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第百八十六話~討伐 三~


第百八十六話~討伐 三~



 アテイ男爵領内にあるギルドで受けた熊討伐の依頼。その依頼をこなす為に向かった村で対峙したわけだが、そこには何と一頭だけではなく二頭目の熊もいたのであった。





 頭の中で村長に対する愚痴をこぼしたことだし、そろそろ現実と相対するとしよう。俺と相対している熊二頭だが、威嚇のつもりなのか歯を剥き出しにして、唸り声をあげている。その雰囲気から、いつでも襲い掛かってくるように思えた。すると間もなく、俺の予想は現実となる。あとから現れた熊が、襲い掛かってきたのだ。果たして二頭目の熊だが、最初の熊より一回りぐらいは大きい。その分だけ力強い一撃に感じるが、そのスピードは若干だが一頭目の熊より遅く感じた。力が強い分だけ、速度を犠牲にしているのかもしれない。但し、そのことを熊が意識しているとは思えないが。ともあれ、速度が遅いのならば、それほど対応は難しくはない。ただ、もし問題があるとすれば、それは熊同士が連携を取った場合だ。その様な状況となれば、少し手こずるかもしれない。もっとも、その様ことはまずないと思うが。


「ま、やり合ってみればわかるだろう」


 目の前で手にしている杖を何回か回転させると、払うかの様に振り抜く。それから片手に構え杖を構えると、もう一方の手は前に突き出してみせた。それはちょうど、手の平が二頭の熊からの視線を遮るような形となっている。すると視線を遮っている俺の手が気に食わないのか、二頭とも先ほどまでとは違う感じの唸り声をあげている。それでも俺は構わず、同じ姿勢を保ち続けた。すると、ついに我慢しきれなくなったようで熊は同時に襲い掛かってくる。しかし、ここで速度の差が出てしまう。最初に戦っていたやや小型の熊の方が、先に近づいてきたのだ。この事実に俺は、やはり連携は取れていないことを確信した。これならば、同時に襲われることに比べれば対応は難しくはない。俺は手にしていた杖を使って、先に近づいてきた熊の攻撃を流して体勢を崩すと、回し蹴りを入れる。その直後、後ろに向かって杖を突き出してみる。それはちょうど、後から突っ込んできた熊に叩き込まれた形である。カウンター気味に入ったことで、その熊はたたらを踏んだ。しかし相手の体がとても大きいということもあって、勢いまでは完全に消せなかった。その為、俺もまたたたらを踏んでしまい少し体勢を崩してしまう。するとその瞬間を見計らったかの様なタイミングで、最初に攻撃を受け流して距離を取った筈の熊の腕が振り払われたのだ。そこで、崩れた体勢を無理に立て直そうとせず、俺は崩れた方向へ体を投げ出す。そのおもあって、紙一重のタイミングであったものの避けることができていた。しかしながら、このまま寝転がっているわけにもいかない。すぐに跳ね上がって起き上がると、杖を構えて二頭の熊を睨みつけた。


「大体だが、熊の動きは掴めた。ここから、どうするか……よし!」


 俺は方針を決めると、二頭の熊の間に割り込む様に躍り込んだ。そのまま、最初に戦っていた熊に対して杖を振り抜く。あとから来た熊に比べたら小さいとはいえ、それでも人間よりは体は大きい。しかしながら手に負えないという程でもなく、全く動かせないわけでもないのだ。事実、俺が手にしていた杖の一振りによって標的とした熊は距離を取らされているのだから。ともあれこうして一頭から距離を取ることが出来た俺は、もう一頭の熊の顎下に杖を突き出していた。視界の外からの攻撃だったからか、熊は対応できないでいる。その様な杖からの一撃を受けて顎を跳ね上げられた熊は、物凄く痛そうな仕草をしていた。こんな隙、見逃すなどもったいない。俺は熊の腹に目掛けて、蹴りを叩き込んだ。こちらも攻撃を受けて吹き飛ぶなどといったことはなかったが、それでも熊が俺から距離を取ることになる事実に変わりはないのだから。そして俺は、残った熊に対して再度、杖を構えていた。

 果たして熊の表情はよく分からないが、強い視線を俺へ向けながら顔を歪めているように見える。しかし次の瞬間、後方に近づく気配を感じた。言うまでもなく。吹き飛ばした熊だと思える。間もなく、彼の熊が俺へ近づいて、俺へ攻撃を仕掛けてきたのだ。

 だが、熊の動き自体は既に気配で察知していたので、俺にとってみれば奇襲でも何でもない普通の攻撃だ。俺は瞬間的にしゃがみ込んで熊の繰り出した爪攻撃を避けると、地面に手を突きながらそちらを支点にして両足で熊の顎を蹴り上げる。まともに食らってのけぞった熊に対して、地面につけていた両腕を使って空中へジャンプすると、降り抜くように顎の上がった熊をもう一度蹴り飛ばす。折角距離を詰めた熊だったが、俺の蹴りを食らってさらに距離を取らされたのだった。


「後ろから襲うんだったら、殺気ぐらい消すんだな」


 俺の言葉なんて理解できないだろうと思いつつ、吹き飛ばした熊に対して声を掛けた。しかし、そこに体つきが大きい方の熊が攻撃を仕掛けてきた。しかし俺は、手にした杖を振り回して、遅いか掛かってきた熊のこめかみへ叩きつける。やはり体が大きい分、動作が大きくなる。お陰で、察知がし易いのだ。切り返しの一撃を食らった熊は、無様に吹き飛んだ。さっき蹴り飛ばした熊より距離は短いが、それでも吹き飛んでしまった熊は無様にも地面に這いつくばっていた。

 二頭の熊を吹き飛ばした俺は、またしても二頭の熊のちょうど中間となる場所に移動する。そこで、両方の熊へ牽制するかのように構えた。間もなく、地面に倒れ込んでいた二頭の熊が、ゆっくりと立ち上がってくる。その後、きょろきょろと視線を巡らせると、すぐ近くにいる俺を漸く見つけたらしい。灯台下暗し、ってやつだな。などと思いながら杖を構えている俺に対して熊が、唸り声をあげる。それから暫くの間、睨み合いを続ける。たが、我慢ができなくなった様で二頭の熊が揃って突っ込んでくる。その攻撃を俺はぎりぎりまで待って引き付けた挙句、身体つきが小さい熊の突き出された攻撃をジャンプし紙一重で避ける。そのまま空中で回転してから、その熊の後頭部を蹴りつけた。しかし、力一杯というわけじゃない。威力としては俺ほどでもなく、蹴り飛ばすというより勢いをつけるぐらいだった。しかし、それこそが目的だと言っていい。

こうして勢いを取り戻したが熊は、そのまま突き進んだ。しかしてそこには、やや遅れながらも攻撃を仕掛けてきていたもう一体の熊がいたのだ。流石に目の前に居れば、お互いの熊も相手の存在に気付く。とは言うものの、勢いがついた状態であり急に止まることなどできるものではない。結果、俺の狙い通りに熊は、お互いに手加減なしの攻撃を当てることとなった。大型の熊の攻撃は小型の熊の頭を半ば吹き飛ばしており、小型の熊の攻撃は大型の熊の左胸を貫いている。言うまでもなく、その攻撃はお互いの熊に取っての致命傷だ。そこに俺が着地すると、今まで経っていた二頭の熊が揺らぎ、地面に倒れ伏していった。


「これで依頼は完了……かな?」


 とは言ったものの、依頼の途中でもう一頭の熊が出てきた以上、確認する必要があるだろう。結果的に言えば、熊の棲み処を教えて貰ったことは無駄にはならないかもしれない。取りあえず、棲み処の確認は明日に回すとして、今は終わったことを村長へ報告することにした。

 村長の家の入り口をノックしたあとで、依頼が終わったことを告げる。すると、恐る恐るといった感じで扉に近づいてくる気配を感じる。やがてゆっくりと村長宅の扉が開くと、そこには村長ではなく村長の息子が立っていた。


「……中に入っていいか?」

「えっと。熊は、どうしたのか?」

「倒した、二頭ともな」

「え!?」


 どうも、村の方でも熊が二頭いたこと把握していなかったらしい。ならば事前の情報伝達で齟齬が出てしまったことも仕方がなかったのかもしれない。そんなことを考えながら村長宅に入ると、なぜだか村長の姿がない。村長はどうしたのかと尋ねると、村長の長男がバ

ツの悪そうな仕草をしながら口を開いた。何と村長だが、驚いて転んで気を失ってしまったらしい。まさかそんなことになっていたとは想像しておらず、俺は思わず問い掛けてしまった。するとその村長の息子が代わりに、小さく頷く。俺は思わず顔面を押さえながら、視線を天井へ向けてしまった。


「……マジかよ……」


 ともあれ、打ち所が悪くて怪我でもしていたら困るので、俺が村長の容態を診ることにした。本格的な治療など流石に無理だが、多少なら知識はある。先代のシュネーリアが有していた知識を、一応でも学んでいるのだ。果たして村長だが、目立った外傷は見られない。息遣いにも異常はないので、ただ単に気絶しているだけだろう。とは言え、医者に見せるのが一番いいのもまた事実だ。そこで村長の息子に医者へ診せるべきだと言ったのだが、何とこの村には医者がいないらしい。しかし薬師ならばいて、その者が医者代わりの存在なのだそうだ。ならば、その薬師に診てもらった方がいいと助言しておく。そのあとで、俺もやるべきだと判断したことに着手することにした。

 まずは熊の遺体だが、マジックバックがあるので運ぶにもしまうのも簡単にできるので俺が引き取ることで決まる。しかし、体つきが大きい熊二頭だ。解体するにしても、手間が掛かることは請け合いだ。ここはギルドに持ち込んで、解体を頼むことにする。また、教えて貰った熊の棲み処に改めて向かうことにした。本当に熊が、今回倒した二頭だけならそれでいい。だが、他にいた場合は洒落にもならない。だから現場に向かって、もう熊がいないことを確認するのだ。一応案内を村長の息子に頼んだのだが、断られてしまう。その代わりというわけでもないのだろが、猟師を一人案内人として紹介してくれることとなった。その紹介された猟師の案内の元、熊の棲み処があるという場所へ向かう。正直なところ、同行者の猟師はかなり怯えている。しかし、熊を二頭俺が倒したこと知っているからか、時間こそ掛かったが逃げ出すことなく案内をしてくれた。


「さて、と」


 到着した熊の棲み処は、入口が大きめの洞窟といった感じに見える。その崖の高さだが、約十メートル弱ぐらいだ。その崖に、俺が倒した熊が余裕では入れるぐらいの高さと大きさを持つ穴がぽっかりと開いている。案内役の猟師には隠れて待ってもらい、確認する為に穴の中へと入ったのであった。

別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

もよろしくお願いします。



ご一読いただき、ありがとうございました。

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