第百八十二話~通知~
第百八十二話~通知~
面倒な一斉討伐の依頼がギルドから出される前に、俺はキュラシエ・ツヴァイを使って魔物の拠点となっている場所を秘密裏に攻撃した。その後、ツヴァイを森へ隠したあと、アカト村の宿屋へ戻って一眠りしたのであった。
何となく騒がしいなと思った俺は、まだ眠いとストライキを起こしている瞼を強引に開いて起き上がる。眠気と戦いながらも暫く耳を傾けているとすると、やがて騒がしい理由が分かる。その理由が何かと言うと、アカト村自体が騒がしかったのだ。
村が騒がしい原因に思い当たる節が無きにしも非ずといった俺であるが、だからと言って必ずしも俺の考えたことが理由だとは言い切れない。それでも時間が経てば理由も分かるだろうと結論を出した俺は、一まず身支度を整える。着替えを終えると、グリフォンの子供であるアーレに朝飯を与えた。それから部屋に鍵を掛けると、宿屋の一階へと降りる。食堂に腰を降ろして朝食を注文し、やがて出てきた朝食を食べながら周囲の噂に耳を傾けることにした。食堂には人が多いというわけでもないが、全くいないということもないのである。しかして食堂での話題が何かというと、実は幾つかあった。一つは、村の近隣と言える場所にて現れた謎の光というものである。そして、直後に響いてきた何らかの大きな音についてであった。何でも夜中に数度の光と、正体不明の震動が村へ届いてきたとのことである。間違いなく、ツヴァイによる攻撃だなと内心で思いながら、さも聞き耳を立てていますよと言った雰囲気を醸し出しておく。下手に素知らぬ顔をするよりも、話題が気になっているとしておいた方が結果として怪しまれない気がすると思ったからだ。
すると目論見通り、俺という存在が宿屋の一階の食堂で浮くこともなかった。上手い具合に、噂を気にしている面子の一人となっていたのである。その後も俺は、朝食を食べながら聞き耳を立てているという雰囲気を引き続いて醸し出しおく。しかしながら、朝食を終えると、俺は部屋へ戻ることにした。いつまでも聞き耳を立てているというのもおかしい様な気がしたというのもあるが、何より部屋ではアーレが待っている筈だからだ。果たして部屋に戻ってみると、そこでは与えた肉を食べ尽くしたアーレがおとなしく待っている。騒ぐこともなく静かにおとなしく待っていたことに対して、俺はアーレを誉めておく。しかして心うちでは、アーレが完全に俺の言葉……いや人の言葉を理解しているなとも考えていた。但し、その能力がアーレだけが持つ特別なものなのか、それとも別の要素が絡んでいるのかは分からない。だが、別に困るわけでもない。寧ろ、助かっていると言っていいぐらいだろう。全く気にならないわけではないのが、ここはあえて追及をしないでおこう。何より、誰かに聞いていいかも分からないと言う事実が存在しているのだが……まぁ、それはそれである。
ともあれ、朝食後のひと時を部屋でアーレと共に過ごしていた俺であったが、適当な頃合いにギルドへ向かうことにした。その理由だが、依頼を果たしたことを報告していないことに気付いたからである。本来ならば昨日ギルドへ報告しておけばよかった話なのだが、何せギルドのメンバーがいたとはいえ、村の近くに出没したゴブリンの小集団について報告を優先させていたのだ。その為、報告をし損ねていたのだ……はい、すいません。嘘です。完全に、忘れていただけです。
しかし思い出した以上、報告をしておこうと思ったのだ。それに、昨日の魔物の拠点を潰したことについて、もう少し詳しく話が聞けるかもしれないという、そんな理由もあったりする。少なくとも宿屋の食堂で聞き耳を立てて集めた話より、具体的な内容が聞けるだろう。こうして俺は、受けた依頼の完遂報告と情報収集をかねてギルドへと向かうのであった。
問題もなくギルドへ到着した俺は、依頼の完了をヒセラへ報告する。別に報告自体は誰でもいいのだが、アカト村のギルドに到着して以来、何かと縁があったので彼女へ報告したのだ。それから、依頼にあった薬草を出しておく。念の為にと提出した薬草は、依頼と間違いがないかの鑑定に回された。確かに必要ではあるよな。薬草と間違えて、毒草を出す可能性だってあるのだ。何せ毒草でありながら薬草に似ている植物と言うのは、割と存在している。何より実際問題として、過去にはよく似た毒草が提出されたこともあるらしいのだ。幸いなのは、このギルドではなかったことだろう。しかしてそういった理由がある以上、報酬を受け取ることができるのはよくて明日以降になる。もう一度来ることは面倒だが、別に懐が厳しいとわけでもないので、今さら一日ぐらい遅れても目くじらを立てる気もなかった。あと、依頼の薬草とは別にシエからの情報で判明した希少価値が高いと言う薬草も併せて提出しておくとしようか。
「あとさ。これも」
「え? あ、はい。これもですか……これはっ!」
書類の処理を行いながらだったからか初めは流れで受け取っていたヒセラだったが、間もなく彼女は驚きの表情を浮かべた。それからすぐに鑑定へ回したところを見ると、本当にシエが言った様に希少価値が高い薬草のようだ。
「まさか、あのような薬草が……ところで、どちらで採取したのですか?」
「言わなくちゃ、いけないのか?」
「あ、いえ! そういうわけじゃ、ありません。失礼しました」
ふーん。突っ込んでこなかったか。
正直な話、言ってもいいのだが、今はまだ言いたくない。少なくとも、キュラシエ・ツヴァイを森から移動させたあと。それならば、言ってもいいかも知れない。もっとも、その時点で俺はアカド村から離れているだろうから、どちらにしても報告することはないだろう。
「あー。そうだ、ヒセラさん」
「何でしょうか」
「宿屋で噂になっていた話ですけど、村の近くで強い光がどうとか……」
俺があえてはっきりとしない物言いで尋ねると、ヒセラは聞きたいことを理解したらしい。それは、彼女が浮かべている表情からも分かった。しかも、ヒセラの表情には苦笑が混じっている。そのことから察するに、今日は何度も聞かれたのだろうことが見て取れた。確かに、夜中に起きたことなので、時間を考えれば何回も聞かれているのだろう。
「えー、っと。その旨につきましては、近日中にギルドから正式な報告が出るかと」
「ふーん」
「ですので、それまではお待ちください」
「了解した」
どうやらギルドでも、まだ把握はしきれてはいないと見える。よくよく考えてみれば、前述した様に昨日の夜中に起こしたことだ。今まさに、人を派遣して状況に把握に努めている最中なのかもしれない。つまりギルドも、そして俺の目の前にいるヒセラも、いまだ事態の詳細については把握していないと言うことだ。しかしそうなると、どうしたものか。確かに、ギルドの発表を聞きたい気持ちもある。しかし、そもそも魔物の拠点を潰した張本人である俺が聞いても、今さらの話でしかない。とは言え、ギルドの第一報を聞いておくことは悪い話ではないだろう。そこで、どうした物かと考えたあと、方針を決めた。数日は待つが、その間に発表が行わなければ、先へ進むことにしたのである。因みにギルドからの発表だが、三日後に行われたのだ。それは俺が、村から出ると決めた日の朝であったので、タイミング的にはちょうどよかった。しかもその発表だが、断定的な物はなく「何々ではないかと思われる」などといった憶測交じりの表現が多発していたのだ。
「これなら、聞くまでもなかったか?」
だけどよくよく考えれば、この様な報告となるのも仕方がないのかもしれない。幾ら魔法などといったいわゆる超常現象が事実として存在している世界だと言っても、ツヴァイやツヴァイの武装など、この惑星の住人からすれば正にオーバーテクノロジーでしかないだろう。しかもギルドからの発表が第一報であることも考えれば、把握できていないとしても当然だと言えた。寧ろ、憶測の方が多いとはいえ、一応でもギルドからの報告と言う形にすることができたことを誉めるべきかもしれない。もっとも、最終報告であったとしてもツヴァイの存在やツヴァイの武装についての見解が出るとは思えないが。
「まぁ、いいか。ともあれ報酬も貰えているので、もうこの村に留まる理由もない。次の町へ出立してしまおう。ギルドからの緊急依頼も出なかったしな」
俺はその日のうちに宿を引き払うと、その足でアカト村から出た。ある程度離れてから、デュエルテクターのスラスターを使ってツヴァイを隠してある森まで一気に移動。到着後は、夜になるまで仮眠をとることにした。それは、昼間にツヴァイに乗り込んで移動するより、夜間に移動した方が見つけられる可能性が減るからだ。ともあれ夜まで待ったあと、俺とアーレはツヴァイに乗り込み、次の町へ向けて飛行したのであった。
別連載「劉逞記」
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