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第十七話~決着~


第十七話~決着~



 悪魔アザックの力は、予想していたものを越えていた。途中でイルタとビルギッタが参戦しても、一歩引かなかったのである。だからこそ、そこで切札を切ったのだった。





 マクニース辺境伯の領都、マークフィンの下町外れにある広間で妙に甲高い音が響き渡る。それは、アザックが俺の顔面を覆っているマスクへと爪を伸ばした直後のことであった。


「何だ! その硬度は!! 我が爪で貫くどころか、逆に粉々になるなど! たとえミスリルとて、我が爪を防ぐなどあり得ぬ!!」


 そう。

 アザックは、自身の爪で顔面でも貫くつもりだったのだろう。しかしてその攻撃は、完全に防がれていた。そもそもデュエルテクターは、神の金属とまで言われているオリハルコンと遜色ない緋緋色金ひひいろかねによってつくられている。幾ら相手が悪魔であろうが、そんな金属に勝てるわけがない。とはいえ、まだ試したわけでもなかったので、念の為に攻撃自体は腕を交差することでガードしていた。

 そして確信した。やはり緋緋色金は、悪魔なんぞに負ける筈がないということに。何せ、アザックが言っている通り、奴の爪はデュエルテクターを貫くどころか、逆に粉砕されている。つまりアザック自身で、そのことを証明してくれたのだ。


「お前がどう思おうとも、これが現実だ」

「あり得ぬ! あり得ぬのだ!!」


 自身の爪が完全に砕けてしまったという事実を受け入れられないのか、こうべを振り続けている。そんな相手を黙って見ていたのだが、やがて腕を伸ばす。そしてアザックの顔を正面から掴むと、そのまま片腕で吊り上げた。

 既に肉体強化の魔術が掛かっている上に、デュエルテクターには装備者の身体しんたいが持つポテンシャルを最大にまで向上させる効果がある。そもそも俺やシュネは、生身の状態でも既に強化がなされているのだ。そこに魔術による強化とデュエルテクターの持つ効果が相まっているので、出せる力は通常では考えられないほどとなる。ゆえに、平均的な人の体よりも遥かに大きくなっているアザックを、片手で吊り上げることができたのだ。

 完全に相手の足が浮いた状態にまで吊り上げたところで、頭を掴んでいる手に力を入れる。すると、アザックの頭がきしむ感触が手に伝わってきた。


「うがぁああ! は、離せ!!」

「話を聞かせてくれるのなら、離してやる。何で、医者でもないお前がオル……じゃない。えっと、オルトスとキャスパリークの兄妹に声を掛けた。いや、そもそもマークフィンにいるてめえが、どうやって兄妹のことを知り得た!」

「……ふっ。知らん……な……」

「答えろ!」


 さらに、頭を掴んでいる手に力を入れ、指を頭にい込ませる。今、手を離せばこめかみ辺りに指の跡がくっきりと付いているだろう。それぐらいまで力を入れると、アザックは声をあげつつ宙に浮いている足をばたつかせた。

 そればかりか、両手を使って掴んでいる俺の手を自分の頭から離そうとこころみているが、それぐらいで手が離れるほど非力ではない。伊達に魔術による強化など、様々な付加が施されているわけではないのだ。


「あがぁぁ! し、知らんものは……知らん!」

「ふざけるな! 吐け、アザック!!」

「知らんものは……答えようが……ない!!」


 痛みに叫び声をあげながらも、こちらの問いに対して知らぬ存ぜぬを貫き通している。しかも、最後に言い放った言葉には、明確に問われようとも答えないという意思すら感じられた。

 これだけ痛めつけてみても決して話そうとしない相手に、これ以上の問い掛けなど無駄としか思えなかった。


「知らない、か」

「そうだ。知らぬ。たとえ貴様が……殺すと脅そうとも、な」


 それは、何かあるまたは何かを知っていると自白しているに等しい。どうも無意識にしゃべっているのか、その辺りの意識はないように思えた。


「では、黙っていられるか、確かめてみるとしよう」

「何!?……っが!!」


 次の瞬間、アザックを背中から地面に叩き付けた。

 下町とはいえ、一応辺境伯の領都を名乗るマークフィンである。地面は石畳でおおわれており、その石畳へ容赦なく叩きつけたのだ。それだけの衝撃を食らえば、流石にたまらなかったのだろう。アザックは、痛みによる声をあげていた。

 だが、その一撃だけで辞める気はない。体に受けた損傷からか、大分力が抜けているアザックをもう一度掴み上げると、再度手加減なしに叩き付けた。すると今度は、うめき声と共に吐血する。しかもその一撃は、石畳の方が耐えられなかった。

 アザックを叩きつけた場所を中心に蜘蛛の巣状のヒビが走り、石畳が砕けていく。それでも威力は吸収できず、むき出しとなった地面がへこんでいた。そのへこんだ地面の中心でアザックは、痛みをこらえている。死んでいてもおかしくはない一撃を食らいながら、重傷で済んでいるという悪魔の頑丈さには驚きを禁じ得なかった。


「頑丈というか。化け物だな」

「お、お前に……いわれたくはない……わ」

「それで、しゃべる気になったか?」

「何度も……いわせるな……知らん」


 やはり、これ以上は無理だ。

 もし俺が尋問官じんもんかんならば、まだ方法があるのかも知れない。しかしそんな技能は持ち合わせていないので、はっきりいってお手上げだ。それに悪魔を名乗っている以上、このまま放っておいても良からぬことをきっと画策する。何より、俺たちという存在やデュエルテクターのような代物を、悪魔王率いる悪魔という良からぬ集団へ知らせる気もない。

 あえて知らせることで脅すという手もないではないが、それぐらいで手を引くような相手であれば各国に喧嘩を売るような真似をしないだろう。つまるところ、ここで消しておいた方が、色々いろいろな意味で都合が良かった。


「ならば、これ以上は問わん。安心して……死んでいけ!」


 そう言った直後、アザックを思いっきり蹴り上げる。既に「転装てんそう」の影響からか張られていた結界のような物は消えていたらしく、阻害そがいされることもなく上空へと昇っていく。そんなアザックを追って、思いっきりジャンプする。その踏み込みで石畳へ放射状のヒビが走るが、俺は気にしない。同時に俺は、デュエルテクターに内蔵されているスラスターを稼働した。

 踏み込んだ力とスラスターの推進力を得たお陰で、途中でアザックを追い抜く。その後、空中で捕まえると、その場で回転してジャイアントスイングの要領で町の外へと放り投げた。

 元々下町なので、町の中心より離れている。実際、町と町の外の境界となる壁はすぐ近くなのだ。ゆえにアザックの体は、すぐに町の外へと消えていく。そのアザックを追い掛け、奴が地面に到着する前にさらに斜め上空へ蹴り飛ばした。

 その蹴りを食らったアザックは、放物線を描いて飛んでいく。やがて地面へと接触して、土をまき上げていた。

 こうして地面へぶつかったアザックだが、遠目であるということを考慮に入れたとしても、動く様子が見えない。流石に負ったダメージが大きかったのだろうと見当をつけると、アザックの元へスラスターを使って近づく。やがて地面にぶつかったときにへこんだと思われる場所の中心で、うずくまっているアザックを見付けると、奴は顔だけを向けてきた。


「……き、貴様。よく、も……」

「敵対した以上、殺される覚悟もあったんだろ?」

「馬鹿を、いうな。人間……ごときが、我を殺す……など……有り得……ぬ」

「ならば、もう一度言う。これが現実だ。じゃあな、悪魔アザック」


 そういってから、その場で今一度、ジャンプをする。そして最高到達点でスラスターを稼働させると、一気に加速をする。そしてそのまま、もう死に体といっていいアザックに蹴りによる一撃を加えた。

 蹴りをまともに食らったアザックは、その一撃で地面に埋もれていく。そしてその身に受けたアザック自身も、その蹴りによって体を貫かれて絶命していた。


「ふう……何!?」


 空けた穴からアザックの死体と共に出てきたのだが、何と奴の体が微かに光るとまるで分解でもしていくかのように消えていく。たまに光の粒のような物も少しだけ昇るが、その粒もまるで空気に溶け込むように消えていった。

 そして間もなく、アザックの体は消えてしまい、あとには何も残らない。今、この場に残っているのは、アザックに止めを刺した時にできた穴だけであった。


「……なんだよ、これは。まさか、消えるとは……とはいえ、これで証拠もなし。後始末という意味では問題ないが、この状況で町の兵とかに見付かると面倒だな」


 相応な距離を稼いでいるので、マークフィンの町からこちらの攻防が見えたとか、目撃されたとかはないだろう。だが、絶対に見つかっていないかと問われれば分からないというのが正直なところなのだ。

 そしてもし、こちらの状況が分かってしまえば、確認の為に兵を出してくると思われる。この辺りを治めるマクニース辺境伯が余程の無能ならば話は別だが、少なくともそんな話を残念ながら聞いたことはなかった。

 本音を言えば隠蔽工作でもしたいところだが、もしかしたら辺境伯の兵が出てくるかもしれないという状況で悠長に穴の埋め戻しや地面のならしなどやっていられない。仕方なく諦めると、スラスターを使って空へ舞い上がるってマークフィン町へと戻る。そのまま、ついさっきまでアザックと戦っていた場所と町の中央を挟んで全く反対側へ向かった。

 そこで周囲を確認して、辺りに気配がないことを確認すると、その場に降りて武装を解除する。その直後、デュエルテクターは、ガントレットの部位だけを残して普段保管されている研究所へ送られる。こうして戦闘が起きる前と同じ服装になると、ここ数日行っていたように夜の町をぶらつくことにした。

 しかしその前にヘッドセットを出して、イルタとビルギッタに連絡を入れておく。既に二人ともその場より離れている筈なのだが、状況の確認はして起きたいからだ。

 すると連絡を入れて間もなく、イルタとビルギッタと連絡がつき現在の状況が分かる。やはり二人は、場所を移動しているらしい。連絡の為にと入れた通信の波長を辿って、ビルギッタが合流すると返答してきた。

 なおイルタは、宿屋に戻るそうである。こうして、今までと変わらない行動をとる理由は公的機関、具体的には騒動があった下町を調べ始めるだろう兵士たちから疑いの目を向けられない為のいわばアリバイ工作なのだ。

 このあたりは俺の考えというより、シュネの考えである。流石に荒事は兎も角、何かあった際の身の処し方などに関しては、頭のいいシュネの方が向いているのだ。

 決して俺が馬鹿だからではないことは、認識しておいてくれ。



 その後、数日はマークフィンの町で商売品を調達したり、町の中にあるいちで実際に商売を行ったりもする。その間、何度かは兵士に職質をされたが、それは俺たちだけではない。市で商売をしている他の人にも聞いているので、こちらを疑ったというより業務の一環として職質をしてきたのだと思われた。

 なお、マークフィンにいたあいだ、シュネはシュネで、連日ではないが調査を行っている。彼女の場合、事件が終えたあとにマークフィンを訪問することとなるので、疑われることはない。もし疑われたとしても、それは通り一遍の職質ぐらいだった。

 そのシュネが調べたこととは、戦闘を行った場所のそのである。彼女による調査、といっても噂を聞いたりするぐらいだが、それによると戦闘終了後に時間がたってから下町の住人が現れたらしい。その翌日には、マクニース辺境伯の兵士が集まり調査を始めていた。だがいくら調べても、町への損害以外は碌なものを見付けることができずにいたとのことであった。

 そしてもう一つシュネが調べたのは、アザックの家である。しかしこちらは、調査そのものができなかった。何せ、潜入した家そのものがなくなっていたからである。家があった場所は空き地となっており、何一つ残っていない。これでは調べようがなく、どうしようもなかったのだ。

 しかし、シュネは諦めなかった。彼女は別方面から、アプローチをする。その方法とは、会話ログである。イルタにしてもビルギッタにしても、見た目が人と殆ど変わらないといっても作られた存在であることは事実である。そこで、彼女たちに記録されていた会話履歴を調べたのだ。


「それで、何かわかったのか?」

「ええ。たった一つだけどね。シーグとの会話の中でアザックは、我が領域といっているのよ」

「それが変なのか? 確かに言い回しとしては、変なのかも知れないけど」

「そうね。でも、その会話はアザックの家にドローンを送り込んだ時の話なのよ。幾ら何でも、自分の家を「我が領域」とは言わないでしょ」

「それもそうだな」


 家ならば、家というだろう。それは、悪魔だから人だからとかは関係ない気がする。人に限らずエルフだろうがドワーフだろうが、また先に挙げた獣人や魔族だろうがだ。しかし、だからこそシュネは、その言葉に違和感を覚えたのだろう。

 もっとも、俺であったら変だとは思ってもそれ以上は追及しなかったと思うが。


「考えられるのは、中にあった薬とかは別にして、家自体を悪魔が自身の力で作っていた。もしくは、あの一帯を自分の力で覆っていたと考えるしかないのよ」

「自分の力で……そうか! 下町の住人の認識が変だったというのも」

「その可能性が大ね」


 なるほど。悪魔とは厄介な存在だ。

 これ程の力を有するなら、確かに各国へ喧嘩売るようなことをしてもおかしくはないだろう。これは、しっかりと調べておく必要があると、俺もシュネも改めて思うのだった。


連日更新中です。


えー……圧倒的な戦力差で、決着を付けました。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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