第三十五話~大願~
第三十五話~大願~
鉱山をめざして車を進めていると、やがて魔力溜まりの近くに到着する。するとそこには、魔力溜まりだけでなく熊のような魔物も存在していたのである。その熊の魔物と対峙し、ついには倒したであった。
熊の魔物を撃破したあと、ネルを通して研究所にいるシュネを呼び出す。この場にいるネルと研究所のネルトゥースは姿かたちこそ違うが同じ存在となるので、連絡が取り易いのだ。
≪撃破、できたのね≫
「ああ。それで、これから鉱山……の候補に向かう」
≪了解したわ。それと、魔力溜まりの近くにガイドビーコンは埋めておいて。後々のこともあるから≫
「分かった」
無事に通信を終えると、シュネからの依頼通りガイドビーコンを埋める。勿論、魔力溜まりからある程度離れたところにである。それから車両に乗り込むと、その場から離れた。どのみち、魔力溜まりに対して俺では手を打つことはできない。少なくとも現在に至るまで、魔力溜まりをどうにかできたという話はないのだから。
何はともあれ、取りあえずの障害であった熊の魔物を排除したあと、一路鉱山があるとされている山並みへ向けて車を走らせる。その途中でもやはり魔物に襲われたが、そのたびに排除していった。
やがて山並みに近づくにつれて、即ち魔力溜まりから離れるに従って、魔物との遭遇率が下がっていく。普通なら気付かないかも知れないが、魔力溜まりに近づいていく際に魔物との遭遇率が上がっていった経験があるからこそ、気付くことができた差であった。
とはいえ、魔物からの襲撃がなくなったわけでもない。相対すれば、当然だが足止めされてしまう。その為、魔力溜まりから鉱山までの距離を七割ほど進んだ辺りで、夕暮れを迎えてしまった。これ以上は、夜となり視界も悪くなる。そこで仕方なくその地点でガイドビーコンを埋めると、研究所へ戻ることにした。
まもなく転送されて研究所を戻った俺たちを迎えたのは、シュネとオルとキャスである。しかもそこで三人は、口々に労ってもくれていた。
「ありがとう。でも、少し疲れた。飯食って風呂に入ったら寝る」
「そうね……そうした方がいいわ。さ、彼方たちもそうしましょうね」
『は~い』
翌日、早めに寝たこともあってすっきりした気分で目覚めを迎えた。それから朝食をとって装備を点検すると、転送をする。到着後、やはりガイドビーコンを回収すると今日こそ鉱山へ到着する為に車を走らせる。それから数度ほど魔物に襲われたが、全て撃破して漸く鉱山候補へと到着した。
辿り着いたその場所だが、山並みが連なっている。しかしながら、山脈というほどの規模でもない。強いて言えば、山地となるのであろう。そう表現していいぐらい、幾つかの山の集まりだった。
さっそく降車すると、積み込んでいた調査用機材を降ろしていく。だが、傍から見ればそうは見えない。何せ、リュックサックを幾つか降ろしているだけに過ぎないからだ。しかしこのリュックサックは、容量が拡張されているので機材は全てこの中に入っている。別にとち狂っているわけでもないので、安心して欲しい。
一方で俺はというと、近くにガイドビーコンを埋めた上でシュネへ連絡を取っていた。
≪着いたの?≫
「既に、ガイドビーコンも埋めたぞ」
≪分かったわ。私もそちらに転送する≫
「了解」
そこで通信を切ると、シュネがくるのを待ちつつ調査を開始しているアンドロイドやガイノイドたちのガードを行う。すると暫くしてから、ガイドビーコンを埋めた辺りに転送の光が発生する。やがて光が薄れていくと、複数の影が見え……て、ちょっと待て。複数とはどういうことだ? シュネだけじゃないのか?
想定していなかったその情景に頭を捻っていると、やがて光も消えて完全に姿が見えるようになる。果たしてそこには、三名が立っていた。その顔ぶれだが、シュネと共にエイニがいるのは分かる。ここまでは分かるのだが、もう一人、なぜかセレンもいるのだ。
「……何で、セレンまでいる!!」
「勿論、説得したからよ」
「マジかよ……よく、成功したな」
その言葉に、セレンはやや自傷気味の笑みを浮かべていた。
「現実問題として、あたしじゃ仇も討てないしね」
「つまり、悪魔を討ちたいと」
「ええ」
俺の問いかけに、セレンはこくりと頷いて肯定した。
確かに、普通の技量の持ち主では悪魔に勝つことは難しいだろう。基本的に悪魔は、自身の持つ力を駆使してくる。しかもその力が尋常ではないので、技量が勝ったとしても勝つことは難しいのだ。
俺の場合、デュエルテクターなしだと……いい勝負ができるぐらいだけどな。
「納得しているならいい。だけど……情報は漏らすなよ、冒険者! その時は、分かっているな!!」
「!! わ、分かったわ!」
警告の意味を込めて、セレンへ殺気をぶつけながら忠告する。その殺気に当たられた彼女は、息を飲んで驚きつつ顔色を青く変えていた。
勿論、冗談などではない。
もしセレンが本人も意図せずに研究所や俺たちの情報を漏らしてしまったとすれば、その点を問う気はない。しかし、こちらの了承もなく意図して漏らした場合、言葉通り容赦する気はない。確実に、彼女が漏らした相手も含めて関係者を屠るつもりだった。
「その言葉、忘れるな! 手前の為にもな!!」
「う、うん! うん!!」
ぶんぶんと聞こえてきそうなぐらい、頭を何度も振りながら頷いている。そこで殺気をぶつけるのをやめると、セレンはへなへなとへたり込んでしまった。するとシュネが、苦笑をしながら俺に対してあまり脅さないようにと言ってくる。
だが、俺は冗談ではなく本気なのだが。
「シーグヴァルド様、シュネ―リア様! こちらへいらしてください」
「どうしたネル」
「この画像をご覧ください」
その時、ネルから呼ばれたのでそちらに向かう。すると提示された画像には、何かまでの判別はできないが確実に何かが埋まっていることが映し出されていた。しかも、その量はかなりのものとなりそうである。何せ、他の探査機の画像にも、似たような表示がされていることからも間違いないだろう。急いで試掘を始めてみると、たいして掘り進めていないうちに鉱脈へぶち当たった。
一本だけでなく複数試掘をしているのだが、そのどれもが似たような深度で鉱脈へとぶち当たる。その事実が示すこと、それは……
「きゃー! やった、やったわ!! 超有望な鉱山よー! これで……これでいよいよ、シーグと私の夢がかなう! 宇宙を駆ける船が作れる! ううん、それだけじゃない。あの機体もいける! いけるわ!!」
「もう作れるとか、マジかよ!!」
「シーグ、私を誰だと思っているの。当然じゃない! 図面も引いたし、さんざっぱらシミュレーションをしたわ。あとは、着手するだけよ」
「そうじゃなくてだな! そんな簡単に作れるのか!! てことだよ!」
俺が素人なのは認めるが、そんな俺でも簡単に作ることができないということぐらいは分かる。だからこそシュネに問い掛けたのだが、逆に呆れられてしまった。
「シーグ。私がハンマーでも持って、一から作り上げるとでも思っているの?」
「幾ら何でも、そんなことは思ってないけど」
「安心したわ。それに、鉱石を精製して資材を作り上げてあとは組み立てるだけよ。その組み立ても、自動化されているの」
「そうなのか」
なるほど。自動化ね。
但し、完成にどれぐらい時間が掛かるのかは分からない。もっとも、その辺りは完全に開発者であるシュネに任せている。既にアイデアは伝えてあるので、どちらにしても機体や船の建造で俺が関われるところはないだろう。
「そうよ。だから取りあえず、採掘しまくるわよ」
「そうなると、魔力溜まりが近いことが厄介だな」
「そうね。だけど、私たちにとって利点でもあるわ。なにせ魔物以外、邪魔が入らないもの」
「元から、入りようがない場所だけどな」
この鉱山は、どこの国もまだ所有権を主張していない。そもそも、どこの国の領地にも属していないし、鉱山の存在も知らないのだから主張の仕様がないのだ。つまりフィルリーアでこの鉱山を知っている者は、俺とシュネとセレンだけということになる。この場にいる三人が漏らさない限り、どの国も知り得ることはできないのだ。
「必ずそうとは言い切れないわよ。この鉱山は、各国から離れているけどここが空白地帯ということに変わりはないわ。だからこそ、どこかの国が探索しにこないとは限らないでしょう?」
「それはまぁ、そうだが」
確かに、可能性としてはないとは言い切れない。実際、エリド王国がしたように、国土を広げる為に調査の為の人員を送り出してこないとは限らないからだ。とは言うものの、この鉱山にもっとも近いエリド王国からですら、数百キロは離れている。高速での移動手段が馬ぐらいしかないフィルリーアである以上、すぐにこの場所が知られるということはないと思う。
「とはいえ、立地条件的にはシーグのいう通りなのよね。近くに魔力溜まりがあって、魔物が跳梁跋扈している。こんな場所への探索、続けるのは難しいわ」
「俺がもしフィルリーア出身で、しかもこんな有望な鉱山があるって分かっていなければ、別方面に変えるな」
魔力溜まりのせいで、魔物が他の地域に比べても多くいるという現状を知った国が、それでも調査を継続するかというと微妙だろう。空白地帯の探索も、ただではないのだ。
空白地帯の探索と一言でいっても、それ相応に金の掛る国家プロジェクトといっていい。領地が増えることになるから損しかないとは言わないが、あまりにもデメリットが目立てば損切を判断したとしても不思議はないのだ。
その時、シュネが冒険者でもあるセレンへ問い掛けていた。
いわゆる未踏破地域の探索は、国から依頼された冒険者ギルドが冒険者を使って行うことが殆どといっていいだろう。偶には軍隊が行ったりすることもあるが、大抵は冒険者ギルドに依頼して冒険者を派遣するのだ。
つまり、現役の冒険者であるセレンに聞けば、その辺りの事情を把握するのは一番分かり易いといえる。ゆえにシュネも、彼女へ問い掛けたわけだ
「……えっと。シュネがあたしに聞きたいことについて、それは分かる。だけどその前に、あたしからも聞きたいことがあるのだけれど……いいかしら」
「え? ええ。構わないわ」
まさか、聞き返されると思ってもいなかったのか、シュネは少し不思議そうな表情を浮かべながら了承している。そしてそれは、俺も同様である。しかしセレンは全く気にもせず、自身の疑問を口にしていた。
「じゃあ、お言葉に甘えまして……コホン……夢の船って何!? 宇宙に行くとか、それも何のことか分からない! そもそも宇宙っていうのは、何のことなの!!」
『……あっ!!』
ここにきて、漸く気付けた。
そもそも、俺とシュネの夢のことなど、ネルトゥースや彼女と同じ存在といえるネル、それからアイリやビルギッタやエイニのようなガイノイド、他にはアイモのようなアンドロイド意外には話をしたことなどないのだ。
当然ながら、セレンにも俺は話したことなどない。そして少なくとも、彼女の様子から判断するに、シュネも話をしていないことが想像できた。
「一体全体、どういうことなの!? それに船ということは、どっかに向かうのよね。悪魔のことは、騙したの!? シュネ!」
「その……騙してなどいないわよ」
「じゃあ、どういうことなのよ! きっちり、説明して!!」
どうしたものかなこれ。
そもそも、シュネがどこまでセレンに話しているかが分からない。彼女に関しては、完全に丸投げしていたからだ。しかも、どうやって引き込んだのかも聞いていない。これでは、少なくとも俺から言葉はなかった。
そこでシュネへ、どこまで話したのかを聞いてみる。すると、俺らのことは大まかにしか話していないらしい。それよりも、悪魔を倒すことに力を貸すことを重点的に伝えたようだ。
勿論、ただではない。引き換えは、一切俺たちのことを他人へ漏らさないことだそうだ。
「こら! 何、こそこそと話し合っているのよ!!」
完全に頭へ血が上っているからか、セレンはかなり興奮している。このままいけば、激昂しかねない気配すら漂い始めているのだ。これは一旦、頭を冷やさせる必要がある。何せこのままでは、話すらできそうもないからだ。
そこで、少し前に釘を刺すつもりでぶつけた時よりもさらに力を込めた気をセレンだけに集中してぶつける。たださっきと違うのは、殺気ではないことぐらいだ。すると顔を赤らめるぐらい興奮していたセレンの様子が、劇的に変化する。先程の脅しがあっただけに、狙い通り効き目があったようである。
「セレン。取りあえず、落ち着け」
「あ、ああ……」
気迫はそのままに、しかし声は平板で彼女へ声を掛けると、セレンはこくこくと忙しなく何度も頷く。どうやら、興奮が冷めたようだと確信できたので、気迫は緩めておく。しかし雰囲気だけは、変わらずにセレンへ圧迫を掛けていた。
そのまま、どうしたものかと考えを巡らせようとしたその時、シュネが目配せをしてくる。その目は「話してしまいましょう」と物語っていた。
「……セレン。話すことは構わない。だが、流石にここではどうかと思う」
「え、ええ。そうね」
「だから今夜、研究所で話す。オルやキャスも交えてだが」
「な、なぜかな」
「あの兄妹にも、話はしていないからだ。どうせ話すなら、纏めての方が手間も省ける」
「わ、分かったわ」
セレンが了承したことで、取りあえずこの場でのことは終息を見た。
勿論、有耶無耶にはしない。彼女へ理解させる為にも、話をしないわけにはいかないからだ。取りあえず、セレンにも研究所へ戻ってもらう。どのみち、この場でこれ以上、彼女がいる意味はないのだから。
その後、セレンはシュネとエイニに伴われて、研究所へ転送する。だが俺はこの場に残り、明日から始まる採掘に向けての準備を行うのだった。
シーグとシュネの夢である宇宙へ、これこそがフィルリーアに来たあとでの行動における二人の原動力です。
デュエルテクターも、そしてその他の開発品も、全てこの夢を実現させる為の行動でした。
途中で、悪魔なんて厄介な相手とも関わって敵対してしまいましたけど。
ご一読いただき、ありがとうございました。




