第二十八話~処遇~
第二十八話~処遇~
悪魔の拠点で保護したセレンの願いで、地下の牢獄で見つけた遺体を確認する。そこで嘗ての仲間の遺体を確認した彼女は、静かに涙を流す。その後、彼女と共に再び病室へと戻ってきたのだった。
さて、今後のセレンの身の振り方だが、彼女自身の怪我は既に治療を終えている。だが、それだけで完治したとは言えないので、その間はこの研究所にいても構わない。何より、シュネやイルタが放り出したりはしないだろう。だが問題は、治療後であった。
研究所は、古代文明期そのままの技術を現代に伝えている施設である。ましてや彼女は、冒険者ギルドに所属する冒険者となる。その意味でも、しっかりと彼女のことはしっかりと対応を決めておく必要があった。
そもそも冒険者や彼らが所属する冒険者ギルドとは、古代文明が滅んだあとで各地にでき上った都市国家を出発点としている。古代文明が滅んだ影響で、このフィルリーアでは著しく文明が後退してしまう。その理由は、古代文明の崩壊とともに起きた魔力減退にあった。
このフィルリーアで世界的に発生した魔力減退という現象によって、殆どの魔道具が使えなくなってしまったのだ。その為、古代文明が栄えた時代よりもさらに昔へ戻らざるを得なかったのだ。
そんな時代をへて、漸く各地に幾つもの都市国家ができ上ったのである。すると各都市国家は、領地の拡大を目指し始めた。彼ら都市国家の周りには、手付かずの土地が広がっているのだから分からなくもない。だが手付かずの土地、そこは危険でもあった。何せ、魔物が跳梁跋扈する土地でもあったからだ。
そのような危険な地域へ、下調べもせずに進出するなど、たとえ軍隊であっても危険極まりない。とはいえ、土地は欲しい。その矛盾を解消する為の先遣隊を統括する組織として創設されたのが、冒険者ギルドであった。つまり冒険者とは、文字通り未知の土地の冒険をする者たちだったのである。
その後、冒険者が探索した土地を各都市国家が摂取して、ある程度国の形が定まると冒険者の役目もまた変わっていく。まだどの国にも属していない土地へ赴いたりするのは変わらなかったのだが、その未踏破の土地も減っていくに従って町の近くで魔物などを狩ったりなどというような仕事も冒険者ギルドに持ち込まれるようになったのだ。
他にも古代文明期の建物、いってしまえば遺跡にも潜ってみるなどというような仕事も持ち込まれるようになる。こうなると、完全に業務形態が変貌してしまう。名称こそ引き続いて冒険者や冒険者ギルドとなっていたが、その内容は依頼で仕事を行う何でも屋といっていい存在へと変貌していったのだ。
それに伴って、各国の付属機関であった冒険者ギルドは、国から半ば独立して半官半民の法人のような存在となる。各国の冒険者ギルドが結託して、一つの組織となっていたからだ。
なぜに半官半民の組織となったのかというと、曲がりなりにも戦力を抱える集団であったからだ。彼ら冒険者は、軍隊のような統一された動きというのは不向きだが、個人のレベルでいえば決して侮れない者もそれなりの数で存在する。そんな時と状況によっては、軍隊をも越えられるような戦力を擁した組織を野放しにするほど、各国の首脳部もお気楽な存在ではなかった。
かといって、統合された冒険者ギルドを押さえつけられるほどの協力関係を国同士では作るのも難しい。笑顔で握手をしながら、もう一方の手には隠しながら武器を携えている。それが、国という物だからである。
国同士に真の友情など、存在しないのだ。
そこで各国は、冒険者ギルドと協定を結ぶことにした。その協定とは、冒険者ギルドの存在と活動は認めつつ、それぞれの国や都市で危機が発生した場合に強制的な依頼を行えるというものである。要は、独立を認めつつも、実情は緊急時における国の出先機関に近い存在とすることで妥協を図ったのだ。
この依頼への拒否権は、事実上存在しない。それゆえ、冒険者ギルドに所属している冒険者で、しかも依頼が発生した時に町にいた場合は必ず受けなければならないとされている。この強制依頼を断ると、問答無用で冒険者の資格を剥奪されるのだ。
但し、この強制依頼は各国間にて発生した戦争には適用されないという付帯条件も付く。あくまで純粋に、国や都市で発生した自然由来の危機にだけ適応される強制依頼であった。つまり、古代文明期の遺跡にも潜ることがある冒険者から見た場合、現役で稼働中ともいえる研究所という遺跡……いや稼働しているのだから遺跡ではないか。
兎に角、冒険者にとって古代文明期に造られていながら稼働している施設など、お宝以外の何ものでもない。そんな冒険者である彼女を、治療後にこの研究所から手放しで放り出すなどできるものではなかった。
こう考えると、助けなかった方がよかったかも知れない。だけど、あそこで見捨てるというのもどうなのだろう。
「たとえ偽善であっても、助けられるならば助けるべきだと私は思うわ」
「それは否定しない。だけど……」
シュネに答えたあと、何となしに病室を見回す。フィルリーアの常識から逸脱している研究所の異常性を示すような物は置いてはいない。確かに置いてはいないのだが、既に研究所内を移動しているので今さらだろう。だからといって、放っておいていいというわけでもない。
もっとも、ここまでくると、今さらなのかも知れないが。
「私がセレンに話してみる。助けると言い出したのは私だから」
「……分かった。彼女は任せる」
「ええ」
「それで、話をしてもいいかな?」
話が終わったのを察したのか、ちょうどいいタイミングでセレンが話し掛けてきた。
呼ばれたこともあって何気なく視線を向けたのだが、彼女には違和感がある。咄嗟には理由が分からなかったが、確かに変なのだ。
思わずまじまじと見てしまったが、すると頭に軽い衝撃がくる。何だと思ってそちらを見ると、シュネの握り拳が見えた。どうやら軽くだが、殴られたらしい。そこで、頭をさすりながら少し不満そうにシュネを見たのだが、彼女の方が不機嫌そうだった。
「それ、セクハラ。女性を、まじまじと見るものじゃないわよ!」
「あ、いやそうじゃない。そうじゃないんだよ」
「じゃあ、何!? くだらない理由だったら、それこそただじゃ置かないわよ」
「その、セレンに違和感があるんだよ。それが何かと思って」
「え? あたしに違和感? 何か変かな」
俺とシュネの会話を聞いて、セレンが自分の体に視線を巡らした。するとシュネも気が付いたのか、それとも別の理由からかセレンをじっと見ている。だが俺、はついさっきシュネから睨まれたので、取りあえずは視線をそらしておくことにした。
その時、シュネが声をあげる。どうしたのかと思いそちらを見ると、彼女はセレンの背中を指差していた。
「羽根がない!」
「本当だ。これか、違和感の正体は」
そう。
地下牢で助けた時には、確かに背中にあった小さい蝙蝠のような羽根がなくなっているのだ。
発見した時から、小さい蝙蝠のような羽が出ていたので、彼女が今着ている服にはその羽を通す為に穴をあけてある。だが、今は穴だけがある状態で、以前はあった羽が見当たらなかった。
確かに、仮の遺体安置所へ行くまではあった筈である。だがその時、なぜか一瞬だけ羽が見えたような気がする。しかし次には見えなかったので気のせいかと思ったのだが、当のセセレンは小さく笑みを浮かべていたのだ。
「これ? ある程度だけど回復できたから、隠したの」
「隠したって……ああっ! そういえば、ビルギッタが地下牢でいっていたな。魔人類の一部には、人にはない部位を持つ者がいるって。そして、普段は隠していると」
「あたしのようなサキュバスもそう。シーグが言ったように普段は隠しているのだけれど、体調が凄く不調だったりすると隠せなくなったりするのよ」
なるほど。
彼女は体中に怪我を負い、しかも気絶までしたのだ。体調不良であって当然だし、小さな羽も隠せない状況であったのも不思議はなかった。
「でも……負担とならないの?」
「普通の状態なら、全然気にならないわよ」
「どうやら、光学迷彩と同じような効果が発生していると思われます」
その時、イルタが発生している原理についての答えを端的に説明してくれた。
それならば、さっき一瞬だけ見えた理由も分かる。光学迷彩は光を屈折させて、隠したい物を見せないようにしているとシュネが教えてくれたことがある。他にも、映像を投影させて周りに溶け込ませたりする、いわばステルス機のような方法もあるらしい。さらにいえば、空間そのものを歪曲させることで対象を見えなくさせるというのもある意味で光学迷彩なのだそうだ。
その中で一番イメージし易いのが、光を屈折させるやり方となる。確かに、説明を聞いた時、光を屈折させる光学迷彩以外はイメージが全くできなかったことを記憶している。そのあとで、CG付きの映像を見せながら説明されてやっと理解できたぐらいなのだ。
「セレン。ちょっと、触ってもいいかしら?」
「え? いいけど、強くは握らないでね」
「そんなことしないわよ……わ、本当にある」
どうやらシュネは、本当に光学迷彩と同じ効果が発生しているのかを確認してみたかったようである。俺も興味がないと言えば嘘になるが、言い出したりしたらまたセクハラだからとか色々と言われそうな気がするので、ここは黙っておくことにしよう。
沈黙は金なのだ。
やがて、シュネも確認が終わったらしく、それまで見た目には何もない場所を握っていた手を引っ込めている。その後、イルタからの提案があり、今日のところはこれまでとすることとした。
まだセレンが、病み上がりであることに違いはない。無理をさせないという意味でも、その提案には素直にうなずくと、連れ立って部屋から出て行く。こうしてセレンの病室から出たわけだが、その途中で俺はシュネの腕を掴んでいだ。
すると彼女は、不思議そうな表情をしつつ、掴んでいる俺の手を見ている。そんなシュネに対して視線を返すと、後回しにされた案件について今度こそ問い質していた。
「シュネ。いい加減、教えてもらおうか。悪魔がいた拠点にあった、装置について」
「……それがあったわね。そうね、私の部屋にきて」
何もなければ、実に艶っぽいシュネからのお誘いかも知れない。だが、そんな雰囲気になれるとは、到底思えない。話が終わればまた違うかも知れないが、少なくとも今はそんな気分とはなれないだろうという気持ちで溢れていたのであった。
連日更新中です。
セレンの扱いについての考察? 回です。
次回、あの装置の正体が……?
ご一読いただき、ありがとうございました。




