第百五十五話~距離 二~
第百五十五話~距離 二~
シュネから知らされた、馬頭星雲の存在。それは即ち、地球が馬頭星雲の近くに存在する可能性があるということであった。
現地点からの目的地となる馬頭星雲までの距離を聞いた俺たちは、思わず目を丸くしてしまう。しかしそんな俺たちに対してシュネは、それこそ何でもないふうに「問題はない」のだと宣ったのだった……本当かよ。
『ま、まじか!?』
「ええ。大マジよ。機械的な無理を考えなければ、もっと短期間で到着できるわ。けど……」
『けど?』
「わざわざラキケマを壊すような運用、する必要ないわよね」
どういうことなのかと聞くと、シュネはしっかりと説明をしてくれた。
ただ到着することだけを目的にラキケマを動かすならば、それ程の日数を掛けるまでもなく、目的地となる馬頭星雲へは辿り着けるらしい。その代わり、部品などの設備に掛かる負担は半端なものではなくなるようで、途中で故障するのは間違いないとのことだった。どのみち、今回の旅も急ぐものでもない。そうであるならば、余計な手間が掛からないように無理なく移動をさせたい。だからこそシュネは、余裕を組み込んで行程に掛かる日数を計算しているようだった。
「あー、うん、シュネの言わんとしたことは分かった」
「そう。シーグ、それは有難いわ。私、無理な運用でラキケマを壊すつもりなどないですから」
「それは俺、というか俺たちだって同じだ。なぁ、みんな」
『おう(ええ)』
折角、手に入れた拠点となるラキケマだ。必要があるならばまだ分からないでもないが、必要でもないにも関わらず壊れることを前提とした運用など、するだけ無駄でしかない。ならば、多少は時間が余計に掛かるようであったとしても、そちらの手段を俺も選択する。だれだって、せっかく手に入れたものを壊したくはないのだから。
因みに、旗艦となっている戦艦カズサでも辿り着くことは可能ではないのかと尋ねたのだが、できるのかできないのかで言えばできるとのことである。とはいえ、機械の耐久性的にかなりの負担が掛かるらしい。その点で言えば、準惑星クラスの大きさを持つ拠点であり、しかも内部に各種プラント設備もあるラキケマのほうが使い勝手がいいとなる。やはり、福利厚生にも気を掛けているとはいえ一戦艦とでは、同じ土俵で比べること自体が間違っているのだろう。
「それで、みんなに一応確認するのだけれど。馬頭星雲の近くにある筈の地球まで向かう、ということでいいのよね」
『異議はない』
シュネからの問い掛けに間髪入れずに答えたのは、俺を含めた地球出身組だった。但し、それ以外の面子は即答していない。やはり、距離的なものがあるのだろう。何せ、六千五百万光年の旅路となるのだから。最悪は、ここで分かれるなどと言うこともあるのかなと考えてもいたが、結果だけ言えば、そのようなことはならないで済むことになる。その理由は単純で、最終的に全員が賛同したからだ。クルドやセレンたちからしてみても、距離は確かに問題だが、それ以上に興味が尽きないとのことだった。
「じゃあそう言うことで、次の目的地へ……」
「あれ? 六千五百万光年?」
「俊くん。どうかしたのかしら?」
「いや、その。シュネさんの言う、「現在いる場所から六千五百万光年」という距離と言うか数字に、ちょっと引っ掛かりあって……」
はて?
六千五百万光年という数字に、何か引っ掛かりを覚えるようなことがあったか?
だけど、そもそもからして、六千五百万光年などと言う単位を普段では使わない。寧ろ、俊がその数値に引っ掛かりを感じたということ自体が俺からすれば不思議なのだ。シュネと俊を除く俺を含んだメンバーが頭を捻る中、シュネは俊の言葉に笑みを浮かべていた。
「ふふふ。俊くんは、気付けたのね。六千五百万光年という数字が持つ意味に」
「では、やっぱりそうだったのか? この銀河というか、今いる銀河を含めた銀河団の名称は」
「ええ。確定ではないけど、十中八九そうだと私は考えているわ」
「そうか、そうなのか。この銀河がある場所がおとめ座銀河団ならば……地球、本当にあるのかも」
うーむ。シュネと俊で、理解できない話をしている。まず、おとめ座……銀河団? とは何なのだろう。おとめ座銀河団のおとめ座が星座のおとめ座と同じだとして、銀河団とは何を指す言葉だろうか。銀河「団」というのだから、銀河の集まりなのかも知れない。けど、そもそも銀河が集まっていることなどあるのかが分からない。説明をしてくれるのならば、俺としてはものすごくうれしいのだけれどもなぁ。
「あー、えーっと。シーグも祐樹くんたちも、そんな顔をしないの。説明してあげるから」
俺の様子に気付いたのかシュネの漏らした言葉を聞いて、俺は思わず周りを見る。すると、シュネと俊の会話についていっているだろうと思っていたセレンを含めたみんなが、揃って不思議そうな顔をしていた。
「ところで、セレン。貴女が、不思議そうな顔をしているのは意外ね」
「シュネに教わったから、銀河団の意味は分かるわ。だけどね、おとめ座って何? あたしは、知らないわよ」
あー。まぁ、それはそうだろうな。
おとめ座の名称は、地球のものでしかない。地球人ではないセレンが、おとめ座を知らなくても当然と言えば当然だ。もっとも、シュネ当たりが教えていそうなものだが……知らないところを見ると教えていなかったのかも知れない。
「えーっと……私、教えていなかったかしら?」
「少なくとも、シュネから聞いた覚えはないわね」
「そうだったかしらね? まぁ、いいわ。纏めて説明するから、セレンも聞いておいてね」
「了解よ」
その直後、一つ咳払いをするとシュネは語り出したのであった。
まず太陽系がある銀河、これがいわゆる天の川銀河となる。この天の川銀河を含めて数十の大小様々な銀河が集まっているらしいのだが、その名称を局所銀河群というそうだ。実は局所銀河群に限らず銀河群には数的な意味での目安があって、大体銀河の数で五十以下とのことである。そしてこれ以上の規模となると、銀河群ではなく銀河団と呼ばれるようになる。しかしその数が上限ではないようで、それ以上の規模となると超銀河団と呼ばれるのだそうだ。さらにはその上もあるとのことだが、きりがないのでここまでにしておくとしよう。
では話を、おとめ座銀河団に戻す。
俊の言ったおとめ座銀河団とは、大よそ千三百から二千ぐらいの銀河の集まりを指しているのだそうだ。地球から見ておとめ座の方向に存在している巨大な楕円銀河を中心とした銀河団で、その為におとめ座銀河団と呼ばれている。そして地球からこのおとめ座銀河団までの距離が、大よそで五千万光年から七千万光年ぐらい離れていると言うのだ。なお、このおとめ座銀河団を中心とした様々な銀河群や銀河団、そして天の川銀河を含めた局所銀河群。これらをひっくるめて、おとめ座超銀河団を形成しているとのことだった。
「でも、シュネ。だからと言って今いる銀河がその……おとめ座銀河団? を構成している銀河とは限らないわよね」
「ええ。セレン、その通りよ。だけど、馬頭星雲が見付かった。しかも距離が、六千五百万光年とさっき説明した地球からの距離と合致している。それならば、可能性としては十分にあり得ることだわ」
「まぁ……それは、そうかも知れないけれど」
「そのことを確かめる意味でも、私は向かいたいのよ」
ああ、そう言うことか。
宇宙的な意味での座標は、既に記録されている。その座標を起点として地球があるかも知れない方向に進めば自ずと結果が分かるということになる。地球が存在していれば、予測した通りにおとめ座銀河団となる。そして地球がなければ、偶然だったということになるわけか。
「そうだな。別にこれという目的が、俺たちにあるというわけでもない。ならば、地球があるかも知れないとして向かうのも悪くはないな。祐樹は、そう思はないか?」
「地球かぁ。行ってみるのも悪くはないな。もしあるなら、里帰りできるわけだし」
里帰りか、確かにそうだ。しっかし、豪快な里帰りだな。六千五百万光年を旅する里帰りなど、普通は経験できないよな。だけど地球か……ならば斗真や悠莉に声を掛けてみるか。もっとも、俺やシュネと同様に地球にいたころの面影など音外に全くないので、気付かれることはないだろう。
「里帰りね。確かに、そうとも言えるかも知れない。だけど、仮に地球があったとして、家族や知人友人に会えるかは分からないわよ」
『え?』
シュネの言葉に、俺たちは驚く。地球があったとしても、嘗ての家族や友人に会えるか分からないとはどういうことだ?
「それは、地球の時間と今私たちが使っている時間が同じ可能性がほぼないからよ」
『?』
『……あっ!』
シュネの謎掛けとも言えそうな言葉を聞いて声を上げた俊とセレンの二人を除いて、俺を含めたメンバーは言葉の意味を図りかねて揃って首を傾げてしまったのだった……それは一体全体、どういうこと何だ?
別連載中の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
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ご一読いただき、ありがとうございました。




