第百七十六話~参着~
第百七十六話~参着~
光学迷彩を使えば、比較的簡単に町や村へ入ることができる。俺はそのことを、完全に忘れていた。もっとも、光学迷彩についても忘れていたことについては……秘密であった。
実験というか確認も兼ねて、俺は光学迷彩を展開したまま村への侵入を行う。すると予想した通り、門番に気付かれることなく村へ入ることができた。その後、村の中を歩き回り、情報の収集に努めることにする。その結果、ドローンによる情報集めでも判明しづらかったことも確認できたのだった。
まず村の名前だが、正式なものはまだないらしい。但し便宜上なのか、開拓村と呼ばれていた。どうも名が示す通り、今まで手が入っていなかった辺境地域の開拓を目的として作られたとのことである。そして辺境地域というのは、ともかく危険が大きい。そこで住環境などがある程度安定するまでは、あえて村の名前は付けないとのことである。村の発展具合にもよるが、村に正式な名称がつくまでは時間が掛かる。平均すると、十年前後くらいの時間が掛かるものだそうだ。そしてこの村だが、移住というか村を作り上げてから七年ぐらいらしい。そして、正式に村として設立するにはまだ時間が掛かるらしいのだ。
「俺には、関係ないけどな」
まさか正式に村と呼ばれる様になるまで、この開拓村近辺に居座るつもりなどない。この開拓村で大体の情報を集めさえすれば、さっさと移動するつもりなのだ。幸いなことに、村唯一の門へと繋がる街道が北から走っている。このまま街道沿いに進めば、町か村へ到着できるだろうと思われた。そして俺は、数日の間、光学迷彩を使用している状態で村へ出入りをして情報を集めたいたのである。そのお陰で、街道を進むことで到着できる場所についての情報が得られた。どうやら、街道の先には最寄りの村があるらしい。しかも正式な名称があって、アカト村と言うのだそうだ。どうも由来は、村を開拓した初代村長の名前らしい。同時にアカト村には、フィルリーアにもあった冒険者ギルドと同じ役割を持っている思われる組織の支部と言うか出張所が存在しているらしい。この情報を得られた際に俺は、これで金の工面がつけられると考え思わず小さくガッツポーズをしてしまった。詳細にとまではいかないものの必要に足るおおよその情報を仕入れたと判断した俺は、この村から離れることを決めた。一応、片言ぐらいならば会話をできるまでになっている。これ以上は、実際に言葉を使って慣れるだけだ。とは言え、文字は書けない。流石に、書籍を扱っている店など開拓村の中にはなかったからだ。まだまだ普通の村にまで出世するには時間が掛かることは請け合いの村では、仕方がないのだろう。寧ろ一軒だけでも村の中に雑貨屋があったことに驚きを隠せなかった。
何はともあれ。最低限の情報は手に入れたと判断した俺は、キュラシエ・ツヴァイに乗って夜のうちに移動する。昼より夜の方が、目立たないだろうと判断したからだ。案の定、騒がれることもなくアカト村近くまで到着する。しかしながら、村の周囲にはツヴァイを隠しておくことができる場所が見当たらない。そこで俺は、アカト村より距離はあるものの、規模が大きい森にまで足を延ばしてそこに着陸させる。暫くのちに森の中で適当な場所を決めると、そこにツヴァイを着陸させる。そしてツヴァイの周りに結界を展開させ、ツヴァイにもステルス機能を働かせた。これで見た目的には、ツヴァイの姿は確認できなくなる。それから、今までに狩った獲物を加工した肉で夜食を済ませると、今日のところは眠ることにした。テントを組み上げてその中で寝るのだが、当然の様にアーレがテントの中へと入ってくる。まだ子供で寂しいからなのか、それとも生存もしくは防衛本能からなのか一緒に寝たがるのだ。俺としてもアーレの肌触りがいいので、断るなどもったいないことしない。抱き枕よろしく、アーレを抱きながら眠ったのであった。
翌日、朝食を済ませたあと、俺はデュエルテクターのスラスターを使ってアカト村近くまで移動した。勿論、周囲に人影や気配。さらにはセンサーに反応する様な存在がいないことを確認したあとである。やがてアカト村が視覚的に認識できるぐらいまで近づいたところで着地すると、そのままデュエルテクターを解除した。既に服は、フィルリーアにいた頃に着ていたものへと変えているので、珍しいと思われることはあったとしても、明らかに違うとして周囲から浮いて見えることにはならない筈だ。実際、開拓村の住人が着ていた服と比べても、違和感を覚えるほどではなかった。なお、アーレだが、光学迷彩で姿を消している。デュエルテクターのスラスターを使って移動しているときは抱えていたが、流石に歩行中は自由にしているのだ。
その後、短丈二本を繋げて杖の様に扱いながらアカト村へと近づいて行く。やがてアカト村入り口に到着すると、そこには門番が立っていた。雰囲気から察するに、本職の兵ではない。多分、村で組織した自警団に所属している者だろう。村に入る為だろう、数名ほど入り口に並んでいたのでそのうしろに並ぶ。やがて俺の番になると、門番へ片言で話し掛けた。
「カネ、ナイ」
「あん? ……ああ。ならば入れんぞ」
「カ、カンキン。ソレ、ハラウ」
「は? ああ、金に換えられる物を持っているのか。そうなると、手っ取り早いところでギルドだな……いいだろう。俺が連れてってやる。おい、頼む」
「しょーがねえな。早く帰ってこいよ」
入口のすぐ近くにあった小さな詰め所から、一人出てくる。今まで門番をしていた男は、その出てきた男にあとを任せると、俺を伴ってアカト村の中へと進んでいった。暫く進むと、そこそこの大きさがある建物の前に到着する。入口の上部には看板が吊り下げられていて、その看板には剣と人が意匠されていた。
「ココ、ハ?」
「傭兵ギルドだ。ついてこい」
入口の扉を開けて中に入る門番に従って扉をくぐると、そこはある意味で懐かしい景色だった。大き目のホールで、正面には掲示板らしきものがある。そしてホールの左右には、カウンターがある。ただ、左側のカウンターの奥には瓶が並んでいるので、酒場だろうきっと。
「こっちだ」
門番は俺にそう声を掛けると、右側のカウンターに向かっていく。そのカウンターの向こうには、何名かが間隔を開けて座っている。すると門番は迷うことなくカウンターの端に腰を掛けている女性の前に立つと、おもむろに口を開いた。
「新人だ」
「あら。ダイアさんが新人を連れてくるとは、どういう風の吹き回しかしら」
「カネがないんだと。だけど、換金できるものはあるそうだ」
「ああ。そういうことね、了解したわ……えっと、こちらへきて」
女性に頷くと、彼女に近づく。すると女性、多分だが受付なのだろう。その女性は、カウンターの上に紙を置いた。その紙に、何か書かれているのは分かる。だが、判別はできなかった。もっとも、こういった状況だから紙の上に書かれているのは文字だろうということは想像できる。となるとこの紙は、傭兵ギルドに所属するために必要な書類だと推察できた。
「言葉は分かる?」
「アア」
「じゃあ、字は書けるかしら?」
字を書くどころか、この惑星で使われている文字をまともに見たのは初めてなのだ。幾ら何でも書けるわけもないので、首を左右に振る。すると受付の女性から、名前を尋ねられた。代筆をしてくれるのかも知れないと見当を付けた俺は、フルネームのシーグヴァルドではなく、通称となるシーグの方を教えた。受付の女性が書類に文字を記入し終えるのを見計らって、身に着けていた魔道具のモノクルが持っている機能の一つ、写真機能を働かせる。この文字を練習すれば、次に書類を記入する際には自分の名前だけでも書けるようになる……筈だ。
「これでいいわ。それから、こちらにきて」
受付嬢に案内されて、俺と門番はカウンターに座るとある人の前まで移動する。しかしてその人物は、男性だった。受付嬢がその男に二言三言喋ったあと、彼女は自分の席へと戻っていく。すると間もなく、男から声を掛けられた。
「換金できるものがあるのだろ。ここに出せ」
男の言葉に頷くと、バックパックを下ろすと幾つかの物品を出す。とは言っても、毛皮や皮を数枚程度だ。そして毛皮と皮の入手経路だが、狩った獲物のなれの果てである。他にも小型とはいえドラゴンの鱗などもあるが、流石に出す気はない。そこで、無難なこれらの出番というわけだ。すると兎の毛皮はまだしも、鹿だと辺りを付けた皮にはいささか驚いている。その様子から、あそこで狩った鹿は思いのほか珍しい得物であったようだ。
「ふむ。この解体、自分でやったのか」
「アア」
「悪くない腕だ。いい値となるだろう。だが鑑定は必要となるが、金は必要だったな」
「ソウ、ダ」
「なら、俺の権限で幾らかは先払いしておく」
男は一人のスタッフを捕まえると、何か耳打ちする。スタッフも頷くと、奥に入っていく。それから間もなく戻ってくると、スタッフは男に金を手渡していた。そしてその金を渡されたのだが、実のところ金の単位が分かっていない。それでも開拓村で唯一の店での売買映像を見ているから、大体の想像はつく。しかしあくまで憶測でしかないので、ここははっきりさせるために聞くことにした。すると、門番のダイアと男から呆れられてしまう。とは言え、いい大人が金の単位を知らないと言ったのだから、当然の反応かも知れない。ともあれ俺は、半ば呆れられながらも金の単位を教えてもらえた。
「まず銅貨、次に銀貨、そして金貨。さらには、プラチナ貨がある。もっとも、プラチナ貨などまずお目にかからないがな」
つまり、プラチナ貨は物凄く高額の取引にしか使われないということだ。なお、銅貨と銀貨と金貨だが、それぞれに小と普通と大がある。例で銅貨を上げると、小銅貨と銅貨と大銅貨の三種類が存在するということになる。そして額だが、十倍となるらしい。小銅貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で大銅貨一枚。そして大銅貨十枚で、小銀貨一枚となるということであった。
別連載「劉逞記」
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