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第百七十二話~庇護~


第百七十二話~庇護~



 どこともわからない惑星に不時着した。そこでまずは情報収集と考えて、着陸させたキュラシエ・ツヴァイの周りに拠点を作り上げると同時に、周囲にドローンを飛ばす。そして俺自身は、薪と食料の調達の為に、比較的近くにあった森へと移動したのであった。





 明日行うつもりの解体準備を整えた俺は、拠点へ戻ろうとした。しかしその時になって、センサーがある音を拾う。その音だが、どうも戦闘を行っているらしい。ただ、聞こえてきた理由は、デュエルテクター装着していたからだ。通常であれば、まず聞き取れないだろう。その点を考えてみるに、音の発生源からはそれなりに距離があるようだ。


「取りあえず、確認だけでもしておこう」


 俺はデュエルテクターが捉えた音を手掛かりにして、音の発生源へと向かう。多少のずれが発生しているのかそれとも森という立地条件からなのかは分からないが、何度か方向を修正しながらも無事に目的の場所近くへと到着した。流石にここまで近づけば、音の理由が戦闘によるものだということは分かる。ただ、誰……というか、どんな存在が戦闘を行っているのかまでは分からない。それゆえに俺は、できるだけ静かに近づいていく。すると、視界の先が開けていた。とは言え、まだ森の中である。それであるにも関わらず視界の先が開けていることに、俺は眉を訝しげにひそめていた。


「森の中なのに開けている理由があるとすれば、嘗ては巨木があったが今は枯れてしまったぐらいだけど……戦闘音がすることしていることを考えれば別の理由もあるのかねぇ」


 やがて完全に視界が開けると、そこでは大型生物同士が戦っていたのだ。しかも、勝負はついていると言っていいだろう。それというのも、一体が地面に伏しているからである。より正確に言えば、地面に伏しているのではなく相手の足で押さえつけられているのだ。しかも戦っていた両存在だが、見覚えがある。とは言え、降り立って間もない惑星で見かけたというわけではない。ならばどこで見かけたのかというと、それはフィルリーアで見掛けた姿だった。


「どう見ても……グリフォンだよな」


 鷲か鷹のような頭にやはり鷲か鷹の様な翼、そして体は大型の生物だ。多分だが、獅子であると思える。つまり、どこからどう見ても、その容姿はグリフォンでしかない。もっとも、この惑星でもグリフォンと呼ばれているのかは分からない。何せまだ、文明どころか人にすら接触していないからだ。しかし面倒なので、グリフォンとしておこう。そのグリフォンを押さえつけているのは、竜だ。雰囲気から察するに、もう少ししたら大人の竜となるといった風情だ。もっとも、竜は基本的に長生きであることを考慮すれば、一年や二年で大人になるとは思えないが。何であれ、人に当て嵌めれば成人間近という竜が、体つきから判断するに大人と思えるグリフォンを足で押さえつけていたのだった。



 さて、グリフォンの押さえつけている竜だが、俺には気付いているようで視線を向けてきている。その視線には訝しさも感じられるので、この場にいきなり現れた俺という存在を胡乱な者とでも思っているのかも知れない。しかし、いいのかね。押さえつけているグリフォンだが、まだ死んではいないのだけれど。


「……あ」


 正にその時、懸念した通りにグリフォンが動く。自身の前足を動かして、竜の足を払いのけたのだ。竜にとっては、まさかの反撃だったのだろう。まともに足を払われてしまったのだ。その隙にグリフォンは傷だらけの体をどうにか立ち上がらせると、竜の目を嘴で突いて抉った。しかしながら竜は、その与えられた痛みに耐えているかのように吼えると、嘴を振り払う。だがそこで終わらず竜は、グリフォンの首に噛みつくと止めとばかりに首をへし折る。流石のグリフォンもこれにはたまらなかったようで、完全に生命活動を止めていた。とは言え、ここで一つの疑問が鎌首を持ち上げる。それは、なぜグリフォンが逃げもせず戦い続けていたのかということだ。相対して敵わないと判断したならば、逃げてもいい筈である。しかしながらグリフォンは、逃げるどころか戦いを継続させていた雰囲気があった。


「ふむ……逃げられなかったのか? それとも、グリフォンが逃げられない理由でも……おっと」


 ちょうどその時、俺に対してグリフォンを倒した竜が襲い掛かってくる。怪我を負ったことに対する八つ当たりなのか、それとも単純に俺という存在に苛立ち感じ取ったのかまでは分からないが、ともあれ襲ってきたのだ。しかも、負っている怪我はそのままであり、嘴で抉られた片目は見えていない。そんな竜だが、避けられたことで怒りを覚えたのか再び襲ってきた。そこで俺は、竜の攻撃を死角へ移動する。そこに回り込むと同時に、竜の頭を回し蹴りの要領で蹴り飛ばした。すると頭への攻撃ということもあってか、竜はふらつく。こんな隙を逃すつもりもない俺は、短丈を引き抜いてマジックソードを発生させると竜の首を横なぎに振り払った。相場では固いとされている竜の鱗だが、マジックソードであれば切り裂くことは難しくない。綺麗に切り飛ばされた竜の頭が、宙を舞う。間もなく地面へ落ちると同時に、竜の体もゆっくりと地に伏したのだった。



 地面に横たわるグリフォン、そして俺が倒した竜の死体。ヘルメットを外しながらそんな二つある死体を見ながら、竜が襲ってきたことで中断した思考を再開した。するとそこで、俺が森から出てきた場所からちょうど反対側に、ある生物が現れる。果たしてその容姿は、俺の目の前で絶命しているグリフォンによく似ている。もっとも、体つき小さい。そのことから思い当たることなど、一つしかなかった。


「子供のグリフォンか? そうか……これが理由か」


 つまりグリフォンは、子どもを守る為に敵わないと理解しても竜と対峙し続けたということだ。親の愛情というやつなのだろう。人も魔物も変わらないのだなと、内心で思っていた。さて、子供のグリフォンだが親の近くまで行くと頻りに泣いている。その泣き声はとても悲しげであるので、もしかしたら子供のグリフォンは、親が死んでしまったことを理解しているのかも知れない。しかし、子供のグリフォンが一頭で生き抜けるのだろうか。現在、この場所の近くに強い気配を感じないので、多分だがグリフォンの親も兄妹もいないと思う。それは同時に、竜の肉親もいないということになる。まぁ、竜の肉親というのはいささか想像がしづらい。竜のイメージ的には、単独で行動している雰囲気が強いからだ。

 取りあえず竜のことは置いておくとして、今は子供のグリフォンだ。少なくともこの平原地帯には、竜とグリフォンといういわゆる上位種に当たる生物がいることが分かった。ならば、他の上位種と呼ばれる様な強い生き物がいてもおかしくはない。そのような環境でグリフォンとはいえ子供が、生き抜けるようにはなおさらに思えなかった。


「……お前。俺と、くるか?」


 口に出してから、どうしてそんな言葉を吐いたのかと俺自身でも驚く。そもそも、言葉を理解できるのかも分からない。そんな相手に喋り掛けるなど、傍から見れば滑稽と言えるかもしれない。だがこの時、なぜだがこれが正解のように思えた。すると声を掛けられたことが分かったのか、子供のグリフォンが俺へ視線を向ける。その時、俺は自然に片手を差し出していた。子供のグリフォンは、俺の顔と差し出された手を交互に見ている。その時になってまだ籠手を嵌めていることに気付き、籠手を脱いで改めて手を差し出した。それからも暫くの間、子供のグリフォンはやはり交互に俺の顔と手を見ていたが、やがて近づいてくると自分の顔を俺の手に摺り寄せてきた。いかにも子供らしい仕草に、思わず顔が綻んでしまう。その後、子供のグリフォンを抱き上げるも抵抗することはない。しかし子供のグリフォンの視線は、恐らく親であろう大人のグリフォンの死体を見つめていた。


「埋葬してやるか」


 抱き上げていた子供のグリフォンを地面へ降ろすと、籠手を再度嵌めてからグリフォンの死体を持ち上げる。そしてグリフォンと竜が戦闘していた広場の外れの方へ運ぶと、そこで降ろした。そこから少し距離を置いてから、俺は地面を力いっぱい殴りつける。流石にその一発では大人のグリフォンをすっぽりと埋めるだけの穴を作ることはできなかった。しかし二発、三発と続けることでグリフォンの遺体を埋めるだけの穴を作ることができる。その作ったばかりの穴へ、グリフォンの死体を置いて土をかける。最後に土饅頭を作って、墓石の代わりとした。一応、手を合わせておく。すると俺の隣では、子供のグリフォンが項垂れていた。なお、竜の死体だが、回収させてもらう。町があるか分からないが、町があれば換金もできるだろうという考えからだ。それに竜の死骸の回収自体は、すぐにできるから問題にもならない。ともあれ竜の死骸を回収した俺は、子供のグリフォンを抱えるとスラスターを使ってその場から離れたのであった。

別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

もよろしくお願いします。



ご一読いただき、ありがとうございました。

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