第二百十五話~潜入 一~
第二百十五話~潜入 一~
密かに発信機を取り付けた魔族から発進している電波を頼りにしてとある場所へと向かった俺たちは、おどろおどろしくもあり、かついかにも的な雰囲気を醸し出している城を見付けたのであった。
俺たちが辿り着いた城だが、地球というか日本人の感覚からすると、典型的な西洋風の城だと言っていいだろう。そしてこの惑星の持つ常識から判断すると、規模は兎も角として城としては典型的な形らしい。惑星どころか星系も、そして銀河すらも違うこの場所で、地球と同じ雰囲気を持つ城がスタンダードというのは何とも不思議な感じがするものだ。しかしながらこの感覚は、地球出身の俺やシュネたちしか感じないものだろう。それは一まず置いておくとして、今はいかに大魔王が率いる者たちに気付かれることもなく、城の内部に潜入する方が優先事項だと言っていい。しかしながら、まさか昼日中から潜入というのも難しい。それに、城を囲む様に何かエネルギーの様なものが張られているのではと感じる。もしかしたら、この惑星独自の結界術かも知れない。となれば、ここはやはり、セオリー通りに夜の闇に紛れて潜入することにしようと決めたのだった。
「一まず、ここから離れるぞ」
「……このまま突入しないの?」
「夜になってからな」
一旦、城から距離を取りつつ、適当な場所を探す。そもそも見つけた城がある場所自体、辺鄙なところにある。それゆえ、他者から見つけづらい場所はと言うと、探せばしっかりと複数存在していた。そこで俺たちは、目付けた幾つかの場所から一つの候補地を選んで移動したあと、身を隠す。実は先ほど見つけた城の様に結界でも張ろうか一瞬でも考えていたのだが、やっぱりやめることにした。果たしてその理由だが、潜入することと決めた以上、城の持ち主、恐らく大魔王にいらない警戒心を抱かせる要素を増やしたくなと考えたからである。確かに結界を張れば、相手に見付かることなく夜まで過ごせるのかもしれない。しかしそれは、あくまで仮定の話だ。今回の様に目的がある以上、余計なことはせずに静かに時が経つことを選んだのだった。
どうやらこの判断が図に当たったらしく、俺たちは身を隠したあとも発見されることなく無事に夕暮れまで時を潰すことに成功していた。但し、これは大魔王側の警戒感が緩かった可能性もある。だがしかし、見付からずに済んだことは幸運以外の何物ではない。ここは折角の幸運がまだ続いているうちに、城へ潜入する行動を開始することにした。俺たちは今まで身を隠していた場所から動き出すと、空へと舞い上がる。アーレは自前の翼で飛び上がり、俺はリューリを抱えた状態でスラスターを使って飛翔したのだ。なお、今回も俺は彼女の希望でお姫様抱っこの状態である。俺としてはリューリに対して背負うかと提案しているのだが、彼女は断固拒否してくる。そして以前と同様に、お姫様抱っこの状態での移動を要求してきたのだ。俺自身としては、両手がフリーの状態の方がいいので、背負うことを提案しているのだが、どうしてもリューリが首を縦に振ってはくれない。ついには俺も折れ、以前と同様の運搬方法という仕儀に相成ったというわけであった。
「……嬉しそうだな」
「え~? そうかしら?」
「ああ。そういう風にしか見えない」
「えーっと……気のせいじゃない?」
リューリは間違いなく顔の表情に笑みを浮かべているので、断じて気のせいじゃないと言い切れる。そして、これから敵の本拠地に乗り込むようには見えない。ただ、今さらなのでこれ以上言葉をつづける気にもなれなかった。
「あー、もう今さらだしいい。それに、目的の場所に到着しそうだしな」
「なら、もういいわよね」
もうこれでこの話題は終わりという雰囲気を纏わせながら言ったリューリの言葉に、突っ込みどころがないというわけでもない。しかし前述した様に、今さら感は拭えない。というか、正直なところ、どうでもよくなってきている。それに何より、目的地に到着しそうである。そこでおしゃべりはここまでにして、俺たちは目的の場所に降り立った。
しかしてその場所というのが、門である。実はこの城には二か所、門が取り付けられていた。こうして存在する二つの門だが、一つはしっかりと装飾もされていて見栄えもいい。その一方でもう一つの門だが、造りもシンプルで装飾も簡素だ。恐らく見栄えのいい方が表門で、俺たちのいる場所から少し先にある門が裏門なのだろうと思われた。
「じゃ、ミッションスタートだな」
俺たちは光学迷彩を展開した上で、裏門へと近づく。当然ながら門番もいるが、姿を隠している俺たちに気付いた様子はない。そこで気付かれる前に、門番を倒してしまう。俺とリューリが一気に肉薄して二人いた見張りを倒す。その上で気配を探ったが、辺りには感じられなかった。一応、見張りの詰所の様な施設もあったので覗き込んではみたが、誰もいない。どうやら見張りは、倒した二人だけだったようだ。
「ふむ……一応、使うか」
門の外側に兵の詰め所があったのでもしかしたら門の中にもあるかも知れないと思ってデュエルテクターの機能の一つであるサーモグラフィでも確認したところ、何と反応があったのだ。しかし幾ら壁越しとはいえ、この近くで気配を感じ取とれないなどあり得ない。だとすると、他に原因があると考える方が無難だろう。
「……結界に理由がありそうだ」
そう言えば、気配を探るということを城が見付かった時点で行わなかったので気付かなかったのだが、改めて探ってみても中にいる筈の魔族の気配を俺が感じ取れていない。もし仮に色を追うぐらいの何らかの魔道具があったとしても、維持管理にかなりの労力を注ぐことになるだろう。ならばまだ術として完成しているだろう、結界の方が費用対効果は高いと思う。その結果に付加として、対陣用の効果を持たせたとしても不思議はない筈だ。
「中の様子が探れないのは気になるけど、ここで手を拱いていても仕方がないでしょ」
「まぁ、お前の言う通りか。では、始めるぞ。一気に踏み込んで倒すつもりだが門の中の見張りを倒すつもりだが、見付かった場合の心構えもしておけよ」
「うん」
「くるぅぅぅ」
リューリのアーレからの返事を聞いたあと、俺は腰から短杖を抜き取る。そして、短杖の先端からマジックブレードを発生させると、人が通れるぐらいの大きさに門を切っていく。そして、切り取ると同時に踏み込んだ。
当然、切り取られた部分が地面へ倒れて音を立てるが、今は速度が優先だ。俺たちは全く気にすることなく、それぞれ右と左に分かれる。そして、サーモグラフィに反応があった相手を、打倒したのだった。
「どうやら、気付かれなかったな」
「みたいだね」
夜だからか、左右それぞれの詰め所に一人ずつ、計二人だけが起きていたが他は眠っていた。俺は左、リューリとアーレが右に向かいそこにあった詰所、及び隣接する見張り当番の宿泊施設を強襲する。どうにか騒ぎが起きる前に、ことを終了させることが出来ていた。
無事に制圧を終えた俺たちは、取りあえず動けない様に縛り上げ、かつ魔術も唱えられない様に猿轡で口を塞ぐ。まぁ、無詠唱で魔術を行使できるのならば無意味な行為だが、今までの経験から言うと無詠唱で魔術を行使できる存在は少ない。だから、無駄にはならないだろう、きっと……多分……
ま、まぁ。気を取り直して。
城への侵入を成功させた俺たちが向かったのは、バルコニーとなる。実は、結界越しだったとはいえとても微妙な場所にバルコニーが存在していたことを見付けていたからだ。その見付けたバルコニーだが、城の外縁部という程に外れて存在しているわけではない。さりとて、城の中枢部分にあるのかと言われると、いささか距離がある様に感じてしまう。その様に中途半端な場所にあったのだ。最も、城の中枢がどの辺りになるのかなど分からない。だから自分のイメージで、この辺りが城の中枢に当たるのではと検討したうえでの判断でしかないのだが。
実際には兎も角として、俺とリューリとアーレは無事にバルコニーへ到着することが出来た。すると俺の首に手を回した状態でお姫様抱っこの状態にあったリューリが、腕を解く。その後、彼女は最後にバルコニーへと降り立つのであった。因みに俺だが、バルコニーへ着地すると同時に抱えている彼女を床へ落そうかなと考えなかったわけでもない。しかし、わざわざ敵に見付けられてしまうかも知れない要素を増やす必要もないかと考えを改めて、俺はリューリを床に落とすという行動を行わなかったのであった。
「シーグ。今だけど、何か良からぬことを考えなかった?」
「あん? リューリ、その良からぬことってなんだよ」
「……はっきりとは言えないけど、何となく勘がね、訴えたのよ」
いや。
確かに、世間では以上に勘がいいやつなどは居る。それに、勘というのは、決して侮れるものじゃない。実際、何度かその勘で、俺も危機を回避したことはあるからだ。地球にいた頃や、この体に憑依してからもあった感覚である。だから、否定する気はない。ないのだけれども、その勘をこんな状況で使うというのもいかがなものかと思うだが……まぁ、いいや。
「ともあれ、いつまでもこの場所に留まる必要もない。その上、敵側に見付けられてしまうかも知れない。そうなる前に、移動を開始するぞ」
「了解よ」
リューリは少し間延びした返事をし、アーレは頭を上下して返事としている。こうして合意が得られた以上、躊躇う必要もない。そもそもからして、躊躇ってなどいないよな。などという突っ込みがどこからともなく出てくる前に、俺たちは行動に移ることにした。手始めにバルコニーと城の中を仕切る扉に手を掛けるが、開く様子がない。念の為に扉を逆へ動かそうとするが、やはりびくとも動かない。完全に鍵が掛かっていると判断した俺は、腰から短丈を取り出すとその先端にマジックブレードを小さく展開する。その魔力の刃で、鍵がありそうな場所を切っていく。それから切り付けること二度、漸く当たりを引けた。そして、ゆっくりと開いていく扉を見つつ、俺は気付かれる前に侵入できたことに安心したのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
https://ncode.syosetu.com/n8740hc/
よろしくお願いします。




