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第三十四話~撃破~


第三十四話~撃破~



 鉱山に向けての旅程で、なぜか魔物の遭遇率が徐々に上がっていく。これは何かあると判断して、一旦研究所に戻って再調査を頼む。すると、鉱山への予定ルートに俺もシュネも予想していなかった現象が発生していたのであった。





 翌日、朝食をとったあとでこちらへ戻ってくる前に埋めておいたガイドビーコンの場所を目印に転送した。

 事前に邪魔な存在が現地にいないことは確認しているので、魔物などといった邪魔が入ることもない。無事に現地へ転送されると、昨日埋めたガイドビーコンを回収してから目的地へ向けて車を走らせた。

 途中、迂回したり魔物の襲撃を受けたりということを何度か繰り返しながら進んでいく。事前に予測できていたことではあってもやはり遭遇頻度が高いので、少し辟易へきえきとしながら車を運転していた。


「シーグヴァルド様。進行先に、魔物が一体おります。いかがなさいますか?」

「お知らせありがとう、ビルギッタ……これだけ遭遇すると、迂回する方が面倒だ。このまま進んで、一気にけりを付ける気だ……あ、忘れていた」

「何でしょうか」

「いや。シュネから、デュエルテクターを少し手を加えたから使い勝手を見てくれと言われていた。ちょうどいいから、試してくる」

「そうですか。では、お気を付けて」


 それから車を停めて降りると、デュエルテクターを装着する。そして、行く手を塞ぐように陣取っている魔物に向けてスラスター使い一気に接近した。果たしてその魔物だが、体高で二メートルぐらいだろうか。全体的なシルエットから判断すれば、ヒョウやチーターのようにしなやかな雰囲気を持つネコ科といった印象だった。

 やはり敏捷性とかが高いのだろうなとか思いつつ接近したわけだが、これは魔物も想定外だったようである。何せ一瞬だけだが、驚いたような雰囲気を見せていたのだ。

 珍しいものが見ることができたので、マスクの下で小さく笑みを浮かべてしまったが。

 その魔物だが、驚きの表情はすぐに潜めており、既に迎撃態勢をとっている。その様子に、そうするよなと思いつつ接近し続けた。間もなく魔物の攻撃範囲に収まるかといった直前で、地面をけりつけてさらに加速する。同時に魔物は爪を伸ばした前足を振り降ろしてきたので、その振り降ろされてくる爪に合わせて、俺もシュネが付け加えた武装をとやらを試してみた。

 その武装とは、鉤爪である。要は、某エックスなアメコミヒーローのあれだ。

 流石に、指と指のあいだから出ているなどということはないのだけれど。

 その鉤爪だが、ガントレットの手甲の部分に爪があるといった感じとなっている。当然ながら、その爪も緋緋色金ひひいろかね製であった。その鉤爪と、魔物の爪が交差する。間もなく、その場で声が上がる。それは、痛みに襲われた魔物の悲鳴だった。

 俺の鉤爪と魔物の爪が交差したわけだが、緋緋色金の爪は見事に魔物の爪を全て切り取ったのである。勿論、鉤爪が欠けるなどといったこともなかった。

 さらに言えば、鉤爪は魔物の前足をも切り裂きいている。そのことで痛みが生じ、先ほどの魔物の悲鳴となったのである。しかも魔物の前足の先部分が、見事に鉤爪で切り飛ばされていた。

 それでも魔物は、前足の一本が使えないという事態となっても闘争心を失せさせていない。三本足で立つ魔物の目には、爪と前足を傷つけられた怒りの色が見えているからだ。その怒りと痛みに満ちた目を見返していたが、間もなく魔物が残ったもう一つの前足を振り降ろしてきた。

 だが、四足の動物が三足となった攻撃など速度も遅く、余裕で避けられる。うしろにジャンプしてその攻撃を回避すると、空ぶった魔物の前足は地面を打ち少しだけへこませていた。中々なかなかの一撃に余裕と感じていた気を引き締めると、素早く魔物へ近づき両手に出ている鉤爪で魔物を交差するように振り抜く。その攻撃によって魔物は十字に切り裂かれ、その直後には地面に沈んでいた。


「たいした切れ味だな。流石、シュネが作っただけはある」


 その後、解体して魔石を取り出す。それから何度か鉤爪を出し入れしたり、適当に何かを切りつけたりして調子を見る。しかし、不具合が発生したような感じはなく、スムーズに動くし鉤爪に欠けたような様子は見られない。これなら問題ないだろうと思いつつ、停めた車のところまで戻った。

 そこでデュエルテクターを解除して車に乗り込むと、ビルギッタがタオルを差し出してくる。汗をかくほどではなかったが、せっかくなので受け取って顔や首筋を拭っておいた。それから使ったタオルをビルギッタに返すと、車を再び走らせ始めた。

 その後は、途中で休憩や昼食をはさみつつ、相変わらず襲ってくる魔物を避けるのも面倒となったので排除しながら進み、夕暮れまで車を走らせる。するとネルから、先に魔力溜まりがあるとの申告を受ける。しかし現れたのは魔力溜まりだけではない、その近くには一体の魔物がいるらしい。しかもその魔物だが、まるで魔力溜まりを守るように存在しているとのことだった。

 慎重にもう少し近づいて、自分の目で確認できる場所にまで寄せてみる。すると魔物の大きさは、三メートルを少し越えるぐらいだろうか。その体付きは、午前中に会った猫系を思わせる魔物よりもさらに大きかった。その姿は、熊に近いだろう。もし熊と同様に後ろ足で立ち上がることができるとすれば、体高は四メートルを越えるかも知れなかった。


「でかいな。しかも、シュネの頼みがあるから迂回も不可か」

「それに、地形的にも難しいですが」


 そう。

 実は魔物がいる場所が、少々問題だった。そこは、切り立った崖に挟まれた峡谷といっていい場所なのだ。決して狭いというわけではないのだが、だからといって魔物に気付かれず迂回できるほどの広さもない。その上、崖の上に続く道もないのだ。

 スラスターで俺だけ迂回して、目的地に向かうという手もないではない。だが、やっぱりシュネの頼みがある。何より、目的地で採掘を始めたあとでこの魔物に襲われたりでもしたら面倒でしかない。ならば、事前に排除してしまった方がいいといえばいいのだろう。

 どの道、日暮れまでそう時間がない。それに気付かれているのかいないのか分からないが、魔物が襲ってくる様子もない。そこで今日のところは、一旦引くことにした。研究所でしっかりと休み、万全の体調で明日にでも相対することにする。さらにいえば、シュネへ報告したいという思いもあった。

 現在の地点からさらに少し下がって距離をとると、そこにガイドビーコンを埋めてから研究所へ転送した。すると今日は、オルとキャスの兄妹が出迎えてくれる。その直後、兄の方は昨日と同じく武術の指導を、そして妹の方は土産話を強請ねだってきた。


「分かった、分かった。少し待て。ちょっと、シュネに話がある。だから、オルはそれからだ。それとキャスだが、ネルに任せる」

「承知しました」


 その後、一度部屋に戻って着替える。それからシュネへ連絡した上で、部屋へ向かう。そこで彼女に、魔力溜まりまで到着したことと、熊のような魔物がいることを告げた。すると、ガーディアンのような魔物がいるということにシュネも不思議がる。魔力溜まりを原因とした魔物の多発という事態は、過去から何度もあるので不思議ではない。しかし、魔力溜まりを守るように存在している魔物という事例は知らないらしいのだ。


「検索してみるから待って」

「え? ああ」


 そういうと、シュネは研究所のデータバンクを検索し始める。やがて、その検索がヒットした。それによると、極稀にだがそういった事態もあったらしい。但し、原因は不明。あまりにも事例が少なく、調べる機会はなかったというのがその理由だった。


「なるほどね。これは、気付かなかったわ」

「どうする? 調べるのか?」

「……残念だけど、排除して。どうせ魔力溜まりは残るから、そちらを調べるわ」

「了解」


 それから、ついでにというわけでもないが、合わせてデュエルテクターの具合をシュネへ伝えておく。やはり報・連・相は大事だからな。


「鉤爪だけと、使い勝手に問題はない。使用後の動作不良も、とりあえずは見当たらない」

「よかった。テストとかはしているけど、やっぱり実戦で使わないと分からないことは多いから」

「そうだな。実戦での耐久度は、使っていけば分かるか」

「だから、気を付けつつもよろしくお願いね」

「分かっている」


 シュネへの報告を終えると、オルとの約束を果たす為に武術の指導を行う。それから風呂に入り汗を流したあとで、夕食をとった。食後のひと時をまったり堪能したあとで部屋に戻り、暫くしたあとで明日に備えて眠りについた。

 明けて翌日、転送で飛ぶとまず昨日埋めたガイドビーコンを回収する。そこからやや遅めに進むと、やがて視界の先に熊のような魔物と魔力溜まりが現れた。そのことを確認すると、さらに車の速度を緩める。いつでも急発進できるようにと配慮しながらだったが、どうやら杞憂だったらしい。熊のような魔物は、その場からあまり動くことはなかったからだ。

 間もなく、汎用魔機関銃の射程に入る。だがそこでは停車せずに、もう少し近づいてから漸く車を停める。それから慎重に、俺とビルギッタが降車した。

 すると、ネルが魔物に対して汎用魔機関銃で銃撃する。次の瞬間、汎用魔機関銃から放たれた魔力でコートされた弾丸が魔物に着弾した。

 しかし標的となった魔物は、咄嗟に腕でガードするかのような仕草をしている。だがそんなことなどお構いなしに、ネルは弾丸を吐き出し続ける。まもなく引き金を引くのを止めて魔物の様子を確認すると、驚いたことに立ったままだった。


「まさか、立往生か?」

「分かりません」

「グオオオォォォ!!」


 直後、魔物は吠え声を上げると同時に体を震わす。それから、そのような攻撃など効いていないといわんばかりに一歩踏み出す。さらにもう一歩、二歩と歩み出したかと思うと、ついに四つん這いとなりこちらへ向けて走り出していた。

 とても元気に走ってくる様子から、汎用魔機関銃の銃撃が効いていないことが分かる。

 まさか怪我すら負わないとは、思わなかったが。


「シーグヴァルド様! お下がりください!!」

「くくく。まさか効いていないとは。転装てんそう!」

「シーグヴァルド様!?」

「手を出すなよ! ビルギッタ、ネル!」


 彼女たちに釘を刺したあと、俺もスラスターを吹かして魔物へ接近した。そのままぶつかる直前に地面に蹴りを入れて縦に回転すると、かかとで魔物の頭に蹴りを放つ。しかし魔物は、先ほど汎用魔機関銃を放たれた時と同じように腕を交差させてその攻撃を防いでいた。

 その直後、魔物が俺を吹き飛ばすように腕を動かす。しかし無様に吹き飛ばされないよう、魔物の動きに合わせて距離をとる。しかし、まるで読んでいたかのように魔物が踏み出しながら腕を振り降ろしてきた 


『シーグヴァルド様!!』

「……流石に重いなぁ」

「グゥガ?」


 どうやら、振り降ろした腕を受け止められるとは思っていなかったようで、魔物が不思議そうな声を出していた。

 そう。

 俺は魔物が振り降ろしてきた腕を、片手で受け止めている。体重が乗った重く鋭い一撃だったが、デュエルテクターを装着していれば問題なくできるのだ。

 逆にいえば、装着していないとできないのだが。

 その様子を見たからだろうか、ビルギッタたちが心配の声を上げている。その声に思わず答えたが、距離もあるので彼女たちへは届かない。そこで通信越しに、改めて同じ返答をすると、安心したような雰囲気が感じられた。

 特にビルギッタは今までの経験からか、違和感があまりない。まだ誕生して間もないネルが比較対象だからかも知れないが、随分と人と変わらないなと場違いに思っていた。その直後、無粋にも魔物がもう片方の腕を振り降ろしてくる。だが、その腕も難なく受け止めた。

 そして魔物の腕を強く握り逃げられないようにすると、両腕に鉤爪を出して腕を切り裂く。汎用魔機関銃の弾丸すら弾いた魔物だったが、流石に緋緋色金の爪までは防ぐことはできないようで、しっかりと鉤爪が腕を切り裂いていた。

 痛みに耐えかねてであろうか、魔物が声を張りあげる。それでも、咄嗟に距離をとっている辺り、流石といえるのだろう。だが、これで最大の攻撃能力は奪った。前足が負った怪我で四つん這いにもなれないし、奇麗に切断しているので爪もない。ならばこちらから詰め寄るかと思った矢先、あろうことか魔物の方が先に動いていた。

 痛みに堪えている表情を浮かべながらも、魔物は体を浴びせ倒してくる。まさか、ボディプレスをしてくるとは夢にも思わなかったので、反応が少し遅れてしまった。


「グゥオオォ!!」

「マジか!」


 もう、避ける余裕も時間もないと判断してしっかりと踏ん張って受け止める。勢いと重さが相まって中々の衝撃と重量が掛かってくる。それゆえ、意識せずに片膝をついてしまったが、何とか受け止めることには成功したのだ。


「グァガ!?」

「食らえ!」

「グァアアァァ!」


 受け止められたことに痛みすら忘れたのか、魔物から驚いたような声が聞こえてくる。俺はその声を聞きつつ、そのままリフティングでもするかのように持ち上げる。そのままスラスターを吹かせて上空へ移動すると、魔物を頭から地面へ向けて投げつけた。

 驚きなのか別の何かなのかは分からないが、ともかく魔物は叫び声をあげている。しかし空中にいては、体勢を変えることもできないだろう。予想通り、魔物は頭から地面へ叩きつけられていった。

 地面に降りつつ、腰に付けている短杖を取り出す。そして魔刃を展開しながら近づくと、有無を言わせずに腰のところで一刀両断にした。

 上下二つに分かれ、上半身は地面から生えるように、そして下半身がその隣に転がる魔物を一瞥する。それから俺は視線を動かして、静かに存在している魔力溜まりとその向こうにしっかりと鎮座する山並みを眺めたのであった。


少し強め……かも知れない二体の魔物をゲット……じゃなくて倒しました。

あとは、目的地まで一直線です。多分。

魔力溜まりですが、主人公ではどうしようもできないので取りあえず放置です。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手甲に爪とくれば アラフィフとしては アメコミよりも ウォーズマンを連想しますねw 更新頑張ってください
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