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第二百九話~移動~


第二百九話~移動~



 ススコ辺境伯領の領都となるイユムへ、リューリがいた施設から移動した。そこで暫くの間留まって、これから生活するに当たって最低限の常識を彼女に経験させたのであった。





 物の売り買いなど、町で生活するに最低限のことを教えて経験させた。最後に一人で買い物に行かせて、ちゃんと身に付いていることを確認している。その後、金を稼ぐ手段としての仕事。即ちギルドでの仕事を探したのだが、残念なことによくありがちな薬草探しやゴブリン討伐などといった仕事がなかった。これには当然、理由がある。まず領都などの大都市が存在する治安が安定している地域では、ゴブリンなどの討伐系依頼は減る傾向にあるせいだ。また、この様な地域は開発も進んでいるので、その分だけ自然は少なくなる。当然、薬草の採取ができるような場所も減っていく傾向にあるのだ。ゆえに俺たちは、イユムから移動する決断をしたというわけである。まず宿を引き払うと、その足で領都から出る。その後、俺たちが向かったのは、ススコ辺境伯領の辺境地域だった。もっとも、田舎過ぎても不便さが出てしまう。それらの点を考慮し、取りあえずの目的地としたのはドラコという町であった。最辺境部という程ではないにしろ、ドラコの町の周辺にはそれなりに自然が多い。なお、ドラコの町だが、辺境伯家が直接統治する町ではある。しかし前述した様に、町の周辺には自然が多い地域であった。その様な地域にあるドコラの町の入り口に到着した俺たちは、門番へギルドカードを見せる。その際に、町へ入る為の金を払う。それから間もなく、問題ないと判断された俺たちは、町の門をくぐった。その時、門番に尋ねてギルドの場所を聞いておく。ついでに宿屋の場所も聞こうと思ったが、ギルドで聞けばいいかと思い直して門番には尋ねなかった。


「シーグ。宿屋の場所は聞かなくてもいいの?」

「門番に聞いてもいいが、どうせこの後にギルドへ行くんだ。そこで尋ねればいいかと、そう思ったんだ」

「ふーん」

「まぁ、正直に言うと、門番だろうがギルドだろうがどっちでもいいんだがな」


 実際、俺的には、門番だろうがギルドだろうがどちらでもいいと考えている。それこそ門番に尋ねるもよしであると言えるし、またギルドで尋ねるのもよしと言えるからだ。ただ、本気で辺境地域にある様な村などの場合、町や村の中にギルドが存在していない場合もあるので、その点は留意しておくべきだろう。

 兎にも角にも、俺たちはギルドへ到着する。この町の中にある建造物としては、ギルドの建物は比較的大きいと言えるだろう。だが、領都であるイユムに立ち寄ったあとだと、さほど大きいとは思えなかった。というか、俺自身の感想としては「こじんまりとしている」これに尽きるだろう。そしてリューリだが、彼女も驚いている様には感じられない。やはり町自体、イユムと比べると小さいので、こういったものだろうと思っているのかも知れない。その点について尋ねてみようかと思ったが、聞くほどのことでもないかと思い直す。それから、軽く自分の頭を振って考えを追い出すと、そのままギルドの中へと入った。

 建物の構造だが、規模を除けば今までの町で立ち寄ったギルドの構造とそう変わりはしない。入口から入ってすぐの場所がホールとなっていて、そのホールの端に受付等の業務を行うカウンターと、そこに座るギルドのスタッフであろう人たち。そしてカウンターの反対側には、酒場が存在していた。最も、時間的に早いこともあってか、あまり客はいない。それでも、酒やつまみを食べながら潰れている奴らも幾人かはいた。


「業が深いねぇ……いいか、リューリ。ああいう風に泥酔している奴には、近づかない方がいい。何をしてくるか見当もつかないからな」

「……分かったわ」


 小さな声で俺は、リューリにだけ聞こえる様に忠告しておく。俺の言葉を聞いた彼女は、少し横目で泥酔している男を見たあと、しっかりと頷きながら了解と返答してきた。そのことに頷き返したあと、カウンターへと進む。そこでカウンターに座っている女性に、イユムから移動してきた旨を告げた。それから、仕事を紹介する掲示板はどこかを尋ねると、その場所を教えてくれた。果たして掲示板のある場所だが、入口の正面にある。建物の中へ入った時、そうではないかなと思った場所がやはり掲示板のある場所だった。俺は一言、彼女に礼を言ってから掲示板の場所へと移動する。すると予想した通り、領都イユムでは皆無と言ってよかった採取系と討伐系の依頼があった。しかもそれらの依頼は、常設となっている。つまり、一々いちいち受付で申請を行わなくてもいいのだ。他にも希少な植物の採取などといった依頼も、個別に存在していた。


「ねぇ、シーグ。どれを選べばいいの?」

「それこそ、自分の力量と相談だな。倒せる自信があるなら、強い魔物を倒しに向かえばいい。自信がないなら、ゴブリンやコボルトの討伐となる常設の依頼を受ければいい。採取系の依頼にしても、同様だな」


 身の丈に合う依頼を受けようが、身の丈を超える依頼を受けようが、それはそれぞれが決めるだけのこと。そして自分の力量を把握できない奴は、早々に死ぬか大怪我を負って引退を余儀なくされるだけである。しかも下手に大怪我を負ってしまえば、治療代もばかにならない。碌に稼いでもいない状況で借金まみれになって、二進にっち三進さっちもいかなくなってしまうのだ。


「ふーん。そう言うものなの?」

「そう言うものだな。というわけで、リューリ。お前は何を選ぶ?」

「……それでいいわ」


 少し考えてからリューリが選んだのは、常設の依頼となっているゴブリンやコボルトの討伐だった。まぁ、妥当だと言える。そもそも現時点で、リューリの実力を持ってすればゴブリンやコボルトなど敵ではない。ゴブリンやコボルトの上位種が出てきて、しかもその上位種が数多くいた場合だと、それなりに警戒する必要があるだろう。しかしそれでも、倒し切ることはできる筈だ。彼女は素養的にそれだけの実力を有しているし、短期間とはいえ直接俺が指導したのだ。それぐらい、出来なければ困ってしまうと言うものだ。


「選んだ理由は?」

「ギルドでの仕事は初めてだし、手始めとしてはちょうどいいかと思って」

「ふむ。油断だけはするなよ」

「しないわ。幾ら相手がゴブリンやコボルトだからと言ってもね。それに、こんなところでつまずくわけにはいかないもの」


 確かに、それはそうだろう。

 彼女にとっての最終目的は、いる筈の大魔王を倒すこと。ゴブリンやコボルトの討伐程度で手をこまねいている様では、到底目的を果たすことなど叶わない。そう考えれば、油断など最も嫌悪することなのかも知れないな。


「そこまで分かっているなら、言うことはない。ただ、焦りだけは禁物だぞ」

「うん。分かったわ」


 俺の言葉に頷いたあと、リューリはカウンターへと向かった。そこで、さっき俺が声を掛けた女性へ声を掛けている。距離があるので、会話の内容までは分からない。デュエルテクターを着ていれば、これぐらいの距離なら声は拾えるだろうが、今は身に着ける気もなかった。それに、あとで聞けばいいだけだしな。こんな具合に。


「それで、何の話をしていたんだ?」

「討伐対象がいるだろ場所と、現時点で分かっているだけの数。それから、宿の場所も聞いてきたのよ」


 カウンターから戻って来たリューリに何を尋ねていたのか聞くと、その様な答えが返ってきた。事前に情報を集めたこと、そして俺が言った宿屋の場所についても聞いてきたことに、彼女を褒めつつ頭を撫でてやる。すると一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべたなと思った直後、リューリは表情を引き締めると俺の手を軽く払った。それから彼女は、軽く睨む様に視線を向けてきたのである。とは言えリューリの顔色は、なぜだが少し赤みが掛かっていた。そんな彼女の様子をみて、子ども扱いしたことに怒ったのかなと思った俺は、取りあえず誤っておいた。


「悪かった。以後は、気を付けるよ」

「え? あ、うん。そう、気を付けてね……謝る意味が違うのだけれど……」


 照れているのか最後に小さく、俺にも聞こえない様な言葉を呟いているリューリだが、顔には何とも言えない表情を浮かべている。明らかにさっきまでとは違った様子に、俺は内心で首を傾げるしかないのであった。

ご一読いただき、ありがとうございました。



別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

よろしくお願いします。

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