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第三十三話~旅程~


第三十三話~旅程~



 エリド王国北部にある、もっとも国境に近い二つの村での行商を終えたあと、一まず研究所へと戻り装備を一新する。その後、今回の目的地となる鉱山から一番近い地点へ転送をしたのであった。





 現地に到着後、ATF ディンゴをモデルとした車両に乗り込んだ俺たちは、光学迷彩を展開しつつ目標の鉱山へ向けてひた走る。いかに国境といえども、エリド王国が全ての国境を管理下へ置いているわけでもない。ましてやフィルリーアは、中世ヨーロッパ程度のレベルである。街道や街道に近い地域ならば別だが、街道どころかまともに家もない地域などを厳密に管理できるなど土台無理な話であった。

 勿論、国としてその状況を放置などしているわけでもない。国境警備として組織した小隊を幾つか派遣してはいるようだが、逆にいうとそれしかできないというのが現状なのだ。俺やシュネからすれば穴だらけといっていい警備しかできていない国境など、越えるのはたいして難しくはない。ましてや、光学迷彩まで使い視覚的にも隠しているのだからほぼ見つかる筈がなかった。

 そのような状態で車両を走らせてから半日もしないうちに、エリド王国の国境を越える。これが犯罪か犯罪ではないかで言えば、エリド王国の法を犯しているのだから罪となるのだろう。だが、治安を取り締まる側にバレなければ犯罪ではないのだ。

 そんなことより、寧ろ国境を越えてからの方が厄介といえる。今、走破している場所はどこの国のも属していない地域となる。各国からは、空白地帯ともいわれている未踏破地域となる。それだけに、何が起きてもおかしくはないのだ。

 それでも、国境を越えてから一日目は、多少魔物が多いぐらいの感じでしかない。これぐらいであれば、人里が近くにないという状況から考えれば珍しくもない出現頻度だった。しかしながら、二日目の昼前ぐらいから、雰囲気が変わってくる。そして同日の夕方となる頃では、一日目の雰囲気は完全になりを潜め、随分と物々ものものしいあり様となっていた。


「ええい!! 次から次へと!」


 鬱陶うっとうしさから漏れ出てしまった言葉と共に、急ハンドルを切ってドリフトを決める。すると、つい先ほどまで車両があった場所を目掛けて魔物が襲い掛かってきた。その直後、車両の天井へ据え付けた汎用魔機関銃が火を噴く。その銃撃をまともに受けて、襲い掛かってきた魔獣が致命傷を負って脱落していった。

 しかし俺たちを追ってくる魔物は、一匹だけではない。他にも何体かの魔物が、こちらを追い掛けてきているのだ。その追い掛けてくる魔物の姿だが、見た目でいえば狼とたいして変わらない。しかしながら、それはあくまで見かけだけ。の魔物の体つきは、狼などとは比べるまでもなかった。

 前にエリド国内でも狼の姿をした魔物に襲われたが、その時の魔物も体つきは普通の狼より大きいと記憶している。しかしてその魔物よりも、追い掛けてきている魔物はさらに大きいのだ。

 その時、また一匹の魔物が脱落する。どうやら車内から、誰かが対物魔ライフルで撃ち抜いたらしい。ふと見れば、助手席からビルギッタが対物魔ライフルを撃った直後であった。よくこれだけ揺れる車内から相手を、しかも動いている相手を狙えるものだと感心する。その直後、ネルの操る汎用魔機関銃から弾丸がばらまかれる。その銃撃によって、追い掛けていた魔物のうち二体ほどが、られていた。

 もっとも、バックミラーで見ただけなのではっきりとした確証があるわけではないのだが。


「シーグヴァルド様。どうやら魔物は、撤収したようです」

「ネル、本当か?」

「はい。急速に、離れていきますので間違いはないかと」

「まったく、やれやれだぜ」


 そこでようやく車両を止めて、改めて後方を確認する。確かにネルが言ったように、目に見える範囲には魔物の姿はなかった。これで取りあえず安心だといえるが、それにしてもこの遭遇頻度は異常だろう。流石は、いまだ各国に領地として取り込まれていない空白地帯だと感心してしまう。

 勿論、関心などしている場合ではないのだけれど。

 その後、倒した魔物から魔石を回収したあと、その場を離れたのであった。



 今回の調査というか探索だが、都合七人での行動となる。その中で三人は、言うまでもなく俺とビルギッタとネルである。そして残りの人員は、様々さまざまな調査を行うアンドロイドが二名とガイノイドが二名であった。


「予定の半分ぐらいまで到着したわけだが、流石に今日はここまでとしよう……しかし、ビルギッタ。前に鉱山へ向かった時、こんなに魔物が出たか?」

「いえ。ここまででは、なかった筈です」

「そうだよな……やはり戻って、調べた方がいいか」

「そうかも知れません。空白地帯という場所柄を考慮しましても、あまりにも前回と違いすぎます」


 こうして思惑が一致した以上、先へ進むことにこだわる必要はない。明日以降の鉱山探索行再開の為に、この場でガイドビーコンを埋める。これで、明日以降はここから再出発できるというものだ。

 その後、転送して研究所へと戻る。すると、シュネが驚きつつも迎えてくれた。


「どうしたの? こんなに早く、戻ってくるなんて。もしかして、不測の事態でもあったのかしら?」

「ああ。不測の事態かは分からないが、ちょっと問題があった。シュネ、済まないが鉱山へ向かう予定のルートだが、今一度調べてくれないか?」

「それは構わないけれど……」


 やや戸惑いながらもこちらのお願いを受け入れたシュネは、ネルトゥースに指示を出している。その指示とは、打ち上げている人工衛星による調査の為であった。こうして指示を出しておけば、あとはネルトゥースが調べてくれるので任せておけばいいのだ。

 その後、用意された夕食をとってから少し休み、それから風呂にでもと思っていたのだが、そこでオルから武術の指導をお願いされる。碌にならされてもいない道なき道を車で飛ばしたので少し疲れていたが、オルへの指導ぐらいならばできなくはない。それに、今のオルの姿を見ると、自分が武術を鍛錬していた頃を思い出す。あの頃は、鍛錬であっても面白かったものだ。

 それだけに、オルの願いを無下にはできない。俺は少しだけ苦笑しながらも、了承してオルへ武術の指導を行うことにした。一通りの指導を行ったあと、一緒に風呂へ入って汗を流してから食堂へと向かう。そこには、シュネやキャスが椅子に腰を降ろして待っていた。

 するとその食事中に、シュネから調査結果が出た旨を伝えられる。食後に、報告を聞くからと答えて夕食を続け、その後、夕食の終了後に彼女の部屋へと向かった。


「それで、何か分かったのか?」

「ええ。厄介な物があることが分かったわ、魔力溜まりよ」

「それマジ!?」

「嘘を言っても、仕方ないでしょう。しかも魔力溜まりがあるのは、鉱山がある方面よ」

「……ということは、距離は兎も角として鉱山へ向かえば向かうほどに魔物と遭遇する確率が上がるのかよ!」


 この魔力溜まりとは、魔力が特に集まっている場所のことだ。

 基本的に魔力は、フィルリーアに遍在へんざいしているのだが、局所的に見た場合、魔力の濃い薄いが存在するのだ。そして魔力が特に濃く、まるで池か湖のように集中して存在している場所がたまに見つかる時がある。その場所を、魔力溜まりと称していた。

 そして、なぜか魔力溜まりがあるとその周辺は魔物の出現率が格段に上がる。この現象については、古代文明期でも様々さまざまな推論などが出されたらしい。だが、結論が出る前に古代文明そのものが崩壊したこともあって、いまだもって答えが出ていない問題であった。

 因みにではあるが、魔力溜まりとは逆に魔力が極端に薄い、もしくは全くないという場所も存在する。そういった場所だと、魔術は勿論、なぜだか魔道具も使えなくなってしまう。魔術は、魔力をいわば燃料のように消費して術を行使しているので魔力が薄い、もしくはない場所で魔術が使えなくなるという理由は分からないでもない。だが、基本的に魔石を原動力としている魔道具まで使えなくなる理由も判明していなかった。

 それに、そもそもからして、魔力とはなんなのかという問題がある。フィルリーアの住人は不思議に思っていないようだが、魔力がない地球からきた俺とシュネからしてみれば魔力は全く未知の力となる。それだけに不思議と思っていたのだが、シュネに関しては俺以上だった。

 今でこそ、他に道具の開発などへ手を広げているからか、あまり重点的には調べていない。だが、フィルリーアに来た頃は躍起やっきになって調べていたのだ。しかし、天才のシュネをもってしても、いまだに答えは出ていないのである。

 そして、彼女に分からないものが、俺に分かる筈もないのだ。


「距離的には、今日、シーグが埋めたガイドビーコンの場所から一日以上離れているわ。そして鉱山から見れば、二日弱ぐらいには離れているわね」

「それで、迂回は可能か?」

「大きな意味で言えば可能よ。でも、本当にかなりの大回りとなるわ。何より、現地を知っておきたいから迂回はしないでほしいの」


 本来なら、鉱山へ直行する予定だった。

 これは、鉱山周辺地域の現状探索という側面も持っていたからでもあるが、せっかくなのだから楽しまなければという思いが大きかった。無論、楽しみに固執して死んでしまってはもともこもないので、緊急時となった場合には探索を中止して研究所へ戻ると決めている。だが、懸念していた緊急事態に遭遇するとは思ってもみなかったのだ。


「……仕方がないとはいえ、とんだ災難だ」

「こうなると、今回の鉱山も不安になってくるわ」

「辞めろよ。現地に到着前にフラグなんて、正直言って御免だぞ」

「……それもそうね」

「そういうことだ。さて、俺は寝る」

「おやすみなさい」


 そのあと、シュネの部屋を出ると自室に戻る。それから、明日に備えて眠りについたのだった。


鉱山へと続く道で、厄介なものがありました。

しかも迂回はできないという。

がんばれ、主人公。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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