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第二百七話~出立~


第二百七話~出立~



 ジョフィから、勇者ことリューリの手助けを頼まれたわけだが、俺自身にもメリットがある頼まれごとだったので、承諾したのであった。





 現在、イユムと言う名の都市にある宿にチェックインしていた。勿論、俺だけではない。同行者として、リューリも同様に宿泊していた。ところで俺たちが施設におらずイユムにいるのかというと、それは施設を引き払ったからである。俺がジョフィからの依頼を受けてから暫くの間、あの施設に内で徹底的にリューリをそれこそスパルタ式に鍛え上げていた。流石に時間がなかったので完璧とまではいけなかったが、それでも一端いっぱしに戦えるぐらいには鍛え上げたつもりである。あとは実戦を重ねて経験を積み、自らの血肉とするだけ。つまり、あのまま施設に留まっていても、しょうがないのだ。それに、大魔王を倒す為にはどのみち施設を出ていく必要がある。ゆえに俺たちは施設を引き払い、施設が存在しているススコ辺境伯領の領都となるイユムにまで移動したのだった。


「さて、いつ頃に次の襲撃があるのやら?」


 実は俺が最初に魔族を撃退してから施設を引き払うまでの間、幾度か魔族からの襲撃を受けていた。もっとも襲われるたびに全滅させていたから、詳細な情報が敵方に渡ってはいないだろう。しかし、何度も自前の勢力を送り込んで結果が得られていないことをかんがみれば、まだまだ手勢が送り込まれてくることは容易に想像がつく話であった。

そこでリューリへ戦闘に関しての基礎を身に付けさせたこともあって、施設から俺たちは離れたわけである。勿論、ただで引き払ったりはしていない。しっかりと、置き土産を残している。今や無人となった施設には、俺たちがイユムにまで旅立つまでの間に作成していた爆発物が大量に残されているのだ。今度、相応の規模を持った魔族を含めた敵の襲撃があれば、施設の深部まで誘い込んだ上でまとめて吹き飛ばすという計画だった。

 なお、ジョフィだが、当初は施設とともに爆発つもりだったらしい。どうにもはっきりとはしないのだが、その様なプログラミングがされていた様なのだ。しかしジョフィにとってある種の偶然が、このプラグラムから解放されることとなる。ところでその偶然が何かというと、嘗てマスターであった製作者となる古代人からが滅んでいるという物理的な解放と、やはりジョフィにプログラミングされていた、緊急時における対応への設定によるものだった。この緊急時における対応だが、幾つかの段階が設定されていたことは前述している。そして現状、ジョフィは最終の設定状況にあり、その設定に従って俺個人をマスターとしているのだ。だから俺が命じて、ジョフィが移れる持ち運びが可能な小型だが高性能なコンピューターを作らせたのである。そしてジョフィも今は、その作らせたコンピューターへと移動した状況にある。つまり施設には、もはや必要がないと俺が判断した物しか残っていないのだ。なおこれには、施設自体も含まれているのだが……何がともあれ、今の施設は囮でしかない。同時に敵を葬る為の罠であり、そして爆発してもう施設は使い物にならなくなったという欺瞞情報を大魔王という敵へ渡す為の物品となっているのだ。もったいないのではと言われればもったいないと言えるかも知れないが、大魔王へ情報を渡さずに済むならその方がいいに決まっている。だからこその爆破であり、ついでに敵の勢力も減らしてしまえという一石二……いや、何鳥だろう。と、まぁ、その様な計画なのだ。とはいえ、企みが成功しなくてもそれはそれでもいい。肝心なことは、大魔王の天敵となり得る最後の勇者という存在が隠蔽できることなのだから。


「明日から忙しいことになるだろから、今日はさっさと寝るとするか」


 久方ぶりとなる宿屋でのベッドに寝転がると、俺は眠りにつくのであった。

 因みにリューリだが、俺と同室ではない、ちゃんと別々べつべつとなっているから、安心をして欲しい。また、グリフォンの子供であるアーレだが、部屋の中にいない。夜であることを利用して、イユムの町を探索しているからだ。勿論、光学迷彩は発動した上でとなる。流石にグリフォンの姿が丸見えの状態では問題となるだろうし、何より成長期にでも入ったのであろうか。このところアーレは、日増しに体が大きくなっている雰囲気があるのだ。

 いや。

 実際に、大きくなっている。日増しにはとは流石に言い過ぎだが、それでも施設に留まっている間にかなり大きくなっていったのは事実だ。もう、以前の様に軽々と抱えることは出来ない。勿論、抱えることは今でも出来る。ただ体大きくなったことで、抱えるというより持ち上げると言った方が適切な言い回しとなる様になってしまったのだ。既にアーレは、大型犬かそれを超えるぐらいにまで体は成長している。まだ超大型犬と呼ばれる様な大きさにまではなってはいないが、それも時間の問題だろう。もっともグリフォンは成長して大人になると、平均的な人間の大人ならば二人から三人ぐらいまでその背に乗せることが出来るぐらいの大きさとなるらしい。その事実を考慮すれば、アーレはまだまだ子供だといったところだった。

 その様なアーレだが、大人へと近づいているからかそれとも別の要素からかは分からないが、色々いろいろなことに興味を持つようになっている。今、町中を彷徨さまよっていることも、実はその一環なのだ。それならば昼にでも行動すればいいかと思うかもしれないが、昼より夜の方がより目立たない。何よりアーレは、夜目も効く。グリフォンは、いわゆる鳥目ではないのだ。そもそも鷹や鷲は、人より遥かに目がいい。これは前に何かのついでで、シュネから聞いたことだから嘘ではない筈だ。しかもグリフォンであるアーレの頭部は鷲となっており、シュネの話も踏まえて考えてみると目がいいと俺が考えたのは当然なのであった。そして事実、アーレは目がよかったのである。

 明けて翌日、リューリを伴って俺は町中に出掛けた。何の為かと言えば、ただ買い物するからである。食料などの物品を手に入れる為には、対価として金を払うこと。このこと自体は、ジョフィから得た知識によってリューリも理解している。だがあくまで知識を得た結果として理解しているだけであって、自身が経験しているわけではない。だからこそ、実際に経験させるのだ。最初は、俺が見本を見せればいい。何度かやり取りを見せれば、自分でもできるようになる筈だ。リューリは、経験がないというだけで、知識が足りない子供というわけではないのだ。事実、彼女は俺と店の者とのやり取りを食い入るように見ている。これなら何度か見せてやれば、一人で買い物をできる様になる筈だ。

 こうして、立ち寄った道具屋で消耗品を購入した俺たちは、店を出てギルドへと向かった。カルク辺境伯領の領都にあるギルドでは不快な気分にさせられたわけだが、それはあくまで俺個人の話であり、リューリには全く関係がない。何より、彼女の目的を考えた場合、すぐにまっとうな職へ就くなど考えられないだろう。そういった意味でも、行動するのに自由度が高いギルドは打って付けなのだ。

 町に入る際に門番から教わったギルドに到着したあと、まずはリューリを登録させる。ギルドだが、基本的に犯罪へ手を染めていなければ、ギルドが所属を断ることなどまずない。ましてや彼女は、活動できるようになって僅かの時間しか経っていない。しかもその時間も、施設内に居るか施設の周辺ぐらいしか活動していなかったのだ。そんなリューリが、罪を犯せるわけがないのである。当然のことだが、問題なく彼女はギルドの所属となったのであった。

 なお、俺とリューリだが、ギルドでパーティ登録を行うことにした。普通、ギルドに所属している面子は、パーティを組んでいることが多い。一人で依頼を受けるより、複数の方が何かと都合がいいからだ。寧ろ今までの俺の様に、パーティを組んでいない方が珍しいらしいのである。それこそ田舎から一人で出てきたばっかりの新人とか、何らかの理由によってパーティを組めなくなった者ぐらいなのだ。しかして、俺の場合だが仕方がない。そもそも、異星人だ。それこそ知られたくない秘密を、沢山抱えている。だから、パーティを組むよりソロで活動していた方が都合か良かったのだ。ひるがえって、リューリの場合は彼女も今までの経緯から言うまでもなく特殊な身の上となる。何より俺が何でこの星にいるのかも知っているし、彼女も前述の通り簡単に他人と話すことなどできない秘密と目的を持っている。そんな俺とリューリがパーティを組んだ方が、お互いに都合がいいのは言うまでもないことだった。

 それにこちらも前述した様に、ソロで活動する者と言うのは珍しいと思われている。お互いに秘密を抱える者として、パーティを組むのは悪い話ではないのだ。


「うーむ。こう考えてみると、狩ったドラゴンを売ろうと考えたのは悪手だったのか?」


 ソロで活動している人間が、ドラゴンの素体をギルドに持ち込む。この星の常識から考えれば、あり得ないと考えてもおかしくはない……のかも知れない。だからと言って、カルナ辺境伯領でのギルド職員の態度を許せるのかと言われればそうではないのだけれど、今となっては過ぎた話だし置いておくとしよう。それにどのみち、二度と向かう気はないのだ。但し、これからはもう少し考えてからにしよう。


「どうしたの?」

「いや。何でもない」


 不思議そうな表情を浮かべながら、リューリは俺の顔を覗き込んでくる。そんな彼女に何でもないと返答すると、そのまま俺はギルドの依頼に目を通す。大体の傾向を見てみたが、とりわけて特殊な依頼が出ていることもなかった。これならば、依頼を受けるのはすぐでなくてもいいだろう。


「宿屋に戻るぞ」

「はい」


 リューリに声を掛けたあと、俺たちはギルドの建物から外へ出て宿泊先へ戻るのであった。

ご一読いただき、ありがとうございました。



別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

よろしくお願いします。

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