第百九十二話~領都 一~
第百九十二話~領都 一~
カルク辺境伯領の外れに存在する山並みで見つけた、嘗ては噴火口であった場所。そこは辺境伯爵領の辺境という立地であり、キュラシエ・ツヴァイを隠しておくには打ってつけの場所であった。
出来上がったハンガーへ、ツヴァイを格納する。別に自分が操作をしなくてもシエが行ってくれるので、ツヴァイは勝手にハンガー内へと移動していた。これで見つかる心配は、かなり減ったと言っていいだろう。そもそもこの場所自体、人の存在は希薄なのだ。その上、わざわざ作成した格納庫内へ入れたのだから。とは言うものの、警戒だけはしておくに越したことはない。まずはハンガーの入口部分に結界を張って、外部からの侵入をまず不可能な状態にしておく。その上で光学迷彩を使って、入口そのもの物をカモフラージュしておく。そのお陰もあって、外から見る分にはハンガーの入口は分からなくなっていた。
「それでも一応、入口は物理的に塞ぐべきだろう」
いかに見えなくなったとはいえ、現状では入口は解放された状態なのだ。だからこそ、動物や魔物が入ってこられないようにする。具体的にどうするのかというと、扉を付けてしまおうと考えているわけだ。あくまで入口として機能すればいいだけなので、別に凝った作りなどする気はない。木で壁を作って、その壁を横にスライドさせる様なものを考えている。完まで成には少し手間が掛かるかもしれないが、扉自体は職人にでも依頼を出せば作ってくれるだろう。持ち運びはマジックバックがあるから、たとえ大きくなっていたとしても、問題なしだからな。
「じゃあ、行ってくる」
『シーグ様、お気をつけて』
「おう」
俺はデュエルテクターを纏うと、アーレを抱えた状態でスラスターを使って移動を開始する。その状態でそのまま俺たちは、カルク辺境伯領の領都へ向かった。但し、直接領都へは向かう気はない。一まずは、女性が当主を務めているメルゲ子爵領と辺境伯爵領を繋ぐ街道にまで出ることにした。とは言うもの、カルク辺境伯領とメルゲ子爵領とは行き来が比較的多い。しかしそれでも、引っ切り無しに街道を誰かが通行しているわけではない。それどころか時間帯によっては、誰も通らない時間もあるのだ。そこで俺は、街道から人通りが無くなるタイミングを待つことにする。その為、多少の時間は経過してしまったが、それでも我慢強く街道に人の往来が途絶える頃合いを見計らう。それが功を奏したらしく、ついに人の気配が無くなったので、ここで俺とアーレは街道を歩く人との一員として仲間入りした。
そのまま街道を歩くこと暫く、夕方となる前にどうにかカルク辺境伯爵領の領都へ到着することができた。流石は、ドルイア王国南部地域で一番繁栄している町である。今まで見てきた町や村など比べ物にならない規模を、誇っていた。文明的には中世ヨーロッパぐらいであり、しかし魔術がある分だけ僅かながらも進んでいると思えるドルイア王国であることを考えれば、カルク辺境伯領の領都はかなりの大都市だと判断してよかった。その上、領都自体にも防御力があるのだろうと思う。見た目的には、かなり高い壁に囲まれているし、俺が今いる門も中々に立派な造りをしているからだ。しかしてその門の前には、幾つか人の行列ができている。そのうちの一つの列に並んでいる全員は一般的な服装であり、とても旅をしている人物が着ている服には見えなかった。恐らくだが、町の外にある畑で働いた農民たちだと思う。要するに彼らは、この領都の住人なのだ。その為か、領都の中へ入る時間が一番短い。この手続きの速さから、領都の住人である証明書みたいな何かがあるのだろう。その様なことをつらつらとどと考えながら、俺は旅装の格好をしている者たちしか並んでいない列の最後尾に並んだのだった。
思いのほか時間は掛かったが、日が暮れる前には領都内へと入ることが出来た。お陰で、領都の真ん前で野宿をせずに済むな。などと考えつつ町へ入った俺は、情報を手に入れる為にギルドの建物へ向かった。まず知りたいのが何かといえば、宿屋の場所だ。町中にまで入れたのに、部屋が取れずやはり野宿をしなければならないなど勘弁である。ただ、町の大きさ的に住人は六桁ぐらいいると思われる。だから、グレードさえ気にしなければ、まず宿へ泊まれないという事態になるとは思えなかった。
それから暫くしたあとでギルドに到着した俺は、漸く窓口で宿屋の情報を手に入れる。何ゆえに入口で門番へ聞かなかったのかと言うと、門番がそこまで多くの情報を持っているとは思えなかったからだ。前述した様に、住人が六桁を超えている街である。その様な領都内部にあるだろう宿屋の情報を、一門番が網羅しているとは思えなかったからだ。
俺が尋ねたギルドのスタッフからこの建物近隣にある宿屋の情報、及び少し距離がある宿屋の情報も手に入れるとギルドをあとにする。その中から俺は、候補となる一つの宿屋へ向かった。その家だが、ギルドからさほど離れていない宿屋である。しかも多少だが、高級感が宿屋からは漂っていた。
「うん。悪くはない。なぁ、アーレ」
言葉の前半部分は普通に、後半部分はすぐ近くを俺の歩くスピードに合わせて飛んでいるアーレに話し掛ける。当然だが、音量は絞っている。そうでないと、傍目からは何もない場所に向かって普通に話しかけている頭が残念な人物に見られてしまいかねないからだ。何せ町中でアーレは、相も変わらず光学迷彩を働かせている。だから光学迷彩のことに気付かない限り、俺は一人で歩いている人物にしか見えない。この辺りの事情について弁えているのか、それともただの偶然なのかは分からない。ただ、アーレが俺だけに聞こえる様に小さく絞った鳴き声で答えたので、その辺りは弁えているのかもしれない。などと、考えていたのであった。
問題なく宿屋に到着したので、受付で部屋が空いているかを尋ねる。すると幸いなことに
、空き部屋はあった。その一つを確保して部屋に入り鍵をかけると、途端にアーレが光学迷彩を解除する。そして床に降りると、そのまま丸くなった。そんなアーレに、俺は食事を用意する。皿の上に肉を出して目の前においてやると、すぐに食べ始めた。
「俺は下で食ってくるから、おとなしくしているんだぞ」
口に肉を入れているからアーレは、頷くことで返答の代わりとしている。そんなアーレを見ながら小さく苦笑したあと、俺は部屋の外へ出て一階へ向かった。この宿屋も他の宿屋と同様に、一階は受付の他に食堂が併設されている。その食堂に入ると、適当な椅子に腰を降ろして夕食の注文をした。暫くしたのちに運ばれてきた食事を完食したあと、俺は部屋へと戻る。部屋の中ではアーレは食事を終えていて、寛いでいた何せへそ天で寝転がっているのだから、どれだけ気を許しているのかが分かるというものだ。出会った当初からまだ子供ともあるのかも知れないが、そのことを考慮しても今の姿のアーレに野生は感じられない。その分、気持ちがほっこりとしているので、深く追及する必要もないだろう
部屋に入って鍵を掛けたあと、相も変わらずへそ天で床に寝転んでいるアーレに近づくと優しく腹を撫でる。すると気持ちよさそうな声を小さいながらもあげつつ、しかして動く様子は見せない。アーレが俺に対して気を許していることが嬉しくて、そのまま撫で続けていた。
明けて翌日、既に起きていたアーレに朝食を用意してから一階の食堂へかう。そこでモーニングセットを注文して食べ終えると、一度部屋に戻ったあとで、アーレを伴って部屋から出た。そして、受付で部屋の鍵を渡す。その後、宿屋から出た俺は、今日もギルドへ向かう。理由としては、仕事を受ける為というわけでもない。目的だが三つ程あって、一つはこの辺境伯爵の領都に関する情報になる。この件については、事前に寄った男爵領の領都や村でも行ったことなので、今さらな感がある。だが情報は大事なので、疎かにする気はなかった。次の理由だが、それは言うまでもなくミスリルを手に入れる為の情報となる。ある意味では、こちらが最大のメインだと言える。何せこの星からの脱出が掛かっているのだから、当然だった。そして残った一つなのだが、どちらかと言うと相談と言っていいだろう。しかしてその相談が何かというと、マジックバックの中に死蔵されているドラゴン遺体の処理についてだ。いい加減処分してしまいたいのだが、何と言ってもドラゴンの遺体である。そう簡単に処分できるとは思っていない。そこでギルドを介して、処分をしてしまおうと考えたわけだ。
ドラゴンの遺体だが、余計な傷などない奇麗な状態だ。要するに、売り払えば高額が期待できる筈なのだ。そして何よりもミスリルを手に入れたい俺であり、ドラゴンの遺体の代金は資本金として十分な額になるという期待があるのだ。
「ギルドが買い取ることになるのか、それともほかの販売方法か。どのような手段にせよ、高額になるのは間違いないだろうな」
若干、捕らぬ狸の皮算用とも言われてしまうかもしれないことを想像しながら、俺はギルドへ到着したのであった。
ご一読いただき、ありがとうございました。
別連載「劉逞記」
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