第二百四話~襲来 二~
第二百四話~襲来 二~
施設が、魔族による襲撃を受けた。そして施設を司るコンピューターが俺に従う態度を示している以上、この施設は俺のものである。ならば施設の主として、敵を排除するのは当然の行動であった。
俺たちが施設に踏み込んだ入口とは違う出入り口、いわば裏口を通って地上に出た先で襲撃者たちが施設編侵入を果たすべく勤しんでいた。無論、その様な暴挙を許す筈もない。敵の様子からこちらに気付いていないことを幸いに、俺は奇襲を仕掛けた。スラスターを使用して気付かれる隙を与えずに接近すると、標的とした敵の一体へ体当たりを行い吹き飛ばす。すると敵は、右往左往していた。多分だが、いきなりの攻撃で現状を把握できていない為だと思われる、そしてこんなチャンスを、逃す気などさらさらない。スラスターを使って急速に方向を変えると、目標を変えて敵を攻撃していく。流石に数体も倒されれば、状況の把握は出来ていなくとも襲われていることを認識したらしい。リーダーだと思われる魔族が、手近にいる味方に指示を出していたのがその証拠だろう。するとその直後、リーダー格の魔族を中心に、円を描くように敵勢が布陣した。
最もバラバラになっていようが纏まっていようが、俺の行動が変わるわけじゃない。スラスターによる高速移動を基本として、スピードを生かした攻撃をするだけである。実際、俺はスラスターと身に纏っているデュエルテクターの装甲に物をいわせて、体当たりを続けていた。
敵の布陣なんてものともせずに体当たりを続けていたその最中、視界の先に赤い塊が見える。しかもその塊だが、俺へと向かってきていた。どうもその赤い塊は炎であり、誰だかは知らないがどうやら火の魔術でも使用したと判断してよかった。
「……まぁ、大丈夫だろう」
そもそもデュエルテクターは、様々な耐性が高い。物理的な耐性、即ち装甲という意味では勿論のこと、魔術に対しても耐性は高いのだ。何せ魔術の威力としては鬼のように高いシュネの放つ魔術でも耐えられるようにデュエルテクターは作られている。実際にシュネ自身が全力で魔術を放って、性能テストを行っているのだ。そのテストを耐え抜いたものが、完成品としてのデュエルテクターである。そして俺自身、シュネを超える魔術の使い手に会ったことはない。先代のパーソナルデータを使用して組み上げたシーグヴァルドの疑似人格、つまり俺たちの使用する魔術の師匠であっても、こと威力という点で言えばシュネにも遠く及ばないのだ。俺の知る限り最高の魔術の使い手となる存在、それがシュネなのだ。
そんなシュネが放つ全力の魔術すら、デュエルテクターは耐え抜くのだ。ジョフィ曰く、魔術や魔力に対する適正が高い魔族といえども、シュネを超える魔術を使用できるとは到底思えない。ましてや、襲撃してきている者たちのリーダーであろう魔族がシュネを超えるなどとはあろうはずがないのである。結局、俺は抵抗すら見せる素振りもなく、恐らく炎の魔術を受け入れたのだった。
間もなく俺と接触した魔術は、俺を中心に炎をまき散らす。それなりの高温だとは思われるが、デュエルテクターの耐熱温度を超えることはない。それどころか、デュエルテクターの使用者である俺自身にも、熱は伝わってこない。勿論、衝撃の様なものを感じることもない。とどのつまり、全くの無傷であった。
「やったか!?」
誰とは分からないが、声が聞こえてくる。状況から察するに、魔術を使用した魔族の言葉だと判断した。内心で盛大にフラグを建てたななどと思いつつ、俺は高速移動を取りやめて立ち止まるとその場で佇んでいた。
炎の魔術が直撃したせいなのか、俺の周囲には盛大に煙が充満している。もしかしたらこの状況こそ、敵の魔族がフラグを建てた原因かもしれない。最も、敵がフラグを建てようと建てなかろうとどうでもいいのだけれど。
「……ば、ばかな。俺の魔術が、直撃したんだぞ! それなのに……それなのに! どうして無傷、なのだ!!」
「そりゃ! お前の魔術が弱いからだろう?」
「ふ、ふ、ふざけるな!! 俺の魔術が弱いだと!」
「ああ。正しく、今の俺が証明しているだろうが」
「……ならば! 俺の全力を込めた魔術、食らうがいい!」
そう言ったあと、魔族は詠唱を始めた様である。とは言え、この惑星で使用する魔術の内容に関してそこまで詳しくはない。そんな俺であっても、それなりに威力がありそうな魔術だと思えた。とは言え、シュネが放つ魔術にはとてもとても足元に及びそうもない。ゆえに俺は、この魔術も受け止めるようにした。
魔族が全力を込めたという魔術だが、威力という意味では確かに最初に直撃した炎の魔術に比べれば高いだろう。しかしながらその程度でしかなく、デュエルテクターという俺が纏う護りを突破できる代物ではない。放ったのが炎系の魔術だったせいなのか、それともそういった特性を持つ魔術なのかは知らないが、またしても煙が俺の周りに漂っている。その煙が少しずつ晴れていくことと比例するかの様に、魔族から漏れる声の音量が上がっていく。しかもその声に込められている感情は、驚愕とそれ以上に大きな恐れであった。とは言え、自称全力の魔術を直撃させた相手、要は俺だ。その俺が、僅かでもその場から動かずに立っているのだから、魔族の気持ちは分からなくもない。今回は、相手が悪かったのだと諦めて貰おう。但し、次に生かす場所などないけれどもな!
「……え?」
恐れの為か声すら上げられずにその場に立ち尽くしている魔族、その魔族に対して素早く近づいた俺は、魔族の左胸目掛けて腕を振り抜いた。肉体の抵抗すら感じさせない動きで魔族の左胸を貫いた俺の腕は、その途中にあったある臓器をそのまま掴むと、背中まで貫く。果たして俺の腕が掴んだある臓器、それは魔族の心臓だった。元々、魔族は人をモデルとして創造されたとはジョフィから聞いている。確かに能力を付加されてはいるものの、基本は人の肉体らしい。当然ながら、肉体の内部に存在する臓器もまた、同じであった。ゆえに俺は一撃で終わらせるべく、恐れからかそれとも驚きからかの理由は置いておいて、動きが鈍い隙だらけの魔族の急所である心臓を掴み取ったのだ。
「止めだ、魔族」
その体勢のまま、俺は名も知らない魔族の心臓を握り潰した。自分の心臓が見えるという状況から現実を把握しきれていなかった様子の魔族であったが、流石に自分の心臓を握り潰されてしまえばいやでも地震の身に襲っている事態が把握できたのであろう。それまで青みがかっていた顔色から一気に血の気が失せたかと思うと、直後に白目になる。そしてそのまま、ゆっくりと後ろへ魔族の体が後ろへと倒れ始める。俺は魔族が倒れる前に握りつぶした心臓を持ったまま、左胸から自分の腕を引き抜く。その直後、俺の腕と言う名の支えを失った魔族の体はそのまま地面へと倒れてしまった。
「ほれ。返すぞ」
そういって俺は、握りつぶした心臓を持ち主たる魔族の亡骸へ返したのであった。
因みにまだ生き残っていた死んだ魔族が引き連れていた者たちだが、自分たちを率いていた魔族が死んだと分かると恐慌をきたす。要するに、パニックを起こしたわけだ。その証拠に、そいつらは無秩序な行動に出始めてしまう。一目散に逃げ出す者もいれば、無秩序に暴れ始める者もいる。さらには絶望する者など、実にその様相は様々であった。そして俺も、そんな彼らに対して、容赦も同情もする気はない。寧ろ、初めから敵を殲滅するつもりであったのだから、当然だった。
「纏めて、あの世送ってやるよ」
その様に静かに宣言したあと、俺はガトリングガンであるGAU-19/B(改)を取り出した。そして構えた直後、ガトリングガンの引き金を引いて敵を容赦なくハチの巣にしていく。最後に終わったことをジョフィへ連絡して、生き残りがもういないことを確認してもらうのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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