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第二十二話~偵察~


第二十二話~偵察~



 盗賊か野党といったたぐいからの襲撃かと思いきや、何と悪魔の襲撃だった。兎にも角にも、撃退に成功したわけだが、事態はより面倒なことになったといえた。





 こうも短期間に悪魔の起こす事態に関わることになるとは、運が悪いのだろうか。これは、お祓いでもして貰った方がいいのかも知れない。もっとも、フィルリーアでお祓いをしようとすれば、まず候補に挙がるのは勇者を認定したアシャン神皇国の国教となるアシャン教にお布施を払ってお願いするということになるのだが……何か嫌だな。

 とはいえ、前回と今回では少し違いがある。前回は、結果として俺たちが動いたことで関わったという形なのでまだ仕方ないと諦めることはできる。だが、今回の場合は完全に偶然……偶然だよな。


「シュネ。ほぼ連続で悪魔に関わったけど、これは偶然だよな。こっちの情報が漏れた、とかじゃないよな」

「それはないわよ。私たちの情報を管理しているのは、ネルトゥースだもの。地球のスーパーコンピュータを軽く凌駕している存在が管理しているのよ。何より、ネルトゥースを越える存在なんて、過去も含めてこのフィルリーアでは有り得ないわよ」

「だよな」

「ええ。何より今は、砦跡を調べる方が優先よ」


 そういえば、そうだった。

 悪魔がいたと思われる、昔の砦跡を調べるのも大事だ。もしかしたら、悪魔の目的などが分かるかも知れない。とはいえ、別にこのフィルリーアそのものに思い入れはないので分からなくてもいいのだが。

 なお今回の場合だが、情報を悪魔側に漏らしたくはないという思いがあるので関与するのだ。あり体にいってしまえば、あるかも知れない俺たちが関与したという証拠を完全に滅殺するという目的も孕んでいる。

 因みにこのフィルリーアの住人であるオルとキャスだが、二人がフィルリーアに対してどう思っているかは知らない。もしかしたら何か思い入れがある可能性もあるが、少なくとも今までで聞いたことはなかった。


「取りあえず、その砦跡に行く。全くの見当違いだった場合は、その時にでも考えよう」

「そうね。情報が得られるか得られないかは、分からないものね」


 それはそれとして、取りあえずは場所を移動しておく。何らかの手段で、悪魔が連絡を取っていた可能性もあるからだ。そして場所を移動してからは、偵察となるだろう。全員でその場所に向かって、実はただの廃墟でしたでは間抜け以外の何ものでもないのだから。


「行ってくる」

「待って! ビルギッタも連れて行って」

「俺だけで大丈夫だと思うが……」

「万が一よ。何があるか、分からないじゃない。それと、この辺りの地図データは送っておいたから」

「分ったよ」

 

 シュネのいう地図とはこの辺り、つまり砦跡周辺の地図である。流石にそれがないと、目指す先が分からない。シュネから周辺地図のデータを腕輪に送って貰ったあとで近付いたのは、馬車を引かせている馬だった。

 もっとも、馬に乗って移動する為に近付いたわけではない。ならばどうして馬に近づいたのかというと、この馬が正確にいうと馬ではないからだ。見た目は馬と変わらないのだが、実のところ馬型をしているだけの存在なのである。それでは何なのかというと、本来の形態は二輪車、つまりバイクとなる。より正しく言えば、馬型に変形できる機能を持たせたバイクなのだ。

 今は馬型となっているが、その首筋にあるたてがみに紛れさせる形としているので傍目からは分からないが、そこにスイッチがある。そのスイッチを押すことで、見た目を馬の形態とするかバイクの形態とするかの選択ができるのだ。

 実はこの切り替え、音声でも実行可能なのだが、緊急時でもない限り普通にスイッチで形態を切り替えることにしている。

 理由は……まぁ、察してくれ。

 さて何ゆえにこんなものを作ったのかというと、俺の趣味と実益を兼ねているとしか言いようがないだろう。元々、俺が日本でバイクに乗っていたのがそもそもの理由だ。しかしこのファンタジー丸出しのフィルリーアで、いかにもバイクという車体を走らせるなど目立って仕方がない。そもそもからして、バイクなどがないのだから目立つのも当然だった。

 これが国の領地の外ならば、また話は別なのだが。

 とはいえ、過去に全くなかったわけではない。少なくとも古代文明期には、似たような存在があった。しかし古代文明の崩壊から流れた一万年という年月と時間が、大半を朽ち果てさせているらしい。もしかしたら残っている可能性がないとはいわないが、技術レベルが違いすぎるので解明などできない。俺たちが地球と古代文明期の知識と技術を持っているから、普通に作ったり修理したりすることができるだけなのだ。

 それはそれとして、俺は趣味としてバイクには乗りたい。だが、目立つのは避けたい。この相反するジレンマを解決する手段はないかとシュネの相談したところ、彼女が半ば投げやりに変形するバイクでも作ろうかと提案してきたのだ。

 

「そ、そんなこと可能なのか!?」

「技術的には可能よ。そもそも作ることが出来ないなら、こんな提案しないわよ。それで、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「変形できる乗り物なんて……浪漫だろ!」

「やっぱり、そっちなのね。仕方ないから、作ってあげるわ」


 こうして、俺の要望を受けてシュネが設計したのが、馬型にも変形できるバイクというわけである。そして幌馬車を引いている二頭の馬は、どちらも馬に変形できるバイクであった。

 但し、タイプは違う。

 一頭というか一台は、タイヤがあるタイプで普通のバイクとなる。そしてもう一台は、タイヤがないタイプのバイクである。要はSFもので、タイヤもなく走行しているアレだのことだ。

 なお、タイヤのないタイプは、原理としてはエアーバイクに近い。違うのは、空気ではなく魔力を吹き出すことで移動している点である。その原理から、マジックエアバイクと名付けていた。

 そしてタイヤのある普通のバイクもマジックエアバイクも、陸上を走るのにどちらでも問題はない。マジックエアバイク方が空中に浮かび上がる分だけ利便性は高いのだが、俺は好みの問題でタイヤがあるバイクを使っているのだ。

 そして今回も、タイヤがある方を選ぶ。馬型から本来の姿であるバイクへ変形させたあとで跨ると、アクセルを開けた。このバイクだが、実は魔力を全く使用していない。フィルリーアに嘗て存在した古代文明の技術こそ用いているが、純粋に機械のパーツだけで作られたバイクなのだ。

 そしてバイクの燃料だが、電気となる。実はバイオ燃料を電気変換して、動力源としているのだ。つまり、餌を与えているのもこの為である。

 無論、そこにはカモフラージュでもあるのだが。

 因みにマジックエアバイクの方だが、実は餌に意味はない。完全に、カモフラージュの為であった。


「シーグ、それとビルギッタ。気を付けてね」

「分かっている」

「はい」


 シュネにそう答えてから、今一度アクセルを開ける。もっとも、回転数を上げてもガソリンエンジンのように音は出ない。単に、気分の問題だった。

 そして傍らでは、ビルギッタも馬型からマジックエアバイクへと変形させている。彼女が跨ったことを確認すると、タイヤをきしませながら結界から飛び出て一気にスピードを上げる。道中は、半透明の地図を空間投影しながら、ビルギッタと共に昔の砦跡地へ向かっていった。

 あー、気持ちいい。

 さいこー!



 ビルギッタのマジックエアバイクは、俺の跨るバイクと違ってある程度浮くことができる。その為、彼女は空中を走破している。これは、周辺の警戒も兼ねた行動でもあった。

 なお、最高スピードに関しては実は俺の操るバイクの方が上となるように設計されている。この辺りは、好みによるものだった。


「どうだ。何か見えるか」

≪そうですね……北に三キロほどでしょうか≫


 やや上空を走行しているビルギッタへ通信して、周囲の状況を報告させる。その知らせから空間投影している地図と見比べてみると、確かにその辺りにマークが印されている。どうやら、そこで間違いはないようだった。


「では、一.五キロ手前まで近づく。そこで、状況の確認をするぞ」

≪分かりました。シーグヴァルド様≫


 距離に関しては、バイクの機能でも把握できるので問題とはならない。幸い、悪魔や魔物の襲撃というようなイベントが起きることもなく取りあえずの目的と決めた地点へ到着したので、バイクから降りた。

 その後、バイクから馬型にしておく。こうしておけば、バイクの状態など相手に分からなくなる。傍から見る分には、馬にしか見えないからだ。金属探知ができるのであれば、それは別だろう。だが、このフィルリーアにそんな道具はないのだ。

 俺たちの研究所以外では、だが。

 何であれ、バイクから降りたあとは地面に伏せながらウエストポーチから双眼鏡を取り出した。この双眼鏡には、手振れ補正機能が付いている。この機能がないと、距離によっては映像にブレが出てしまうのでハッキリと対象が捕らえられなくなる。こうした画像のブレを防ぐ為に、カメラにあるような手振れ補正機能を付けてあるのだ。

 高性能といえば高性能な双眼鏡で元は砦があったという場所を見ると、これといって目立つものはない。正確にいえば、何もないのではなくかつては壁だったのだろうというものが見えるだけでしかない。しかも、屋根があるといった感じもない。完全に、吹き晒しの状態だった。

 本当に時間がたって朽ちてしまいましたという感じであり、このままでは残っている壁も崩れるまでそう時間が掛からないのではと思える。これは外れかと思いながらシュネへ連絡しようとしたその時、ビルギッタから双眼鏡で砦跡を見て欲しいとの声が掛かる。眉を寄せながら双眼鏡で覗くと、さっきまではなかった筈の人影があった。


「あれは、どっから現れた?」

「地下からです」

「地下だと!? わざわざ、掘ったのか?」

「もしくは、元から地下があってそれを利用しているかです」


 砦があったのだから、その構造によっては地下があってもおかしくはないかも知れない。仮に地下があってそれを利用しているとなれば、今までエリド王国側に判明していなかったとしても不思議ではないとも言える。普通、建物がなければ何もないと思ってしまうからだ。

 実際、俺もそう思っていた。これに関しては、砦跡が変な勢力に利用されていることをエリド王国が突き止めていなかったとしても文句はいえなかった。


「そうなると、あれは見張りなのか?」

「どうでしょうか。見張りだともいえますし、違うともいえます」

「ふむ……ああ、そうか。地下だから、気分転換に出できたとも考えられるか。悪魔がそう思うかは別にして」

「はい」

「とはいえ、どうしたものか。いっそのことぶっ潰す……というわけにもいかないよな」

「できれば、調べられた方がよろしいかと」


 こちらとしては、どうしても情報不足が拭えない。そうなると折角分かった拠点であるし、調べた方がいいと考えるのも当然だった。しかし、その手段が問題となる。このままでは、強硬手段に出るしかない。なまじ建物がないだけに、取れる手段が限定されてしまうのだ。


「もう少し、様子を見るか」

「見張りでないのならば、また地下へ戻る可能性がありますからいいと思います」


 もう少し変化がるかも知れないと考え、しばらく様子を見ることにする。同時に、シュネへ連絡を入れて経緯を伝えることにした。すると意外なことに、彼女はこちらと合流したい考えを持っている。わざわざ馬車に乗って来るのかと思ったが、彼女は転送を駆使しての合流を考えているようだった。


≪そういう状況ならね。それに、一旦研究所へ戻れば、オルとキャスの安全も確保できるもの≫

「そっか……オルとキャスのこともあったか」

≪というわけで、暫くはそこから動かないでね。転送する際の座標となるから。それと、そちらに転送する前に、連絡を入れるわ≫

「了解した」


 そこでシュネとの通信を切ると、悪魔の拠点かも知れない砦跡地を見る。そこでは相も変わらず、悪魔と思われる人影だけが辺りを所在なさげにぶらぶらしているだけであった。


連日更新中です。


変形バイク、登場です。

変形……いい響きだ。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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