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第十九話~新米~


第十九話~新米~



 キャスの魔力過多症の治療も無事に終わったこともあって、俺たちは行商を再開させたのであった。





 エリド王国の北部には、クロンビー辺境伯の領地がある。その辺境伯領の周辺には、幾つかの貴族領が存在していた。そのうちの一つに、エイムズ男爵家がある。領地としては、クロンビー辺境伯の領地よりさらに北側となり、国境により近くなる。そのエイムズ男爵領には、男爵の館があるエイムの町と別に村が二つほどあった。

 その二つある村の一つに、俺たちは到着する。この村には一応雑貨屋があるのだが、品揃えとなるといささか心許ない。だからこそ、店があるような村であっても、行商が可能であった。

 何せ流通という面において、フィルリーアは必ずしも当てになるというわけではない。治安の面で、どうしても不安が出てしまうからだ。町や村の間でも、盗賊や山賊などがそれなりに出没する。王都がある中央や、辺境伯領や侯爵領など力ある貴族が治めている領地ならばそれでもまだましだが、地方に行けば行くほど野盗や山賊の出没率はどうしても高くなってしまうのだ。

 他に魔物も出るし、魔物が出なかったとしても野生動物だからといってあなどることなどできない。このフィルリーアにおいて、人は万物の霊長などではないのである。


「まずは、代官か」

「そうね」


 村に入る手続きを終えたあと、商売の許可を得る為に村を治めている人物の元に赴く。この村は男爵直轄なので、代官が村のトップとなるのだ。その代官のいる屋敷……といっても豪農の家をもう少し豪華にしたぐらいの規模でしかないのだが。

 そこにいる代官から、明日から商売をする許可を貰う。その後、エイニに先行させて確保した宿屋へと向かった。そしてこの村に宿屋は、一件しかない。その宿屋の一階には、宿泊の受付をするカウンターの他に食堂兼酒場がある。そして二階より上が泊る部屋となる、典型的な宿屋であった。

 その宿屋にてエイニと合流したあと、二台の馬車を曳いていた馬を宿屋の厩舎に預ける。そして馬車自体は、専用の停車場に停めた。その後、カウンターに移動すると、そこで宿屋の女将から部屋の鍵を受け取っていた。

 エイニを先行させていたことで、宿泊に関する手続きは既に終わっている。それゆえ、すぐに部屋へと案内される。確保した部屋は三部屋であり、一つは俺とシュネが使う。男女でありながら同室の理由は……いわせんなよ。

 あと、二つ目はオルとキャスの兄妹が宿泊する。残りの一つは、アリナとビルギッタ、エイニとヘリヤが使う部屋であった。

 それぞれの部屋で、荷物を置く。その後、全員で村の中央にある広場に向かった。この広間の片隅で、明日から商売を行うことになる。そして少し離れた位置には、この村で唯一の店である雑貨屋もあった。

 お互いに商売敵ではあるが、ちゃんと代官から許可を得ているので別に問題にはならない。それでも一応は、挨拶をしておく。当然だがいい顔などされなかったが、そんなことは先刻承知せんこくしょうちなので気にも掛けなかった。

 雑貨屋へ挨拶したあとは、まだ時間があったので村の中を見て回る。しかし、これといった物などなく、ただ村の中をぶらついただけだった。そのまま、村の中を見て回ったあとで宿屋へ戻る。それからは、比較的広いアリナたちがいる部屋で明日の準備をしていた。

 途中で一旦中断して食堂に降りて夕食をとったが、基本的には眠るまで明日の準備についやす。やがていい時間となったので、部屋に戻るとシュネと男女のスキンシップのあとで眠りについた。

 明けて翌日、宿屋で朝食と取ってから広間に向かう。到着すると、他の村と同様に商売を始めた。実は品揃えの点でいうと、この町にある雑貨屋より上となる。食料品関係以外は、研究所の設備を使えばほぼ自前で揃えられるのだから当然だ。

 しかも品質がいいのは、言うまでもない。これでは、雑貨屋で閑古鳥かんこどりが鳴くのではと感じるかも知れないがそんなことはない。その理由は、値段にあった。同等の商品に比べれば安くなるが、それでも辺境地域へと運んでいるので値段に手数料を上乗せしている。基本的に地産地消といえる商売をしている雑貨屋に比べれば、値段では勝ち目がないのだ。

 勿論、やろうと思えば、それこそ薄利多売はくりたばいもできる。だが、店を構えるという気があるならば別だが、俺にしてもシュネにしてもそんな気はない。わざわざ地元の店に喧嘩を売ってまで商売をする気など、さらさらないのだ。

 そうなれば、村人が店へとくる理由が違ってくる。つまり、購買する目的が違うのだ。村人が日常的に使うものは、値段が安い雑貨屋に向かう。常連でもあるし、同じ村の者が経営しているという安心感があるからだ。

 一方で俺たちの店に来るのは、雑貨屋が扱っていない、もしくは扱えない品物となる。それこそ品質がいい武器や防具、他にも王都や辺境伯の領都などそれなりに発展している町まで向かはなければ手に入れるのが難しい品や一部の魔道具だったりするのだ。

 普通の行商人なら、こんな商売はしないと思う。通常の行商人が狙うのならば、個人店舗がない村や集落だろう。だが俺たちの場合、食料品等は時間経過を止められる魔道具があるので一旦購入すれば長期間の保存ができる。それ以外の物品に関しては、自作が可能だ。

 要は、人件費や作成時間などといった経費を抑えることが可能なので、多少値段を高めに設定しようが他の商売人と違ってそれほど大きな問題とはならないのだ。

 無論、採算度外視とはしていない。しかし、儲けを出しやすいのは事実だったりするのだ。

 

「ふ~ん、ふふ~ん」

「キャス、楽しそうだな」

「うん。ボクね、とっても、楽しいの」


 それこそ言葉尻に音符でもつきそうなぐらいにとても機嫌よく、キャスが働いている。本来であれば、働かせるなど考えてはいなかった。十才ぐらいの女の子を一人、幾ら他に残っている者たちがいるといって、研究所に残して皆で行商に出掛けるということなどしたくはない。だから同行させているのだが、雇用関係を結んだのはあくまでキャスの兄となるオルである。だからこそ、彼女を働かせる気などなかった。

 しかしキャスは、働きたいという。どうも兄だけに働かせたくないという思いと、体を動かすのが楽しいという思いが重なっているようなのだ。勿論、シュネが別に気にすることはないなどと諭したようだが、キャスは働くというか手伝うといって聞かない。そして俺では、説得などそもそも無理であった。

 結局のところ、重量が軽い商品の補充など、いわゆる雑用の手伝いをさせることで決着となる。勿論、フルタイムで働かせるなどせず、短時間だけという条件であった。


「そうか。楽しいか。でも、無理はするなよ」

「は~い」


 頭を撫でてやると、くすぐったそうな雰囲気を感じる。何より笑みを浮かべているので、嫌ではないことも分かる。本当に、働けることが楽しそうであった。

 その後、一頻ひとしきり、キャスの頭を撫でたあと、自分の作業に戻る。今やっているのは、魔術の掛かった鎧の展示だ。その鎧だが、今回は二種類売り出す。一つは前にも飾ったことがあるスケイルアーマーで、もう一つはラメラ―アーマーとなる。どちらも材質は鋼鉄製であり、物はいい。そして新たに売り出したラメラ―アーマーの方に掛かっている魔術は、軽量化であった。

 前回は売れなかったので、今回も売れるかどうかは分からない。だが、客寄せパンダでもあるので売れなくても別に問題はない。つまり、展示している二つの鎧に興味を抱くだけでもいいのだ。

 すると、物珍しさもあるのだろう、客はやってくる。食料品等も売ってはいるが、小麦粉など普通使いされるものは村に雑貨屋があるのでほぼ売れない。やはり興味を引いているのは、砂糖などの嗜好品や魔術の掛った鎧に代表される武器防具である。それだけに客は少ないが、売れる可能性があるのは単価が高い商品となる。沢山売れなくても、利益は出るものばかりなのだ。

 一応、雑貨屋にも武器や防具は販売しているが、質の点では比べるまでもない。勿論、雑貨屋で扱っている品物が全て低俗品だという気はない。辺境地域にある村で手に入るものとしては、普通の品質だろう。ただ単に、俺たちが扱っている品質が異常に高いだけなのだ。

 そのお陰もあるのか、単価が高いものから売れていく。値段交渉をしてくる者もいるが、その辺りは上手くあしらっていた。実際に表に出て客と対応するのは、俺やシュネや何度も同行しているので、客の対応は既に慣れているアリナやビルギッタ、それからエイニである。事実上、行商デビューといっていいオルやキャスが対応することはなかった。

 因みにヘリヤは、そもそも医者なので客対応などをさせる気はない。オルやキャスと同じく、商品の補充などといった雑用をやらせていた。

 初日は割と売れたので、売り上げは中々(なかなか)となる。しかし何日もこの売り上げを叩き出せるわけもない。それでも数日は店を開くが、そのあとは次の村へ行くつもりだった。

 因みに次の村だが、少し距離がある。というのも、もともとこのエイムズ男爵領がエリド王国の北限だったのだが、五年以上前に国が主導して開拓村をさらに北側へ幾つか設立させている。これにより国境は、より北側に移動していた。しかし、その開拓した村々も、全て順調であったわけではない。幾つかの村を作ったが、最終的に残ったのは二つの開拓村だけであった。



 さて予定通りの日数、商いを行ったあとで村を出る。村が開拓されたことで延長された街道……というのも烏滸おこがましい道を辿っていった。大体、急げば三日と少し、余裕を見て行動すれば丸四日ぐらいの行程となる。だが、男爵直轄の村を出てから二日後の夜に問題が起きたのだ。

 いつものように野営の準備を行い、それから夜食と魔術の訓練、及びオルとキャス兄妹の勉強を行っていた。その勉強の途中で、警告音が結界内に響く。この警告音が鳴るということは、害意がいいを持って結界に近づく存在がいるのだ。

 すぐに勉強は中断して、キャスとヘリヤを箱型の場所に乗せる。この箱型の馬車は、防御を考えて作られているので中にいれば安全なのだ。それ以外のメンバーは、迎撃の体勢を整える。すると間もなく、攻撃されるが結界が働き、その攻撃をしっかり防いでいた。

 その直後、結界内が光に満ちる。どうやらビルギッタが、光源を出したらしい。その明かりによって、結界内だけでなくその周辺も光に満たされる。その光に照らされ、結界のすぐ近くには幾つかの影が浮かび上がっていた。

 それは、あまり奇麗とはいえない格好をしたおっさんたちの陰である。どうやら、先ほど結界への攻撃は、このおっさんたちの仕業であるらしかった。


「これは……盗賊か野盗のたぐいか?」

「恐らくね」

「だけどシュネ。近くに、アジトにできるような場所などあったか?」

「まって……これね。少し離れているけど、かなり昔に砦として使っていた場所があるみたい。今は放棄されてから時がたっているから、完全に荒れ地として思われていたようね」


 シュネが地図を見て、盗賊のアジトらしき場所を推察した。

 かつて、砦などがあったであろう場所は、農地等への利用価値がなかったらしい。その為、昔に砦が放棄されたあとは放っておかれたようである。どうやら盗賊は、その昔にあった砦の跡地を利用しているようだ。

 エリド王国も、辺境の荒れ地とはいえ自国の土地なのだから、利用価値が乏しいといっても管理ぐらいはして欲しいものだ。


「仕方ない、倒そう。そのあとで、そのアジトも潰そう。残していると、面倒そうだ」

「そうね」


 この結界は登録されている者に限るが、出入り自由なところがいい。特に、結界を解除することなく出入りができるのが最高だ。そして相手としては、結界が解かれていないのに攻撃を受ければ狼狽うろたえるだろう。奇襲という意味でも、この結界は有効であった。

 その後、結界内にシュネとアリナとエイニ、そして箱馬車に乗せたキャスとヘリヤを残して結界より出る。幸いといっていいか分からないが、まだ完全に取り囲まれていなかったので出入り自体に問題ないのであった。


連日更新中です。


初めて、オルとキャスが行商を行いました。

といっても、丁稚状態ですけどね。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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