第百九十四話~東方~
第百九十四話~東方~
カルク辺境伯領にあるギルドの対応に憤りを覚えた俺は、辺境伯の領都で行おうと思っていたほぼ全てのことを諦めたのであった。
翌日、目を覚ましたシーグは、アーレに朝食を与えてから部屋を出る。その際、アーレの食べっぷりを見て、明日からはもう少し与える食事の量を増やそうなどと思いながら一階の食堂に向かった。そこでもうお馴染みとなってしまったモーニングセットを食べたあと、一度部屋へ戻る。部屋に入ると、既に朝食を終えていたアーレは、毛繕いをしていた。そんなアーレの姿を視界の中に収めつつ、俺は出立の準備を始める。ただ準備と言っても、マジックバックに出していた私物をしまうだけである。大した時間を掛けずに出発の準備を終えると、アーレがいまだに毛繕いをしていた。とは言え、アーレを焦らせる気などない。俺はベッドに寝転がると目を瞑り、アーレの毛繕いが終わるのを待っていた。
それから暫くしたあと、毛繕いを終えたアーレがベッドで寝転がっている俺の腹の上にのしかかってくる。まだ同行する様になってから大して時間が経っていないにも関わらず、重くなっていることに少し驚いてしまう。思わず目を開いてよく見てみたのだが、確かにアーレの体つきは、出会った頃に比べて大きくなっていた。これなら重くなったのも、食事の量が増えたのも納得できるというものだった。
さて、毛繕いを終えたアーレが姿を隠してから窓から外に出たことを気配で確認してから、俺も部屋を出る。宿屋のカウンターで清算をしてから建物より出ると、アーレの気配が近づいてきたのが分かった。そのままアーレは、俺の頭の上を俺が歩く速度に合わせて飛びながらついてきている。そんなアーレを伴って領都から出た俺は、暫く街道を歩いたあとで街道から外れる。そして周囲に人目がないことを確認してから、デュエルテクターを装着する。そしてスラスターを使って上空に出ると、光学迷彩を使用して姿を隠していたアーレが光学迷彩を解いて姿を現してから近づいてきた。
「アーレ。競争するか?」
そう声を掛けると、アーレは頻りに頷いていた。その仕草を見てやっぱりアーレは、俺の言葉を理解しているなと改めて思う。その後、俺の掛け声とともに、一斉にキュラシエ・ツヴァイを駐機させている小さな山脈に向けてレースが始まったのだ。競争が始まった直後には差が出なかったが、それも距離が出てくれば話は変わるってくる。明らかに、俺とアーレの間に差が付き始めていたからだ。因みにどちらが早いのかと言えば勿論、俺である。しかしその差も、出会った頃から比べると間違いなく縮まっていた。このまま順調に成長すれば、グリフォンのアーレは俺のデュエルテクターの飛行最高速度を超えるかも知れない。まだ成長途中であることを考えれば、十分にあり得る未来だろう。そうなったなら、俺を背に乗せて飛んでもらおうとか考えながら俺は空中で停止した。そもそも競争を提案したのは、遊び半分である。では残りの半分が何かといえば、アーレの飛行速度を確かめる為であった。そして現時点におけるアーレの飛行速度は十分に把握できたので、これ以上続ける理由がなかったのだ。
俺が止まったことに気付いたらしく、間もなくアーレも速度を緩めた。だがアーレは、十分に減速したあとで止まることなく俺の胸に飛び込んできたのだった。デュエルテクター越しだから、俺の感触など分からないだろう。しかしアーレは、デュエルテクターの胸に頬ずりをしていた。よく分からないが、気配から楽しそうな雰囲気を感じ経った俺は、何も言わないし止め立てすることもない。俺の胸に飛び込んできて頬ずりしているアーレを両腕で優しく抱え込むと、デュエルテクターのスラスターを全開にしてツヴァイの元へ向かったのであった。
アーレを抱えながら飛行を再開してから暫く、山脈に穿った穴に駐機しているツヴァイの近くへ着地した。その間、アーレはと言えば、俺の腕の中で大人しかった。正確に言うと、大人しかったのではなく寝ていたのである。俺はそんなアーレを起こさない様に小脇へ抱えると、作成した間もない穴の中へと入っていった。やがて、駐機中のツヴァイを見付けると、そのまま俺はコックピットに乗り込んだ。そして眠っているアーレを、後部座席へ乗せておく。静かに運んだからかそれとも安心しているのか理由は分からないが、アーレが目覚めることはない。時折、鼻提灯を作りながら変わらずに眠っているのだ。全然目を覚まさない様子に深い眠りだなどと思いつつ、ツヴァイのコックピットから出た。本当はすぐにでも出発してもいいのだが、外はまだ明るいのでこれから出発はしない。少しでも目立たない様に、日が暮れてから出発する予定なのだ。その後、俺は出発時間になるまで、穴の外で時間を潰すことに決める。特にしたいことがあるわけでもないので、適当に時間を潰していた。するとその途中で、コックピット内で眠っていたアーレが目を覚ます。まだ眠たそうな雰囲気を纏わせながら、アーレはコックピットから出てくると熾した焚火の近くにいた俺の近くで蹲ったのだ。やがて日も暮れたので、俺は今度こそツヴァイに乗り込む。後部座席にアーレが座っているのを確認してから、俺も前部座席に座る。その直後、ツヴァイが稼働を開始する。コックピットハッチを閉めながらも、次々とコックピット内の機器に明かりがついていく。最後にはエンジンも点火し、ゆっくりと外へ動き出す。そのままゆっくりと穴の外に出ると、ツヴァイはエンジンを噴かせて上空へ舞い上がった。
「シーグヴァルド様。どちらへ向かわれるのですか?」
「東の辺境伯領へ向かう」
「了解致しました」
シエの返事を聞いたあと、俺はツヴァイの進路を東に向けたのだった。
カルク辺境伯領から東の辺境伯領へ普通に歩けば、当然だが時間は掛かる。しかし完調ではないとはいえ、時速にして六百キロ前後は出せるツヴァイであれば大した時間は掛からない。問題があるとすれば飛行する時間だが、連続で操縦していてもそれほど負担になるわけでもない。何より疲れた場合でも、シエに任せて自分は休んでもいいのだ。最も、疲れが出て操縦ができなくなるほど東部の辺境伯の領都との距離があるわけでもない。ゆえにツヴァイは同日の夜のうちには、東の辺境伯がいる筈の領都上空へ到着していた。勿論、このまま着陸などするわけがない。座標を記憶すると、辺境伯領の辺境地域へ進路を取った。
「……この辺りでいいか」
辺境伯領の辺境地域へ到着してからさらに飛行を続けたあと、俺は適当に着陸場所を決める。一応ツヴァイのセンサーには人は勿論、人工物の反応もなかったので、まず見つかる心配はないだろう。それでも一応、ステルス機能は働かせていた。やがて着陸したあとコックピットのハッチを開けると、早速アーレが機外へ飛び出していた。ぴょんといった形でコックピットから出たアーレは、機体から少し離れたところでお座りしている。そんなアーレを見つつ、俺もコックピットから飛び降りた。着地すると、嬉しそうにアーレが寄ってくる。そんなアーレの頭を何回か撫でたあと、ツヴァイを中心に結界を張る。これで、まずツヴァイが誰かに触られたりいじられたりすることはなくなったというわけだ。
「さて、と。燃えそうな物って近辺にあるのか?」
月明かりがあるので、全く周囲が見えないわけでもない。とは言え、視界が限定されていることに変わりはない。そして見える範囲には、森らしき影はなかった。これでは、焚火を熾すことは難しい。そこで焚火を起こすことは諦めると、デュエルテクターを外してからツヴァイのコックピットに戻って日の出まで眠ることにした。
明けて翌日、目御覚ますと少し体が硬くなっていた。そこで、コックピットから出ると柔軟を行う。十運に体をほぐしたあとで改めて周囲へ視線を向けるが、やはり近くには森も林も見えなかった。こうなると、手持を使うしかない。俺はマジックバックの中から魔道具のコンロを取り出すと、それに着火をした。そしてこれまた適当に具材を取り出して、コンロの火で朝食を作った。無論、アーレの朝食も忘れない。俺と行動を共にするようになったアーレだが、なぜか食事は生より炙ったりしたいわゆる手が入った食事を好む。しかし焚火を起こせていないので、流石に炙ったりするのは難しい。だが、その点もアーレは理解しているらしく、出された生肉を静かに食べている。やがて俺とアーレが朝食を終えると、東の辺境伯ことススコ辺境伯の領都を目指して出発するのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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