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第三十八話~組合~


第三十八話~組合~



 超有望な鉱山をついに手に入れた嬉しさのあまり思わず漏らしてしまった宇宙に行くという夢に対し、セレンの説得とそれに伴ってネルから提案された行商担当の変更というミッションをクリアしたあと、冒険者ギルドへ向かうのであった。





 研究所にて目覚めて朝食をとったあと、行商の引継ぎを行う。引継ぎとはいっても、大袈裟なことはない。ただこれからの担当へ、今まで使っていた行商用の馬車を渡すだけである。とは言うものの、馬に変形する機構を持つバイクに関しては、こちらが使用する可能性があるので渡すことはしなかった。その為、行商の出発は少し遅れることになる。だが、そのようなものは、問題にもならなかった。

 また、譲渡した馬車に代わり、一台幌馬車を用意する。俺たちは今後、この幌馬車を使用していくことになる。その意味でも、先に上げた馬への変形機能を持つバイクが必要なのだ。これら諸々の用意の為の時間が若干かかったのだが、それとて一週間と掛かるわけでもない。あくまで誤差範囲として、ごまかせるレベルであった。

 こうして全ての用意が整うと、行商を担当する者たちが転送していく。彼、彼女らを統括するのは、研究所の中枢ともいえるネルトゥースとなる。そしてネルトゥースの分身ともいえるネルはというと、鉱山の担当として現地に赴いて統括する役目を帯びる。つまり、冒険者ギルドへ向かうのは俺とシュネとセレン。それからオルとキャス、そしてビルギッタとエイニとアリナの八人となる。俺とオル以外、全員女性という何とも華やかな集団となっていた。


「行くぞ」

『ええ』

『はい』


 その後、転送装置によって転送された先は、都合三度目の転送となる悪魔どもに襲われた野営地だ。そしておそらく、この場所への転送はこれが最後となるだろう。この近辺には、討ち捨てられた砦跡地しかなかったのだが、その砦跡地も爆破したので何も残っていない。全てが、地面の下へと埋もれてしまったのだ。

 残念なことに。

 

「人ごとみたいに言っているけど、私もシーグも当事者よ」

「分かってるよ、そんなことは」


 因みに、この場所から始めたのはセレンのカバーストーリを作る為でもある。何せ彼女がこの辺境にいたのは、依頼の為だった。そして地下牢に捕らわれていた時間や治療に費やした時間を考えれば、依頼は失敗したと冒険者ギルドで判断される可能性が高いらしい。その失敗を説明する為にも、この場所から移動を始めたいと彼女は言い出したのだ。

 

「失敗は失敗で仕方がないとしても、その点で不審がられることは避けたいのよ。だから、捕まっていたこの砦跡地の近くから仕事を受けたオーデン辺境伯の領都オデンへ行きたいの」

『……ぷ! くっくっく、あはは!!』


 辺境伯の姓と彼の領地の領都の名前を聞いて、俺とシュネは思わず噴き出してしまった。

 よりにもよってオデンとは。

 最初はこらえようとしたが、ついには我慢ができず噴き出してしまった。そんな俺とシュネを、セレンとオルとキャスが不思議そうに見てくる。そんな皆の表情が面白くて、またも噴き出してしまう。暫くの間、俺とシュネの笑い声が響いていた。

 漸く収まったが、それでも目には涙を浮かべてしまうのだが。


「ところで、何がおかしかったの?」

「ああ、済まん。その領都の名前、それがツボだった。いや、辺境伯の名前も怪しいわ」

「……町と辺境伯の名称が怪しいってどういう意味よ」

「ごめんなさい。分かるわけがないわよね。私やシーグの故郷には、おでんという料理があるの。こう、鍋に色々な具材を入れて煮込む料理のだけれど、その料理と字面が同じだから思い出して……ああ、アクセントは違うわよ」


 オデンとおでんではアクセントが全然違うのだが、どうしてもオデンではなくおでんを連想してしまう。それゆえに、辺境伯の姓となるオーデンもまたおでんを連想してしまうのだ。

 まずないだろうが、万が一にも出会ったりした場合、笑いだしてしまわないように注意しておかなければならないな。

 しかし、おでん……じゃない、オデン……プッ。


「もう、しっかりしてよね」

「すまん、すまん。もう大丈夫だ。ゴホン! それはそれとしてセレン、向かう先はそのオデン、の町でいいんだな」

「ええ。それでいいわ。でも、本当に大丈夫なの」

「大丈夫。幾ら何でも、町に着くまでには慣れる。きっと、多分、maybe……」


 そう。

 大丈夫、きっと慣れる筈だ。何せここはエリド王国の北部であり、西部に行くまでにはかなりの距離がある。幾ら何でも笑わなくなるだろう……あれ? そういえば、セレンは依頼を受けている最中だったな。それで二重に受けることは可能なのだろうか?


「セレンはさ、依頼を受けている最中さいちゅうとか言っていたよな。それで、そのエリド王国の西部まで戻るって旅費とかの意味で大丈夫なのか?」

「依頼に失敗したとはいえ、前金はあったから。それに、仕事の報告自体は、冒険者ギルドの施設ならどこでも可能よ」

「じゃあ、何でわざわざ王国西部にまで向かう?」

「それまで依頼を受ける拠点としていた町だし、知り合いもいる。何より、報告は報告としてしっかりとしておきたいの」


 ああ、そうか。

 嘗ての仲間は、彼女一人残して全員が死亡している。既に荼毘だびにも付しているから、残った幾つかの遺品と遺骨を持っていきたいのかも知れない。その辺りの事情について聞けば教えてくれるだろうが、聞くのも無粋な気がするので聞かないことにしていた。


「そうね。私はいいと思うわ。それに、色々な町へ行くのも、情報を集めるという点ではいいと思うし」

「それもそうか」

「うん。ボクもいいと思うの」

「そうだね」

「……ありがとう」


 全員からの賛同を受けて、セレンは少し涙を浮かべていた。

 その後、俺たちはエイムズ男爵の館があるエイムの町に向う。この町ならば、確実に冒険者ギルドの支部があるからだ。その支部に着くと、セレンが依頼についての報告を行っている。その傍らで俺たちは、セレンを冒険者ギルドの建物内で待っていた。

 冒険者ギルドの建物は、入り口から入ったところがホールとなっている。入って正面にはカウンターがあって、そこには冒険者ギルドのスタッフが何人か座っている。向かって右側の壁には掲示板があって、そこに紙が貼られていた。

 そして左側には、椅子とテーブルのセットが幾つかある。壁沿いにはやはりカウンターがあって、そこには男が一人いる。その男のうしろには酒が幾つも陳列されているので、冒険者ギルドに併設されたバーだと思われた。

 因みにこのバーでは、酒だけでなく食事もできる。しかし、あくまで食べられる程度の味でしかなく、ここで食べるぐらいなら町で食べた方がましだとセレンは言っていた。ただ、このバーで食べるメリットは一つだけある。このバー自体は冒険者でなくても利用できるのだが、冒険者が利用する場合に限って格安で食べることができるらしい。これは酒も同じで、食事に比べれば割安感は少ないが、それでも市販よりも安くはなる。これは、冒険者ギルドが行っている一種の福祉らしい。酒代や食事代の何割かを、冒険者ギルドで肩代わりしているのだ。

 何ゆえにそのようなことをしているのかというと、なりたての冒険者に対する救済措置である。金がないと、それこそ犯罪擬もどきのようなよからぬことでもやりかねない。そんなことが国や世間に判明してしまえば、冒険者ギルドや冒険者の排斥などといった事態も考えられる。そのような事態を防ぐ為に、このようなことをしているというわけだ。


「お兄ちゃん、セレンさん遅いねー」

「そうだね。でも、大人しく待っていような」

「うん」


 椅子に座っているキャスが、なかなか戻ってこないセレンのことについてオルへ尋ねている。するとオルは、妹の頭を撫でながら諭していた。キャスも単純にセレンを心配しているだけみたいで、オルの言葉に頷くと足をぶらぶらとさせていた。

 その時、冒険者ギルドの入り口が開いて、四人の冒険者が入ってくる。彼らはホール内を見回したあと、俺たちに気付く。と同時に、にやりと笑みを浮かべた。そのいかにも何か企んでいますという雰囲気が滲み出ている笑みに、絡まれたかと判断する。その考えを証明するように、いやらしい笑みを浮かべながら大柄な男が一人近付いてきた。

 すかさず、俺が一歩前に出る。と同時に、ビルギッタとエイニとアリナへ目配せしておく。行商時代、なんども行動を共にしていた彼女たちであり、目配せの意図をくんでシュネとオルとキャスを守るように動いていた。


「よう、兄ちゃん。見ない顔だな、新入りか?」

「その予定だ」

「そうか。なら、新人に指導をしてやろう」

「結構だ。指導なら当てがある」


 その動きから、どうみてもセレンの足元にも及んでいない。そんな相手から、指導される必要も感じない。もっとも、単純に闘いというだけなら、セレンから指導など受けない。実力なら、俺やシュネの方が上だからだ。


「当てだと? 誰だそれは」

「言う必要があるとは思えない。兎に角、指導はいらないのでお引き取り願おう」

「随分と生意気だな。やっぱり、先輩からの指導は必要だ!」


 そういうと同時に、男が腕を伸ばしてくる。しかしその手を掴んで、押し留めた。止められると思っていなかったのか、意外そうな表情を一瞬だけ浮かべる。だがすぐに舌なめずりをしたかと思うと、力を込めてくる。だが、俺からすればたいしたことでもない。同じ力で、押し返してやった。

 力を込めたのにびくともしない状況に、相手の男の表情から余裕が消える。すると本気ともとれる表情を浮かべながら、さらに力を込めてきた。


「何やってる! 遊んでんのか」

「うるせえ! 黙って見ていろ!!」


 一緒に行動している仲間からヤジが飛んだが、男はこめかみに青筋をたてながら怒鳴り返す。そして今度は足を踏ん張った上で、力を入れてくる。だが、その程度問題にならない。涼しい顔をしながら、その場で微動だにしなかった。

 流石におかしいと感じたのだろう。男の仲間と思われる奴らから、ヤジではなくざわめきのような雰囲気が漏れ始める。その空気は、冒険者ギルトの建物内に広がり始めると、今までいやらしい笑みを浮かべながらこちらを見学していた冒険者からも訝しげに眉を寄せる者が出始めた。


「何をしている!」


 すると、冒険者ギルドの受け付けだろうカウンターの奥から一人の男が出てくる。そのすぐ後ろには、三人ほどが着いてきている。しかもそのうちの一人は、セレンだった。

 その男の姿を見ると、目の前でいつの間にか力比べとなっていた大柄な男も、そして男の仲間と冒険者ギルド内にいる者たちもばつが悪そうな表情となる。それと同時に、目の前にいる男が込めていた力が抜かれる。それに伴って俺も力を抜くと、腕を振りほどかれた。


「もう一度聞く。お前ら、何をしていた」

「あ、いや。その後輩への指導をと……」

「ほう。それは、殊勝な心掛けだ。だが、誰に頼まれた?」

「あー、いや。そういうわけでは……」


 その後、ごにょごにょと言いわけがましい言葉を並び立てる四人の男たちを見て、取りあえず問題は終わったなと判断する。だが、それでも気を抜くことなどせず、相変わらずいいわけじみた言葉を並び立てている男どもと、あとから現れた男を見ていた。

 途中から男たちのいいわけもなくなり、あとから現れた男からの叱責へと変わっている。やがてその叱責が終わると、最後に対峙した大柄の男がこちらへ頭を下げてきた。多分、叱責をしていた男からうながされたのであろう。しかし、その雰囲気にはありありと不満の色が見えていた。

 取りあえず、謝罪が終わると四人の男たちは冒険者ギルドの建物内から出て行く。すると叱責していた男と、彼に従っていた二人がカウンターの奥へ消えていく。そして一人残ったセレンが、こちらへ近づいてきたのであった。


ある意味で、お約束イベントです。

何せ見た目は美人の女性ばかりですので、絡んでくる奴もいます……いるよね。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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