第百八十七話~討伐 四~
第百八十七話~討伐 四~
村を襲撃しにきた熊二頭を倒した俺は、さらなる熊がいるかも知れないと考えた。そこで、村の猟師案内の元、熊の棲み処へと向かうのであった。
案内することが決まっても尻込みしている猟師を、どうにか宥めつつ熊の棲み処まで案内させる。果たして到着したそこは、崖にぽっかりと空いた穴となっている。大きさとしてみる分には、確かにより大型だった熊も十分入れるだけの大きさを持ち合わせているだろう。では、ここまで案内してもらえば十分なので、案内人となった猟師にはもう村へ戻っていい旨を告げる。すると、表情に気色を目一杯現した猟師は、喜びを滲ませながらそそくさと村の方角へと戻っていった。
「流石に声をあげることは、しなかったか」
俺が懸念した他にもいるかも知れない熊の存在を、猟師も懸念したのかもしれない……あぁ、そうか。だから、あそこまで尻込みしていたのか。ともあれ、案内という役目から解放された猟師を見送った俺は、改めて周囲を警戒した。しかしながら、小動物の気配なら幾つか感じるがそれだけである。これならば、まず問題ないと判断すると、魔道具のモノクルタイプ検出装置・改を取り出す。可視光増幅機能や写真機能が付随しているので、こういった場所を探索する際にはうってつけだ。
元々、巣穴であることを考えれば穴の深さはそう深くはないだろう。そう判断したのだが、予想に反して思いのほか深い。どうやらただの穴ではなく、洞窟の入り口だったみたいだった。
「最悪は、ドローンで探ってみるのもいいかもしれない」
探索する穴が下手に大きいと、中を把握するのにも時間が掛かってしまう。力任せにデュエルテクターを身に着けて、洞窟そのものを壊しながら進めばいいかも知れないが、それだと洞窟自体が崩落する可能性がある。例えそうなったとしても、デュエルテクターを身に着けていれば問題は出ない。問題は出ないが乱暴すぎるので、最悪はその手を使うことも考えておくことにした。
先のことは置いておくとして、まずはこの入り口から入った近辺を調べることにする。すると毛などがたくさん落ちているので、やっぱりここを棲み処としていたのだろう。ただしっかりと検査できる様な機材がないので、確証を得られないのが何とももどかしく思えた。その後、入口近くの探索を大体終えると、今度は奥へと進んでいくことにする。その途中で枝分かれしているところが二つほど見つけるが、大きさ的に熊が入り込めるとは思えなかったので今は除外しておいた。
「気になるから、やっぱりドローンで探ってみよう」
もっとも、手持ちにはドローンはないので、キュラシエ・ツヴァイにまで戻ることになるけど。それからも探索を続けた俺は、一まず洞窟の最奥かなと思えるところへ到着する。まだ探索を行っていない場所もあるので確定ではないが、全体像としてはそれほど大きいものではない様に感じた。とはいえ、あくまで俺の想像に過ぎないので、やはりドローンを使って行けるところまで探ってみることにしておく。そこで、入り口にまで戻ってみたのだが、その途中で生き物に会うことはなかった。やっぱりあの二頭だけだったのかと思いつつ棲み処を出ると、入口に結界を張っておく。こうしておけば俺が洞窟から離れている間、仮に三頭目や四頭目があらわれたとしても、洞窟に入り込むことも洞窟から出ることもできない筈だからだ。
「さて、と。行くか」
俺はデュエルテクターを身に着けて上空へと飛び上がると、ツヴァイを隠した森へ向かうのだった。
特に問題もなくツヴァイを隠している森まで到着したので地面に降りると、結界を解除する。まだ登録されていないアーレが結界内へ入れないのでこうするしかのは分かっていても、少し面倒くさいなとも思ってしまう。だが、町中ならば兎も角、どこから敵となる生物が出てくるか分からない場所にまだ子供のアーレを置いておくことなどできないのだ。
ともあれツヴァイに近づくと、ドローンを必要な分だけ取り出す。ドローンをマジックバックへ入れつつ何かあったか一応尋ねてみたが、特段問題にはならない様だ。たまたま結界に近づいた小動物などはいたらしいが、明らかに攻撃を受けたことはなかったようである。シエからの報告に、取りあえず安心する。その後、もう一度結界を張ったあとに現地から洞窟へ戻る。すると、帰りも問題なく到着した。結界の周囲を確認するが、何かあった様子はない。そして結界にも負荷は掛かっていないので、洞窟側から何か出てきた感じはなかった。
「問題はなし、か。必要か分からないけど、念の為だったからな」
異常がないことを確認した俺は、ドローンを飛ばす前に焚火を起こす。まずは燃やす薪となる枯れ枝を、探しに出掛けた。すると、アーレもついてきたい雰囲気だったので、同行させる。俺が枯れ枝を集める間、アーレは健気にも周囲を警戒していた。もっとも、アーレが感知できる範囲より俺が感知できる範囲の広いのでその行動自体に意味があるわけじゃない。ただ、俺は何も言わないで、アーレの好きにさせていた。やがて必要な量が集まったので、洞窟の前まで戻る。この場所自体が、ちょっとした広場になっているので火を起こしても周囲に飛び火する心配がないのだ。
起こした火に薪をくべて大きくしてから水を沸かして、紅茶を入れる。その紅茶を一回口にしたあとで持ってきたドローンを取り出すと、洞窟の入り口に張った結界を解除してからドローンを飛ばした。操作に関しては、魔道具でもある腕輪を介して俺が行う。入れた紅茶を飲みながら、ドローンの探索を行っていった。因みに洞窟の内部構造だが、情報が入るたびに追加される形となるので、空間投影をして推移を見守っていた。
「うーん。やっぱり、ただの洞窟かぁ」
たまに洞窟に住む蝙蝠とか目の退化した小動物や虫などが見付かるけれど、洞窟内にいたところで不思議でも何でもない生物でしかない。しかも洞窟の奥の方では、本来の目的である熊などの大型の生物がいる様子もない。その代わりというわけでもないのだろうが、石筍などの造形による自然の芸術も見付かったりする。つまるところ、怪しいところなどないまっとうな洞窟なのだ。これ以上探っても、発見などないかなと思わないでもないが、探索を止めることはしない。どうせ調べ始めたのだから、ここは最後まで調べてやろうという思いがあった。
このあと、時間をかけてゆっくりとできうる限り洞窟の奥までドローンで探索した結果、やはりどこにも繋がっていないただの洞窟であることが判明した。正直に言うと肩透かしなところもあるが、そもそも熊が棲み処としていたこの場所に危険がまだあるのかを確かめる為だったのだ。そのことを考えれば、寧ろよい結果だと言えるだろう。あとは、このことを村に報告すればいい。もう、気絶した村長も気付いているだろうから、仕事が終了したサインも貰える筈だ。
「村に向かうとするか」
最後に、焚火などを片付けてからこの場所から離れて村へ向かった。途中で危険な生き物に接触することなどなく、無事に村へと到着する。そのまま村に入ると、村長の家を訪問した。そんな俺を出迎えてくれたのは、村長一家となる。その中には、気絶していた村長もいたのであった。
「それで……どうでしたか?」
「棲み処を調べたが、問題ない」
「おお! と言うことは、これからは熊に怯えずに暮らせるということですな!!」
「少なくとも、あの熊には怯える必要はないだろう。他から流れてきたりした場合は、流石に責任は持てないが」
「まぁ、それは致し方ありません。取りあえず、依頼終了のサインを致しましょう」
村長の言葉を聞いて、俺は必要な書類に依頼者である村長から依頼完了のサインを貰う。これであとはギルドに戻り、依頼完了の報告をすればそれでいい。俺はサインが確かに記入されたことを確認すると、村長宅を出てアテイ男爵の領都へと戻る為に村から出るのであった。
別連載「劉逞記」
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