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第三十二話~出発~


第三十二話~出発~



 魔物相手に、対物魔ライフルと自動魔小銃の威力を存分に発揮する。その後、到着した村で行商をしてから、一度研究所へ転送をしたのであった。





 研究所へ戻ったあと、オルとキャスは自分たちの部屋に向かう。それは、俺も同じであった。部屋に戻って旅装からラフな格好へと着替えたあと、夕食まで寛ぐ。やがて夕食の準備が整ったとの連絡があったので、食堂へと向かった。

 食事のあとはいつものように休憩をしていたが、ふと思い立ってシュネへ話し掛ける。彼女へ話し掛けた理由は、爆破した悪魔の拠点で手に入れた資料の続報を聞きたかったからだ。すると、彼女から俺の部屋で話そうと提案される。艶っぽい話ではないのが、実に残念な提案だった。

 いや、話が終われば別かも知れないが。

 暫く部屋で待っていると、シュネとエイニが現れる。招き入れたあと二人に椅子を勧めたが、腰を降ろしたのはいつもの通りシュネだけだった。食堂でも思ったのだが、少し疲れているようにも感じる。疲労困憊ひろうこんぱいといった感じではないが、どこかから疲れが滲み出ているといった雰囲気なのだ。

 少し根を詰めすぎのようにも見えるので心配すると、シュネは首を左右に振って否定した。


「思ったよりも情報が入らなかったのよ。手に入れた資料に記されていたのは、あの装置を使って悪魔の誕生に成功したとか、失敗したとかそんな報告が大半だったわ」

「つまり、あそこで研究していた?」

「多分違うわ。あの施設は研究とかではなくて、単純に悪魔を誕生させる為だけの施設だと思う。だけどそれだけに、悪魔王の目的とかは分からなかったのよ」

「なるほど」


 情報という点でいえば、手に入れたといえるかも知れない。だが手に入れた情報は悪魔の誕生に関することばかりで、もっとも知りたかった情報、即ち悪魔の目的などに関しては殆ど手に入らなかったというわけだ。

 つまり、骨折り損のくたびれ儲け、徒労に終わったとシュネは感じているのだろう。確かにそれならば、疲れたかような雰囲気を醸し出しても不思議はなかった。


「でも、資料の傾向からその可能性はあったから、それはいいのだけれどね」

「おい!」

「ふふふ、冗談よ」

「何を言っているんだか……あ、そうだシュネ。悪魔の誕生と言っていたけど、そもそも悪魔って何から誕生させている?」

「え? ああ、まだ説明をしていなかったわね」


 シュネ曰く、悪魔とは一種の生体改造らしい。その条件はひどく曖昧で「力あるもの」を素体として使うことで誕生させることができるというものなのだ。しかも、成功率は悪いらしく大抵は悪魔となれずに死を迎えてしまう。その理由は、かなり強引な手法なので素体となる存在の方が耐えられないというのが原因らしい。


「ただ、耐えることができない理由が精神的な物に起因するのか、それも肉体的な物に起因するのかも分かっていないみたいだけど」

「しかし、生体改造とは。どこぞの悪の秘密結社か! それで、その「力あるもの」だっけ? それには、何か条件でもあるのか?」

「ないみたいよ。それこそ野生動物でも、人類でもいいみたい。ここからは憶測だけど、オルとキャスがアザックに狙われたのも、先祖返りだからかも知れないわね」


 まさか、こんなところにオルとキャスが狙われた原因の答えが転がっているとは思わなかった。だが、悪魔を誕生させる条件が「力あるもの」というのなら、あの兄弟は間違いなくそうだろう。その点だけでいえば、悪魔の着眼点は間違っていなかったのだ。

 だが、騙してというところはいただけない。もっとも、騙していなければいいのかといわれると首を傾げざるを得ないのだが。


「オルとキャスからすれば、いい迷惑だな」

「そうね……あ、そうだわ。私からも一つ、シーグに言わないといけないことがあったわ。デュエルテクターだけど、少し手を加えて武装を追加したから。使い勝手を見ておいてね」

「え? まさか、そんなこともしていたのか!?」

「当然でしょ。デュエルテクターは、この私が手掛けているの。だけど、流石に少し疲れたわ」

「おいおい。もしかして疲れたのって、それが原因か?」

「さぁ、どうでしょう」


 お茶目といっていいような表情を浮かべながら、シュネはウインクしてくる。その仕草は中々に色っぽく、誘っているかと思えた。いや、俺の中では誘っているに決定だ。ならば、男として応えねばなるまい。

 そんな自分勝手に結論を出すと、俺は立ち上がってシュネに近づいてすっと利き手を差し出した。すると彼女も華やかともいえる笑みを浮かべてから、その手を取ってくる。手はそのままに、空いた手でシュネの肩を抱いてベッドへと誘う。彼女も抵抗などすることなく、一緒にベッドまで進むとそのまま二人して倒れ込んだのだった。

 因みに、ビルギッタとエイニだが、彼女たちは既に部屋から出ている。ゆえに、その点は気にする必要がなかった。



 かたわらから感じる温かさと、腕に感じるとても柔らかな感触を意識する。初めは微睡まどろんでいたのだが、一旦意識を始めるとその感覚がより鮮明になってきた。何気なにげにベッドサイドテーブルの上に置いてある時計を見ようとしたが、片腕が動かない。なぜかと思って視線をそちらに向けると、シュネが俺の腕を抱え込んでいたのだ。

しかもその腕は、彼女の豊かな双丘に埋もれている。柔らかくも温かいこの拘束からは、逃れる術を見付けられない。というか、俺が逃れたくなかった。

 これを振りほどこうという男は、男色のがあるか趣味が合わないからだろう。異論は認めるが、俺の中では決定事項だ。

 取りあえず起きるのは諦めて、眠っているシュネを見る。目鼻立ちは通っていて、流石は西洋系の顔立ちだと思わせた。髪もプラチナブロンドの長髪であり、今は閉じられている眼を開けば青い目が現れる。

 いわゆる、金髪碧眼きんぱつへきがんというやつだ。


「容姿は、完全にヒロインだよな」

「……何が?」

「起きていたのか」

「隣でもぞもぞ動かれたらね」


 そういいつつ、シュネが欠伸あくびをしながら起き上がる。それからベッドの下に落ちている服を羽織ったように見えたが、彼女が羽織ったのは俺のシャツである。

 いわゆる、肌シャツだ。

 しかもシュネがベッドから出たことで、部屋に明かりが灯る。研究所内では、基本的にセンサーによって部屋の明かりは明滅している。意識して明かりを操作する場合は、寝る時ぐらいだ。そしてシュネが起きたことで部屋に明かりが灯ったわけだが、彼女が今身に着けているのはシャツ一枚である。その為、明かりによってシャツ越しにシュネのシルエットが見えていた。

 それは正に、細い!!

 この一言に尽きる。いわゆる、スレンダーグラマーというやつだ。


「どうしたの?」

「い、いやなんでもない」

「あら、そう?」


 微笑みながら問い掛けてきた様子を見ると、多分考えていることなど筒抜けだという気がする。しかしシュネは、それ以上は何も言わずに小さく笑みを浮かべながら台所へ向かった。

 それから間もなく、彼女はジュースを持って戻ってくる。その姿を見て、俺もベッドから起きると下着とズボンだけを身に着けた。上半身は裸だが、羽織るべきシャツはシュネが身に着けているので、着たくても着られないのだ!

 そのままベッドから出ると、椅子に座る。シュネも対面に座ると、彼女はテーブルの上にジュースを二つ置いていた。

 因みに俺の前に置かれたジュースは葡萄味で、シュネが飲むのは林檎味のジュースとなる。二人してジュースを飲みながら、今日からの予定を話し合う。何せ今日は、行商へ向かうのではない。かねてより探索する予定であった、鉱山へ向かうのだ。

 シュネも同行するだろうと思っていたが、彼女は首を振って否定する。理由を尋ねれば、セレンのことがあるからだそうだ。


「だからシーグ、期待しているわよ。私たちの装備を、より充実する為に。そして何より、私たちの夢の為にもね」

「それは、鉱山の方へ言って欲しい。しかし装備の充実か……それは、悪魔を想定してってことだよな」

「ええ。どうしてなのかは分からないけど、妙に縁があるもの。お蔭で、敵対状態よ。こうなった以上、関わらないということは無理だと思う。だからこそ、備えはしておかないと」


 シュネがいわんとすることは分かる。もう、悪魔とは無関係だとは言えない。それぐらい関わってしまったのだ。それに、この研究所で手に入れた技術を使ってやりたいこともある。実はそれこそが、俺とシュネの掲げる夢であるしそもそもの目的なのだ。だからこそ、鉱山を手に入れたい。それが、悪魔関連に対抗する手段にも直結することになるのだ。

 だが今は、取りあえずできることからはじめるとしますかね。


「だけど、シュネにまた負担をかけることになる」

「気にしないで。それにデュエルテクターの新装備とか、好きでやっていることだもの」

心配なんだよ。趣味が高じると、シュネは根を詰めるし。下手をすると、暴走気味となるし」

「誰が暴走するっていうのよ! そんなことを言うのは、この口かしらね」


 思わず出てしまった言葉に気分を悪くしたのか、シュネが俺の両頬りょうほほを摘まんで引っ張ってくる。それは、地味に痛い彼女からの反撃だった。 


「イ、イヒャイイヒャイ。悪はったって」

「ふん。口は禍の元よ。気を付けなさい」

「了解した」


 まだ少し痛む両頬を手で押さえながら、至極まじめに答える。するとそんな俺の雰囲気がツボだったのか、シュネはぷっと噴き出したあとで弾けるように笑いだした。そんな彼女の様子に、俺もまた笑い出す。それから一頻り笑っていると、ビルギッタとエイニが部屋へ入ってきた。

 彼女たちは俺とシュネの笑いが収まるのを待ってから、朝食の用意ができていることを告げてくる。それから、てきぱきとベッドメイキングを始めていた。すると、昨日行われた男女の勝負によって荒らされたベッドが、みるみる奇麗になっていく。そのあいだに俺とシュネは普通の格好に着替えると、食堂に向かったのだが、食堂ではオルとキャスが待っていた。

 どうやら昨日の夕食時と同じく、待たせてしまったようだ。


「すまん、待たせたか」

「ううん。ボクたちも少し前にきただけだよ。ねー、お兄ちゃん」

「そうだよ、シーグ兄貴」

「そうか。じゃ、これ以上待たせるのも悪いし、食べるか」

『うん』


 朝食をとってから暫く休んだあと、いよいよ鉱山候補の地へ向かう。今回は調査一本なので、カモフラージュも兼ねている行商は行わない。だが、調査に機材や人員は必要なので移動手段は確保する。その移動手段とは幌馬車……ではなく、きちんとした車両だった。

 それはドイツ製の車両、ウニモグのシャーシを使用して製造されたATF ディンゴという装甲車がモデルとなる。オリジナルには、対地雷用装備として車両の下面にV字底を取り付けているらしいが、流石にそんな装備はない。それ以外は、光学迷彩が追加されていることを除けばほぼ同等の仕様である。そしてそれは、武装の面でも同じであった。


「機関銃を追加したのか。前の鉱山探索時には、なかったよな」

「どうせだから、追加してみました。汎用機関銃となるMG5がモデルよ」

「何が起きるか分からないから、装備があるに越したことはないか」

「そういうこと」


 既に転装先に人などがいないこと確認済みなので、ATF ディンゴに乗り込み転送する。現地に到着すると、念の為に光学迷彩を展開して誰からも目撃されないようにした。その後は、鉱山がある現地に向かうだけとなる。車にはデータ化された鉱山までの大まかな地図もあって、それがモニター上に映っている。だから、目的の鉱山へ向かうことに問題はないだろう。最悪、迷ったら転送をして研究所まで戻ればいいだけの話なので、そこまで道のりに関して気にしていなかった。

 但し、それが鉱山に向かうまで問題が全く出ないという意味ではない。また、鉱山周辺の詳細な様子も把握する必要もあった。

 因みに、今回は調査にオルとキャスは同行していない。目的が行商ではないということもあるが、何より完全に人の手が入っていない未踏破地域である。危険を考えれば、連れて行くという判断はできなかった。

 もっとも、キャスには駄々だだをこねられてしまったけどな。


鉱山探索へ向けて、出発です。

どうなることやら。


ご一読いただき、ありがとうございます。

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