第百九十一話~格納~
第百九十一話~格納~
カルク辺境伯の領都へ到着する前に大雑把ながらも周辺の把握を行ったところ、辺境伯領の外れにさほど大きさはない山並みを発見したのであった。
カルト辺境伯領における地理情報の収集中に見付けた山並みの中に、小さな盆地状の地形を見付ける。その形状から、噴火口かもしれないと思いシエとの相談の上で調査を行うことにした。そして調査が終わるまでの間、俺は暇潰しも兼ねてキュラシエ・ツヴァイを駐機させるハンガーを作るのにいい場所はないかと探索していたのである。すると、見た感じよさげに思える箇所を見つけたのだ。取りあえず、その地をハンガーの建設候補地に決める。しかしてその後も、他にも候補地はないかと探索を続けていた。
何で他の候補地を見付ける行動を続けたのかと言うと、見付けた場所などあくまで見た目でしかないからだ。実際にハンガーを作るとなると、色々と調べる必要がある。建設する場所の岩盤の強度などがそれに当たるわけだが、幾ら何でも見た目で判断することなど俺にはできない。それこそ山師なら、岩盤の脆さなどといった判断も出来るかもしれないが、俺にはそんな能力などないのだから当然だった。
「こうなると、シュネに頼んで地盤探査とかの機械や魔術。または魔道具でも作って貰った方がいいかもな」
最も現状では、それこそシュネたちと合流するか、最悪でも連絡を付けることが出来る様にならないとまず無理な話だ。自分で魔術を新たに作るという方法もないわけではないが、あいにくと俺が得意じゃない。と言うか、事実上ほぼ無理である。この辺り理由がまだ分かっていないのだが、なぜか俺は魔力こそ高いが魔術となるとシュネたちほどにはうまく扱えない。その代わりというわけでもないのだろうが、身体強化であれば、仲間内で一番の効果を齎すことが出来た。そもそも、俺の体は先代のシーグヴァルドとシュネ―リアが転生用の肉体として創造している。そして先代のシーグヴァルドは稀代の魔術師でもあったので、その辺りの調整もしていた。俺自身が操る魔力の総量は高いことも、その証明だと言えるだろう。それであるにも関わらず、なぜか限定された魔術以外の扱いが上手くいかない。厳密に言うと、体外に放出する系統の魔術は、せいぜい中級までしか扱えないのだ。一方でシュネはと言うと、上級どころかさらにその上の魔術まで扱える。その点を考慮して考えてみれば、俺だって扱うことが出来てもおかしくはない。事実、身体強化系の効果については、前述の通り仲間内では一番なのだ。しかし、放出系となると中級止まりとなってしまう。やっぱり、何らかの理由があるのだろうか。
話がそれた。
思考が明後日の方向に行ってしまったことに気付いたその時、足元にいたアーレが俺の足に体を摺り寄せてきた。その仕草に何らかの意図的なもの感じしゃがみ込むと、俺はアーレの目をまじまじと見る。しかしながら、アーレの目から意思の様なものは感じるものの、意図を汲むことは出来なかった。
「あーあ。しゃべることが出来たらなぁ」
アーレの前足の脇に両手を差し込んで、アーレの視線と俺の視線を合わせながらそんなことを呟いてみる。どうにも以前からアーレは、俺の意図と言うか言葉を理解しているようにしか思えない仕草をよく見掛けるのだ。さっきの体を摺り寄せてきたタイミングだって、俺のとりとめもなくなった考えを読んでいたとしか思えない。確かに、俺の様子がおかしくなったと感じて反応しただけとも取れる。だが、以前からの様子を鑑みるに、俺の言葉を理解しているとしか思えないのだ。
『シーグヴァルド様、調査が終わりました』
「っと。了解。今から戻るわ」
その旨についてアーレへ問い掛けて尋ねようかと考えたその時、シエからの通信が入ってくる。グッドタイミングなのか、それとも空気を読んでいないのか。とは言え、すぐに答えを出す必要はまず事柄ではある。何より今は、調査の結果の方を優先させるべきだろう。俺はアーレを地面に降ろすと、ツヴァイの方へ向かった。
それから間もなく俺は、ツヴァイのコックピットに乗り込むと、シエから詳細な報告を聞く。それによると、やはりこの場所は、嘗ての噴火口であるらしい。とは言っても、すぐには噴火が始まるなどといった兆候はないようだ。仮に噴火するにしても、早くても数万年ぐらいは先のことらしい。そうであるならば、この場にハンガーを建設したとしても問題にはならない筈だ。
となると次の問題となるのは、どうやってハンガーを建設するのかということになる。ただ、建設事態はそう難しくもないと思っている。それは、ツヴァイの機体がすっぽり隠れるだけのスペースを、確保できれば解決する話だからだ。だからと言って、問題が亡くなったのかと言うとそんなことはない。最大の問題、それは方法だろう。一番乱暴で手っ取り早い方法は、硬い岩盤に対してツヴァイの火器を使用して穴を穿ってしまえばいい。利点とすれば、ものすごく短時間でスペースを確保できる点だ。そして問題点は、ツヴァイの武装が持つ破壊力に標的となった岩盤が耐えられるのか。正に、その一点に尽きるだろう。
他の方法としては、俺が一人で頑張るというものがある。ツヴァイが入り込めるだけのスペースを、ただひたすらに俺が掘り進めていくことになるわけだ。こちらの方法だとさっきの方法より時間は掛かるが、崩落の危険は少ないことが利点である。
「どっちも一長一短だが、できれ前者がいいなぁ。何より、俺が楽だ」
まぁ、どちらの手段を使ってハンガーを確保するにしても、この場にいたところで答えが出る話ではない。実際に、ハンガーを作る場所まで言ってみないとどうしようもないのだ。ともあれ俺は、コックピット後方の座席にアーレを座らせるとツヴァイを発進させて、俺が事前に候補とした場所へ移動した。そして最初に向かったのは、当然だが最初に候補とした場所だ。しかしながら、シエのお気には召さなかったらしく却下されてしまった。どうも見た目ほどには、岩盤が固いわけではないらしい。それならばしょうがないとして、他の候補地へ向かう。結果としてシエのお気に召したのは、四番目の候補地であった。
ちくせう。
場所の選定はできたので、早速にも建設を始めることにする。どのような方法で行ったのかというと、ツヴァイと俺の共同作業となった。できる限り最小威力にまで絞って攻撃を行って、大まかに穴を穿つ。そのあとは、俺が引き継いで仕上げを行うのだ。何ゆえにこのようなことになったのかというと、一つはツヴァイが人型形態に変更できないことが挙げられる。飛行形態のままでは、手を自由に使えないのでどうやっても大雑把になってしまう。正確には、前述している様に人型への変更ができないわけではない。だが、緊急事態でもない限り、現状では形態の変更を行いたくはないと考えている。どこまでいっても、ツヴァイの状態が完調ではないからだ。
「では、頼む」
『了解しました』
直後、ツヴァイの武装によって、攻撃が加えられた。間もなく、綺麗な壁であった場所には、あっという間に大きな風穴が開いている。明かりを灯して中を覗き込むと、奥行きとしては十分すぎるぐらいに確保できている。ただ、入口となる開口部以外から光が漏れていないところを見ると、ツヴァイの攻撃が貫通していない様だ。
「シエ、流石だ」
『いえ。造作もありません』
とは言ったものの、作業が終了しているわけでもない。奥行きは問題ないが、高さという意味ではもう少し余裕が欲しい。だからこそここからは、俺の出番となるわけだ。二本の
短杖を繋げて一本にしたあと、片方側からマジックブレードを発生させる。さらにマジックブレードへ魔力を込めて刃を伸ばすと、天井部分を切って削る。幸い、デュエルテクターを身に着けてしまえば、たとえ落盤事故が起きたとしても怪我をすることなどない。それだけに安心して、作業を行うことが出来た。
こうしてデュエルテクターを身に着けながら、ツヴァイを格納するハンガーとする為に内部を拡張していく。切り出された岩などは、ドローンとアーレが穴の外へと運び出していた。まだ大きいとは言えないアーレが、口に咥えて頑張って岩などを運び出している様子に内心で少しほっこりしつつも俺は、天井を切り裂いていく。途中で昼食を挟みながら頑張った結果、どうにか日が暮れる前に形はでき上っていた。
そこでツヴァイが、穴の中へゆっくりと入ってくる。その際、機体の上部や側面が特に当たることもない。ツヴァイは、でき立てほやほやのハンガーに問題なく収まっていた。因みに地面と側面だが、手を加える必要がないほど奇麗な仕上がりとなっている。何せ俺が切り広げた天井に当たる部分より滑らかとなっているぐらいなのだ。この理由は、ツヴァイの攻撃で高温にさらされたからだと言う。高温で土がガラス化したことで、磨き上げられたかのような状態となったとのことだ。そう言えば、土などが高温にさらされるとガラス化するというような話をどこかで聞いたような気がする。最も、ガラス化した地面など今まで見たことがないので、聞いたことがあるだけであったのだが……本当だった様だ。
ともあれ、俺の手間が省けたのだからいいとしよう。決して、俺が切り裂いた天井よりも滑らかだからちょっと気に障ったわけじゃない。
本当だといったら、本当だからな!
別連載「劉逞記」
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