第百九十七話~遺跡 一~
第百九十七話~遺跡 一~
入口が見つからない現状を考えているうちに、俺はあることを思いついた。そこでシエに連絡してシミュレートをして貰ったところ、俺の考えを肯定する結果が齎されたのであった。
確実とは言わないが、入口を隠す目的で構築されたのではと思われる魔術陣を見つけることが出来た。その見つけた魔術陣に対して、デュエルテクターのセンサーは勿論、D・S改もしっかり反応が現れている。多分、本来ならば解除するキーワードでもあるのだろう。だが、キーワードなどを探している余裕などない。見つかる手掛かりがあるのかどうかも分からない鍵など、探したところでまず見つからないと思っている。その様な当てのない何かを探し出すより、魔術陣を壊してしまった方が手っ取り早いし効率的だ。
ともあれ、見つけた魔術陣を壊すことにした。すると次の瞬間、辺りに光が溢れ出す。あまりの眩しさに、もし肉眼で直していたら目が潰れていたかもしれない。だがデュエルテクターを装備中だったので、事なきを得ることが出来た。デュエルテクターには、周辺の光があまりにも強くなると、光量を自動的に調整する機能がある。そもそもは、閃光手榴弾の様な視覚を潰してくる様な攻撃に対処する為に搭載された機能なのだが、その機能が上手く働いた形だ。長い様な短い様な時間も終わり、周辺に溢れた光も収まっていく。その光が収まるにつれて、ついさっきまではなかったものが姿を現したのであった。
「……つまり、これが入口ってわけだな……」
魔術陣を壊した結果、現れたもの。それはすごく大きいというわけではないが、それでも小さいとは決して言わない構造物であった。どう考えても、隠されていた入口と見て間違いないだろう。ただ、問題なのは、構造物の中へ入れそうな場所が見当たらないという点だ。どこかに入口を開くスイッチの様なものでもあるのかと思って、近づいて調べてみる。するとちょうど反対側へ回り込んだ時、音もなく壁が開いた。どうやら、自動扉だったらしい。取りあえず中を覗き込んでみると、中はがらんどうだった。
「何にもないのか?」
肩透かしを食らった感じに、何とも気落ちしてしまう。まさか魔術陣を壊したあとに出てきた構造物の中に、何もないとは思ってもみなかったのだ。拍子抜けというか思惑を外された状況にいささか肩を落としつつも、俺はアーレと共に構造物の中へ入ってみる。もしかしたら入ってみれば何か変化が出るかも知れないという微かな期待を持ちながらであったが、期待は当たると同時に外れでもあった。俺が足を踏み入れた瞬間、中に淡い光が灯される。しかし、変化はそれだけしかなかったからだ。そのことに少しがっかりとしながら俺は、ライトで照らしつつ構造物の中を歩いて回る。すると、壁にあるものが存在していることに気付く。それは、ボタンだった。俺は内心で「何でこんなところにボタンがあるのだろう」などと思いつつ近づく。するとそのボタンの表面には、下向きの三角が記されていることが分かった。
「え? 下向きの三角が記されたボタンって……もしかしてエレベーターのボタンか何かなのか?」
「ぴぃ?」
俺が思わず漏らしてしまった言葉に、アーレが反応いている。不思議そうな雰囲気から、俺が漏らした言葉の意味が分からなかったから思わず出てしまったのかも知れない。確かに俺の言葉を理解しているのだろうが、基本的にグリフォンは野生に生きている。だからエレベーターなど、まず分からないだろう。最も、この惑星の文明が進んでいれば話は別かも知れない。しかし今まで巡ってきた町や村の様子から、少なくとも今いるこの国の文化レベルは中世ヨーロッパぐらいだと思う。魔術がある分、全くの中世ヨーロッパと同じレベルだとは言わないが、それでも劇的に違うということもない。正直なところ、誤差の範囲でしかなかった。その様な文明レベルであるこの惑星に生まれたグリフォンが、エレベーターを知っているとは思えないので、アーレの反応は寧ろ当然だと言えた。
「いいか、エレベーターというのはな……」
理解ができていない様子なので、アーレへ出来る範囲で説明していく。だけど学者でも技術者でもない、機械に関しては一般人でしかない俺の説明では分かりづらかったかもしれない。その証拠にアーレは、中々理解してくれなかった。それでも漠然的でも理解は出来たのか、アーレは頷く様な仕草をする。そのことに安心はするが、心の片隅では分かった様な仕草をして終わらせたのではないかという思いが確かに存在している。俺の説明上手くいったとは思えなかっただけに、余計そう思えてしまった。いずれ合流することができたら、シュネ辺りに改めて説明して貰う様に頼み込もうと思いつつ、俺はボタンを見る。そして少しの間だけ三角が記されたボタンを見詰めたあと、ボタンを押してみた。その直後、ボタンのすぐ脇の壁が音もなく開いていく。間もなくして壁が完全に開ききると、中は何もない四角く壁に区切られた空間だった。その様子は、どう見てもエレベーターの内部にしか見えなかった。
「となれば、だ」
一瞬だけ逡巡したあと、中に入ってみる。そして開いた壁の脇へ視線を向けると、予想した通りのものが存在していた。言うまでもなくそれは、エレベーターの中にある操作パネルである。そのパネルの表示から推察するに、どうやら今いる場所が最上階らしい。とは言うものの、表記では一階となっている。一瞬、不思議に思ったが、よくよく考えれば、不思議でも何でもなかった。何せ反応は、地下にあったのだ。当然目指す先は地下であり、地上部分が最上階なるのも必然だと言えた。まぁ、これは他に構造物がないからだろう。仮に地上部分にも上を目指す構造物があれば話は違ってくる筈だ。しかしてその場合、エレベーターに上を指し示す上向きの三角が記されたボタンがあることになる筈である。だが、その様なボタンが無かった時点で、行先は地下一択なのだ。
兎にも角にも。俺はパネルを操作する。地下だが三階しかない様で、B1からB3と記されたボタンが縦に並んでいるだけだった。取りあえず手始めに、B1のボタンを押してみる。すると、開いた扉がこれまた音もなく閉まると、やはり静かに動き出す。僅かな浮遊感があったので下、要するに地下へと向かったのは間違いない。間もなく地下一階へ到着したらしくエレベーターも止まり、扉が開いていく。扉が開ききったあとでエレベーターから出ると、そこには通路が伸びていた。このままここに留まっても話は進まないので、俺は通路を奥へと進んでいく。すると間もなく、通路の壁にスリットが入っているのが分かった。多分だが、扉なのかと思いスリットの前に立つが、エレベーターの入り口の様に開くことはない。もしかしたらスイッチでもあるのかと思い、扉の周辺を探してみた。すると、何かの装置の様なものを見つけることが出来る。しかもそこには、小さなモニターらしきものがあって、モニターのすぐ近くには小さなキーボードの様なボタンの配列があったのだ。
「うーん。何かキーワードの様なものを入力して、開閉をするのか? だけどそうなると、わからないんだよな」
正直言って、入ったばかりの施設でキーワードなど分かるわけがない。施設内をくまなく探せばどこかにあるのかも知れないが、全体の規模すら分からない状況では、わざわざ探そうという気も起きない。ということで、手っ取り早い行動に出ることにした。有り体に言えば、ぶっ壊そうと考えたわけだ。腰から短杖を外してマジックブレードを形成し、その刃で扉に切り付けてみたのである。だが、その結果に俺は目を剥くこととなった。
「な、何っ!!」
驚いたことに、マジックブレードでは扉に傷一つ付けられなかったからのである。しかも、ただ切れなかったわけではない。短杖の先から発生していたマジックブレードすらも、奇麗さっぱり消滅してしまったのだ。そして当然のことだが、切り付けた扉が切り裂かれた様子もない。俺がマジックブレードで切り付ける前と寸分違わない姿で、扉は静かに佇んでいた。はっきり言って、こんなことは初めての経験である。俺がマジックブレードを操るようになって以来、ただの一回だって対象が切れなかったなどということなどなかったからだ。まして、マジックブレードが消滅するなどといった事態も言わずもがなである。流石にこの様な事態など想定していなかった為、俺は呆気に取られてしまっていた。
「ぴぴぃ?」
アーレの声をどこかで聞いたような気がして、俺はほぼ無意識に視線を向ける。すると俺の視線の先でアーレは、どうしたのと言わんばかりに首を傾げていた。意外と愛らしい仕草に、無意識に笑みを浮かべてしまう。だがお陰で、呆けた状態から戻ってくることが出来た。俺は、意識を戻してくれたことと愛らしい仕草を見せたお礼の意味を込めて、アーレの頭を撫でてやる。するとアーレは、気持ちよさそうな声を上げながら受け入れていた。実はアーレの毛並みだが、意外とモフモフしていて撫でると気持ちがいいのである。その手触りは、結構お気に入りであった。
「ともあれ、まさかマジックブレードが効かないとは、思わなかったな」
実際に起きた出来事を疑うわけではないが、俺はもう一度同じことをしてみようと試みる。まずはマジックブレードを形成させてみたが、普通に刃は発生した。この時点で故障ではないことが判明したので、そのことに安心する。同時に、別の要素によってマジックブレードが消えたことも理解した俺は、あえて発生したマジックブレードを突き立ててみる。今回は扉ではなく周りの壁に対して突き立て様としたのだが、今回も残念なことにマジックブレードの刃が突き立つことはなかった。有り体に言えば、さっきと同様に発生した刃が消滅したのである。しかし俺は、その消え方に違和感を覚えた。何せ、刃が壁に触れるか触れないかといった距離でマジックブレードが消えていくからである。俺は壁から離れて、もう一度マジックブレードを形成してみた。やはり、問題なくマジックブレードが形成される。そこで俺はモD・S改を使いながら、マジックブレードの刃が消えていく様子を観察していたのである。するとD・S改のお陰で、マジックブレードの魔力が分解されていることに気付けたのであった。
「……もしかして、この壁や扉は魔力を分解するのか!?」
現象から推察したあまりにも想定外な観測結果に、俺は図らずも驚きの声を挙げてしまったのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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