表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/227

第二百五話~言入~


第二百五話~言入~



 魔族の一人の率いる勢力が施設へ覆い掛かってきたので、俺一人で迎撃に出る。そして、殲滅後にジョフィへ生き残りがいない旨を確認して貰うと、すべて倒し切ったことが報告されたのであった。





 魔族と魔族が率いていた奴らを駆逐した。それでも念の為、ジョフィに施設の周囲及び施設内に残敵がいないことの確認をして貰う。また、俺自身も周囲を索敵して回ったが、見回った範囲に敵らしき気配を感じることはなかった。


「取りあえず気配はないが……ジョフィ。そちらはどうだ?」

≪周囲に生息する自然動物以外の反応はありません≫


 ふむ。

 どうやら、襲ってきた魔族たちは完全に駆逐したと判断してよさそうだ。なれば、一まず脅威は去ったと言えるだろう。そう判断すると、施設内へと入って行った。もっとも、今回は裏口ではなく、正規の入り口である正面からエレベーターを使う。そのまま地下へ戻ると、間もなくジョフィの元へと戻った。コンピュ-タールームへ入ると、何とはなしに違和感があることが分かった。とは言うものの、別段べつだん敵の気配があると言ったたぐいものではない。ならば違和感の正体が何であるのかというと、それは勇者プロジェクト最後の素体となる彼女の様子であった。まず、取り付けていたヘッドギアの様な機械は取り外されている。だがそれ以上に、彼女の目には理知的な色と意思の様なものが感じられたのだ。また、彼女の纏う雰囲気も変わっている。その在り様は、俺が彼女を目覚めさせた時とは比べるべくもなかった。


「……ジョフィ。もしかして、彼女に対する処置は終わったのか?」

「はい。ほとんど被害らいい被害がなかったのは、一重にシーグヴァルド様のお陰です」


 ジョフィは礼を言ってきたが、今回の襲撃は俺自身に問題があることは前述した。何と言っても、施設を隠蔽していた魔術陣を破壊したことがそもそもの原因となる。だからこそ、魔術に対して迎撃に出ることを買って出たのだ。それで当初の目的であった迎撃を成功したわけだが、実のところそれで問題解決とはならない。どの様な方法で知り得たのか分からないが、魔族側にこの施設の存在が感知されてしまったからだ。そして派遣した魔族が戻らないとなれば、何かがあったと追加の人員を派遣してくるのだろうというのは、想像に難くなかった。

 その一方で俺はというと、いつまでもこの施設に関わり合ってはいられなのが正直なところだ。魔族側に知られてしまったことに、責任を感じないわけではない。だが、俺の目的は惑星を脱出してシュネたちと合流することにある。シュネたちが俺たちを探し出すまでこの場に待機するという方法を選択してもいいが、さりとていつ襲ってくるか分からない敵をただただ待って迎撃するなどというのも御免なのだ。


「時にシーグヴァルド様。実は、お願いがございまして……」

「何だ、言ってみろ。聞くだけなら聞いてやる」

「その、手助けをお願いしたいのです」

「手助け? 何の手助けだ?」

「はい。大魔王討伐の手助けです」


 ジョフィの願いとやらを聞いた俺は、その内容に思わず驚きの表情を浮かべてしまった。まさか、大魔王討伐の手助けを頼んでくるとは想像もしていなかったからである。とは言うもの、どうして大魔王討伐などという話が出てきたのかが分からない。確かジョフィの話では、大魔王は既に討伐されている筈。それであるにも関わらず、今さらになって討伐とは意味が分からなかった。


「ジョフィ。大魔王は討伐されたと聞いた気がするが。それなのに、どうして今さら大魔王討伐なんだ?」

「はい。厳密に申せば、討伐はされておりません。大魔王に深手を負わせることは出来たのですが、味方の損害も非常に大きく止めをさすのは難しい。そこでせめてもの手段として、大魔王を封印しました。当時では、それが精一杯だったのです」


 ん?

 何かジョフィから前に聞いた話とは違う様な……あ、そうか。ジョフィは勝ったとは言ったが、討伐されたとか大魔王に止めを刺したとは言っていない。あくまで、結果として勇者側が勝った。そう言っていただけだ。そうであるならば、今さらになって大魔王討伐を言い出したとしても不思議はない。だからといって、なぜ今このタイミングで言い出したのだという疑問は残る。そこでさらに問い掛けると、その答えは寧ろ俺がもたらしたものだった。

 ジョフィ曰く、魔物だが縄張り意識が高い。ゆえに、異なる魔物の種族が一緒に行動するなどまずありえないのだそうだ。但し、同族であればその限りではない。力関係の優劣をつけてからという前提があるものの、同族間でコミュニティを作ることは例こそ少ないが有り得るのだそうだ。しかしながら、ここに例外が存在する。それが何と、大魔王の存在らしい。実は大魔王だが、別種族であろうとも魔物であれば従えることが出来るとのことだった。


「何で、そんな能力を持っているんだよ」

「元から与えられていたもののようです」


 スポンサーの意向か、それとも研究者の趣味だったのかは分からない。だが確かに大魔王には、魔物を従える能力があったとのことだった。

 なるほど。

 確かに俺はジョフィへ、魔物たちが一つの拠点でたむろっていたという話はしている。どうもその点からジョフィは、大魔王が復活したのではとの結論に至ったらしい。そこで、俺に頼んできたというのがことの真相のようだ。既に嘗ての様に勇者の集団はいないという現状を考えれば、俺に頼むのも間違ってはいないと言えるかも知れない。ましてや俺は、魔族及びその手下を圧倒的な実力差を示しながら倒している。映像越しとはいえその姿を見たのだから、ジョフィの言い分も分からなくはなかった。

 また、実は俺にもメリットはある話だと言える。そのメリットとは、嘗て大魔王の拠点に攻め込んだ勇者たちが持ち込んだ武器や防具たちだ。何と100人の勇者たちの増備だが、揃いも揃ってミスリスなどといったいわゆる希少な魔法金属で作成されているらしい。だから大魔王の拠点へ乗り込めば、修理の材料として欲してやまないミスリルなどの魔法金属でできた武器や武具や道具が見付かる可能性が高いからであった。


「うーん……いいぜ」


 デメリットもメリットも考えた上で、俺はジョフィの願いを受け入れた。どの道、このままでは、ミスリルなどといった魔法金属を手に入れるまでどれぐらい時間が掛かるか分からない。魔法金属の元となる鉱物が枯渇している以上、それはなおさらだと言える。しかしながら、先に述べた様に大魔王の元まで行けば、手に入れることが出来る可能性が上がるのだ。それに、数の上で劣勢であったにも関わらず、多数の勇者を送り込んだ人類に対して辛勝という結末をもたらした大魔王に興味もある。俺も一応は、戦いに身を投じる者だ。それだけの強さを有している大魔王は、気にはなる。それがたとえ、話半分であったとしてもだ。


「本当ですか!?」

「ああ。嘘は、言わない。だけど、ジョフィ」

「はい」

「お前は、サポートしないのか?」

「しないといますか、出来なくなります。この施設は爆破し、吹き飛ばしますから」


 撃退したとはいえ、もはや施設の場所は敵側へ判明していると考えていいだろう。大魔王率いる魔族側の手の者たちが、俺が見つけた様にあくまで偶然であったとする希望的観測もなくはない。しかしながら現状から察するに、施設がある場所は敵へ把握されてしまったと考えた方が間違いないのだ。

 だからといって、施設の爆破とは極端な結論ではある。元々もともと、施設を隠蔽していた魔術陣を復活させることが出来れば今一度、隠蔽することも可能かもしれない。それであるにも関わらず、爆破という結論を導き出した。

果たしてその理由だが、一体全体、何であるのだろう。


「……もしかしてジョフィ、この施設を利用させない為か?」

「はい。シーグヴァルド様。以前、お話ししました通り、大魔王には施設を利用している節がありますので」


 そういえば、そんなことも言っていたな。大魔王が自身を含めた魔族を生み出した技術を流用している可能性があるとかないとか。そしてこの施設は、勇者プロジェクトなどといったものを進めていた施設となる。しかもジョフィの話によれば、勇者計画の中枢であったと言ってもいいぐらいの施設らしい。その様な技術が大魔王へ流れれば、もはや打つ手はなくなるとでも考えたのだろう。ただ、前にジョフィは緊急時の手順に従って俺に従うとか言っていた気がするのだが。

 まぁ。今の状況は俺にも責任がないわけではないので、その辺りはスルーしておく。それに、いずれはこの惑星から離れるつもりだし、現状では施設があっても折れには管理が出来ない。その点を考えれば、爆破した方があとくされはないともいえた。


「爆破、ねぇ……だったら、爆破を遅らせないか?」

「なにゆえでしょうか」

「どうせ爆破するなら、出来るだけ敵の勢力は引き付けたいからだ」


 魔族が派遣した部隊の連絡が経たれた以上、この地で起きた事案の発生理由を調査。または、原因を排除する為の人員が送り込まれてくると考えた方がいい。それであるならば、施設自体を囮として使えば、幾らかでも敵の戦力を引き付けられる。さらに隠蔽の為の魔術陣を再度仕掛けることが出来れば、なおさらだろう。


「分かりました。この施設を、囮とします」


 ともあれこうして、この惑星に住む人類のあずかり知らぬところで、種族の存亡を掛けた争いが静かに始まったばかりか、異星人の俺がその争いに関わることとなったのであった。

ご一読いただき、ありがとうございました。



別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ