第三十一話~撃攘~
第三十一話~撃攘~
エリド王国の国境近くに作られた村へ向かい行商を行う為、さらにはエリド国外にある誰も所有していない鉱山へ向かう為に、行動を再開したのであった。
村へと続く街道とはいえない道を、二台の馬車で進む。先を進むのは箱型馬車で、あとに続くのが幌馬車だ。幌馬車の御者台にはネルが座っていて、手綱を握っている。そして幌に覆われた荷台の部分には行商用の品物が積んであり、そこにはオルとキャスの兄妹とアリナも乗り込んでいた。
当初、オルとキャスの兄妹と兄妹付となるアリナが箱型馬車に乗せる予定であったが、他でもないキャスが幌馬車に乗ることを望んだ為に、馬車に搭乗する人物を入れ替えた形だ。
その為、箱型馬車には俺が乗り、御者台にビルギッタが座り手綱を握っている。とはいえ、周囲の警戒をしていないわけではない。正確にいえば、はしゃいでいるキャスと妹の相手をしているオル以外の人員は、ちゃんと周囲の警戒をしているのだ。
その上、警戒用の魔道具も稼働させているので、賊や魔物のような敵から襲われる確率はかなり下がっている。だが、道具に頼って油断をするなど以ての外なので、きちんと警戒と監視を行っていた。
そのお陰か、襲撃もなく平和……などと思った矢先、警戒用の魔道具が発する警告音が響き渡る。流石は辺境、平和な時など長くは続かないらしい。それとも、平和だと考えたからフラグでも立ってしまったのだろうか。
「やれやれ……相手はどこかな」
「シーグヴァルド様。二時の報告、約一キロです」
「本当だな」
望遠鏡をウエストポーチより取り出して、ビルギッタが指摘した方向を見る。するとそこには、後方にある森から現れたのか狼の容姿をした魔物が何体もいた。この場所は、森まで草原が広がっているので、至極見通しが良い。どうやらその為、この距離でもお互いに見つけてしまったようだ。
「さて……迎撃するか。それとも、こちらから向かうか」
「先制攻撃をしましょう。これだけ離れていれば、結界も展開できますから」
馬車から降りながら呟いた言葉に、こちらも御者席から降りたビルギッタが答える。確かにこれだけ離れていれば、先制攻撃をした方がいい。しかし、普通なら無理だろう。だが俺たちには、それを可能とする手段があるのだ。
「それでいこう。ビルギッタは、幌馬車へ連絡してくれ。ネルやアリナがいるから気付いてはいるとは思うが、念の為だ」
「はい」
既に幌馬車も停止しているし、アリナとオルとネルは馬車から降りている。だが、キャスだけは、馬車の中にいるようだ。ちらちらと頭が覗いているので、外の様子を伺っているのだろう。
キャスが乗っている幌馬車を中心にして、既に結界が展開されている。それを確認したあと、こちらも結界を展開した。だが、その間にも魔物は接近してきている。流石は狼の容姿をした魔物といえるのだろう、中々に足が速かった。
その時、結界の外に出たネルが銃を構える。しかしそれは、俺やビルギッタやイルタがアザックと遣り合った際に使用した短魔機関銃ではなく、完全にライフルの形をしている。しかも、ただのライフルではない。いわゆる対物ライフル、それを模して造られたものであった。
「そういえば、何をモデルにしたと言っていたかな?」
「シュネ―リア様は、SIG50だとおっしゃられていました」
俺の問いにビルギッタが答えると同時に、ネルが引き金を引いたらしく彼女から一条の光が伸びていく。見た目だけならスタイルのいい女性で、しかも女性用スーツを着込んでいるネルだが、寝転がらずに脇に抱えながら対物ライフルを撃ったのだ。
もっとも、火薬を使用して発砲しているわけではないので、対物ライフルが持つ反動などはほぼないのだが。
「何か違和感あるな、見た目が対物ライフルなだけに」
「そう申されましても、こちらも魔銃ですので」
ビルギッタが俺の疑問に答えたその時、彼女からも光が伸びる。ビルギッタもまた、ネルが手にしているライフルと同型の魔銃を手にしており、その引き金を引いたのだ。
なお、この対物ライフルを模して造られた魔銃だが、対物魔ライフルと呼称していた。
その対物魔ライフルの引き金が引かれたあと、双眼鏡で戦果の確認をする。そこには、魔物が二体倒れていた。
「ネルにしてもビルギッタにしても、一撃とはたいしたものだ」
「お褒めにあずかりまして、恐縮です」
その後、ネルとビルギッタの持つ対物魔ライフルから一回ずつ、光が伸びる。この銃撃によって、さらに二体の魔物が倒されていた。だが、魔物も足が遅いわけでもない。既に当初の半分ほどの距離にまで、近づいてきていた。
これは出番もあるかと考え、取りあえず短魔機関銃を手にする。その時、幌馬車の方からネルの持つ対物魔ライフルとは別の物と思われる銃撃が行われた。
「何か違うな」
「恐らくアリナが、自動魔小銃で銃撃したのかと」
「自動魔小銃って、アサルトライフルか」
「はい」
アリナには、対物魔ライフルではなく自動魔小銃……アサルトライフルが渡されている。そしてシュネが自動魔小銃のモデルとしたのは、H&K HK417だった。
確かに自動魔小銃ならば、短魔機関銃と同じ扱いもできるだろう。それとは別に、単発やバースト射撃もできるので狙撃銃としても使えるので応用性は高い。だが、短魔機関銃に比べれば大きくなってしまうので、隠密性はなくなるのが弱点といえば弱点ではあった。
しかしそれも、容量が拡張されたウエストポーチやリュックサックに入れておけば問題とはならないのだ。
なお、アリナの銃撃で、また一体魔物が倒されていた。
いかに魔物であったとしても、これだけ遠距離で倒され続ければ群れとしての動きも鈍ってくる。すると、またしてもビルギッタが引き金を引き、新たに魔物が一体倒される。流石に不利だとの思いに至ったのか、こちらへ向かってくる狼の魔物の中で一番大きな体つきをしている一体が大きく吠える。その直後、生き残っていた魔物は踵を返して森へと引き返していく。そして、その場に最後まで残っていた一番大きな体つきをした魔物も、半数以下となった群れのあとを追うように森へと戻っていった。
「魔物のくせに、行動は狼と変わらないような気がする」
「動物系の魔物は、その行動も形状が近い野生動物と似るそうです」
「ほう。そうだったか。ならば他の魔物も、大体がそうなのか?」
「データ上、その筈です。無論、例外もあります。どうも追い詰めすぎると、相手が自身より強くても、逃げることもせず攻撃を仕掛けてくようです」
「窮鼠猫を噛む、か」
つまり、倒すときは、嬲らずに倒す方がいいというわけだ。
だが、俺も敵を倒すのにわざわざ嬲ったりはしない。何より止めは刺せる時に刺しておかないと、後々になってどんな逆襲を受けるか分からないのだ。何であれ、損害を受けることなく魔物を排除できた以上、このままこの場所に留まる理由はない。早々に、進んだ方がいいだろう。
そう考えて、身を守る為にと張った結界を解除。すると、幌馬車の方でも結界が解かれていた。その後、全員が馬車に乗り込むと、その場からは離れる。途中で一日だけ野宿を挟んだあと、取りあえずの目的地となる村へ到着した。
さてこの村だが、国が主導して開かれた村の一つである。初めはこの村を含めて四つの開拓村ができたのだが、そのうちの半分、つまり二つは魔物の襲撃等により村の維持を断念せざるを得なかったのである。
そもそも、辺境の開発は危険が伴う。時には複数作った開拓村が一つ残らず全滅という事態となってもそれはそれで珍しいという事態でもない。そのことを考えれば、二つも村が残ったのだから開発が成功したと国が判断してもあながち間違いではなかった。
そして、この幸いにして生き残った村には代官がいる。国が主導して開発された地域であり、普通に国の管理下へある為だった。ゆえに、いつものように村へ入る手続きを行ったあと、村長ではなく代官の元へ向かったのだが、代官のいる家は屋敷とは言い難かった。
本来ならばちゃんとした屋敷を建てるべきなのだろうが、まだまだこれからの村ということもあってかそれだけの余裕がないらしい。その為、見た目は豪農の家といった感じであった。
「ここであっているよな」
「はい。間違いございません」
「だよな」
それから扉をノックして、出てきた人物に尋ねた理由を告げる。その後、通された部屋で代官と面会し、行商の許可を貰う。まだ村の中に商店がないということもあってか、行商自体は歓迎されていた。
そしてこの村では、予想していたがやはり宿屋はない。その為、オルとキャスの兄妹が生活していた村と同様に、空き家を借りようとしたが何とそれもないらしい。ゆえに仕方なく、商売を行うことを許可された村の広場で寝起きすることにした。
キャンピングカー仕様の箱型馬車もあるし、幌馬車でも眠ることはできるのだ。何より結界を張っておけば、不審者に近づかれることもない。一応、代官に話をして村の中で結界を張る許可を得ているので、その点も問題とならなかった。
その後、店がないので食事も自前で用意する。夕食をとったあとは、明日に備えて眠りにつくことにした。
次の日、いつものように行商を行う。すると、店が開くのを待っていましたとばかりに村人が来店してきた。彼らは生活必需品を中心に、雑貨等を購入していく。少しは利益率が高い他の商品も売れるが、やはり売れ筋は生活必需品が中心だった。
「店もないから、こんなものだろうなぁ」
「そうですね」
「とはいえ、村人にしたら生活が懸かっているんだから、しっかりと売るものは売るぞビルギッタ」
「はい」
結局、この村で三日ほど商売を行う。そして四日目に、観光がてら村の中を歩いたが、観光地と呼べるような場所は全く存在していなかった。そこで次の日には、村を出発してもう一つある村へと向かう。その途中で、ガイドビーコンを埋めておいた。そしてネルに頼み、ネルトゥースに埋めたガイドビーコンの具合を確かめさせる。すると問題なく作動しているとの報告がされたので、その場から再出発した。
やがて到着した次の村でいつもの手続きを終えると、商売を行う。前に寄った村と規模も見た目も、そして代官がいることも変わらない村であり、その為か売り上げも村人が買った商品のラインナップも、前の村とほぼ変わらなかった。
この村でも前の村と同じ日数だけ商売を行い、予定していた全ての日程を終えると村から出る。その後、村から離れて周囲に人目がないことを確認すると、研究所へ戻ったのであった。
えー、ストックが切れました。
次話以降、連日更新は難しいです。
できるだけ、間を開けずに投稿するように心掛けます。
さて、今回は幕間といっていいでしょうか。
強いて言えば、銃撃無双回です。
ご一読いただき、ありがとうございました。




