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第三十七話~提案~


第三十七話~提案~



 何であれ、セレンを納得というか説得をさせられたと思う。少なくとも、俺やシュネが悪魔……悪魔王との戦いを放り出すことはないと彼女は分かってくれた筈である……うん、間違いなくその筈だ。その筈なのだ、きっと。

 ともあれこれで話も終わりだとして切り上げようとしたその時、ネルから意外な提案をされる。その提案だが、全く予想していなかったものだった。


「ネル。もう一度言ってくれ。何をするって?」

「行商ですが、わたくしたちへお任せいただけないでしょうか」

「……ネルは採掘現場の統括があるから別にして、他のガイノイドやアンドロイドたちが行商を行うということでいいのかしら?」

「はい、シュネ―リア様。そしてシーグヴァルド様やシュネ―リア様ですが、冒険者ギルドに所属していただきたく存じます」


 ネルの提案の意味が全く理解できず、俺は目を白黒しろくろさせる。そしてそれはシュネも同じであり、彼女も首を傾げている。どうにも意図が読めず、俺は提案の意味をネルへ問い質していた。

 彼女曰く、冒険者ギルドとはその成立は何であれ大陸一の組織である。国家の思惑にある程度だが左右されるという面も持っているが、通常時であれば国家から半ば独立した組織となる。そんな巨大な組織を、利用しない手はないというものだった。

 それでもわけが分からず首を傾げていたのだが、俺と違ってネルの提案に理解した人物がいる。誰であろうそれは、シュネだった。彼女へ流石は頭がいいと褒めた上で、どういう意味なのかを尋ねる。少しジト目で見られた気はするが、分からないものを知ったかぶりするよりはましだ。

 知るは一時の恥、知らぬは一生の恥とも言うのだから。


「リアルタイムでは流石に無理だけど、それでも冒険者ギルドに所属していれば大陸内の情報は入ってくる。それは、分かるわよね」

「それぐらいなら」

「これは、国家同士では難しいわ。どうしても、各国に思惑という物が存在するから。だけど、冒険者ギルドであれば、その思惑という枷がある程度だけでも軽減される。そうなれば、時間差は仕方がないとして割り切るとしても、色々いろいろと情報を入手できるわ」

「……そういうことか。俺たちで全てを調べようとしても無理が出るから、その点を補おうというわけだな」


 このフィルリーア全てを範囲とすることが可能な情報収集など、現時点ではまず無理だ。それこそ、幾つも人工衛星を打ち上げて宇宙から監視するなどいった方法でもすれば別だろうが、今すぐにというのは物理的に難しい。そこで既にある組織、この場合は冒険者ギルドとなるわけだが、その組織を利用して情報収集の一端をになわせるというのがネルの提案の真相だった。

 そしてその情報を得る為には、冒険者ギルドに所属する必要がある。幾ら何でも、冒険者ギルドと全く関係がない部外者に情報を提供するようなお人好しの組織ではない。半官半民に近いといっても、基本は独立採算制の組織なのだ。

 それに冒険者ギルドが所属している冒険者に情報を提供するということは、同時に冒険者からも情報を得られるということでもある。その冒険者ギルドは、ネルが言った通り大陸中に広がっている組織であり、所属している冒険者の数も馬鹿にはできない。そんな冒険者ギルド内に流れている情報量は、それこそ下手な一国家などと比べ物にならないぐらいはあるだろう。

 勿論、有用な情報からただの与太話など情報の確度はそれこそ様々さまざまにあるだろうから鵜呑みにはできない。だがそれでも、情報を得られないよれられる方が遥かにましである。結局、得られた情報を生かすも殺すも、手に入れたものがどう扱うかに掛かっているのだから。


「それにしても、行商を任せるね……それも、悪くはないかも知れない。うん、いい経験にもなるわね」

「はい。お任せください」

「そうなると、冒険者ギルドに関しては、セレンに手伝ってもらうことになるわね」

「こちらとしては大歓迎よ。ただ、あの魔銃だっけ? あれは、使いどころを選んでもらいたいかな。魔物の遺体や素材を持ち込んだ時に、上手く説明できるかが不安だから」


 今までは、冒険者ギルドと関わっていなかったからそれほど問題とはならなかったが、このフィルリーアには銃がない。つまり、銃痕のような跡が残ることがほぼないのだ。しかし、銃そのものを知らないのだから、その懸念も心配しすぎと思えなくもない。だが、余計な問題は発生させないに限るというのも事実だった。

 

「別に魔銃を頼った攻撃しかできないわけじゃないから、そのこと自体は問題じゃない。それにシュネは、魔術師としても優秀だからな」

「あら。あたしもそうよ。サキュバスは、魔人類の中でもさらに魔術へ秀でているからね」


 ふむ。

 そうなると、俺が接近戦を主体に戦いつつも補助に魔術を使い、シュネとセレンが魔術を主体に戦うという感じとなるのか。


「ボクとお兄ちゃんも、シーグお兄ちゃんとシュネお姉ちゃんと一緒がいいなぁ」

『え?』


 かわいらしく、覗き込むように言ってきたキャスに、思わず俺とシュネが声を上げてしまう。まさか、キャスがこんなことを言いだすとは思ってもみなかったからだ。

 そればかりか、さりげなく実の兄をも巻き込んでいる。しかも巻き込まれている筈のオルが、まんざらでもない表情を浮かべているのだ。


「ね、お兄ちゃん」

「そうだね」


 オルがキャスの頭を撫でながら、同意している様子に予測済みなのかとの思いに至る。この辺りはやはり、実の兄妹なのだろう。となると、まんざらでもない表情を浮かべていたのは自分もそのつもりがあったからか。

 意外と小賢こざかしいな、オルよ。


「でも、危険なのよ。分かっているの!?」

「シュネ姉。それは、今までも同じだと思うけど」

「そ、それは……そう、かも知れないけれど……ちょっと、シーグも何とか言って!」

「ははは。シュネ、俺たちの負けだ。オルが言ったように、今さらだ。諦めろ」


 既に実戦を幾度か経験し、偶然とはいえ悪魔との戦いもこの兄妹は経験している。シュネが心配する気持ちも分からなくはないが、それこそ本当に今さらだと思う。もし危険をうれうならば、兄弟を助けた際の契約云々は別にして、初めからこの研究所の外へ出さなければよかったのだ。

 そんな俺の言葉を聞いて味方がいないと察したのか、シュネが肩をがっくりと落す。そんな彼女の様子を見つつ、セレンにオルとキャスが冒険者ギルドに所属するのは可能なのかを尋ねてみた。

 すると、オルであれば、多少年齢のさばを読めば問題ないらしい。実際、一才や二才ぐらいのさばをよんで所属している未成年というのはいるのだそうだ。しかし、キャスぐらいの年齢では無理だという。

 十五才になれば成人というのが、このフィルリーアでの常識となる。そしてキャスの年齢は、十才を少し越えたぐらいでしかない。流石に数才さばを読んでしまえば、年齢がバレてしまう。

 だがそうなると、連れてはいけないだろう。かといって、キャスだけを研究所に残すというのも可哀そうに思える。どうしたものかと考えていると、意外な解決策がセレンより示された。


「所属、しなければいいじゃない」

『……え?』

「今までだって、所属していなかったのでしょ? だったら、問題ないじゃない」

「いや。だけどそれって、いいのか?」

「いいも悪いもないでしょ。たとえば一家で行商をしているような家族があったとして、未成年者はどうするのよ。まさか、町の外に置いていくとか思っているの?」


 完全に、冒険者ギルドに所属することありきで考えていた。

 だが、そうなのだ。今までだって、誰も所属などしていない。だけど、普通に旅はしている。ならば、俺やシュネが冒険者ギルドに所属するからといって、未成年のキャスが所属する必要など全くないのだ。

 

「それもそうか。必ず所属しなければならないわけでもないんだな」

「そういうことよ……それじゃ後輩となる貴方あなたたちに、冒険者ギルドの説明をしておきましょうか」


 そう言ってから彼女が説明してくれた内容は、冒険者ギルドのシステムやルールである。ただ、ルールに関してはそう難しいものでもない。いわゆる一般常識を守る、ということだった。つまり、犯罪はするな! とか、冒険者ギルドと関わり合いのない一般人へ迷惑は掛けるな! などといった、ありきたりなものだったのだ。

 また、冒険者ギルドではランクというものを決めているらしい。それは九段階に分かれていて、冒険者ギルドで仕事を受ける際の目安となる。同時に、依頼の難易度を示す指標にもなっているらしいのだ。

 そのランクだが、下からカッパー青銅ブロンズアイアンシルバーゴールド白金プラチナ真銀ミスリル金剛アダマンタイン神金オリハルコンの九段階となる。しかしオリハルコンランクに関しては、歴代でもそんなにいたわけでもないらしく、仕事のランクも含めて一種の名誉ランクとなっているというのが実情のようだ。

 つまるところ、冒険者ギルド内で八段階にランク分けされていて、最高ランクがアダマンタインという現状のようだった。

 因みにこのようなランク付けをしている理由だが、自身の実力も考えずに報酬から身の丈に合わない仕事を受けて死なれてはもともこもないからだろう。そういった事態となれば、冒険者ギルド自体の戦力も減る上に冒険者ギルドの信用度も下がってしまうからだ。

 組織の運営上、そんな事態はまっぴらごめん。というのが、冒険者ギルドの言い分だろうからな。


「大体わかった。疑問に思ったところは、その都度つど冒険者ギルドで聞けばいいな」

「そうね。だけど、あまりないと思うわよ」

「それならそれで、楽でいい。それじゃ、あとは明日……と? 何だセレン、その手は」


 冒険者ギルドに所属する等の話は明日以降にして、あとは寝るだけだなと思い立ち上がったのだが、なぜかセレンに腕を掴まれてしまう。しかも彼女は、俺だけでなくシュネの腕をも掴んでいるのだ。

 まだ何かあるのかと思い、ひとまず腰を降ろす。すると、セレンはとてもいい笑顔をしながら質問をぶつけてきたのだった。


「シーグ、そしてシュネ。あたしね、もう一つ聞きたいことがあるの」

「何だ?」

「あのね、宇宙って何? あたし、聞いたことがないの。これでも冒険者としてはシルバーランクで、中堅どころなのよ。そのが聞いたことがないことなんて……すっごく、興味があるわ! そして、その聞いたことのない宇宙とやらを進む船についてもね」


 古代文明が滅んで一万年余、嘗て古代文明があったことは分かっていてもその文明レベルに関してはほぼ分かっていない。当然、古代文明期にあった技術などは殆どが伝えられていなかった。

 何せ手掛かりといっていいのは、当時に造られた魔道具と現代に残る朽ちた遺跡ぐらいなのだから。

 なお、遺跡から極稀に文献などが見つかることもあるようだが、それはものすごく運がよかったのだろう。もしかしたら、魔科学関連かも知れない。もっとも、魔科学に至ってはほぼ完全に失われている以上、古代文献以上の価値はないのかも知れないが。

 そして魔道具だが、現在のフィルリーアのレベルからすれば古代文明期の物は構造が高度過ぎて殆ど手に負えていない。無論、頑張ってはいるのだろうが、解明は古代文明も含めて遅々として進んでいないというのが現状のようだ。

 このような状況下では、宇宙という言葉が持つ意味が分からなくても当然だとも言える……のか? となれば、ここは間違いなくシュネやネルの出番だろう。方や科学者、方や製造されてから一万年以上の時を過ごしたマザーコンピューターといっていい存在である。こういった専門的な面では、素人とそう大してレベルが変わらない俺の出番などないのだから。


「これはシュネやネル、もしくはネルトゥースの出番だな」

「ちょっとシーグ! まさかとは思うけど、押し付ける気ではないでしょうね」

「純粋に適材適所だろ。セレンが求めているのは説明だぞ、。俺の出番など、ないだろう」

「……こういった時だけ、素人面しろうとづらして」

「いや。本当に素人だろ、俺は。専門家に任せることこそ、道理だと思うが?」

「……きったないわねー……」

「じゃ、あとはよろしく」


 サムズアップ付きのとても素晴らしい笑顔を浮かべながら、俺はシュネとネルにあとを任せると、今度こそ眠る為に部屋へと向かった。

 因みに、話自体はセレンだけでなくオルやキャスも聞いていたらしい。但し、最後まで付き合えたのはセレンだけで、オルとキャスの兄妹は寝落ちしてしまったのが真相のようだ。寧ろ、彼女が最後まで付き合えたと聞き及んだことの方が驚く。同時に俺がセレンに対して、シュネと同じタイプかも知れないとの印象を抱いた瞬間でもあった。


新編へ入ります。

ついでに、行商から離れます。

行商自体は、ガイノイドたちが継続しますが。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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