第二百十七話~急襲 一~
第二百十七話~急襲 一~
大魔王の城の内部を探索すること暫し、漸く当初の目的地とした場所の近くまで俺とリューリとアーレは到着したのであった。
現在、俺たちは部屋の中にいる。とは言うものの、この部屋だが使われてはいないらしい。一応、家具らしきものは置かれているのだが、その上には薄らと誇りが積もっているのだ。この分だと床にも積もっているのかも知れないが、夜ということもあって通常の視界では流石に分からない。デュエルテクターの視界のモードを変更すれば分かるようになるかもしれないが、そこまでする必要は感じられないので気にしないことにした。
ところで、何ゆえに空き部屋にいるのかというと、様子を探る為である。実は俺たちが今いる空き部屋から少し離れた場所に、複数の気配が存在しているのだ。より正確に言うと、現在地から二つほど扉を挟んだ先にある扉、その中に気配が二つ。さらに奥まった先に二つ感じられ、計四つの気配が感じられていた。
「さて……リューリ」
「何かな?」
「四つの気配については、俺とアーレが受け持つ。だからお前は、奥に行け
「え?」
俺の言葉を聞いたリューリは、驚きの声を上げている。俺から言わせれば、何でそこで驚くのか分からない。何度も言っている様に、リューリの目的は大魔王の討伐である。彼女にとって、それが最優先事項の筈だ。だからこそ、俺とアーレが彼女の目的を速やかに達成する為に邪魔となるだろう障害を引き付けると言っているのだが、リューリにとっては意外な言葉であったのだろうか?
「だから。お前は、俺とアーレが気配の持ち主を受け持っている隙に奥へ向かへ。そして、大魔王と対峙しろ」
「ああ、そう言うこと。分かったわ」
漸く、俺の意図を理解した様で何よりだ。
何せここで騒ぎを起こせば、当然だが敵の目は俺とアーレに集中することに間違いない。そうなれば、リューリも動き易くなるだろう。それに彼女には、アーレに持たせていた光学迷彩を渡すつもりである。敵の目を俺たちに注目させた上で光学迷彩を展開した状態ならば、大魔王のいる場所まで到着するのは難しくない筈だ。
「ほら。これを持っていけ。光学迷彩を展開しつつ、D・S改を使用して一番大きい魔力の反応がある場所へ向かえばいい」
「そうね。確かに、その通りだわ」
「よし。じゃ、五分後に始める」
「了解よ」
それから五分後、俺とアーレは扉を蹴破って中へと突入する。それと同時にリューリもまた、行動を開始したのであった。
俺が勢いよく蹴破った扉の中では、城の一番奥深くに鎮座しているだろう存在から比べると明らかに小さいが、それでも中々に大きな気配を持つ男女の悪魔が談笑していた。その反応から察するところ、本気で俺たちの潜入は上手くいっていたらしい。男女揃って素っ頓狂な表情浮かべているのが、何よりの証拠だった。
そして当然だが、こんな隙を見逃すつもりは毛頭ない。俺は一気に踏み込むと、まだ俺たちに反応しきれていない男の悪魔に対して腰から抜いた短杖を振るう。そんな短杖の先には、マジックブレードを展開させているのは言うまでもなかった。
「……きさ……」
男の悪魔が最後まで言葉を発する前に、マジックブレードを真一文字に振り抜く。そして次の瞬間、男の悪魔の頭は奇麗に俺の手によって両断されていた。そして時を同じくして踏み込んだアーレも、背中にある翼を使って女の悪魔と肉薄している。しかも女の悪魔は、男の悪魔以上に反応が鈍かったのだ。どうやらまだ状況を把握できていない様で、表情も雰囲気も呆けていると言っていいだろう。その様な女の悪魔に肉薄したアーレは、前足に生えている爪を標的の頭に食い込ませると力任せに横薙ぎに払っていた。精神は兎も角、身体つきはかなり大きくなっているアーレである。依然とは比べ物にならないくらいに力は上がっており、人一人の頭を吹き飛ばすなどさほど難しくはない。事実、女の悪魔の頭はアーレの前足によって狩られてしまったのだ。
こうして奇襲をしたことで首尾よく二人の悪魔を屠った俺とアーレは、すぐに部屋の奥へ視線を向ける。するとそこには、やはり男女の悪魔が存在していた。その事実に、俺は内心で舌打ちする。それというのも当初、彼らは俺が扉を蹴破って侵入した部屋とは別の部屋にいると思っていたのだ。しかし実際に踏み込んでみれば、そんなことはなく同じ部屋にいるのだから想定外だと言っていい。まさか、同じ部屋にいるとは思ってもみなかった。
「くそっ! 各個撃破は無理か」
予想が外れたことに俺は、思わず悪態をついた。しかもその二人だが、一方的に俺とアーレに倒された二人と違って、既に迎撃準備を整えている。これでは最初に撃破した二人に引き続いて、一方的に倒すのは無理だろう。そう判断した俺は、一まず身構えてみせた。するとアーレもまた同様に、床に降り立った上で身構えたのである。その直後、男の悪魔が魔術を行使してきた。彼が前に突き出した手の平から、中々に大きな火の玉が打ち出されている。恐らくだが、威力的には中級に匹敵するかそれに準ずるぐらいの魔術だろう。とは言え、この程度の魔術などデュエルテクターを纏っている俺には脅威とはならない。ゆえに俺は、打ち出された火の玉が俺へと着弾する寸前に腕を振るって接近する火の玉を弾けさせた。傍目から見ると着弾して爆発した様に見えるのだろうが、実際には前述した様にデュエルテクターにはこの程度の魔術は意味をなさない。だからこそ俺は、勢いを止めずに炎を突っ切って魔術を使用した男の悪魔に迫っていた。そしてそのままマジックブレードを振るおうとしたが、すぐ脇から邪魔が入ってしまう。何ともう一人いた女の悪魔が、腰に佩いていた剣を抜いて振るってきたのだ。仕方なく俺は床を蹴ってその攻撃を避けることにしたのだが、その動き想定外だったのか女魔族が驚きの声を上げていたのである。
「馬鹿な!?」
どうもその女の悪魔だが、今の一撃で決着をつけるつもりだったらしい。あくまで想像の域を越えないが、タイミングとしては最高か若しくはそれに準じる攻撃であった。要は、自信のある一撃であったというわけだ。しかし、そう考えれば驚きの声が上がったこと当然かもしれない。不意を突いたつもりで放った必殺の一撃が避けられてしまったのだから、驚きの声が上がっても不思議ではないかも知れないのだ。
ともあれ、俺が敵からの攻撃を避けたことで生じたこの隙を逃がしはしない。俺は飛びのいたあとに床へ触れた足へより力を入れることで再度接近する為の推進力へと変える。実際、床には俺の足形が残っているが、今はどうでもいい。必殺のつもりで放った一撃が避けられたからか、本人の意思とは無関係に体が泳いでいる女の悪魔に急接近すると、腕を伸ばす。そのまま頭を掴んで床へ叩きつけるつもりだったのだが、回りの状況に気付いて伸ばした手を引っ込めていた。その理由は、魔術が迫っていたからである。どうやら男の悪魔が、女の悪魔を助ける為にと魔術を発動させた様だ。その男の悪魔も、今は俺より遅れて迫ったアーレを相手している。そう思うと、よくあのわずかな隙に俺に対して牽制の魔術を放てたものだと内心で少し感心していた。
「アーレ。そいつは押さえておけよ」
「クルルㇽㇽㇽ」
俺は頷きつつ返答してきたアーレを一瞬だけ一瞥する。その後、体勢を立て直した女の悪魔との距離を確認すると維持すると、自身の腰から外した二つの短杖を繋げる。そして、一本の杖となった両端からマジックブレードを発生させると、身構えたのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
https://ncode.syosetu.com/n8740hc/
よろしくお願いします。




