第二百三話~襲来 一~
第二百三話~襲来 一~
シュネたちと再会するほぼ唯一の手段といっていいミスリルの情報をジョフィから手に入れようとしたその時、コントロールルームにけたたましい音が鳴り響いたのであった。
この警戒感を醸し出すけたたましいまでの音について、ジョフィへ尋ねる。するとその問いに対する答えは、施設に対する侵入者の存在であった。そんな話をきいて、俺は首を傾げる。そもそもの話だが、この施設はほんのつい最近まで隠蔽されていたのだ。それであるにも関わらず、侵入者が現れたのである。この狙ったかの様な状況に、俺は嫌な予感に包まれてしまっていた。
「それでジョフィ、侵入者だが、誰だ?」
「……この生体パターンは、魔族だと思われます」
魔族。
それは前述した様に、俺が不時着したこの惑星における人間種の天敵となった人工の種族だ。そんな魔族による襲撃が、まさかこの施設に対して発生したというわけか。とは言え、幾ら何でもタイミングが良すぎないだろうか。何せこの施設は長い間、魔術陣によって隠蔽されていた。その施設を隠していた魔術陣が機能しなくなってから、そう時が経っていない。それであるにも関わらず、施設が発見されてしまった。ならば、既に監視対象となっていたのではないのか・ そう考えた俺はジョフィへその旨を尋ねると、肯定されてしまうのであった。
「あくまで推察の域を超えませんが、可能性としてはあり得ます」
「それで、その可能性というのは?」
「他の施設に対する襲撃です」
大魔王は、仲間を増やす為かそれとも復讐の為かは分からないが、自分たちを生み出した施設やまたその施設と同等な技術を有した施設を襲撃しているとジョフィから聞いている。ならば襲撃を行った際に、他の施設に関する情報を得ていたとしても不思議はない。とは言うものの、おかしな点もある。魔族が既に他の施設の情報を得ていたのならば、なぜ今になって襲撃を行ってきたのかということだ。もし情報を既に得ていたのであるならば、それこそさっさと襲撃でも行っていればいい。だが、今の今までこの施設が襲撃されたことはないらしい。事実、施設を俺が探った際にも、過去に襲撃を受けた痕跡は全く見られなかったのだ。
「しかしジョフィ。施設内部には、敵から襲撃を受けた様子などなかったぞ」
「それは、その通りです。今までただの一回も襲撃など受けたことはありません」
「なら、何で今になって侵入をされた?」
「魔術陣が破られた為かと推察いたします」
……あー。
つまり、俺のせいか。事情を全く知らなかったとはいえ、この見付けた施設に入る為に入口を封じていた魔術陣を壊してしまっている。ならば施設を守っていた魔術陣を壊した者として、責任を取る必要があるか。
「なら、責任を取らなくてはならないな……ジョフィ、俺も迎撃に出るぞ」
「お願いします」
「ああ。だから、彼女のこと頼むぞ」
そこで俺は、コントロールルームに現在、唯一ある椅子に座ってヘッドギアの様な何かを被っている勇者プロジェクト最後の素体である彼女へと視線を向ける。するとジョフィから、頼もしい返答がある。その言葉に頷いたあと、俺はグリフォンのアーレへコントロールルームに残る様に言った。するとアーレから、幾らかの不満がある雰囲気が様に感じられる。だが俺としては、現状動かせる状態にない彼女の守りを一つでも厚くしたいのだ。ゆえに俺は俺の思惑を、アーレに伝える。相も変わらず不満そうな雰囲気が感じられたが、それでも最後には首を縦に振って了承したのであった。
魔族が侵入を行おうとしている場所は、俺が入ってきた施設への入口だ。今はエレベーターの扉をこじ開けようとしているようだが、魔族にとっては残念なことに。そして俺たちにとってはありがたいことに、旨くはいっていないようだ。その理由は、エレベーターの扉に使われている材質にある。エレベーターの扉も勿論だが、実はこの施設の壁と同じ材質で作られている。つまり、エレベーターの扉は魔力を分解するのだ。しかもジョフィの話によると、魔族の力の源は魔力らしい。つまり現状、力の根源である魔力を使用した術などが通じない。若しくは、通じにくいと言うこととなるのだ。逆に言えば魔族は、魔力に大きな影響を受ける。だからと言って、魔族の対策がこれで万全なのかと言われるとそうでもない。施設の壁などはあくまで触れた魔力を分解する効果を持っているに過ぎず、物理的な攻撃自体はその材質が持つ耐久性でしか保つことが出来ないとのことである。例えば、魔力によって身体能力を上げた状態で素手による攻撃をしたとする。だからといって、身体能力を底上げした魔力が分解されるわけではない。それはあくまで、攻撃自体は素手で行われたによる物理的な攻撃となるからだ。そして魔族は、その生み出された特性的に魔力が高い。そんな魔族が、自身の魔力を用いて身体能力を底上げした状態で攻撃されると、たとえ壁や扉であったとしても、耐えきることが出来るかは分からないとのことだった。
まぁ、相手の強さにもよるようだが。
例えば、相手が魔族の下端であればほぼ壁や扉が壊されることとはないらしい。しかし仮の話だが、大魔王本人が攻めてきたとすれば間違いなく耐えられないとのことだった。
「それで、襲撃して来た魔族だが、入口を破れずに留まっているところを見ると、幹部クラスでもないということ」
「状況から考えるに、その通りかと思われます」
そうであるならば、放っておいてもいい様な気もする。だが、途中で魔族の気が変わって、より強い魔族を連れてこようなどといった行動を始めて貰っても困る。やはりここは、早々に倒した方がいいだろう。だから俺は、魔族を倒しに向かったのであった。
取りあえずジョフィへ、エレベーター意外に施設の外へ向かうルートはないのか聞いてみる。すると避難階段。要するに非常階段が存在するというのだ。そこでジョフィから、避難階段の場所を聞き出すとそちらに向かう。果たして避難階段だが、タイプとしては無柱螺旋階段と呼ばれるタイプだった。これは真ん中に柱がないタイプの螺旋階段で、そこは空間になっている。そして俺のデュエルテクターには、スラスターがある。このスラスターを使って空間部分を行けば、一気に地上にまで行けるのだ。
「さて、いくか」
螺旋階段中央付近の遮蔽物のない何もない空間に立つと、スラスターを使って一気に地上に一番近い場所まで移動する。そして避難階段の出口を開くと、扉を開けて外へ出た。だが、すぐに施設の外というわけでもない。少し通路が続いたあとに、スライド式の扉が見えてきた。そのスライド式の扉の前に立つと、静かに開いていく。やがて扉が完全に開いたあとに顔を出すとそこは施設の外であり、その場所から少し離れた地点に本来の施設への入り口らしい建物が見えた。さらに言うと、建物の周りには十数名の存在がある。一応人型と言えるその存在だが、どうやら容姿から判断するにゴブリンやオークなどであった。
「あそこで屯っているところを見ると、まだ壊されてはいない様だが……」
しかしゴブリンやオークたちは、それぞれが手にしている道具を使って壁を破壊しようとしている。ならばもしかしたら、そのうちに壊されてしまうかもしれない。だが、今ならまだ壊されていない。施設入口の破壊などという名の傷口が広がらないうちに、敵を排除することにした。
そして俺が完全に扉から出ると、出てきた扉自体が消えていく。多分だが、入口が隠されていたのと同様な効果を持つ魔術陣が施されているのだろう。そう結論付けた俺は、出てきた場所など気にするでもなく視線を魔族たちへ向けた。一番偉そう態度をしている奴がいるので、そいつが恐らく敵部隊のリーダーだろう。そして十中八九、襲撃部隊のリーダーは純粋な魔族の筈だ。しかもそいつらだが、建物内へ侵入する為の破壊に忙しいらしく、俺に気付いている様子がない。せっかくの不意打ちチャンスであり、せいぜい利用させてもらうとしよう。俺は、二度三度と軽くステップを踏んだあと、スラスターを使って一気に襲撃者たちとの距離を詰めたのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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