第百九十三話~領都 二~
第百九十三話~領都 二~
キュラシエ・ツヴァイをハンガーに駐機させたあと、俺とアーレはカルク辺境伯領の領都へと向かう。その後、宿を確保して宿泊した翌日、ギルドへ向かったのであった。
到着したギルドの建物だが、この惑星に不時着して以来、ギルドの建物としては最も大きかった。外観的には四階建ての建物であるが、規模からして地下もありそうだ。もしかしたら、町の人口に比例して建物の規模も大きくしている可能性もある。ただ、その辺りの事情など俺にはあまり関係な話なので取り分けて追及などしなかった。
「さて、行くとしますかね」
俺と同行しているアーレは、既に俺より離れてギルドの建物の屋根部分へと移動している。だから、このままギルドの建物内に入っても問題はないのだ。正面にある扉に手を掛けて、中に入る。すると、雰囲気の違いを感じたのだった。通過した村や町で寄ったギルドだが、少々草臥れた感があった。しかしカルク辺境伯領のギルドには、その様な雰囲気はない。寧ろ、洗練された雰囲気を感じさせたのだ。
「奇麗な方がそりゃ、いいよな。それはそれとして、どこの窓口に向かえばいいのかな、っと」
正面入り口から建物内に正面から入ったところにあるホールを見回し、窓口の案内でもあるかなと見回したが、そういった類のものはなかった。しょうがないので、適当な窓口に向かい相談することに決めた。適当に俺が向かったのは、女性のスタッフが座っている場所となる。これはフィルリーアでもそうだったのだが、受付等に座っているスタッフは女性であることが多い。しかも、顔面偏差値が高いことが多いのだ。果たしてそれが、意図的なのかただの偶然なのかまでは知らないが。
ともあれ俺は、向かった受付に座っている女性へ話し掛けてみる。そこで、前述した三つの案件について問い掛けてみた。一つ目の案件である情報に関しての問題は特になかったのだが、二つ目の案件であるミスリルについては生暖かい目で見られてしまう。その理由については、分からないのであるが。だがそれでも、明らかに訝し気な目を向けられた三つ目の相談よりはましだと言っていい。より正確に言えば、受付嬢から胡散臭そうな目を向けられたのだ。しかしながら、その様な視線を向けられるいわれはない。俺が不快の色を交えた視線で受付嬢を見返すと、彼女はとても大きなため息をついたのであった。
「あのね。からかうのも冗談も、程々にしなさい」
「俺にはからかっている気もないし、冗談を言っている気もないが」
「なら、本気で言っているとでも言うの? もし本気だというのならば、お医者様をお勧めするわ」
何で俺は、ここまで言われなければならないのだろうか。 ただ、ドラゴンの遺体売却について相談しただけだというのに。正直、この女性では話にならない。もっと、偉い人でもいないのだろうか。そうなれば、話を聞いてもらえるかもしれない。
「俺はいたって健康だ」
「だったら、なおさら悪いわよ。兎に角、どいて。仕事に差しさわりが出るの」
「おい。まだ、話は終わってないだろう」
「私的に終わっているわよ。何がドラゴンよ、いい加減にしなさい!」
まるで窘めるかの様な口調で言ってくる受付嬢へ、流石に怒りを覚えた。俺が騙そうとしているのならばまだしも、純粋に相談している。しかしこの受付嬢は、俺の言葉に取り合わないどころか、初めから相手にすらしていない。何だが、相談していることが馬鹿らしく思えてきた。
「あー、もういい。邪魔したな」
気分的に害されたこともあって、俺は話を打ち切ることにした。その際、不機嫌であることを滲ませながら受付から離れたのだが、当の受付嬢の表情には厄介払いができたという色がありありと見て取れた。そんな相手の仕草にも、俺はさらなる怒りを覚える。その怒りに任せてしまいたくなる自分をどうにか抑えつつ、俺は不機嫌さを足音で表しながらギルドの建物から外へ出て行った。
俺は不機嫌な表情を隠すつもりもなく光学迷彩で姿を隠しているアーレを伴って町の市場まで移動した。そこには露店が並んでいるのだが、その露店の中で食事を提供している店を手当たり次に当たっていくと、アーレの分も含めて購入していく。要するに、やけ食いをしているのである。これで気分が晴れるかは分からないが、それでもこんなことでもして怒りを抑えないと次の考えも浮かばない。結局、十は優に超える店で食い物を買って全て食い終えた頃、漸く怒りが収まってきた。
「あー、くそ! それにしても腹が立つ!!」
お腹一杯に食べたからだろう、アーレからは満足気な気配を感じる。そして俺も、大分腹が膨れたからか少しは怒りが収まってきた。とはいえ、やはり思い出すと気分が悪くなってしまう。そこでその怒りを紛らわす為に追加で購入をしたのだが、流石にもう食べ続けることは難しくなってくる。物理的に、腹が一杯になったからだ。ことさら論じるまでもなく原因は分かっている、明らかに食い過ぎである。そして俺の腹は少し……いや。かなり苦しいが、それでも当初の目的だった怒りを抑えることには成功している。と言うか、もう腹一杯で先ほどまで感じていた怒りなどもうどうでもよくなってきたのだ。
「あ~。腹が苦しい。このまま腹ごなしの散歩代わりに、町中でも歩くか」
俺たちが今いる領都を含むカルク辺境伯領には、もはや滞在したくはない。それでも部屋は取ったのだから、せめて確保した日数分ぐらいは過ごすことにした。それに、キャンセルするのももったいないという貧乏根性も無きにしも非ずではある。何よりハンガーの穴を覆うというか塞ぐ道具や材料を購入していきたい。せっかく作ったハンガーだが、もうカルク辺境伯領から出る気満々の俺である。このまま活かそうとは、考えてもいない。だが、いずれは活かせる時が来るかも知れない。その時に備えてこの町で部材や部品などを購入しても、何ら問題とはならない。それにマジックバックの中へ入れておけば、時間も経過しない場所も取らないので材料のストックとしてはぴったりなのだ。最も、何でもかんでも入れてしまうと、容量を圧迫するだけのごみとなってしまうので取捨選択を考える。その後に購入する部材だが、まず無駄にはならない……筈だ! と、俺は意味もなく握拳を作って視線を上げる。そんな俺の視界には、ある看板が入ってくる。その看板が何かというと、商人ギルドを現す看板だった。
「……あ、そうか。別に、ギルドにこだわる必要もなかった」
俺としては金になればいいだけで、必ずしもギルドを通さなくてはならないわけではない。商人ギルドを通すか、もしくは商人ギルドから信用できる商人を紹介してもらって、そこで売却してもいい話なのだ。そのことを思い付いた俺は、このまま商人ギルドへ足を伸ばそうと考える。だが、頭を振ってその考えを否定した。領都に着いたばかりならばまだしも、今となってはカルク辺境伯の領都にあたるアルコスの経済にもしかしたら恩恵を齎すかも知れないドラゴンの売買など、する気も起きないからだった。
「あとは、板などを買って宿へ戻るか」
必要な材料や道具などを購入する為に、露店などでなく関連した商品を販売するしっかりとした店構えの店を回って購入していく。やがて物品の購入が終わったあと、宿屋に戻り食堂で夕食を食べ終えたあと、俺はシエへ連絡を入れてことの顛末を伝えておいた。
≪そうでしたか。分かりました。シーグヴァルド様が戻り次第、出発することと致しましょう≫
「すまんな。せっかくハンガーを作ったのに」
≪いえ。お気になさらないでください≫
シエへの連絡を終えたあと、俺は部屋の鎧戸を開けて夜空を見上げる。この夜空の向こうには、シュネたちがいるのだろう。などと考えつつ、現状がままならないことに情けなく思えてしまうのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
https://ncode.syosetu.com/n8740hc/
もよろしくお願いします。




