第二百十六話~潜入 二~
第二百十六話~潜入 二~
大魔王の本拠地と思われる城へ到着した俺たちであったが、時間が昼頃ということもあってすぐには潜入せず、夜を待ってから潜入を果たすことにしたのであった。
城のベランダなのかそれともバルコニーなのか分からないが、ともあれ外に面した場所に降り立った俺たちは、すぐに次の行動へ移った。城の外側と内側を仕切る扉に付いていた鍵を、俺の腰に装着していた短杖の先から出したマジックブレードで切り取っていく。流石に施設の壁や扉の様に施されている魔力を分解して無効化する様な材質ではできていなかった様で、何の問題もなく切り取られていく。間もなく鍵を切り取ってしまうと、大した力を掛けなくても扉は開いていった。
その開かれた扉から、城の中へ侵入する。そこは部屋などではなく、左右に伸びる廊下であった。ここで向かうのは右か左かとなるが、どちらに向かったところであまり変わりはしないだろう。そもそもからして城の内部構造を把握できていない以上、左右のどちらへ向かった方が正解なのかなど分からない。と言うことで俺たちは勘に従って、適当な方向へ歩き出すことにした。最も、手掛かりが全くないというわけではない。しかしてその手掛かりが何かというと、気配であった。実のところ、俺自身はこの城が大魔王の本拠地だとほぼ確信している。その理由だが、強者の気配を複数感じられるからだ。特に六人ほど、強い気配を感じ取ることが出来ている。そのうち一人の気配がずば抜けて強いところ見ると、その気配の持ち主こそが大魔王なのだろう。そして残った複数の気配も、大魔王と俺が判断した気配からすれば弱いが、それでも決して弱いわけではない。しかも五人の気配だがだが、理由は知らないがなぜか似たような場所に集中しているのだ。
「結構大きな城だとは思うが、同じ城内にいるとはいえ離れていても感じられる気配か。お陰で目標とするには事欠かないが、リューリはどうする?」
「一応の確認なのだけれども、特に強い気配の持ち主が大魔王だとあなたは思っているのかしら」
「ああ、そうだな。俺はそう判断しているが、そのことに確証はない。何せ俺は、大魔王に会ったことなどないからな」
そうなのだ。確証はないのである。あくまで客観的に、尾行の結果と強者の気配が複数捉えることが出来たから俺がそう思っているに過ぎない。だが、俺の考えに間違いはないとも思っている。その点に関しては、リューリも同じなのだと思う。だからこそと言っていいのか分からないが、リューリからは否定の言葉が出てこなかった。
「そう。だけど、ここが大魔王の本拠地だろうという判断は、あたしも同じよ」
「それならば話は早い。まず、この場所から比較的近い複数の気配が感じられる場所へ向かおう。そうすれば、自と答えも見えてくる……かも知れない」
そいつらから話を聞くことが出来れば、この城がどういった存在なのか判明するだろう。聞いたからと言って簡単に教えてはもらえないとは思うが、そこは臨機応変に対応すればいい。それこそ最悪、嘗てオークたちが籠っていた砦の様に全滅させるという手もあることはあるのだ。最も、今回はそれこそ最後の手段である。なぜかと言うと、リューリとジョフィから反対されたからだ。
大魔王に逃げられてしまうなどというような事態にでもならない限りは別として、出来る限り最後の手段は取らない様にと言われてしまったのだ。どうも彼らとしては、自身の手で決着をつけたい気持ちが大きいらしい。特にジョフィは、コンピューターとはいえ長年に渡って毛企画に関与してきた存在だ。たとえその目的の為に製造された機械とはいえ、やはり思うところはあるのかも知れない。それゆえに、城ごと纏めて吹き飛ばすかの様な状況とはしたくない様なのだ。しかしながらそれも、時と場合によりけりだと言えるだろう。だからこそ、リューリとジョフィも最後の手段としての選択を残したのだ。何より自身の気持ちに拘るあまり、本来の目的である大魔王の討伐がおざなりとなってしまうわけにはいかないとの判断もあるのかも知れない。ともあれ、今は最後の手段については置いておくことにする。そう判断してからリューリへ目を向けたのだが、なぜか彼女は不思議そうな表情を浮かべていた。
「どうした?」
「その……シーグの言う比較的近い気配って、どうやって分かったの?」
「……えっと……はい?」
まさかの問い掛けに、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。それは勿論、聞かれた意味が分からなかったからだ。しかしよく考えてみれば、ある意味では当然かもしれない。確かに俺はリューリに対して戦い方の指導をしたが、逆に言えばそれしか行っていないのである。俺が行った様に、相手の気配を探る方法など、全然教えていないのだ。その理由は簡単で、単純に時間が足りなかったからである。そもそも彼女の肉体は、初めから手を加えられている関係上、ポテンシャルは高い。その一方で、戦闘など様々な経験は皆無である。つまり、力任せに戦うことしかできなかったのだ。確かに知識として戦い方は得ているが、所詮は知識だけでしかない。いわば、机上の空論みたいなものなのだ。幾ら彼女に才能があるとは言っても、経験が伴っていないのでは無駄が多い。だからこそ、俺が指導する必要があったわけだ。
「だって、分かるわけがないでしょ。そんなこと」
「あー、そうか。教えてはいなかったわ。まぁ、教えたところで使いこなすことは出来なかっただろうけど……仕方ない。これを付けろ」
そう言ってから取り出したのはディテクトスコープ、通称D・S改だ。こいつの持つ幾つかの機能のうちの一つに、魔力感知がある。その機能を使えば、魔力が高い相手を感知できる。なおかつこの城の中には、魔力が際立って高い者が複数いる。その魔力が高い者たちこそ、俺の探った強者の気配を持つ者たちなのだ。
リューリは訝しがりながらも、D・S改を身に付ける。最も使い方が分かっていないので、俺が身に付けさせた。ともあれリューリは、D・S改を通してみる視界に驚きを隠せないでいた。
「わぁ、なにこれ! あ、幾つか反応がある」
「特に反応が高い相手ほど、魔力が高い。そして俺が向かおうと言っているのが、この場所からそれほど離れていない地点に複数ある反応に対してだ」
「あー、なるほど。これなら理解できるわ」
「それは何よりだ。そいつはそのまま貸しておくから、行くぞ」
「了解よ」
こうして俺たちは、比較的強い気配(魔力)を持つ者たちが集っている場所へと向かうことにしたのである。その後、俺たちは、移動する途中は出来る限り敵と対峙することを回避した。前述した様に俺は気配で探ることが出来るし、リューリも貸したD・S改の機能である魔力感知を使える。その為、回避すること自体はそれほど難しくはなかったからだ。それに加えて、これは魔族生来のものなのか分からないが、魔力を多く有している者の方が基本的に強い。だからおおよそではあるものの、D・S改の反応を見れば相手の強さが分かる。リューリが俺の様に気配で相手の力量を察知できなかったとしても、反応を見れば厄介かどうかわかるというわけである。
因みにアーレだが、こちらは本能のなせる業なのか、それとも何かの能力なのか魔力感知と似たようなことが出来ている。生まれながらその様な能力を持っているとは、ある意味ではうらやましいとさえ思える。ただ、その様な能力を獲得していなければ生き残れないとも裏を返せば言えるわけであり、これには自然界の厳しさを感じさせた。兎にも角にも俺とリューリとアーレは、戦闘らしい戦闘を回避しながら一まずの目的地とした複数の気配がある場所の近くへと到着したのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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