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第百六十九話~出立~


第百六十九話~出立~



 マルーとメイリーは、マガト帝国の辺境地域にある町の出身だった。その町にはフィルリーアではマイナーな宗教の教会で運営されている孤児院があり、マリーとメイリーはそこの出となる。俺たちはその教会を訪問して、二人の遺骨や遺品などを届けたのであった。





 

 翌日の夕方近く、中々なかなかにお疲れモードのセレンが宿へ現れた。その様子から、シスターから色々(いろいろ)と尋ねられたのだろうということは想像に難くない。もっとも俺たちが確保した宿については、通信を行いセレンへ知らせていたのでそもそもからして彼女が迷うことはなかった筈だ。仮にセレンが知らなかったとしても、彼女はこの宿へ到達できると語っていた。果たしてその理由だ、まずこの町には、宿が数軒しかない。これはこの町が、マガト帝国の辺境地域にあるからだそうだ。そんな町に俺達みたいな二十名弱の団体さんが泊まっている宿を探せば、たとえ宿の名前を知らなかったとしても見付けることができるかららしい。確かに、町としてはあまり大きくはないというか、はっきりと言ってしまえばやや寂れていると感じる。主要な街道が町を通過するどころか隣接していないことも、この町が寂れていることに拍車を掛けていると言えた。


「お疲れ様ね、セレン」

「全くよ、シュネ」

「徹夜で話をした……わけではないようね」

「流石に、それはね」


 なるほど。

 シスターも徹夜をして、いやこの場合はさせてとなるのか? ともあれシスターも、マルーとメイリーについての話をセレンから聞くなどということはしなかったらしい。だからこそ、セレンとの合流が翌日の夕方近くになってしまったのかもしれない。兎にも角にも、この町まで足を延ばした理由については、その目的を果たしたと言っていいだろう。あとは研究所へ戻ればいいだけだが、折角宿は取っているのだ。どうせなら、暫く逗留してみてもいいかも知れない。どうせ研究所の引っ越しについては、もう少し日数が掛かるとの報告も受けている。その間の暇つぶしがてら、マガト帝国領内を旅するいいかも知れない。まぁ、そうなれば、町に長居することはなくなるだろう。


「そう言えばシーグ。ギルドに関しては、どうしているんだ?」

「どうって、何がだ?」

「俺も詳しくは知らないんだが、何でも仕事を受けないと不都合が発生するとか聞いた覚えがあるんだけど」

「ああ。そのことか。別いいよ」


 そもそもからしてギルドの所属など、ネルから提案されたのが切っ掛けでしかない。その理由には、情報収集の一環というものがあった。それに俺たち……いや、俺にも当時は冒険者ギルド自体に興味がなかったわけではない。何よりギルドに所属すると、フィルリーアを移動するのに手続きが楽になるというメリットも存在していた。そういった諸々もろもろの理由もあって、冒険者ギルドに加入することを決めたのだ。しかし現在、研究所も撤去することを考えれば、今後はフィルリーアに立ち寄ることも少なくなるだろう。いや。もしかしたら、今回が最後になるかもしれない。ならば、冒険者ギルドから登録抹消されたとしても惜しくも何ともないのだ。それというのも冒険者ギルドだが、一定期間以上依頼を受けていないと勧告の上で登録が抹消されるというルールが存在している。但し、ギルドからの追放といった類のペナルティではないので、再登録は可能だった。しかしながら、一端登録を抹消されてしまうと、ペナルティとしてやはり一定期間だがギルドへの再登録が不可能となる。これは冒険者ギルドのランクが低ければ低いほど、依頼を受けていない期間の定義が短くなると規定されていた。そして俺たちだが、セレンを除けば冒険者ギルド内のランクで言うと下から二番目の青銅ブロンズでしかない。まだ中級となるシルバークラスのセレンはまだしも、俺たちのランクではもう登録が抹消されている可能性があった。だが前述したように、今後はフィルリーアへ立ち寄る機会が減るだろう。それゆえに、今さら冒険者ギルドの登録が抹消されたところで気にもならない。有り体に言ってしまえば、もはやどうでもいいというのが正直な感想なのだ。


「……なるほど。考えてみれば、それもそうか」

「他の解決策として、ランクを高ランクにするという方法もあるけどな」


 実はこの冒険者ギルドから登録抹消という事案だが、高ランクとなると適用されないルールとなっている。それは高位ランクとなると、人数が極端に少なくなるからだ。中級ランクと高位ランクの壁とも揶揄される話だが、実際問題として真銀ミスリル金剛アダマンタインにまでランクを上げた冒険者は少ない。名誉職の神金オリハルコンに至っては、言わずもがなであろう。そのように数が少ない貴重な高位ランクを、冒険者ギルドとしても失うのは勘弁してもらいたいといった思惑があるのだろう。だからこそ、高位ランクは対象にならない。何せ真銀や金剛クラスの実力者がいるということ自体、ギルドにとってメリットがある。そのメリットを失いたくはないというのが、冒険者ギルド上層部の本音なのだ。多分。


「そんな規則があるなら、やらないのか?」

「やらない。フィルリーアに骨を埋めるというならまだしも、その気がない以上はメリットにも感じないからな」


 ラキケマという設備の整った本拠地を手に入れた以上、フィルリーアにこだわる理由もない。だからこそ、現時点ではギルドのランクを上げることに魅力を感じない。そんな俺の考えを聞いて納得したのか、祐樹は頷いていた。そこで話は終わりかと思ったが、そうはならない。引き続いて祐樹が、クルドに話し掛けたからだ。しかもその話というのが、何と墓参りについてとなる。これも今さらな話なのだが、クルドは銀河北方地域に存在するアーマイド帝国のさる貴族家出身だ。時代こそコールドスリープ時において発生した事故によって数百年というずれが生じているが、出身が変わるというわけではない。とはいえ、そもそもクルドがコールドスリープをした理由がお家騒動である。それゆえに、そう簡単には墓参りへおもむける筈もなかった。もっとも、墓参りを行うこと自体は難しくはない。それこそ俺たちの持っている技術を駆使すれば、クルドが墓参りをしたなどという痕跡の一つも残さずに行うことができるからだ。ああ、そうか。だからこそ祐樹は、墓参りはいいのかと聞いたのかも知れないな。


「そうだなぁ……この銀河から長期に離れるわけだし、両親の墓ぐらいにはしておこうかな?」


 話に出たクルドの両親の墓だが、しっかりと存在している。数百年前とは言え、貴族家当主とその妻であったのだから当然と言えば当然だ。寧ろなかったことにされていたら、当時のアループ家に起きたお家騒動よりも遥かに不味い何かが起きたのかと勘ぐってしまうところだ。

 また、話は少し変わるが、実はクルドの墓も既に存在していたりする。彼は事実上の行方不明者であり、しかも生存確率は極めて少ないという状況にあった。当時の第一継承権を持つとはいえ、行方どころか生死すらも定かではないクルドのことをいつまでも待っているわけにもいかないという事情があった。無論、待つことも可能ではあったのだろう。しかし、下手にそのようなことをしてしまうと、今度は家の存続が危ぶまれる可能性が出てしまう。何より、クルドの他にもアループ家の継承権を持つ者はいるのだ。なればこそ、貴族家の存続を考えクルドを死亡したと届けたようである。家の為に生死不明とはいえ、死んだことにしてしまうなど貴族というものは案外不幸なのかも知れない。


「了解した。研究所の引っ越しという移築というか……ともあれ、そちらが終わり次第アループ星系へ向かうとしよう」

「その間は?」

「帝国内の観光でもして、時間を潰そうかとか考えている。とは言っても、あくまで俺が漠然とそう考えたに過ぎない。他にも意見があれば言ってくれ」


 観光する地としてマガト帝国としているが、別にマガト帝国にこだわっているというわけではない。向かうだけなら、フィルリーアであればどこにだって転送で向かうことが可能だからだ。それこそ今まで行ったことがないドワーフの国家となるドゥエフ王国でも、エルフの国となるエルド連合国でもいいのだ。なおエルフの国であるエルド連合国だが、別に複数の国が集まって構成しているわけではない。エルフの各部族を国と見立て、その各部族が集まって彼らは連合国と呼称しているのだ。

 兎にも角にも俺たちは、研究所の引っ越し作業が完了するまでの間、フィルリーアを観光して時を潰していく。特に決まった目的地など決めずに、それこそ適当に各地を訪問してわけだが、その観光巡りもやがて終わりを迎える。引っ越しの作業が終了したという連絡を受けたからだ。ゆえに俺たちは、フィルリーアをあとにすると本拠地のラキケマへと戻った。その後、クルドと取り決めた通り、アループ家の所属するアーマイド帝国がある銀河北方地域。さらにその外縁部を目的地として、ワープを行う。特に問題なく無事に到着したあとは、クルドの墓参りへと向かった。

 さて。

 俺たちがこれから向かうのはいわば、アループ家歴代当主が眠る墓所となる。墓とはいえそこは貴族家であり、セキュリティシステムによって守られている。だが前述したように、俺たちは墓参りに訪れたなどという痕跡など残すことなく行える。流石に、花などといった物理的にものを残されてはその限りではない。しかしてその当たりは、クルドも含めてわきまえている。経緯はともあれ、最終的には証拠などは残さずにクルドの墓参りは終わりを告げる。これにより、思いついたことでこの銀河で行うことは全て終えたことになった。


「……では、いよいよ向かうとするか」


 俺の言葉に、仲間全員が頷いている。もっとも、俺とシュネと祐樹と舞華と俊という地球出身組と、セレンやオルとキャスの兄妹とサブリナとクルドでは勢いのようなものは違っている。そこはやはり、戻れるということすら想定していなかったという地球組と、それ以外の面子めんつの差なのだろう。


「では、ラキケマ発進! 目標、天の川銀河!!」


 次の瞬間、ラキケマは静かに動き始める。ある程度の距離を進んだあとでワープを行い、俺たちを乗せたラキケマはこの銀河より旅立ったのであった。

別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

もよろしくお願いします。



ご一読いただき、ありがとうございました。

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