第百九十九話~施設 一~
第百九十九話~施設 一~
見付けた遺跡……いや施設を探索中に、フィルリーアの研究所を思い起こさせる設備を見た俺は、どことなくワクワクと胸を躍らせながら施設を把握する為の行動を再開するのであった。
ある意味で見慣れた設備が鎮座している部屋だが、ただ眺めていたところで何かが分かるわけでもない。一まず、稼働中の機械へと近づいてみる。稼働中であることに間違いはないが、それはただ動いているだけに過ぎない。円筒の中に満たされた液体の中には、何らかの痕跡すら見付けられないでいた。
「ふむ。何かを育てているとか、何らかの治療中という雰囲気を感じないな。ただそこにあるだけ、そう考えるのが一番しっくりくる」
円筒のなかに満たされている液体をながめるのを止めたあと、俺は円筒の設備に繋がっている機器へと近づく。どうやら制御する為の機器であり、その辺りを代物ではないかと見当を付けたのは間違いなかったらしい。機器の中央部にあるモニターに記されている情報だが、おおよそだが見当は付けられる。やはり、多少読解が難しいものの文字を読めることが大きく貢献していた。
どうもこの惑星で使われている言語よりこの施設で使用されている言語は、回りくどいというかどこか古臭さを感じる分かりにくい言い回しが多いと思える。そこから受ける印象は、地球で学生時代に学んだ現代語と古語の関係性を思わせた。
「少し読みづらいけど、分かるからいい。な、アーレ」
「クエェェ?」
最後にアーレへ振ってみたが、返ってきたのは首を傾げる仕草と疑問を連想させる声だった。最も、俺も返事までは期待していたわけじゃない。ただ何となくというか、気まぐれで話をアーレへ振ったのだ。しかしてアーレの仕草だが、少しほっこりさせる。とはいえ、その仕草についてはひとまず置いておくとして、今は設備の状態を確認する。多少だが勘も入った操作だったが、設備が似ていると仕様も近い様に思える。思いのほか簡単に操作できたことに感謝しつつ、まだ少し解読しづらい文字と悪戦苦闘を続けることになる。お陰でそれなりに時間が経過してしまったが、それでも把握は一応達成できていた。
さて。
目の前の設備についてだが、あくまで稼働しているだけでしかない。そして本来ならば、円筒の中で何かを培養とかに使用している筈であることが分かった。その結果を知って、俺は眉を寄せる。培養云々という結果が出た以上、バイオ系の研究を行っていたことが分かる。しかしながら、幾らバイオ系の研究を行っていたとして、あの様に厳重に隠蔽する必要があったのだろうかという点だ。わざわざ次元をずらしてまで、施設の入口を隠蔽していたのである。そこにほのかな後ろ暗さを感じたとしても、無理はないだろう。
「よほど隠したかったのか、それともほかに理由があるのか……やっはり、中枢を押さえる方が手っ取り早いな」
取りあえず、施設に対する憶測は取りやめることにする。どの道、施設の中枢へ到達すれば分かるからだ。同時に、気を付けた方がいいことが出来たとも言える。これも今まで俺が気付かなかったことも十分問題かもしれないが、これから邪魔が入るかもしれないからである。中枢には設備を司っている、俺たちで言えばネルの様な存在があるかも知れないからだ。その中枢で仮にネルの様なシステムが存在していた場合、俺たちを排除しに出る可能性が無きにしも非ずと言ってよかった。実際、フィルリーアから旅立つ際に破壊した研究所だが、もし戻ってきた時の拠点として残すなどと考えていたら、ガッチガチにブービートラップを仕掛けていただろう。元々、山をくり抜いて作られた拠点であった。それだけに、研究所の隠蔽自体は難しくはない。少なくとも、探索中のこの施設よりは遥かに楽だった筈だ。最も、フィルリーアから出発する際に、全てを持ち出してしまった今となっては意味のない仮定ではあるのだが。
「これ以上は、俺では無理だな。シュネやセレンや俊並みに精通していれば、より深く調べられだろうが……俺程度では」
兎にも角にも、俺の持つ知識や技能のレベルで出来るだけのことをしたあと、研究室とも治療室とも取れる部屋を出ることにする。通路にまで出たあと、俺はある場所を目指して進むこととなる。それは情報が集まる場所、要するに施設の中枢だ。それというのも、円筒に繋がっている機器を調べた際に、データーの形で施設の見取り図があったのだ。施設の目的などといった詳しいことまでは分からなかったが、それでも施設の全体像が把握出来ただけでも大きい。データーのダウンロードも考えたが、コンピューターの規格が合うのかどうかも分からない上、仮にダウンロードができたとしてもどのような影響が出るか分からないので諦めたのだった。その代わり、まず地図を覚えたのである。構造的に複雑ではなかったことが幸いし、覚えることが出来たというわけであった。
「えーっと……確か、この辺りだった、よなぁ」
脳みそに叩き込んだ地図を元にして、中枢を探していく。記憶頼りであるものも、迷宮の様に迷路となっているわけではない。だが、邪魔が入るかもしれないことも考慮して慎重に進んでいた。その為、多少は時間が掛かってしまうものの、ついに中枢を見付けたのであった。
地図を頼りに探し出した施設の中枢部だが、当然の様に扉は閉じている。そして扉の脇には、扉を開く為に使用するのだろうコンソールらしきものがある。しかして当然だが、俺には開錠の為のキーなど知るわけがない。それゆえに他の扉と同様に蹴り飛ばして開こうとしたのだが、その必要がなくなった。それはなぜかというと、扉が蹴りで開いたからである。中枢と思うこの場所に到着するまで全く反応しなかった扉がなぜか開いたことに俺は眉をしかめる。だが、別に俺じしん破壊衝動を持っているわけじゃない。壊さないで済むなら、それに越したことはなかった。一呼吸おいてから中へと入ると、部屋の照明が灯されていく。やがて内部が照らし出されると、そこにはかなりの大きさを持つ機械が置かれていた。一応周囲の警戒をしつつ機械へ近づく。すると機械の正面には、キーボードやモニターが置かれている。その様な機材がある以上、目の前にある機械が今いる施設の中枢。即ち、巨大なコンピューターであることは想像に難くはなかった。
「マザーコンピューター……なんだろうなぁ」
それなりの大きさを持っているので、見上げる形となってしまう。とはいえ、これ以上の大きさを持っているマザーコンピューターを見たことがあるので、そう驚くことでもない。お陰ですぐに意識を取り戻した俺は、コンソールの前に立った。それから、モジュラーを探す。俺の持つ腕輪を通してキュラシエ・ツヴァイのコンピューターであるシエを通してアクセスを試みる為だ。しかしながら、その様なことをする必要はなくなる。それと言うのも、モニターを筆頭とする周辺機器が動き出したからだ。それから間もなく、正面のモニター上へメッセージが映し出される。同時に音声も、流れ始めたのであった。
「私はJOFUY8572、通称ジョフィと申します」
「あ、ご丁寧にどうも」
敵対的な様子もない挨拶に、俺は思わず素で返事をしてしまった。
「現在、当施設は省電力モードにて稼働しています。もし全ての施設の稼働をお望みであるならば、炉を現在の状態から全力での稼働を行うことを推奨します」
どうしてその様な省電力モードとやらに移行しているのかは知らないが、ともあれこの施設は活動を最低限しか行っていないらしい。言われてみれば、確かに照明もいささか暗い様に思える。その上、現状で稼働していると言える設備はエレベーターだけであり、納得できる状況にあると言っていいだろう。
なるほど。
道理で、扉が全く反応しなかったわけである。何であれ、現状の状態よりは通常の状態の方がいいのは言うまでもないことだ。だからこそ俺は、ジョフィという通称を持つコンピューターへ通常稼働状態へ戻す旨を頼むのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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