネはそれらを前にして、とてもいい笑顔を俺たちへ向けていた。


「こんなこともあろうかと思ってね」

「って、科学者のシュネがそのセリフかよ!」

「あら。確かに私は科学者……魔科学者よ。だけど同時に、技術者でもあるわ。魔銃やデュエルテクターは、誰が作ったと思っているのかしら」

「いや、それはそうだけど……」


 確かに、そういわれてしまえば何も言えない。俺たちの使っている武器などの装備品や魔道具の設計・作成を主導したのは、確かにシュネなのだから。


「だったら、問題はないでしょ」

「そう……だな。だけど、いつの間に作った?」

「ルドア王国に入ってから、エッガーの町へ着くまでの間に研究所へ戻ったでしょ? その時に、色々いろいろとね」

「え!? あたし、知らなかった……」

「ふふふ。ごめんね」


 何と、研究所へ一緒に戻った筈のセレンにすら教えていなかったらしい。シュネは真面目なようで、どこかお茶目なこともするのだ。

 ま、それはそれとして置いておくとしよう。取りあえず装備についてだが、オルとセレンでは赴きが異なっている。まずオルの装備だが、体の部位で要所を覆う形である。俺やシュネのように、全身を覆う形ではないので防御力という点では落ちる。その代わり、動き易さという面では上のように感じられた。


「オルの場合、変身があるからね。変身しても差し支えないようにと考えて、この形にしたの」

「そうなると、防具がない部位がいささか不安だな」

「大丈夫。ちゃんと考えてあるわ」


 じゃ、じゃ~ん! とでも効果音がありそうな雰囲気と共に彼女が取り出したのは、全身を覆うタイプの服である。アンダーウェアといっていいその服だが、何とミスリルを繊維化し、その繊維で編み上げたものだというのだ。これが事実なら、防具に覆われていない部位であっても、ある程度の防御力を持てることになる。しかも物がミスリルなので、魔術や魔力に対する耐性も付くというお得なものとなることは確実だ。

 そしてセレンの装備はというと、どこかで見たような装備である。具体的にいうと、俺やシュネの身に着けるデュエルテクターと非常に類似しているのだ。


「シュネ。それは、デュエルテクター……だよな」

「ええ。でも流石に完品のデュエルテクターを用意する時間がなかったから、私のデュエルテクターのプロトタイプの改造版だけどね」

「なるほど。ところで、生体パターンとかの登録とかはしてあるのか?」

「そこは、抜かりないわ。オルもセレンもすぐに装備できるし、やろうと思えば転装てんそうもできるわよ」

「それにしても、セレンの装備は別にしてオルの緋緋色金ひひいろかね、よく余裕があったな」

「残念だけど、オルの装備は緋緋色金ではないわ。セレンの装備は、私の流用だから元から緋緋色金製となるので問題はなかったのだけれど……」


 どうやら、オルの装備は、緋緋色金が材料ではないらしい。そう言われてみれば、緋緋色金の特徴でもある緋色をしていない。その点について尋ねてみると、どうもオルの装備にはアダマンティンを用いたようだ。

 単純に硬さという意味では、アダマンティンの元となったアダマンタインは、オリハルコンより少し落ちるぐらいでほぼ変わりがないとされている。だが、金属的な粘りや魔術や魔力に対する耐性ではオリハルコンに比べてしまうと、どうしても劣る金属であった。

 そしてアダマンティンも、その特性を引き継いでいる。何よりアダマンティンは、シュネの作り出したオリジナルの金属であり、天然のアダマンタインよりは入手が容易である。恐らく時間の関係もあって、緋緋色金を用意できなかったのだろう。その代用として、アダマンティンを使用したというのが実情のようだ。


「そういうことか。それでオル、動きはどうだ?」

「……うん。シーグ兄貴、問題はないと思うよ」


 装備を身に着けた上で飛んだり跳ねたりしているオルのいう通り、傍から見る分には特に異常があるようには見えないので問題はないようだ。

 その上で、オルへ変身をさせてみる。先祖返りということもあるので彼は四つ足となるが、身に着けた防具に邪魔をしている雰囲気はなかった。その点をオルに確認してみると、彼はその状態で動き回る。間もなく変身を解くと、やはり問題はないと告げてきた。


「そうか。なら、取りあえずいいな」

「うん」


 こうして具合を確かめたわけだが、それはセレンも同じであった。

 彼女には、シュネが対応していて具合などを確かめていたのである。とはいえ、元はシュネのデュエルテクターのプロトタイプである。試験という意味では散々使っただろうから、今さら不具合があるとは思えなかった。


「そっちも、問題ないようだな」

「少し無理があるかなと思うけど」

「そうなのか?」

「前に治療をしたときのデータを基にして事前に調整はしておいたけど、やっぱりセレンに合わせて作ったたわけではないから。だけど、行動を阻害するといったような問題は出ていない筈よ」

「……そうね。確かにシュネのいう通り、身に着けて動く分には問題ないわ。だけどね! その微妙に合わない部位が、問題なのよ!!」


 微妙に合わない部位が問題? それは一体、それはどういうことなのだろうか?

 思わず隣にいるオルと目を合わせたが、彼にも言葉の意味が理解できていないようである。何せオルの浮かべている表情には、わけが分からないという感情がありありと出ていたからだ。

 そして俺にも、言葉の意味が理解できていない。だが、なぜか突っ込んではいけないような気がしたので、あえてそれ以上は問わずにさらりと流すことにしたのであった。


悪魔側で、新たな動きがありました。

当然、シーグたちも動きます……が、その前に装備の底上げです。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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