第四十三話~領都~
第四十三話~領都~
エリド王国を出て、隣国のルドア王国へと入る。それから立ち寄った最寄りの町は、エリド王国を出る前に立ち寄った町と殆ど変わらない町並みであった。
研究など諸々の進捗を確認する為に研究所へ戻っていたシュネとエイニ、そしてその二人に同行したセレンと合流を果たしたあとで俺たちは、ルドア王国東部辺境伯領都となるエッガーの町の近くに存在している衛星都市との一つへ到着した。
これら衛星都市だが、別にエッガーの町周辺だけにあるというわけではない。王都や大貴族の領都のような、特に発展している町の周辺には存在することがある町であった。だからといって、大都市の周りに必ず衛星都市があるということでもない。衛星都市などあえて作らない貴族もいるので、領地持ち貴族の好みというか嗜好に左右されているといいだろう。
つまりルドア王国東部辺境伯の地位にあるエイガー辺境伯は、領都周辺に幾つかの衛星都市を作るという選択をしたに過ぎなかったのだ。
そしてこの町だが、エッガーの町から一日ぐらい離れた場所に存在している。夜通し移動すれば明日の早い時間にエッガーの町に到着出来るが、そこまでするほど急いでいるわけでもない。ゆえに今日はこの町で泊まり、明日には町を出発してエッガーの町へ入る予定だった。
いつものように手続きをして町へ入ると、その足で宿へ向かい部屋を確保する。その確保した宿屋にキャスとアリナを残してから、冒険者ギルドへ向かい運んできた荷を渡した。これで、この町での仕事は終わりとなる。あとは自由としたのだが、誰も町へ繰り出すという判断をしなかった。
どうせ明日になれば、ルドア王国東部で有数の都市となるエッガーの町に到着する。今いる町より、エッガーの町の方が町としても売られている商品も充実している。無理にこの町で買い物をするよりは、エッガーの町でした方がいいのだ。
翌日、町を出発して街道を進むが、この辺りは領都が近いということもあってエイガー辺境伯の領内でも一・二を争うくらいに治安が安定している。その為、魔物や賊に襲われる心配はほぼないと言えるだろう。それでも、念の為に周囲を警戒はしておく。だが案の定、襲撃などある筈もなくその日のうちにエッガーの町へ到着することができていた。
冒険者ギルドへ向かうのは明日にして、今日は宿で一泊する。そして翌日、冒険者ギルドへ向かう。流石は、ルドア王国東部辺境伯となるエイガー辺境伯の領都にある冒険者ギルドの建物である。その規模は、男爵や子爵の領地に存在する冒険者ギルドとは一線を画していた。
セレンに言わせると、面子のような物があるらしい。冒険者ギルドのというより、貴族側に配慮した結果が、目の前に存在している立派な建物らしい。そんなとてもご立派な冒険者ギルドの建物内に入り、受け付けで届け物がある旨を告げた。
因みに届け物を建物内へ持ち込まなかったのは、量が多いからである。その為、建物の中まで届け物の全てを持ってくることはしなかったのだ。
俺たちは用件を告げた冒険者ギルドのスタッフと共に建物の裏手に回ると、そこで運んできた荷を馬車から降ろす。これで依頼はすべて完了となるので、冒険者ギルドのスタッフから依頼完了の手続きをしたあとで報酬を渡して貰った。
なお報酬に関してだが、平等に人数分けをしている。ちゃんと、ビルギッタたちにも渡しているのだ。もっとも彼女たちは、当初は受け取ろうとしなかった。だが、移動中などで何があるのか分からない。だからこそ彼女たちを言いくるめ、受け取るように説得したのだ。
ただ、戦闘もできるいわば強化型ガイノイドである彼女たちをどうにかできる存在など、そうそう会うとも思えないがそこはそこだ。
その後は冒険者ギルド内に留まり、話を拾っていく。すると、勇者の一行がアシャン神皇国からこのルドア王国へ入ったという話が聞けた。
この勇者一行は四人組なのだが、そのうちの三人の名前がいかにも和風な名前を持っている。勇者の肩書を持つ男が祐樹と名乗っているし、魔術王の肩書を持つ男が俊を、そして聖女の肩書を持つ女が舞華と名乗っている。しかも彼ら三人の顔だが、伝え聞く限りだと二十前ぐらいの若い日本人というか東洋人のような顔付きらしいのだ。
これだけ材料が揃えば、元は日本人なのではと判断してもそう間違いはないだろう。だがシュネに言わせると、彼ら三人と俺とシュネの在り様は違うというのだ。何でそう思ったのかを尋ねてみると、もし同じであるなら彼らも西洋系の顔立ちとなっているからだという。しかし祐樹と俊と舞華は、名前も顔も和風の要素が多い人物である。だから彼らは、憑依ではなく転生したのではとシュネは推測していたのだ。
「転生……先代のシーグヴァルドとシュネ―リアが行おうとしていた転生と何か関係あるのか?」
「分からないわ。ただ、ネルトゥースの話だと先代の二人以外、転生術について知らないらしいから別口なのかも知れないわね」
だが、もし他に術を完成していた人物がいたとしても、その人物がそう簡単に情報を開示するとは思えない。普通なら、秘匿するだろう。実際、先代のシーグヴァルドもキャスパリークも、秘匿していたのだ。
つまり、真実は闇の中。誰にも分からないといったところだろうか?
「その勇者たちだけど、どこへ向っている?」
「多分だけど、ルドア王国の王都だと思うわよ」
アシャン神皇国が後ろ盾となって勇者一行を派遣している以上、彼らが認識をしているかは分からないが、半ば外交使節のような一面を持っているだろう。そうなれば、各国へ訪れた際に表敬訪問という形をとっておかしくはない。となれば、シュネの言った通りルドア王国の王都へ向かうというのが筋だと思えた。
因みに四人いる勇者一行の中で剣王の肩書を持つ女性がいるのだが、彼女だけはこのフィルリーア出身となる。女性の名は、サブリナ・ラ・ロットというのだが、彼女も不遇な身の上であった。
彼女も勇者に同行しているメンバーなので身上などを調べたのだが、何とサブリナはアシャン神皇国の先代皇王の娘らしい。先代皇王が死ぬ二年ぐらい前に、侍女に手を出して生ませたのが彼女であった。
「皇王は、アシャン教のトップだよな。そんな身分の人間が、侍女に手を出していいのか?」
「別にアシャン教は、僧侶が男女の関係となることを禁止しているわけではないわ。流石に浮気とかは、不純として戒めているらしいけどね。でも、皇王が侍女に手を出したとなれば、ちょっとしたスキャンダルになるわ。国内的にも、国外的にもね」
「そうだよな」
「それでアシャン神皇国は、その事実を隠蔽して冷遇したのよ。だけど彼女には、ずば抜けた剣の才能があった。そのお陰もあって、のちに血筋が認められた上で剣王の称号を得たらしいわ」
「それで、勇者一行に加えさせられたと。体のいい厄介払いだな」
彼女の身の上だが、確かに不幸か幸福かと言われれば不幸だろう。
ただ、それほど珍しい話ではない。当主に当たる人物が侍女などに手を出して生まれた子供が一門として名前を連ねることが許されないなど、王家や貴族などという権力者の家にはわりとある話だからだ。
当然そこには、家の後継問題とか家臣の利権とか、それこそ色々と関わってくることになる。さぞかしどろどろとした何かが、その裏には蠢いていたことだろうさ。
「普通はそう考えるわよね。それはそれとして、どうするの? 王都に行ってみる?」
「どうするかな。一見の価値はあるのかも知れないけど……」
気にならないといえば、嘘になる。日本人の雰囲気があるというところも、気を引く要素ではあるからだ。しかし、あくまで可能性が高いだけの話でしかない。もう少し、情報を集めてからでも遅くはないと思えた。
たとえば顔だが、このフィルリーアでは絵ぐらいでしか見ることはできない。いわゆる写真や映像的な魔術や魔道具が、現代のフィルリーアにはまだないからだ。しかし、俺たちであれば可能となる。ドローンを使えば、映像だろうが写真だろうが入手することができるからだ。
そのドローンも、情報収集強化の為に数を増やしている。それこそ、勇者一行へ専属に一台ぐらいつけてもいいぐらいなのだ。
「無理強いはしないわよ。それに、もし会えたからといって、面会できるわけでもないからね」
こちらはあくまで、一介の冒険者でしかない。どこかの国とか貴族などにでも関わっていれば別だろうが、俺たちはそもそもからして権力に近付くことを排除している。行商をしていた頃であれば商売上、今であれば依頼の関係上会わなければならないのならば会うが、そうでないならば会おうとは思わない。万が一にでも研究所などが相手に伝わってしまい、どっかの権力者の為に魔道具を作り続けるとか、飼い殺しになるなど嫌だったからだ。
何より、もしそのような状況になった場合、逃げ出していたのは間違いない。そうなると、適当な犯罪をでっちあげられて、国際的な犯罪者とかになりかねなかった。
それに、勇者云々に関しては本命ではない。こちらの本命は宇宙に行くことであり、同時に悪魔王が率いる悪魔関連に決着をつけることなのだ。ただ、その意味で言うと、勇者は関わり合いがないわけでもない。本当かは知らないが、勇者には悪魔を倒したという話もあるからだ。
しかし、彼ら勇者の後ろ盾となっているのが、いわゆる宗教国家というのが俺に、いや俺とシュネに二の足を踏ませている。宗教関係は、色々と拙いという思いが、常というわけではないがあるからだった。
「取りあえず、何かのついででいいか」
「そうね。今は、それでいいと思うわ。彼らの動向などの情報取集は、引き続いて行わせるから」
「よし! 勇者は一まず保留。それで、本命に関しては?」
あえて悪魔とは言わなかったのは、その表現で仲間内には通じるからだ。それにここは、冒険者ギルドの建物内となる。声高に、悪魔の情報はないか? などと聞けるものでもないからだ。しかし、シュネたちの仕草を見れば、答えなど簡単に想像がつく。言うまでもなく、なかったのだということに。つまり、勇者一行に関する情報が入っただけということであった。
それも、仕方がないだろう。そうそう簡単に情報が入るのならば、各国なり冒険者ギルドなりがとっくに悪魔王率いる悪魔に対して積極的に動いている筈だ。しかし、場当たり的な対処はしても、反攻などといった動きは冒険者ギルドにも各国にもない。フィルリーアがその状況にある、そのことが悪魔関連の進捗が捗っていないことへの証明だった。
「こっちも、情報待ちか。なら、焦っても仕方ない。セレンには、口惜しいかも知れないが」
「そこまで、焦ってもいないわ。だからここは、キャスのお楽しみをこなしちゃいましょう。時間的には、明日になるでしょうけど」
「本当!? やったー!」
セレンからの提案を聞いてキャスは、嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていた。
実は辺境伯の領都となるエッガーには、植物園がある。元々辺境伯領内では色付きガラス製造が行われていたのだが、その過程においてついに透明なガラスを作り出せるようにもなったらしい。これは、他の地域ではまだない最新鋭の技術のようであった。
するとこの技術を自慢する為か、それとも透明なガラスを売り出す為のいわばデモンストレーションなのかは分からないが、透明ガラスを使った温室を建て、その温室を含めた植物園をエイガー辺境伯が自身の領都であるエッガーの町に作ったのだ。
同時に彼は植物園を観光地化し、入場料を取って開放している。つまり、キャスが喜んだ理由が、この植物園を尋ねることだった。
そして翌日、俺たちは約束通り植物園に向かっている。入園料を払い、植物園内の散策を始めた。その園内には、さまざまな植物が植えられている。意外なところでは、東方産と思える植物もちらほらと散見されていた。
「シーグお兄ちゃん、シュネお姉ちゃん。早くいこうよ。その、温室に!」
「落ち着きなさい、キャス。温室は逃げないわ」
「でも、見たい。ねー、ねー。行こうよー」
「分かった、分かった。行こうな」
おねだりキャスに折れて、俺たちは植物園内の散策を一先ずやめてすぐに温室へ向かうことにする。やがて目的地へ到着すると、そこには警護の兵が常駐していた。やはり最新の技術で作られた透明なガラスというのは、貴重だと判断されているのだろう。その到着した温室の入り口でも、金を払う。これもまた、貴重と考えているからだろうと判断した。
ただ、俺やシュネからすれば、ぼったくり以外の何ものでもない。透明ガラスなど、珍しくないからだ。日本にいれば、それこそどこででも目にすることが出来る。そんな透明ガラスを、珍しがれというのは無理な話だった。
産業になるのは、認めるけどな。
何であれ、金を払ってから温室の中に入る。内部はそう広くもないが、この辺りでは見られない、恐らく熱帯に属するのではないかと思えるような色鮮やかな植物が植えられていた。
確かにこれならば、ガラス製の温室も相まって観光名所となることにも納得はできる。それでなくても色鮮やかな植物など、そうそう見られるものでもないのだ。そんな植物を見て、キャスは目をキラキラさせている。まず見受けられない色鮮やかな植物であるから、その反応も分かるというものだ。
結局、昼過ぎまで植物園にいたあと、帰りがてらに昼食をとってから宿へ戻ったのであった。
勇者一行の話題も出ました。
彼らに関しては……シュネが自身の考えを披露した通り大体想像できますが。
ご一読いただき、ありがとうございました。




