第百六十四話~改葬 二~
第百六十四話~改葬 二~
オルとキャスの兄妹から出たたっての望みもあって、久しぶりにフィルリーアへと向った俺たち。しかしてその途中で宙賊と出会うも、一方的に討ち果たしたのであった。
オルとキャスが指揮する初めての戦い、いわゆる初陣に勝利したあとで再びフィルリーアへと進路を向ける。しかしその過程で、もう一度だけ宙賊と遭遇してしまう。しかし、染料の違いもさることながら一度経験したこともあって、一方的な戦いとなる。そもそも宙賊で、俺たちの様に艦隊と呼べるだけの集団を組んでいることなどまずいない。大抵は、数隻ぐらいの小型艇で構成されているのだ。勿論、大規模な集団だって存在はしている。実際にクルドの故郷では、大規模な徒党を組んだ宙賊によって追い込まれていたのだ。しかし、その様な相手などそう簡単に遭遇することなどまずない。だから、このぐらいの規模であっても不思議でも何でもないのだ……そう。不思議でも何でもない筈だよな。
「あー。その、何だろう。やっぱり俺って……運が悪いのだろうか」
「どうした、急に」
「いや、な。オルとキャスの遭遇した案件と、俺が今まで遭遇した案件の差にちょっと、な」
『あー、あー』
その、いかにも納得したという表情は止めて欲しい。会話をしていた祐樹だけにならまだしも、仲間の全員が全員同じような表情を浮かべなくてもいいだろう。特に付き合いが長いシュネにまでそういった表情をされると、マジでへこむ。せめて彼女ぐらいは慰めるなり、ビルギッタたちガイノイドの様にあえて表情を浮かべないような配慮が欲しいものである。もっとも、ビルギッタたちが表情を変えていないのは、シュネたちのような印象を俺に対して持っていないからだろう。
「ま、まぁ。シーグ。結果的には、ラキケマの様な拠点を手に入れているのだから、トータルで考えれば悪いことでもないでしょう?」
それも……まぁ、そうだと言えるかも知れない。何せ結果だけ見れば、個人でありながら宇宙に出られるようになったのである。しかもそれだけに留まらず、艦隊を組んだばかりかラキケマというとんでもない拠点すらも手に入れることができているのだ。これだけの戦力を手にしておきながら、不運だとへそを曲げているなどあまり見られたものではない……のかも知れない。何より、仲間に対して悪感情を残すのはよくないだろう。仲間内で関係を悪化させたところで、碌なことにはならないのだから。
「……ふぅ。済まん。変な話題を振って」
「い、いいのよシーグ」
「そうだぜ」
先程までとは違って、俺へ次々と慰めの言葉が出てくる。だが、既に気持ちは切り替えているので気にはしない。しかしながら、たとえそうであったにしても、心配されることに悪い気はしない。それは兎も角として、今はフィルリーアへ向かうことが最優先だ。ここは強引と感じられたとしても、話題を切り替えることにする。そこで俺は、キャスに対してあとどれくらいでフィルリーアへ到着するのかを尋ねてみた。しかし話題展開の為とはいえ、いきなり脈絡を飛ばした話題ということもあってかキャスが言い淀んでしまう。しかしそこは、カズサのメインコンピューターに搭載しているAIであるネルトゥースのコピーが、すかさずフォローをして、代わりに答えてくれた。
「そうか。大分近くまで来ていたな……でも、フィルリーアかぁ。今になって考えると、旅立つ時はこうしてまた戻ってくることになるとは、あまり思っていなかったな」
「……そうね」
「確かに、そうだな」
宇宙に出てから仲間になったクルドは除くとして、彼以外の仲間に関しては全員がフィルリーアで出会った面子だ。もっとも、シュネに関して地球にいた頃からの付き合いがあるので必ずしもそうと言えるのか分からないので別枠とするが。ともあれ、俺の気持ちは仲間でも同じだったらしい。確かに、フィルリーアへ戻ってくる可能性が全くなかったとは言わない。だからこそ、嘗ての拠点であった研究所も含めて、それなりに設備は残してはあったのだ。今回は、その判断が生きる形となる。オルとキャスの両親が眠る墓もある兄妹の出身地の村の近くにはガイドビーコンが埋め込んでいる。だからこそ、フィルリーアに到着すれば向かうことができるのだ。
「艦隊は衛星軌道上に停泊しておけば、問題はない……よね?」
「オル。前にも言ったが、艦長はお前。自分で決めるんだよ」
俺に対して伺うように聞いてくる今のオルの言葉では、自身の判断に対する認証を求めているようにしか見えない。どうせ尋ねるなら、助言を求めるように聞いてくればいい。そうすれば俺も、いや俺でなくてもちゃんと答えるのだ。何より、あまりにおかしな判断ならば、その時点で俺たちが止めに入る。また、カズサのAIが意見を述べることも間違いないのだ。
「……分かった。艦隊は衛星軌道上で停泊させて、小型船で向か……う? あれ?」
「どうした?」
「いや。記憶違いだったらごめんだけれども……シュネ姉って、村の近くに転送してきたこと無かったっけ?」
「あるわ。あれは村近くの、岩山よ。そこにシーグが、ガイドビーコンを埋めているのよ」
当時、フィルリーアで俺とシュネは別行動をとっていた。行商の為に研究所から出掛ける際に、ちょっとシュネの方で抱えていた研究だが開発だかの案件で、手を離せない時期に入っていたからである。だがその案件も、行商を行う過程で区切りがついていた。オルとキャスのいる村へ俺が辿り着いたのが、ちょうどその頃だった。だからこそシュネが、俺と合流できたのだ。
「ああ。やっぱり、そうだったんだ。それならば、転送でも大丈夫だよね」
「そうだな。あと、カモフラージュも兼ねて、当時の行商スタイルで村へ向かうのもいいかも知れない」
嘗て俺は、観光を兼ねつつもフィルリーア各地を巡りつつ、同時に宇宙船を建造する為の材料を調達する為に手付かずの鉱山などを探す目的もあって辺境地域へも足を延ばしていた。その行動をカモフラージュする手段として、行商というスタイルを取っていたのだ。オルとキャスがいた村に俺たちが向かったのも、その一環である。以前立ち寄った頃より時間は大分経ってはいるが、それでも手ぶらで向かうより行商スタイルの方が説得力はあるだろう。うん。殆ど思い付きだが、悪いアイデアではない筈だ。
「あ! それ、いいな。俺も見てみたい!!」
「……ん? 祐樹たちは、俺たちが行商をしながら移動していたところを見たことがなかったか?」
「ない! 助けて貰ったシーグたちと合流してからこっち、斗真との対峙やアシャン神皇国までほぼノンストップだった」
ん~? そうだったかなぁ。
確か祐樹たちを助けてそのまま治療して……あ、そうだ。確か治療の過程で祐樹たちに掛けられていた呪術を解呪して……その話を聞いた祐樹たちが俺たちと合流することを決めたんだ。その後は斗真が率いていた悪魔たちとの対決に臨んで決着をつける。そして決着を付けたあと、今度は斗真たちと同盟関係となって、俺やシュネ、祐樹たちや斗真がフィルリーアへと来ることになった根本的な理由を作っていたアシャン神皇国に乗り込んで……言われてみれば、確かに祐樹が言う通りなのかも知れない。
「とは言うが、そんなに転送後に出現するポイントから離れているわけでもない。街道を通ってきたという体を取るから村へ直接向かわずに迂回するが、それでも大した距離はないぞ」
「それでもいい。各国へ行っても勇者としての待遇だったし、同時に使節としての役目もあったせいで、いわゆる貴族然とした扱いだったんだよ。だからこそ、その行商スタイルに興味があるんだ」
そう言うものなのか。よく分からんが。
何せ俺とシュネは、初めから行商スタイルでいこうと決めていた。だから正直に言って、祐樹たちの気持ちは分からない。ただ、想像はできる。なまじ貴族のような扱いだったからこそ、あこがれると言うのもあるのだろう。ある意味で、中世版のキャンピングカーみたいなものだと言えるかも知れない。もっとも、僅かでも経験した立場から言わせて貰えば、そんな甘いものじゃない。だからこそシュネが、結界などの魔道具作成に力を入れていたのだ。
「そうか。まぁ、短期間ぐらいならそのまま旅をしてもいいけど……シュネ、いいよな?」
「いいわよ、それぐらいならね。大きな町にでもよらない限りはこのままの格好でもまずばれないだろうし、その点も変装や幻術で姿を変えてもいいだけでもあるしね」
アシャン神皇国に乗り込んだ際、顔を見た相手は全て命を取っているから、まず俺たちの顔が判明しているということはない筈だ。しかし祐樹たちは、数年ほど勇者として活動していたのでその限りではない。そもそも祐樹たちは、アシャン神皇国の首都となる自称聖都のアシェルト潜入には同行していない。だから、取り締まりに引っ掛かるといったことはないだろうが、下手に存在が明るみに出ると復活した勇者がとかアシャン神皇国が言い出しかねない。そんな面倒は勘弁であり、その意味でも変装や幻術はいい手段かも知れない。ともあれ、それらの点についてはフィルリーアについてからな話となる。到着するまでに考え、そして答えを出せばいいだけであった。
別連載
「劉逞記」
https://ncode.syosetu.com/n8740hc/
もよろしくお願いします。
ご一読いただき、ありがとうございました。




