第百五十七話~増強 一~
第百五十七話~増強 一~
馬頭星雲の近辺……と言っても、宇宙的な感覚であり実際には千三百から千五百光年ぐらい離れた位置となる目的地。そこには、地球があるかも知れないとのことであった。
しかし、地球では時が俺たちの認識よりもさらに進んでいる可能性がある。まさかこんな話を聞かされるとは、夢にも思わなかった。もっとも、俺やシュネに関して言えば、容姿からして地球にいた頃とは全く違うわけで、そんな俺たちが今さら家族の元に現れたところで家族から御堂裕也と雪村瑠理香だと認識されることはないだろう。ただ、家族でなければ知らないことを知っているので、その知識を披露すればもしかしたらと思わなくもないが……まぁ、望み薄だろうな。
そもそもからして、両親や祖父。それに、兄や姉はもう死んでいるかも知れないのだ。何せ俺たちが今認識している時間と地球での時間のずれが、どれだけあるか分からないのだから。
「うーん。地球での時間が、俺たちが感じているものより経っているかも知れないのかぁ」
そう言えば、俺とシュネとは違って祐樹と俊と舞華は肉体ごとフィルリーアへと移動している。その三人が認識しているフィルリーアでの体感時間は、長くても数年ぐらいだろう。時間の経過による肉体の成長を考慮したとしても、地球にいたころの面影はあると言っていい。つまり、全く容姿が違っている俺やシュネとは違って家族に会えば信じて貰えるかも知れないのだ。だからこそ、祐樹がそのような感慨深いと思えるような雰囲気を纏っていたのかも知れない。ふと見れば、舞華も祐樹と同じような雰囲気を纏っている。その様子から、祐樹と似たような思いを抱えているのだろう。ただ意外なのは、俊に祐樹と舞華が纏っている雰囲気を感じられないことだ。
「その、俊」
「何?」
「お前さん。冷静と言うか、何と言うか……」
「ん? ああ、そう言うことか。それは、既に俺の中で解決している事柄だから」
そう言えば、時間云々の話となった時、話を振ったシュネは除くとして俊とセレンに驚いた様子はなかった。つまり時間の問題は、俊とセレンにとって驚くに値しないということになる。その事実から、今俺たちが思っている時間経過のずれに関しては考慮する対象ではないということになるだろう……ああ、そうか。だからこそさっきの返事に繋がるわけだ。自分の中で解決しているという言葉に。要するに俊は、既に自分なりの答えを出しているということなのだ。そのことを聞いてみると、俊は頷いていた。
「いや。ちょっと待てって。どうやら自分で答えを出している様子の俊はいいよ。だけど、俺と舞華はそうはいかないぞ。時間がズレているかも知れないなんて初耳だったわけだし……なぁ、舞華」
「え、ええ。祐樹の言う通りよ。既に気付いていたと思われる俊は兎も角、あたしも祐樹もいきなり聞かされたことなのだから」
確かに。
実際問題、俺もそうだった。とは言え、途中で理由が思いつけた分だけ、驚きは相殺された気分だと言える。だからこそ、驚きが大きすぎることはなかったのかも知れない。しかし、祐樹や舞華は違う。クルドや俺の様に、話の途中で思い付けなかった。その分だけ、驚きは大きいのだろう。だが、そこまで慌てることでもないと思う。何せシュネは短期間で現地……もしあるとするならばと前置きすることになるが……ともあれあると仮定しておく天の川銀河内に存在している馬頭星雲へは、年単位の時間を掛けて向かうつもりだとシュネ自身の口からはっきり告げたのだ。要するに、まだまだ先のことということになる。つまり、急いで答えを出す必要など、爪の先ほどにもないのだから。
「祐樹、舞華。別に今、答えを出す必要はないだろう。目的地に到着するのは、まだまだ先の何だから」
「それも、そうか」
「それは……確かにそうね」
「それに、必ずしも直行するのかも分からない。なぁ、シュネ」
「ふふ。読まれているわね。流石は恋人兼幼馴染み……この場合、幼馴染み兼恋人と言った方がいいのかしら」
「どっちでもいいんじゃないか? ともあれ、まだまだ年単位で先のことだ。祐樹、舞華。それまでに、自分なりの答えを出せば、それでいいと思うぞ」
「それも……そうだな」
「ええ、そうね」
取りあえず、祐樹も舞華もこの場で答えを出す必要がないことに気付けたようだ。もっとも、即決が必要な場面ではないからこそ、問題とはならないのだけれど。ともあれ、六千五百万光年の旅か……正に遥かなる旅路だな。この旅路に比べれば、地球から馬頭星雲までの距離はさほどではない。何せ、ハイパードライブを一回行うだけで到達できてしまうぐらいの距離しかないからだ。流石に、気軽にお隣さんの家に行くといった感じではないだろうが、遠いと思えるほどではなかった。それに、俺たちはすぐに旅立つわけでもない。もう少しだが、この場に留まるつもりなのだ。一気に目的地へと到着できない以上は、物資を色々と積み込む必要がある。それともいっそのこと、資源衛星として近辺にある小惑星を幾つか見繕ってみるか。ラキケマぐらいの大きさを持つ天体なら、重力というか引力が働いている筈だ。その引力に捕らえる形で幾つかの小惑星を、ラキケマの衛星代わりにして引き連れていくというのも一つの手立てだと思えるし……よし。あとで提案してみるか。それに増やす艦船の件もあるから……って、祐樹たちにこの話をしていたか?
「なぁ、シュネ。艦船を増やす件、祐樹たちに話をしていたか?」
「え? あ、そう言えば……少なくとも、私の記憶にはないわ。せいぜい、いずれは宇宙船を増やすぐらいしか言っていないと思うわ」
「だよなぁ」
「なぁ。シーグ、シュネ。何の話だ? 船を増やすとかどうとか……」
ああ。やっぱり、話してはいなかったみたいだ。祐樹の言葉から理解した俺とシュネは、宇宙船というかバトルシップを増産する案件についての説明を行うのであった。
さて俺やシュネの計画だと、仮に敵対する存在が出現した場合、仲間の一人一人が艦隊を率いて貰うというものである。しかし、あくまでこれは俺たちの考えでしかない。当然ながら、希望は聞き入れるつもりだ。と言うことで、ついでだからここで聞いてしまうことにするとしよう。もっとも、答えがすぐには出てこないかも知れない。実際、即答は少ないだろうと俺もシュネも予想していた。すると案の定、時間が欲しいという。たが、一人だけ例外の人物がいたのであった。
「くれるというのならば、貰う」
「まさか、即答してくるメンバーがいるとは思わなかった。予想が外れた」
「ええ。私も意外だったわ」
俺とシュネの予想を裏切って即答したのは、クルドだった。果たしてその理由だが、彼の出自に由来していたのである。元々、クルドはアーマイド帝国貴族となるアループ家の嫡子だ。つまり家の後継問題が勃発していなければ、いずれは彼が当主となっていた筈である。そうなれば、アループ家で所有していた戦力を率いる総大将となる。しかし前述のように、クルド自身に貴族今さら当主になる気はない。だが、戦力を率いてみたいという思いは子供の頃よりあったようだ。つまり、俺とシュネからの提案は、親族による骨肉の争いは御免だとしてもはや叶わないとして諦めていた子供の頃から抱いていた彼の密かな夢。その夢を叶える、正に好機だと捉えたようだ。
まぁ、提案した側としては、答えが早くに出ることはありがたい。クルドの希望を取り入れつつ、早速にでも建造に掛かるとしよう。そう考えていると、もう一人から回答が得られる。その相手は、セレンであった。何と彼女は、いらないとのことである。その代わりというわけではないのだろうが、クルドの艦隊と行動をともにするらしい。そう言えばクルドとセレンは、俺とシュネと同様に付き合っている。彼女は自分の艦隊を所有するより、恋人であるクルドと共にあることを望んだというわけか。ならば、多少は色を付けて艦隊に所属する艦数を増やしてもいいかも知れない。まぁ、この辺りは、追々相談するとしよう。なお、このクルドとセレンの希望は他の面子にも影響を与えたようで、祐樹は恋人の舞華と、俊も恋人のサブリナはクルドとセレンと同じように一緒がいいとの意見が出ることになる。その中にあって、異例だったのがオルとキャスの姉妹だった。二人からは、いらないとの回答が出てくることになる。その代わりに、俺とシュネといっしょがいいとのことだったが。
「俺たちは構わないが、いいのか?」
『うん!』
理由は分からないが、嬉しそうにオルとキャスが答えたので俺もシュネも理由については聞かないことにした。それに、俺やキャスも別々に艦隊を率いる気はない。俺自身、艦隊を指揮するなど面倒だと思っていたこともあるし、そもそもからして性格的に旗艦にあって後方から指示を出して満足するという質でもない。そのようなことをするくらいなら、前線で戦っていた方が性根に合うのだ。勿論、必要なら艦隊指揮もすることも吝かではない。しかし逆に言えば、必要がないのならば艦隊指揮など行いたくはないのだ。だからこそ、戦闘状態となれば、シュネに丸投げして前線へ出ていたのである。
「まぁ、いいわ。どのみちシーグが率いる艦隊は、有事の場合は私が率いる艦隊となるのだから。ねぇ、シ~グゥ?」
シュネの言葉に対して、いい笑顔を浮かべながらサムズアップで返答してやると、何でだかシュネに軽く頭を叩かれてしまう。理由が分からず俺は、叩かれた頭に手を当てながら軽く睨んでみるのだが、どこ吹く風とばかりに気にした様子はなかったのであった。
何か……理不尽だ。
別連載中の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
https://ncode.syosetu.com/n8740hc/
ご一読いただき、ありがとうございました。




