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第十五話~正体~


第十五話~正体~



 予定通りといっていいのかわからないが、アザックが自前の戦力と共に襲撃を掛けてきた。しかし、俺とイルタとビルギッタの三人で、H&K MP7に似た魔銃による蹂躙? を行い、相手を追い詰めたのであった。





 広間には、静寂が訪れていた。目の前の現状が信じられないのだろうか、奥にいた男、多分アザックと彼の周りにいた二人は二の句が続けなくなっている。そしてアザックは狼狽うろたえつつもこちらを指さしている。声を出したいが、声にならないという様子だ。

 なお魔銃は、光線銃と似た扱いになるので銃撃による発砲音はほぼないに等しい。その為、銃撃音もなく、発砲音が響くということもない。それもまた、広間の静寂に寄与していた。

 少しの間、続いた静寂だったが、やがて気を取り直したのか漸くアザックが声をあげる。それは、こちらをというか正確には俺たちが手にしている短魔機関銃を指さしながらだ。


「なんなのだ! それは!!」


 アザックがそういうのも、当然かも知れない。それは、銃という概念が、フィルリーアには存在していないからだ。しかしネルトゥースに言わせると、古代文明期には似たようなものがあったらしい。だが、古代文明終焉の際に起きた魔力減退を原因として全て壊れている筈とのことである。中にはいまだに稼働できる状態のものがあるかも知れないが、流石の彼女でもそこまでは分からないと言っていた。


「これが何であろうと、敵であるあんたらに教えてやる理由は……ない!!」


 そういいつつ、俺は一気に踏み込んだ。それから少し遅れて、ビルギッタもフライパンと短魔機関銃を手に踏み込んでいる。相手は迎撃するつもりなのか、それともまだ狼狽から立ち直っていないからなのか、動く様子はなかった。

 基本、後方から攻撃するイルタも、メスの形をしたナイフと短魔機関銃を使って一人を牽制している。その為、図らずも一対一が三つできる形となっていた。これは寧ろ、望んだ形である。対多数用ということで銃……じゃなくて魔銃を使用したが、俺の得意な戦い方は接近戦なのだ。

 実家に伝わり、俺自身も使っている御堂流だが、そもそもは古武術を原型として確立した武術である。しかも空手や柔道、はては軍隊格闘などといった現代武術でも有効と思われるものは積極的に取り入れてきた。

 つまり、古流武術と現代武術を融合させたような武術となっている。ゆえに剣術や銃剣術などもあるし、異例なところでは訓練用なので模擬製ではあるが銃を使用した近接格闘術までもがあった。

 そんな御堂流のあらましは、取りあえず置いておく。

 何であれ俺としては、虚をつく形で敵への接近を成功させたというわけである。そしてここまで近づいたことで、漸く相手の顔がはっきりと分かる。年の頃なら四十に届くかとどうかといったぐらいであり、顔立ちとしては中々に渋いだろうと思われた。

 そしてその顔だが、やはりというかアザックである。とはいえ、正に今さらであった。戦いに入る前にした会話の内容を考えれば、寧ろ違っていた方が驚いていただろうことは想像に難くなかった。


「死ね!」


 するとアザックが、接近した俺に対して拳を伸ばしてくる。その手は手刀を形作っていたが、その手には不思議なものがある。何とアザックの爪に当たる部分から、何かが伸びているのだ。

 このままでは串刺しにされると判断し、咄嗟に手にしていた短魔機関銃で手から伸びる何かを跳ね上げて攻撃を弾く。そうして空間を作るとそのまま懐に飛び込んで、手にしていた短魔機関銃の銃口を相手に密着させ、躊躇わずに引き金を引いた。

 今、短魔機関銃に装填している弾丸は、殺傷用ではなく捕縛を目的としたスタン効果、即ち気絶かそれに近い状態となる弾が発射される弾倉を使っている。それに弾丸自体も、非殺傷用のゴム弾を使用している。その為、余程体が脆弱な相手でもない限りは死ぬことはなかった。

 無論これは、相手を捕らえる為である。捕らえたあとで、情報収集という目的から一応話を聞くつもりだったのだ。

 もっとも、しゃべってくれるかは分からないが。

 都合、纏めて十発ぐらいアザックへ叩き込んだところで、短魔機関銃の引き金から指を離す。普通ならば、弾を食らった相手はまずスタンかそれに近い状態になっている筈だった。

 

「……シャオラッ!!」

「何だと!」


 幾ら何でも、これは想定していなかった。

 まさか、一瞬ぐらついたあとに踏ん張って、その後にアザックが腕を叩き下ろしてくるなどという状況は。

 幸い密接していたこともあり急所へは攻撃されなかったが、おもむろに体勢を崩してしまう。その隙をついて、アザックが膝をかち上げてきた。しかし、ぎりぎりのタイミングで膝と自分の間に手のひらを置いてクッションとする。そうすることで、膝蹴りの威力を緩和することに成功した。

 だが、膝蹴りの威力はある程度殺したとはいえ、完全に威力を殺したわけじゃない。その為、俺の上体が起こされてしまう。だが、こちらはそれを利用させて貰った。アザックによって強引に上体を起こされた勢いを利用してバク宙を決めると、相手の顎を蹴り上げる。その流れのままで着地すると、顎を蹴り上げた足を軸にして反対の足で回し蹴りを叩き込んだ。

 まさか防がれしかも反撃されることまでは想定していなかったらしく、アザックは俺の蹴りをまともに食らっている。そのまま、広間の周囲に建っている空き家の壁に背中からぶつかると、壁を壊して家の中に飛び込んでいった。



 相手の攻撃となる膝蹴りを、手のひらをクッションとして直撃を回避できたとはいえ、攻撃は攻撃である。何とか反撃はしたが、俺自身にも幾らかダメージが残っていた。


「……頭が、クラクラする」


 そうぼやきつつ、頭を振って意識を晴らす。間もなく意識が鮮明になってくると、すぐに家の壁に空いた穴を見た。すると、そのタイミングで暗い穴の向こうから手が伸びてくる。その手は、ぶつかったことで空いた壁の穴の縁を掴むと、続いて体を引き上げる。穴から出てきたのは、まごうことなくアザック自身だった。

 あの勢いで壁にぶつかったあとにしては滑らかな動きであり、ダメージなしかと思うと少し気持ちがなえてくる。だがよく見ると、アザックは頭から何かを流している。どうやら血のようで、流石にノーダメージではないことに少し安心する。だが、よくみると不思議なことにその色は赤くなかった。

 しかし、幾らなんでもそれはおかしい。人間族、いや人間族でなくてもだが、大体動物の血の色は赤いからだ。但し例外もいて、それが魔物だ。魔物であれば、血は赤くない。彼らの血は濃い青というか青紫というか、兎に角そんな感じの色となるからだ。

 そしてそれは、壁の穴から出てきたアザックが頭から流しているソレの色だった。


「くそがっ! まさか、人から怪我を負わせられるとは」

「おいおい。まさか、魔物かよ。だけど、何で魔物が人の言葉を操る?」

「ふん! あのようなやつばらと同じに扱うなど、不遜きわまりないわ!! 我はアザック! 悪魔アザックなり!!」


 宣言するかのような言葉に続いて、アザックの体から光が吹き上がった。

 それは、魔力の光である。やがて光が収まると、相手の姿が変化していた。夜だからはっきりとまでは分からないが、アザックの肌の色も変わっているように見える。彼の肌の色はさっきまでとは違い、浅黒いように思える。そればかりか、頭には捻じれている角が二本も生えていた。

 さらに付け加えれば、両手の指からもさっきまでと同じく何かが伸びている。恐らく、少し前の攻撃で俺へ使ったものと同じものだろう。その容姿から想像するに、爪が硬くなって延びてきたのかも知れない。そう考えると、お話でよくあるように相当に硬かったりするのではと警戒した。

 しかしてその容姿だが、およそ悪魔といわれて思い付く姿に近い。だからこそ、爪が硬くなって延びるのかとも想像したのだが。

 起きている事態は別にして、ここが地球ならばある意味でその容姿にあり得るかもと一瞬でも思った可能性がないとはいわない。しかしこの地は、フィルリーアと呼ばれている世界となる。それであるにも関わらず、妙に姿が酷似する相手に思わず苦笑していた。

 因みに悪魔の正体だが、実はよく分かっていない。ただ分かっているのは、彼ら悪魔は悪魔王と称している存在に率いられている存在であるということだけなのだ。

 またこのフィルリーアには魔人類とされる者たちもいるが、彼らは魔力の扱いが特にけているからそう呼ばれているのであって、悪魔とは何ら関わり合いがない。しかし、魔人類の一部に悪魔と似通った容姿を持つ者がいることからだろう。魔人類は悪魔だと主張する人間がいるのも、また事実だった。

 話を戻して悪魔だが、そもそもこのフィルリーアに悪魔という存在はいなかったらしい。少なくとも一万年以上前から稼働しているネルトゥースにその情報がなかったのだから、古代文明期に存在していなかったことに間違いはない。ただ、その後に起きた魔力減退という事態があったことにより一万年の殆どを引きこもっていたのだから、その間に現れたのならば知らなくても当然だった。

 そして俺やシュネがフィルリーアに現れてから調べた結果によれば、悪魔という存在が認識されるようになったのはここ数十年の間のことで、しかも彼らは、突如として現れたという。それからというもの、非合法な集団として活動しているようであった。

 その活動はというと、いわゆる反社会的な活動である。しかも、それだけに留まらない。時には軍への攻撃や、最悪な場合だと国へ侵攻すらもしているのだ。但し、被害が集中しているのは都市部などであり、本当の意味での辺境では都市部ほどには被害が出ていなかった。

 規模の大小は別にして被害自体は発生しているので、悪魔や悪魔王は各国において敵対存在として警戒対象となっている。だが、取り締まり等についてはあまり上手くいっていないのは実情のようだ。そのことを証明するかのように、彼ら悪魔の行動は沈静化どころかより活発化の一途を辿っている。この事態にのぞんで宗教国家であるアシャン神皇国は、悪魔王に対するアンチテーゼとして勇者を認定していた。

 その勇者認定も、比較的最近のことである。その以前にも勇者はいたらしいが、その勇者は悪魔王に倒されてしまったらしい。そのあとを引き継いで、新たに認定されたのが今の勇者なのだ。

 幸い俺たちには悪魔も、そして勇者も今まで関わることはなかったので放っておいたのだが、これから先は分からない。

 何より、こうして対決してしまったのだから。

 ともあれ、悪魔も勇者も関与してくるかも知れないし、してこないかも知れない。だが、どちらにしても情報を集める必要があるように思えた。ここにきてさらに面倒な事態となっていることに、思わず苦笑を浮かべてしまう。すると笑みを浮かべたことが不快だったのか、アザックが不機嫌そうな表情を隠さずに口を開いた。


「笑を浮かべるとは、余裕か? 随分と、なめられたものよな」

「いや、そういう理由じゃないけどな」


 ここで苦笑した理由をいっても、相手が納得するとも思えない。そもそも、初めに死んでいけなどといわれた相手であり、誤解だからとって解いてやる必要もなかった。

 まぁ、中には違う存在もいるかも知れないけど。

 たとえば悪魔王に従わず反発しているとか、初めからはぐれているとかいうような相手だ。その辺りは、人と同じだろう。人にだっていい奴や悪い奴、変人や中には体制に反発する奴など様々さまざまいる。悪魔にだって、悪魔王に従わない存在がいてもおかしくはないのだ。

 しかし、アザックの様子を見るに望み薄のようにも思える。何より、アザックに関しては、その辺を気にする必要もない。変な薬を使ってまで自身の存在を曖昧にして町にいるというのが、そもそもからして怪しいのだ。

 そればかりか、オルとキャスの兄妹には不思議な方法で接触していたりしている。ここは、相手を殺すぐらいの気概を持って、対峙するぐらいの心構えでなければ、こちらが危うくなる。そんな気がしていたのだった。


連日更新中です。


遂に正体を出せました。

悪魔、アザックです。


なお、今日中にもう一話、更新します。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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