第二百十八話~急襲 二~
第二百十八話~急襲 二~
気配から実力のあると判断した四人の魔族に対して、奇襲を仕掛けてそのうちの二人を倒すことに成功する。その勢いで残りの魔族を倒すつもりだったが、そう簡単にはいかなかったのであった。
生き残っている二人の魔族のうち、男の魔族は魔術が得意だと判断していいだろう。その男の魔族の対応についてはアーレへ任せて、俺は女の魔族と対峙した。その女魔族だが、近接戦闘が得意な戦士系だと思う。事実、彼女は鎧こそ身に付けていないが、手に剣を持っているのだ。それだけで戦士系だと判断するのは早計かもしれないが、しかし俺たちが仕掛けた先ほどの奇襲における攻防でも、女魔族は武器を振るだけで一切の魔術を使っていない。その点からも、戦士系だと判断して間違いはなかった。
俺は対峙する相手に対して一瞥して牽制しつつ、少しだけ意識をアーレと対峙する男魔族へ向ける。多分大丈夫だと思うが、もしかしたらアーレが負けるほどの技量を持っているかもしれない。その時は、すぐに救援に入る為の措置だった。とはいえアーレと男の魔族は、現状では睨み合っているだけでしかない。まだまだアーレには余裕はありそうだと思いつつ、改めて視線を女の魔族へ向けた。その女魔族だが、手にした武器を構えているだけで動く気配はない。正確には色々と隙を窺う様に探っているようだが、はてさてどうした物か。
「ここは、あえて誘ってみるか」
俺は口の中で小さく呟いたあと、攻撃に移った。とは言え、目的は誘いである。そこで俺は、あえてやや大振りとなる様にツインブレードを振るう。いきなり仕掛けたことに僅かの間だけでも驚いたそぶりを見せた女の魔族だったが、曲がりなりにも大魔王の居城(推定)に配置されている魔族だ。すぐに気を持ち直すと、俺から少し距離を取っている。しかもその間合いは、ぎりぎりでツインブレードの刃が届かない距離であった。だが俺は、あえて気付かないふりをしてそのままツインブレードを振るう。当然だが、僅かに届かない。ゆえに目測を誤った様な素振りで、少し体勢を崩している様に見せた。勿論、本当の意味で体勢は崩していない。そういう風にも見えるかの様な体の動きを、上手く引っ掛かってくれよと思いながらしただけに過ぎなかった。
「好機!」
どうやら、上手くこちらの思惑に乗ってくれたらしい。体勢を崩している様に見える俺に対して女魔族は、手にしている剣を横薙ぎに振り払ってきた。その直後、俺は片方、床へ近い方に発生しているマジックブレードを消す。そのマジックブレードを発生させていた側を床に突き立てると、一瞬だけバーニアを稼働する。その為、女魔族が放った横薙ぎの一撃を飛び越える形で避けることが出来た。
しかしてその避け方だが、完全に女魔族の虚を突いたらしい。その証拠というわけではないのだろうが、彼女の動きは止まっている。しかも浮かべている表情には、あからさまに困惑の色が浮かんでいた。するとその直後、俺は床に突き立てた杖を掴んだまま、またしてもスラスターを稼働させる。突き立てた杖を掴んでいる以上、俺は杖を中心とした円運動が余儀なくされるがそれが狙いであった。
「吹き飛べ!!」
スラスターの推進力によって生じた動きによって、回し蹴り女の魔族を襲う。それでなくても俺の動きに女魔族は、困惑の色を浮かべていたのだ。完全に急襲と言って俺の回し蹴りに対応できる筈もなく、女魔族は真面に食らっている。そのまま彼女は、否応なく壁へと吹き飛ぶ。その勢いのまま、壁に叩きつけられ突き刺さっていた。
「おしっ」
目論見通りの結果に、俺はガッツポーズを取る。それから間もなく女魔族に近付いて、生死の確認をする。どうやらまだ意識はある様で、微かにだが呻き声が聞こえた。その事実に俺は、内心で少し驚く。俺が身に付けているデュエルテクター程の性能を持っていなかったとしても鎧を身に付けていたというのならばまだ分かるが、女魔族は鎧などを全く身に付けていない状態で頭から壁に当たった上に突き刺さったのだ。それであるにも関わらず、彼女はまだ意識を保っている。その頑丈さゆえの驚きだったのだ。
「頑丈だな。こいつが特別なのか、それとも魔族全体が頑丈な体を持っているのか……」
興味が湧かないといえば、全くの嘘となる。しかし興味を満たす為に、わざわざ戦いの決着を先延ばしするほど酔狂でもない。俺は女魔族の体を掴んで突き刺さった壁から引き抜くと、籠手から爪を出す。その爪を使って首を狩ることで、女魔族に止めを刺した。それから脈を取って絶命していることを確認すると、俺は視線をアーレへ向けた。すると正にその時、男の魔族はアーレによって止めを刺されたところである。しかしてその様だが、勢いこそ全然違うが奇しくも俺が女魔族の止めを刺した時と同じと言っていい。即ち、爪による首への一撃であった。
兎にも角にも、それなりに実力を持っていたと判断した四人の魔族を討ったわけだが、その直後、やや遠くから何かが大きく壊れた様な音が聞こえてきた。しかも聞こえた方角というのが、どうやらリューリが向かった大魔王がいると思える方向となる。何が起きたかは分からないが確認する必要があると思い向かおうとしたのだが、そうすんなりと向かわせてくれないらしい。それと言うのも、それなりの数がこちらへ向かってくることを感じたからだ。一人、二人ならばまだ有り得るかも知れないが、それなりの数がいれば間違える筈もない。それでも視線で俺はアーレに確認すると、アーレは頷く。やはり間違いないと確認した俺は、面倒だなと思ってしまった。
「とは言え、後方からくる兵力を放って前に進むなんて、できないよな」
「グルㇽ」
話し掛けるかのように漏らした俺の言葉に、アーレが反応する。そんな彼の言葉を聞きつつ、俺はマジックバックパックから武器を取り出す。その武器だが、ガトリングガンのGAU-19/B(改)だ。こいつで、纏めて屠ってしまおう。短時間で多数を排除するには、もってこいだからだ。
俺は念の為に、アーレを俺の数歩後方へと下がらせる。それからガトリングガンを構えて待つこと少し、入口に複数の魔族が現れたその直後、入口を含め周辺目掛けてガトリングガンをぶっ放した。その一斉射で、入口付近に現れた魔族数人だけでなく、入口近くの壁越しにいるだろう魔族に対してもダメージを与えていく。そのままガトリングガンの銃口を、壁越しとはいえ魔族の気配がある方へと移動させていく。ついには最後方に居た魔族の気配すらも餌食とすると、そこで漸く引き金を緩める。数秒、カラカラという銃口が回転する音が聞こえたあと、俺はGAU-19/B(改)を肩に担ぎながら部屋の外の様子を確認しに行く。すると部屋の入り口は勿論だが、周囲の壁もボロボロで壁の意味を満たしていなかった。
「……全滅だな」
舞い上がっていた埃の様なものが晴れると、そこにはガトリングガンから放たれた弾丸の標的となった存在のなれの果てが多数転がっている。どう見ても生きているとは思えないし、実際に命の気配は感じない。完全に絶命させたと判断した俺は、ガトリングガンの銃口を別方向の壁へ向ける。そしてすぐに引き金を引き、銃弾を放つ。一頻り弾丸を放ったあと間もなく壁は消えており、その代わりというわけではないが、視界には中庭が広がっていた。
「行くぞ」
俺がGAU-19/B(改)をマジックバックパックに仕舞いつつ声を掛けると、アーレは一つ頷く。その仕草を確認したあと、俺たちは部屋から中庭へと出たのであった。
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別連載「劉逞記」
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