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第二話~新生~


第二話~新生~



 見知らぬ場所で目が覚めた俺たちの前に現れたのは、メイド姿の女性であった。予想外な登場に、俺にしても瑠理姉にしても、二の句が継げなくなってしったのであった。





 何はともあれ、このまま固まっていてもどうしようもない。気分を変える為に一つ咳払いをしてから気を取り直すと、その女性に対して質問をした。

 ここがどこなのかとか、何でこの場所に俺たちがいるのかとか、そもそも俺たちの体はどうなっているのかなどそれこそ矢継ぎ早に。すると女性は、実に淡々と答えてくれた。しかしその答えは、思ったよりも埒外らちがいであった。

 彼女曰く、二人の体は転生の為に用意された体であること。ここは研究所であり、シーグヴァルドという人物が持ち主あったことなど実に的確な答えではある。しかしその答えを聞いても、疑問は余計に増えるばかりであった。

 ここは研究所というが、それが何の研究なのかとか、そもそも転生を行うとはどういうことなのかとか次から次へと疑問が増えていく。この事態には、二人して頭を抱えるばかりであった。

 すると、質問に答えてくれたメイド服姿の女性から自身たちを統括している存在に尋ねてみてはという提案がされる。その言い回しに、俺も瑠理姉もいささか違和感を覚えてしまっていた。

 たとえば、上司ならば上司といえばいい。しかし女性は、わざわざ統括しているという言い回しを使っている。その点が疑問だったのだが、このままでは事態が進展しないというのも事実である。どうしたものかと考えていると、瑠理姉が取りあえずその統括しているという存在から話を聞いてみようと提案してきた。

 確かに現状ではどうしようもないので、その提案に乗ることにする。その後、質問に答えてくれたメイドさんとは別の一人に案内されてベッドがあった部屋から出たのだが、そこも様子がおかしい。それは、あまり見なれない景色だったからだ。

 しかし一方で、瑠理姉からすると、必ずしもそうではないようである。理由を尋ねてみると、見た目は兎も角として雰囲気がドイツで働いている職場に似ているとのことだった。彼女はドイツの大学を卒業したあと、そのままドイツで就職している。正確には大学在学中に引き抜かれたらしいのだが、その辺りの詳しい経緯については聞いていないのでよくは知らない。俺が知っているのは、瑠璃姉が引き抜かれた先というのが研究所であったらしいぐらいである。だからこそ瑠理姉は、似ていると感じたようだ。

 やがて俺と瑠理姉が案内された先はというと、大きな機械が設置されている部屋であった。

 すると、部屋へ入った直後に瑠理姉の口から印象というか感想のような言葉が呟かれる。彼女の口から出たのは、メインフレームでも設置していそうな場所だとの言葉だった。


「……これは、とんでもないわね。なるほどね。統括している言い方をするから変な言い回しをするなと思ったのだけれど、こういうことなら分からないでもないわ。ということは、よ。まさか彼女たちは……いやいや、そんなことは幾ら何でも……」

「あのさ、瑠璃姉。だから、ここというか、これは何だよ」

「……でも、一体誰がこんなものを。いえ、そもそも現実問題として可能なのかしら」

「おーい、話を聞いてくれよ……だめだな。完全に、自分の世界に入っている……仕方ない」


 その場で、大きく息を吸い込む。それから思いっきり大きな声で、瑠理姉の名前を呼んだ。


「雪村瑠理香!!」

「ひゃ!? な、何!」


 ようやく自分の世界から戻った瑠理姉へ、改めて目の前に鎮座しているものが何なのかを尋ねてみる。問いの意味が一瞬理解できなかったのか、瑠璃姉はきょとんとした表情を浮かべている。しかしすぐに俺の言葉を理解すると、教えてくれた。

 瑠理姉は機械工学を中心にした研究者であるが、他にも情報工学や人体工学や軍事工学などといった工学系をほぼカバーする才女でもある。いわゆる世間から天才といわれるたぐいの存在であり、そんな彼女だからこそ目の前にあるものが何であるのかを理解できたようだった。


「簡単にいえば、マザーコンピューターとかメインコンピューターとか、そういった類の物を考えてみればいいわ」

「ふーん。マザーコンピューターねぇ」


 マザーコンピューターがどんな代物しろものなのか説明しろといわれれば、俺にはできない。しかし、イメージだけならできる。アニメ―ションは好きだし、サイエンス・フィクションと呼ばれるジャンルの話も嫌いではないというか、好きだからだ。

 とは言ったものの、マザーコンピューターについて科学的な根拠に基づいた説明ができるのかといわれれば、イメージはできるといった程度のものでしかない。ひるがえって瑠理姉はどうなのかというと、俺とは実に対照的である。そもそも瑠理姉は、先にも述べた通りこの工学系の分野に凄まじいまでの強みがある。いわゆる素人しろうとでしかない俺とは、明らかに違う存在なのだ。

 ゆえに、マザーコンピューターらしき存在との質疑応答については瑠理姉へ任せることにする。本当ならば身の上に起きたことなので、積極的に関与したい。さらに言えば、他人ごととしてしまえるほど、無頓着でもない。しかし、現状に対して理解が追いつかない以上は、どうしようもなかったのだ。それゆえに、俺よりは遥かに専門的である瑠理姉に任せる判断をしたというわけである。無論、あとで説明してもらおうと考えた上であった。

 その瑠理姉だが、時おり考える素振りを見せつつもマザーコンピューターとの間で楽しそうに質疑応答を続けている。天才であることは知っていたが、この光景を見ると多少はマッドでも入っているのかと漠然ながら考えてしまった。正にその時、唐突に瑠理姉が視線を向けてくる。そして彼女は、おもむろに口を開くと問い掛けてきた。


「裕也。何か失礼なこと考えていない?」

「え、えっと……考えてないよ。理解が追いつくのはすごい、とは思っているけど」

「そう。なら、いいわ」


 多少疑わしいような視線を残しつつも、瑠理姉はマザーコンピューターとの情報交換に戻っていった。

 知識欲なのかも知れないが、よく次から次へと話題が尽きないものだなと感心しながら会話が終わるのを待つことにする。暇ではあるが、それしかできないからそうしていたというのが事実だった。

 そのかんも瑠理姉は、会話を続けている。その会話を傍から聞いて、意外と思ったことがある。それは、マザーコンピューターの発している言葉は流暢りゅうちょうだということだった。

個人的なイメージなのだが、マザーコンピューターの操る言語は固いというか抑揚が乏しいかと思っていたからである。

 まぁ、完全に偏見なのは分かっているので、異論は認めるが。

 それはそれとして瑠理姉だが、時には驚き、そして時には笑みを浮かべながら話を進めている。その変化が大きいこともあって、傍から見ている分には割と楽しい。それは、話に殆ど加わることができない退屈を少しでもまぎらわせてくれていた。

 それから、どれくらい時間がたったのだろうか。マザーコンピューターとの会話に華を咲かせていた瑠理姉だったが、その会話をめたかと思うとこちらに近づいてきた。


「話は終わったのか? 瑠璃姉」

「いいえ、まだよ。とてつもない情報量で、時間が足りないわ。得られた情報が嘘か本当かは別にして、知的好奇心を刺激されたわ」


 やっぱり瑠理姉には、いわゆるマッド・サイエンティスト的な要素が入っているのか? などと内心思いつつ、俺は彼女との会話を続けた。


「それなら、どうして話を切り上げた?」

「それは裕也。あんたをこれ以上、放っておくのも何だしね」

「ありがたい。結構、暇をしていたからな」


 それから瑠璃姉より、色々いろいろな説明をしてくれた。

 しかしながらマザーコンピューターとのやり取りで得られたことは、想像を絶するものである。だがそのお陰で、目覚めた部屋でメイドさんから聞かされた事情から生じた疑問や、そもそも目覚めた時に思った疑問についての答えが得られていった。

 だがあまりにもぶっ飛んだ話ゆえに納得したのかというとそうではないのだが、この状況を受け入れないと先に進めそうにもないのである。その為、事態に対する突っ込みはしなかった。

 まず俺たちに降り掛かった事態についてだが、つまるところ憑依した状態でこの研究所のある世界に現れたらしい。何でそんな状態だと瑠璃姉が判断できたのかというと、そう考えないと俺と瑠璃姉の体が若返っていることや顔が日本人ではなく西洋人風になっていることの説明ができないからだそうだ。

 確かに顔だけなら、整形という手はあるだろう。だが、体が若返っているという事実に対して、整形という理由だけでは説明が無理なことぐらいは分かる。となると、憑依ぐらいでしか説明ができないというのだ。

 しかしこの答えは、あくまで瑠璃姉の推論でしかない。だが、得られた情報から考えを取捨選択した結果、たとえ荒唐無稽こうとうむけいであったとしてもその答えにしか辿り着けなかったというのが瑠理姉の言葉だった。

 しかも憑依以外で現在の状況を説明しようとすると、原因は不明としか言いようがないとのことである。そして、おいおい確かめるしかないのだろうとも彼女の言葉には付け加えられてもいる当たり、瑠理姉の言葉通りなのだろうと思うしかなかった。


「えっと、さ。つまるところ、現状ではまずは受け入れる。その上で、この研究所だっけ? ここを調べるしかない! と、いうことか?」

「端的にいえば、そうなるわ」

「瑠璃姉がそういうなら、それしかないだろう。だけど、それをしていいのか? 話を聞く限りだと、そもそもの持ち主は死んでいるわけだろ。いわば、死人の家を家探しするようなものじゃないか?」

「……そのこと何だけど。どうやら裕也、あんたがこの研究所の新たな所長というか持ち主。つまり、地権者となったみたいよ」

「……え?」  


 瑠理姉の口から出た言葉を聞いて、呆気に取られたあと変な声をあげてしまった。

 目を覚ましたら他人の体で、しかもこの研究所とやらの所長となっている。しかも俺が地権者になったとかいわれたのだから、仕方がないだろう。するとその時、マザーコンピューターが会話に割り込んできた。


「問題ありません。シーグヴァルド様の残されました命令とも合致します」

「……どういうこと?」

「要するにね……」


 余計に意味が分からないという顔で瑠理姉に話し掛けると、彼女は説明をしてくれた。

 本来、研究所の主だったシーグヴァルドの残した最後の命令というのが、目覚めた者の指示に従うようにというものであったらしい。何でそのような指示を残したのかというと、つい今しがたまで瑠璃姉が会話をしていたマザーコンピューターや先程のメイドさんたちのような存在が、指示されたこと以外全くできないからとのことだった。

 いわゆるAIエーアイ、つまり人工知能を搭載させるとか以前に、AIという考え方自体が古代文明にはなかったらしい。その為、与えられた指示を履行すること以外は不可能なのだそうだ。

 瑠理姉からそんな説明を聞いたあと、本当にそれでいいのかとマザーコンピューターへ問い質す。しかし、それが指示である限り従うという答えしか返ってこなかった。その返答を聞いて思わず瑠理姉を見たが、彼女は処置なしといった感じで首を左右に振るばかりである。機械工学や情報工学などの知識を持つ瑠理姉がそのような態度である以上、知識の乏しい俺にできることはない。つまるところ、この案件についても、たとえ強引であろうが納得するしかなかったのだ。

 お手上げの状態に俺は、どこかの外国人のように肩を竦めてやれやれといった仕草をする。するとそんな仕草をしている俺をじっと見ていた瑠理姉が、唐突に口を開いた。


「それにしても……明らかに西洋系の顔で裕也って日本人の名前を言われても、違和感あるわ」

「知らんがな、そんなこと」

「ね、裕也。いっそのこと、名前変えない? 顔立ちに合うように」

「えっと、マジ!?」

「本気と書いてマジと読むぐらいには。勿論、私もだよ」


 もし、全てが本当であったと仮定した場合、確かに瑠璃姉が言うように裕也という名前で呼ばれるより違和感などないのだろう。もっとも、それは俺たちの考えであり、このフィルリーアと呼ばれている世界では分からない。だが既に世界が違い、しかも新たな生を得たというのならば名を変えるのも悪くはない。自分的にも、気持ちを切り替えられると、そう思えるだからだ。


「うーん。だけど名を変えるのはいいとして、何か候補がある?」

「それこそ、シーグヴァルドとシュネ―リアでいいと私は思うのよね」

「いいのかそれ」

「いいと思うよ? それに、一万年以上前の人物らしいし」


 確かに名前を借りたとしても、もう本人に会うことなどないだろう。何せ、一万年も前に死んでいるのだ。ならば、故人より名を借りるというのもありといえばありなのかも知れない。


「……分かった。それでいこう」

「うん。なら裕也は、シーグヴァルドで通称シーグね。そして私が、シュネ―リアで通称シュネということで」

「了解した」


 いささか苦笑しつつ、俺は瑠璃姉……いやシュネの言葉を受け入れた。

 因みにマザーコンピューターだが、人名のような名称がない。だが、それは味気ないとしてシュネがネルトゥースという名付けをする。その由来は、彼女が留学して卒業後も住んでいたドイツに伝わるゲルマン神話に登場する豊穣を司る女神の名からだそうだ。

 正式には、ネルトゥスというらしい。だがその名称がいいのか悪いのかなど分からないので、俺からは駄目とも言えない。ゆえにマザーコンピューターの名称は、ネルトゥースにすんなりと決まったのであった。


第二話更新しました。

そして漸く、改名です。

これで、一話の人物名と一致しました。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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