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第百六十八話~帰日 二~


第百六十八話~帰日 二~



 久しぶりにフィルリーアの研究所へ戻った際、セレンに埋葬した嘗ての仲間のことについて尋ねてみる。しばらく考えたあとで彼女が出した結論は、亡くなった二人の故郷へ埋葬したいといったものであった。





 セレンの嘗ての仲間だったマルーとメイリーの出身地にある教会には、孤児院がある。そして二人は、その孤児院で育ったらしいのだ。その為、セレンの案内で教会へ俺達は到着したわけだが、そこで俺たちを出迎えたのは四十半ばぐらいだろうなと思える年齢のシスターだった。するとセレンは、何で俺たちがこの教会へ訪問してきたのかについて簡単にではあるものの説明を始める。その話を聞いたシスターは、悲しげな表情を浮かべた。その際に何かを呟いていたが、こういった場合、大抵は冥福を祈って信じる神様に祈りをささげたのだと思う。もっとも取り分けて聞くようなことでもないので、黙っていたのだが。それから間もなく、悲しみの表情を浮かべているシスターに招き入れられる。そのまま俺たちは、一つの部屋へと案内された。そこは中々なかなかに大きい部屋となっていたが、それでも狭く感じてしまう。しかしそれも、仕方がないだろう。何せこちらは、総勢で十人を優に数えるからだ。それでも一応は、考慮している。教会へ向かう際には、付き人であるガイノイドやアンドロイドの同行を許していないからだ。何せ彼女たちまで同行してしまうと、人数が倍ぐらいにまで増えてしまう。総勢二十人前後の訪問者など、相手にとっては迷惑以外の何物でもないだろう。何はともあれ、俺たちは部屋に通されたわけだが、そこでセレンが改めてシスターへ話をした。とは言っても、馬鹿正直に話をしたわけじゃない。特に悪魔関連は、下手に話すとどんな問題が噴出してくるかわからないからだ。俺たちと共にフィルリーアから旅立ったので既に悪魔はいない筈だが、それでも彼らがこの惑星に残した爪痕は大きいのである。それだけにセレンは、悪魔関連については触れずにシスターに対して話を進めたというわけだ。彼女は適当な嘘を絡めながら一通り話を終えると、最後に骨壺を二つ、机の上に置く。どうも文化が違うようで、シスターには骨壺がどの様なものであるのかはわからないらしい。しかし、それもまた仕方がないのかも知れない。何せフィルリーアで埋葬といえば、土葬が基本となるからだ。とは言うものの、その点に関してはセレンも似たようなものだと言える。そこで骨壺などの説明については、シュネが代わりに行っていた。兎にも角にも、骨壺がどういうものなのかとかどのような理由でそのようなことをしたのかを理解したシスターはというと、静かにマルーの骨壺を静かに持ち上げると抱きしめる。暫くの間抱きしめたあと、シスターは続いてメイリーの骨壺を抱きしめる。彼女は、マルーの骨壺を抱きしめていた時間と同じくらいの間抱きしめる。それからシスターは、まるで子供を撫でるようにやさしく二つの骨壺を撫でながら一言呟いたのだった。


「……お帰りなさい、マルー。お帰りなさい、メイリー…………」


 他人が踏み入れてはいけない雰囲気を感じ、俺たちは誰も言葉が出せないでいる。その為、部屋の中では静かに時が流れていった。さて、どれぐらい時間が経ったのだろう。もしかしたら一瞬かもしれないし、また長いかもしれない。だが、そんなことなど全く気にならない。それぐらい、とても静かな空間となっていたのだ。

 誰も声も上げず、また身動みじろぎ一つしなかったその空間に、異音が割り込んでくる。そこで俺たちは、漸く我に返った。さて、俺たちの意識を戻したその異音の正体だが、何ということはない。ただのノックだった。扉の方へ視線を向けると、誰だかはわからないが確かに扉の向こうに人の気配がある。その直後、優しくそれこそ慈しむ様に二つの骨壺を撫でていたシスターが立ち上がったかと思うとそのまま扉へと向かう。そこで扉越しに声を掛けると、返ってきたのは少し幼さを感じる声であった。


「紅茶をお入れしました」

「あら。ありがとう」


 そういいながらシスターが扉を開くと、そこには年の頃なら十才前後だろうと思える女の子が二人ほどたたずんでいた。ちょうど、キャスと初めて会ったころぐらいであり、俺は少しだけ懐かしさを感じてしまう。なお、シスターの扉越しの問いかけに答えたのは、そのうちの一人だろうと思われる。しかしてその二人だが、手にトレイを持っている。そしてトレイの上には人数分のカップがある。ただ、見た目的にあまりいいものではないことが分かった。何せカップのふちが小さく欠けたりしているのだ。来客用に使用しているカップがこの状態であることを考えれば、経済状況も推察できるというものだ。また、教会自体もそうだが、窓越しに見える孤児院もあまり奇麗とはいえない。有り体に言ってしまうと、古ぼけた感があるのだ。つまるところ、孤児院の経営も楽ではないということなのだろう。ただ、そのようなことを突っ込む気はさらさらないし、こちらから指摘するつもりもない。そしてそれは、仲間も同じなのは言うまでもないことだった。帰る際に、お布施でもしていけばいいだろう。などと考えていることなどおくびにも出さず、俺は仲間の前に紅茶が入ったカップが置かれるのも眺めている。果たしてカップが全員分置かれると、二人の女の子は部屋から出ていった。彼女たちが扉の向こうに消えると、シスターから紅茶を勧められる。間もなく勧めに従って飲むが、物凄くおいしいとはとてもではないが言い難い。しかし前述した様に教会や孤児院の建物などの状態を考えれば、頑張っていると言ってよかった。ともあれ、全員が一口飲み終えたのを見計らったのだろう。セレンがシスターに対して、改めて口を開いたのだった。


「それからシスター。こちらも、お渡しします」


 そういってから、セレンは自分用のマジックウエストポーチから色々いろいろと取り出している。それは、マルーとメイリーが生前に身に着けていた装備品だった。鎧や武器は勿論だが、日頃から使っていた日用品もある。他にも、恐らく愛用品だったのではないかと思えるような物品も幾つも見受けられた。するとそれらの物品を前にしたシスターが、どういったものなのかとセレンに尋ねている。その問い掛けに対して彼女は、マルーとメイリーの形見だと答えていた。どうやらそれらの物品は、マルーとメイリーを荼毘にふす前に回収した遺品らしい。その遺品をこうしてセレンが取り出したというわけだが、その量から見るにセレンが保管していた殆ど全てに思える。もっとも、遺品の一つや二つぐらいはセレンも貰っているのであろう。

 因みに、取り出された遺品の一部は、机の上ではなく床に置かれている。これは大きさがあって嵩張るのは勿論だが、そもそもの重量が懸念となるからに他ならない。正直言って、マルーとメイリーが身に着けていた鎧二つがある時点で机の上に他の物を置くスペースはだいぶ限定されてしまうのだ。それでなくてもテーブルの上には、既に骨壺が二つほど置かれている。当然だが、あまり嵩張らないものぐらいしか置けない。その点を考慮して、ある程度の大きさを持つ物品は、最初から床に置いたほうが邪魔にはならないのだ。

 ともあれシスターは、セレンがテーブルの上に置いた遺品たちを、愛おしそうにそして悲しそうに見詰めている。それだけには留まらず、シスターはまるで遺品の一つ一つを確かめるように手にとっていた。


「……遺骨だけでなく、遺品まで届けてくれたセレンさんには感謝しかありません」

「いえ。シスター。お気になさらないでください」

「そうですか。ではせめてセレンさんたちには、泊って行っていただきたいわ」


 シスターから出たこの言葉に、俺は内心で苦笑いを浮かべてしまった。というか、こういった流れになることはよくよく考えればありえた話である。マルーとメイリーが孤児院の出であり、シスターはいわゆる育ての親というやつに当たるかも知れない。そうであるならば、マルーとメイリーが孤児院を出てからのことや冒険者としてパーティーを組んでいたセレンから聞きたいと思っても、何ら不思議はないだろう。実際、シスターの表情には、多少なりとも話を聞きたいという感情が浮かんでいるのだから。


「いえ。シスター。流石にわたくしたちもとなると、人数が多くなります」

「それは……そうかも知れませんね」

「それに私たちは、セレンの付き添いみたいなものです。何より、セレン以外で生前のマルーとメイリーと会ったことなどありませんので」


 今更だが、かつて悪魔の拠点で唯一生き残っていたのがセレンだ。残りの者は、悪魔を除いて全て遺体しかなかった。つまり、マルーとメイリーについて俺たちに語ることなどただの一つもないのである。だからこの場に俺たちがいたところで、シスターが聞きたいことを話せない。それに、町にはビルギッタたちを置いてきている。彼女たちとも合流しなければならないことを考えれば、このまま教会に泊まるというのはできれば避けたかった。


「ですが」

「そこで、セレンを残します」

「シュネ!?」


 シュネの言葉に、セレンが驚いていた。しかしながら、この場では最善の答えだと思う。シスターと話すことになるセレン以外、ただ黙って俺たちはその場にたたずむしかない。それこそ「俺たちがこの場にいる必要があるのか?」と自問自答したくなるだろう。そんな事態を避けるためにも、シュネの言葉は正論だと言える。決して、俺……俺たちが助かる為のスケープゴートではないのだから。


「ここは、あなたが残ることこそ最適解よね」

「それは、そうかも知れないけど……わかったわ。あたしが残る」


 セレンが納得したことで、話は終わりだ。あとは彼女に任せて、俺たちは早々そうそうに退散する。そう思って立ち上がろうとしたとき、孤児院の女の子が紅茶を持ってきた際に教会へお布施を行おうと考えたことを思い出す。ゆえに俺たちは、教会から退散する直前に、シスターへお布施を行う。その後、すぐに教会をあとにした。そして、町でビルギッタたちと合流すると、宿を確保する。部屋自体はあまり大きくなかったが、それでも部屋を確保はできたのだ。シスターとの会話も終わり、セレンが教会から戻ってくるまでの間、俺たちはこの宿に連泊することにしたのであった。

別連載「劉逞記」

https://ncode.syosetu.com/n8740hc/

もよろしくお願いします。



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