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第二十話~反撃~


第二十話~反撃~



 オルとキャスの兄妹による行商デビューも無事に終わりを迎える。その後、次の村へと向かっていた途中で、何と襲撃を受けたのであった。





 結界の中に、シュネとキャスとアリナとエイニとヘリヤを残して、俺とビルギッタとオルは結界を出る。無論、先制攻撃を仕掛けてきた盗賊へ反撃をする為だ。

 行商に同行している以上、いずれはこのような事態におちいるだろう。思ったよりも早かったが、それはそれである。ならばそれを利用して、実戦を経験させておくに越したことはないのだ。

 普通なら、護衛がその役目を務める。だが、俺たちは戦う行商人なのだ。盗賊ごときに、負ける筈もないのだ!

 それにどの道、オルはそう遠くないうちに成人を迎える。そうなれば大人として扱われるので、戦えませんとか甘いことはいっていられなくなる。無論、町や村から出ない生活を送るならば必ずしも必要というわけではない。だが、ここはフィルリーアである。死は隣り合わせであり、土壇場になって動けませんなどといっていたら生き残れないのだ。


「全く以って、世知辛い」

「何が?」

「何でもない。そろそろビルギッタと別れるが、お前は俺と一緒に行動だ。それと、シュネが持たせてくれたものは身に着けているよな」

「勿論」


 オルはそういうと、指で小さくコンコンと叩く。それは、片目の部分を覆うような形で装着されている道具であった。この道具の持つ効果は、魔力検知まりょくけんち光子検知こうしけんち、それと可視光増幅機能かしこうそうふくきのうである。簡単にいえば、魔力の検知ができる機能を持った暗視装置あんしそうちであった。

 なお、この道具は、魔道具ではない。勿論、魔道具として完成させてもいいのだが、あえて魔道具とはせず、機械的な道具として完成させてある。何ゆえにそのようなことにしているのかというと、それはとある事情に原因があった。

 フィルリーアに生きる者は、全て等しく魔力を持っている。多い少ないはあっても、魔力が全くない生き物は存在しないのだ。だからこそ魔力検知ができれば、そこがたとえ闇の中であっても相手を見るなり感知なりすることができた。

 しかし一方で、少数なのだが魔力が全くないという場所がこのフィルリーアには存在する。しかもそこにいると、魔道具などという魔力を動力源とした道具は一切合切、稼働しなくなるのだ。

 勿論、その魔力がない範囲から出れば再び使えるようになるので、壊れているわけではない。しかし、その魔力がない範囲から出ない限り、魔道具もそして魔術も使えなくなる。そうなってしまうと魔道具自体の意味がなくなってしまうので、シュネはあえて機械的な道具として完成させたのだ。

 なお、一緒に行動しているビルギッタには渡されていない。彼女を含むガイノイドやアンドロイドの目には同様の機能が付加してあるので、必要がないからだ。

 因みに俺とオルにおいても、必ず必要かといわれるとそうでもない。オルの場合、獣人としての能力がある上に先祖返りなので身体的な基本能力が普通の獣人と比べても高い。その能力に物をいわせて、匂い等で感知ができるらしいのだ。逆にいえば、匂いがきついところだと全く感知ができなくなるともいえる。そういった事態を回避する目的で、装着していた。

 一方で俺だが、相手を気配で感知できる。御堂家に代々伝わっていた武術で、伊達に免許皆伝を認められているわけではないのだ。ただ、距離という点においては、獣人などには遠く及ばない。しかし、魔力や匂いなどで察知しているのではないので、その場の状況に殆ど左右さゆうされないのだ。

 だが、中には例外も存在する。気配を極端に薄くすることにけているような、化け物みたいな奴もいるのだ。実際、御堂流当代だった祖父がそんな技術を持っており、その技を使われてしまうと感知するのに大変苦労したものだった。

 感知が不可能ではないので、一方的にボコボコとされることはないのだが。

 つまり、俺にしてもオルにしても保険の意味で装着しているのである。ただ今回の場合、奇襲を考えているので道具は有効に使うつもりだった。

 ビルギッタと二手に分かれたあとは、闇に紛れて相手を倒していく。初めのうちは順調であったのだが、時間を掛けるに従って徐々に倒しにくくなる。恐らくは相手の実力が上がったから、つまりその場を指揮している者たちとの戦いになったからだと思う。

 だが、それにしても異常だ。

 相手をしているのが、軍や傭兵、または冒険者というのならばまだ分からなくもない。しかし、相手は盗賊である。もしかしたら野盗かもしれないが、別に明確な違いはないだろう。何であれ、幾ら実戦慣れしていないオルがいるとしても、今の状況は有り得ないのだ。

 その時、後方で大きな音がしたので、思わず視線を向ける。すると、結界のある方向で爆発が起こっていた。


「爆発……だと!?」

「キャス!!」


 俺が状況に、オルは血の分けた妹の心配をして動きを止めてしまった。するとその隙を突くように、相手が攻撃をしてくる。咄嗟に、ガントレットを装備している腕で攻撃をそらしていた。その時に気付けたのが、相手の攻撃手段である。剣か何かかと思っていたのだが、どうやら違うようなのだ。

 ガントレット越しとはいえ、剣で攻撃されれば受けた感触で分かる。それが他の武器を使用していても、余程特殊な武器でもない限り分かる。そして感じられたのは、拳で殴られたかのような感触だった。だが素手とは考えにくいので、ガントレットかガントレットに金属の爪でも付けているのかも知れない。

 とはいえ、珍しいといえば珍しい。普通であれば、剣や槍を使うからだ。俺のように、元から格闘戦を得意とするならば、話は別だけどな。

 そんな俺自身のことは置いておくとして、今は爆発の起きた結界に籠っているシュネの方が気になる。敵を牽制しつつ、取りあえずは連絡を入れた。すると僅かな時間が空いたあとに繋ったので、間髪入れずにシュネとキャスとアリナとエイニとヘリヤの安否を問い質した。


「おい! シュネ、無事か!!」

≪……ええ、こっちは大丈夫よ。心配してくれてありがとう≫

「それで、キャスとアリナは? あぶね!」


 その時、無粋にも敵さんが攻撃をしてくる。無事と聞かされた安心感から、僅かに気が緩んでしまったこともあって、その攻撃を避けきれない。辛うじてガントレットで受け止めることはできたが、不完全な体勢だったこともあって吹き飛ばされてしまった。

 って、吹き飛ばされただと!?


≪ちょ、ちょっと。シーグ! 大丈夫!?≫

「……ああ。少し隙を突かれたけど、大丈夫だ」

≪こっちもすぐに結界が破られる、などといったことはないわ。もっとも、その前に排除するけど≫

「悪いけど、そっちは任せる。こっちはこっちで、対処する」

≪わかったわ。シーグこそ、気を付けなさい≫

「分かっているさ。通信終わり」


 おおよそでもシュネたちの状況が分かったので、まずは安心する。それに通信の内容自体は、オルや向こうで戦っている筈のビルギッタへも流していたので状況は分かっている筈だ。

 それゆえに、一旦ビルギッタを呼び寄せる。根本的に、作戦を変えたほうがいいと感じたからだ。

 今までは正面からというより、闇に紛れて少しずつ敵を削っていたのだ。これを繰り返して敵を殲滅せんめつするもよし、また相手に撤退の判断をさせてもよしというのが当初の予定だった。

 しかし、シュネたちが籠っている結界へ爆発を思わせるような攻撃をしてくる相手となれば話は別だ。そんな、敵を少しずつ削るなどという悠長なことをいっていられない。早急に制圧……いや漸減ぜんげんさせる必要を感じていた。

 やがて、相対していた敵を撒いたのかビルギッタが合流に成功する。そこで手早く、彼女とオルに計画の変更を告げた。


「そこでだ。は切札を切る」

「そうなると……シーグ兄貴、俺も切る?」

「そう……だな。出し惜しみしている時間も惜しいか」

「分かったよ」


 そういうと、オルは鋭く声を張り上げる。それは声というより、動物の遠吠えであった。直後、オルの体から黒い光が溢れだす。やがてその光が収まると、そこには奇麗な黒色の毛並みを持つ大型の犬のような獣がそこにたたずんでいた。

 これが、オルの切り札である。彼は、自らの始祖へと繋がる存在に酷似した姿へ変貌することができるのだ。その姿は先に挙げた黒色の奇麗な毛並みを持ち、そして見事なたてがみをたたえている。しかも尾に至っては、何と蛇であった。

 その姿は、頭が一つなのを除けば、オルトロスに似ているとシュネが言っていた。そして古代文明期の資料にも、オルデュースという名の獣がいたことが分かっている。但し、その分類はあいまいで、神獣とも聖獣とも魔獣ともいわれていた。

 なお、オルの先祖返りした姿とオルデュースの姿は同じではない。古代文明期のデータに残っていたオルデュースの姿は、オルトロスと同じく双頭で黒色の毛並みを持つ大型犬である。だからシュネもオルトロスに似ていると表現したわけだが、オルが変じた姿だが頭は一つしかない黒色の毛並みを持つ大型犬となる。これ辺りは、先祖返りの限界であった。

 幾ら先祖返りといっても、流石に始祖の姿や能力を完全に再現はできないらしい。やはり始祖に当たる存在は、別格ということなのだろうというのがシュネとネルトゥースの一致した見解だった。


「これでいいよね」

「ああ」


 そもそも生体としての形が違うからか、変身したオルの声はややくぐもった感じとなる。だが、聞き取れないほどではないので会話自体に差し支えはなかった。

 但し、オルはこの姿となってしまうと、手を人のようには使えなくなる。代わりに早さも強さも耐久性も比べ物にならなくなるので、武器が使えなくなっても弱体化となるわけではないのだ。


「さて。転装てんそう!」


 そんなオルトスの姿を確認したあと、デュエルテクターを身に着ける。声と共に光に包まれ、光が晴れるとほぼ全身を緋緋色金ひひいろかねの鎧のようなものに覆われた俺が現れた。

 するとこちらの姿が見えているのか、それとも強い光のせいなのかは分からないが、盗賊から動揺しているような気配も感じられる。その点だけでも、敵がただの盗賊や野盗のたぐいだとは思えなかった。


「敵さんも動揺しているみたいだから、一気に決着をつける。散開!!」


 その声と共に、俺とオルとビルギッタが散開する。目的は敵を蹴散らしつつ、敵を率いているかしらとなる存在を潰すことであった。


連日更新中です。


反撃に出ました。

ですが、どうやらただの山賊や野盗ではないようです。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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