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第二百二十六話~撤収 一~


第二百二十六話~撤収 一~



 久しぶりにシュネとの会話をした後、これからどうしたいかを俺の懸念付きでリューリとジョフィに伝える。すると、俺の懸念は彼らにも通じるところがあった様で、懸念の払拭をお願いされたのであった。





 大魔王の遺体を運びつつ、目立たない様に撤退する。言葉にすればそれだけだが、いざ実行するとなると難しいのは言うまでもない。俺とリューリとアーレだけならば、侵入ができた以上、逆もまた可能だと言えないこともないだろう。しかしこれから行う撤収は、大魔王の遺体という荷物が新たに追加されている。外から見られない様にしているとはいえ、人一人。しかも、大の大人と同じ位の物体を運ぶのだ。しかも運んでいるのは男女二人、そしてグリフォンである。幾ら気配察知を使ってできうる限り遭遇の確率を下げると言っても、どうしたって限界はある。その上、こちらの意図とは無関係に何らかの偶然で見つかってしまうかもしれない。そうなってしまえば、隠密行動などまず無理だ。それこそ、強行突破するしかないだろう。しかし、その様な状況となれば、大魔王の遺体など本当の意味でお荷物となるので放棄するしかないのは言うまでもないことだった。


「さて、何かいい方法でもないものかね」


 思案しつつ、思わず俺はつぶやいていた。もっとも意識していたわけではないので、ほとんど無意識だったと言っていい。すると、俺が無意識に漏したつぶやきが耳に入ったのだろう。リューリが若干、不思議そうな表情を浮かべながら尋ねてきた。


「何の方法なの?」

「え?」

「いえ。今、つぶやいたでしょ。何かいい方法がないかって」

「……俺、口に出していた?」

「もう、しっかりバッチリと」


 先に述べた様にほぼ意識していなかったので、俺としても意外でしかない。しかし、聞いたリューリがそう言っているのだから間違いなく呟いたのだろう。そして、どうせ聞かれてしまったのなら隠す必要などない。話してみて、知恵を貰うのもいいだろう。「三人寄らば、文殊の知恵」なんていう言葉をあることだしな。


「実はな……」


 そう前置きしてから、俺はリューリへ何を悩んでいたのかを話し始める。すると、リューリも悩み始めたが、そこから進む様子はない。つまり俺と同様に悩んでいるだけ、という状況だった。ただ、厳密に言うと俺は解決案がないというわけでもない。実は一つだけだが、方法を思いついてはいるのだ。ただ、できることなら実行したくないので、悩んでいるのである。つまり俺は、他に手立てはないかという悩みと、思いついた解決案を実行するかどうか。その、二つの点で悩んでいたのだ。とは言うものの、いつまでも悩んでいたところで始まらない。さらに言えば、時間が経てば経つほど、俺たちが見つかってしまう可能性が高くなっていく。そうなってしまえば元も子もないので、思いついてしまった以上は実行した方がいいのは間違いなかった。

 ところで、俺の思いついた解決策なのだが、それはマジックバックパックに入れてしまうというものだ。死んでしまえば生命ではないので、マジックバックパックに入れることができる様になる。そして、入れてしまえばまず見つかることはない。目立たない様に運ぶという意味においては、これ以上の手をすぐに思いつけない。少なくとも俺には、今すぐには思いつけなかった。それでありながらなぜ躊躇しているのかというと、単純に死体を入れたくないのである。専用の死体入れ用の袋に入れて運ぶ、というわけじゃない。マジックバックパックには色々いろいろなものが入っているし、何よりこれからも使っていくものだ。その中に一時的とはいえ、死体を入れるというのはできるなら避けたかったのだ。とは言うものの、前述した様に時間を掛ければ掛けるほど、大魔王の傘下に見つかる可能性が高くなるわけで。だからこその悩みだったというわけなのだ。


「……仕方ない、ここは、断腸だんちょうの思いで妥協するか……」


 最悪の場合、とってももったいないがシュネに事情を話した上で使い捨てにすればいい。もしくは、以降はそういった死体などのいわゆる忌みものを入れる専用とすればいいのだ。但し、何度も利用したいとは思わないが。兎にも角にも、そう割り切ってしまえばいい。本当に割り切れるのかと言われると、いささか返答に困るが、ここは割り切ったと言うことにする。うん。そうするのだ。

 仕方ない仕方ないと呟きながら、俺がマジックバックを下ろす。そして口を広げた後で大きめの布にくるんでいる大魔王の下を持ち上げたその時、俺の方をぽんと叩く何かがあった。若干のぷにぷに感があるその感触には覚えがあり、視線を向けると果たしてそれは予想通りの代物だった。


「何だ、アーレ」


 問いかけてみると、アーレは仕草で要件を伝えてくる。今だ明確な意思をこちらに伝えることはできないが、その仕草からアーレは間違いなく俺たちの言葉を理解していると言い切れる。しかも頭は、かなりいいのも間違いない。とすると、俺の方に手というか前足を置いたことにもちゃんとした意味がある行動の筈だ。それゆえに、俺は真剣にアーレの仕草を見てその意図を探る。それから間もなく、アーレの仕草の意図が見えてきた。どうやら彼は、大魔王の死体を自分背に乗せろと言いたいらしい。だが、アーレの背中に死体を乗せることに何の意味があるのだろう。そう思い、俺は訝しげに眉を寄せる。しかし次の瞬間、俺は感心してしまった。何とアーレは、彼に持たせている光学迷彩を展開したのだ。当然ながら、アーレの姿は見えなくなる。流石にシュネ謹製の光学迷彩とはいえ気配までは消せないのでけはいでの感知はできるが、視覚的には全く分からない。そしてこの状態であれば、他人から見つけられることはほぼ無くなるだろう。しかもアーレだが、今ならば大人一人ぐらいなら余裕で背に乗せた状態で行動ができる。それは、飛行していても同じである。結界を超えて飛行することはできないだろうが、結界内を飛んで移動することは可能なのだ。そして人というものは案外、上空を気にしないものである。それは常識的に人間が、地上で行動する生物だからだ。ただ魔族がこの常識に該当するかは分からない。しかし、魔族であっても全員が飛べるわけでは無いとされている。羽がある魔族は別にして、魔族であっても高位の魔術を扱うことができる存在でなければ、飛行することは難しいのだそうだ。確かに魔族は、人に比べれば簡単に魔術を行使できると言われている。だが、飛行などいった高度な移動系の魔術となると、使い手はかなり減る様だ。いうことはいかに魔族とはいえど、人に比べればまだ気になるかもしれないが、それでも上空や空中に対して警戒する確率はかなり下がると言うことになる。しかも光学迷彩を展開した状態であるならば、対象を見つけるのはかなり難しくなるだろう。


「アーレが背に乗せて運んでくれる。で、間違いないか?」


 確認の意味を含めて問いかけると、アーレはうなずく様に二度三度と頭を上下に動かした。これは間違いないと確信した俺は、幾分かの申し訳なさを気持ちに抱えつつ大魔王の遺体をしっかりと固定する。本来ならばもう一人ぐらいサポートの意味を含めて乗った方がいいかのかもしれないが、いかにアーレと言えど成長しきっていない今の状況では難しいらしいのだ。無理をすればできないこともないらしいが、今は無理をするところではない。動かない様に固定さえしていれば、それで十分の筈だ。


「……これでいい。アーレ、光学迷彩を展開してみろ」


 俺がアーレに荷物……ゴホン。もとい、遺体をしっかり固定した後で、声を掛ける。その直後、彼は光学迷彩を展開する。そして俺とアリューリの目の前から、背に大魔王の遺体を乗せているアーレの姿は掻き消えたのであった。

ご一読いただき、ありがとうございました。



別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

こちらもよろしくお願いします。

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