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第百三十八話~卒爾~


第百三十八話~卒爾~



 敵対したボス、その名前だがオニシムと言うらしい。しかもオリジナルなどではなく、初代から数えて何代目かに当たるクローン体となる。ともあれ、オニシムとの闘いに勝利した俺たちは、先に上げた敵ボスの名前などといった情報を調べ上げたのであった。





 オニシムを倒して本拠地を陥落させた俺たちは、後始末に追われていた。今いる旧本拠地は無論のこと、俺たちが消滅させた銀河南方にあった拠点以外。即ち、東と北と南にある拠点の扱いをどうするかについてである。俺やシュネのような憑依組や祐樹と舞華と俊のような転送組は、直接的に関係ない話ではあるので、正直に言えば扱いなどどうでもいい。またオルとキャスの兄妹やセレンやサブリナと言ったフィルリーア出身者は関係があるとも言えなくもないが、彼らの反応としてはとても淡白だった。そもそも、俺たちと行動を共にするようになったことで宇宙と言う存在を知った彼、彼女たちである。その様な彼らが、宇宙でこの様なことが起きていましたと言われても現実感はないのかも知れない。セレンだけはシュネから色々いろいろと学んだからか例外のように感じるが、そのセレンも態度としては他のフィルリーア出身者とあまり変わらない。そんな彼らの判断だが、俺やシュネ、祐樹と舞華と俊と同様にどうでもいいとのことだった。

 そしてこの対応自体は、惑星オオヤシマで新たな国づくりに邁進まいしんしている斗真を筆頭とした悪魔たちも同じである。一応、連絡を取って聞いてはみたのだが、祐樹たちと同じ転生組である斗真と悠莉の反応はやはり祐樹たちと同じとなる。また、フィルリーア出身の悪魔たち、流石に全員には聞かずに幹部クラスだけだったが、彼らも同じだった。むしろ俺たちのように直接関わっていない分だけ、より関心が薄いように思える。実際、彼らの態度から、ありありと興味がないという様子が見て取れていたのだ。まぁ、それ以上に、今はオオヤシマ国を豊かにする方に集中したいと言うのが本音のようである。


「ということで、クルド。残るのはお前だけだ。ある意味で、一番関係性があるとも言えるからな」


 前にも述べたように地球出身のメンバーは、関係が薄い。フィルリーア出身者は同じ銀河と言う意味では関係性はあるが、俺やシュネと関わったから、宇宙について知ることができたと言うのが本当のところだ。その点、クルドは既に宇宙へ、しかも星系間航路を確立している技術を持っている文明の出身となる。それも、この銀河に発生した星系間航路文明である。要するに、一番リアルで関わっていると言える者となるわけだ。だからこそ、尋ねたのである。お前は、どうしたいのかと。

 果たしてクルドからの答えはと言うと……


「今いる本拠地を含めて、全て破壊してくれ」

「理由は?」

「恐らく、知る必要がないと思えるからだ。まさか自分たちの歩んできた道が、誰かによって定義付けされていたなんて、さ」


 なるほど。ある意味では、人形だと言われているようなものだからな。

 人類の進化だ、より上位への存在への進化だとオニシムはのたまっていたが、そのオニシムの意志でもたらされた事態である。つまり一人の人物によって、恣意的しいてきに進まされた道なのだ。それはつまり、誰かのてのひらで、踊っていたのと同じだとも言えるだろう。クルドのように、知ってしまったとかならばまだしも、今現在全く知らないのならば、そのまま知らない方がいいということのようだ。

 もっとも、あえて公表するという手もないわけじゃない。しかしその時点で、かなりの混乱が生じるだろう。下手をすれば、それこそ残された拠点を巡って銀河中を巻き込んだ大戦争にまで発展しかねないのもまた事実だ。そんな未来を回避する為に、クルドは全てを破壊するという答えを出したのかも知れないな。

結局のところ、知らせることがこの銀河にとっていいことなのか、それとも知らせずにそれこそ闇から闇へと葬る方が幸せなのか。俺には、分からないのだけれどもな。


「……そうか……分かった。お前が、クルドがそう判断したというなら俺は反対しない。それで、みんなはどうだ?」

「シーグ。俺たちは、最終判断をクルドに委ねた。そのクルドの判断だ、反対などするわけないだろう」


 一応、みんなに最終確認に尋ねてみたわけだが、そこで最初に返答してきたのは俊だった。その言葉にセレンなどといったフィルリーア出身者たちも頷いているところを見ると、同意していると判断していいだろう。それならば、やることは決まった。クルドの望んだ通り、今俺たちが占拠している本拠地から得られる情報の全てを使って、オニシムの関係先を駆逐する! ただ、それだけであった。



 というわけで、俺たちは冒頭で述べたように、後始末に追われているというわけである。流石は旧敵本拠地の中枢コンピューター、関係先全ての記録が保管されていた。先に上げた北と東と西にある拠点は勿論として、規模としては拠点よりも小さいが関係先と言っていい地点が銀河の各地に幾つか存在しているのが判明する。とは言うものの、さほど多いいというわけでもない。三つの拠点も含めて、全部で十九地点となる。それはつまり、東西南北それぞれに拠点と判断した場所以外に四点ずつ……そうだな……支所と言えるような場所があったということになる。うーむ。よく俺たちの居所まで、判明されなかったな。というか、そもそもの話なのだが、シュネは分からなかったのだろうか。


「……ごめんなさい、分からなかったわ」

「マジか! シュネが!?」

「シーグ、わたくしも人よ、分からないこともあるわ。とても、とっっっても! 悔しいけど!!」

「……もしかして、それが原因か? 今、徹底的に色々いろいろと。それこそ、鬼のように調べ上げているのは」

「…………」


 肯定も否定もなく、ただ沈黙が返ってくる。しかしその態度こそが、雄弁に返答していた。これ以上突っ込むのは、それこそ野暮というものだろう。それに、シュネすらも出し抜いた相手を調べ上げるということは、その分だけこちらの戦力が上がることになるかも知れない。敵であった者たちが使用していたシステムをそのまま使うと危険が伴うかも知れないが、発想の原点とすることはできるかも知れない。そしてそれは、かつて俺たちがまだフィルリーアにいた頃に実践している。キュラシエシリーズは、似たような観点から生まれた機体群なのだから。

 兎にも角にも俺たちは、新たに場所が判明した地点も含めて撃滅……否! 消滅に向かう。手分けすることも考えないでもなかったが、破壊だけならばまだしも、消滅させるとなると魔術陣砲を持つカズサにしかできない。手間と暇は掛かるが、一つずつ潰していくことになる。幸い、目標となる各座標域は、全て魔力による結界のようなもので覆われているらしい。つまり、全座標及びその周辺はこの銀河にいる全ての知的生命体に知られていないということになる……ああ、エルフやドワーフという例外もいたか。

 そう。

 実はエルフだけではなく、ドワーフもいたのだ。エルフの様に魔術を使えるというわけではないけど、一般的なファンタジーに登場するドワーフへのイメージの通り高い鍛冶……星系間航路を使うような文明圏だから鍛冶というより高い加工技術となるのかも知れないが……ともあれ、スゴ腕を持つ技術者たちらしい。時々ときどきというか極まれに、人間の中にそのドワーフを超えるなどと言う化け物染みた腕前を持つような者が出るらしいが、それは例外と言っていい。種族としてみた場合、人間などより高い技術を有している。それが、ドワーフなのだ!

と、まぁドワーフについて述べたわけだが、会ってみたいのかと言われるとエルフほどではないかな。会える機会があるのならば会ってみたい気もするが、わざわざ探し出してまでとは思わない。運よく出会えたらラッキーだった。ぐらいにしか考えていないのだ。


「それでさ、シュネ。結局のところ、収穫ってあったのか?」

「この拠点の設備という意味で言えば、ほぼなかったと言えるわね」

「そっかー。それは残念だったな」

「だけど……」


 そこでシュネは、小さく笑みを浮かべながら何かを含んでいるかのように言葉を切る。その仕草から俺は、何となくだが続きを促しているのだろうと思えた。ゆえに、そのリクエストには応えることにした。


「だけど?」

「代わりになるモノは見付けたわ、コレよ」


 そう言ってからシュネは、モニター上に映像を出す。そこには、ほぼ球形と言っていい岩の塊が映し出されていた。しかし、映像には比較対象となる物体が存在しないので大きさは分からなかったが。何であれ、この映像だけを出されてもシュネの言う代わりになるモノとはどういうもなのかが皆目見当つかない。それは俺だけでなくてみんなも同じだったらしく、仕草には差があるものの揃って首を捻っていた。


「えっと……シュネ。説明を求めてもいいかしら」

「舞華、勿論いいわよ。これは偶然見つけた天体なのだけど、完全に静止しているのよ」

「それは、近くに影響を与える天体がないからか?」

「俊、残念だけど違うわ。間近というわけではないけれど、重力等による影響を与えそうな他の天体は存在しているのよ。それであるにも関わらず、完全に静止しているの」


 それって……どういうことだ?

 恒星系ならば、主星となる恒星があって、その構成を中心に惑星が円運動を行う筈だと聞いている。また恒星系ではなかったとしても、近くに影響を与えそうな天体があればその影響は大小に関わらず受けることとなるとも聞いている。ならばこの映像の天体も、影響を受けて動きがある筈だ。しかしながらシュネが言うには、この岩の塊にも見える球形の天体は完全に停止しているらしい。即ちそれは、何らかの働いている可能性があるかも知れないということになる。もっとも、ただの偶然ということも考えられるのだが……だとしても興味は出てくるな。


「なるほど。確かに面白いな」

「でしょう。思った通り、シーグならそう言ってもらえると思ったわ」

「それで、この映像に出ている天体はどこにあるんだ?」

「うん。銀河の外よ」

『……はい!?』


 シュネの口から出た完全に予想外な言葉に、少しだけ俺だけでなくてみんなも理解に時間が掛かる。やがて理解した俺たちは、揃って異口同音いくどうおんに言葉を発したのであった。

別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。

古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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