第百三十六話~真相 九~
第百三十六話~真相 九~
敵の首領と思われる男との最終決戦、その戦いにおいて俺は無拍子と縮地を併せて使うことで撃破して見せる。すると祐樹たちがどうやったのかと尋ねてきたのだ。なお、その裏では、シュネと俊とセレンがせっせと情報収集に勤しんでいたのである。
俺が祐樹たちと話している際にも、この本拠地の中枢にあったコンピューターから情報を集めていたシュネとセレンと俊の三人。その作業も漸く終わったらしく、俺たちに話し掛けてきたのである。こうなれば、もうここには用がない。さっさと引き上げようとしたのだが、それに待ったを掛けたのはシュネであった。
「それは、どうしてだ?」
「もう少し調べたいのよ。色々と」
「えーっと……それは、この拠点をという意味で合っているか?」
「ええ。シーグが討ったあの男がトップだったと言うのならば、もう好きなだけ調べても問題にはならない。違うかしら?」
「それは、そうかも知れないけどな」
まぁ、確かにシュネの言う通りではある。今さら、実は真のボスがいましたとか、裏ボスがいましたなどといったゲームにありがちなイベントが発生するとも思えない。それにあれはゲームだからいいのであって、実際にそのような事態に遭遇するとなれば、当事者としてはたまったものではないのである。はっきりと言わせて貰えば、そんな事態に巻き込まれるのは俺でも正直ごめんなのだ。
「だから、せっかくのしりょ……ごほん、サンプルなのよ」
「おい、シュネ。言い換えても、言っている意味自体は変わってないぞ。それと、その笑みはひっこめておいた方がいいと、俺は思うぞ」
シュネの顔には、時たま出てくる、マッドサイエンティストらしい表情が顕現している。これが、シュネの数少ないマイナス面だと言える。だが、今は別に問題にはならない。さっきの裏ボス云々に関してもそうだが、俺がしっかりと周囲の警戒を行えばいいだけだ。日頃から、専門的なことに関してはシュネにおんぶに抱っこと言った状態なのだから、こういう時ぐらいは彼女の望みをかなえてもいいだろう。
「ね、いいわよねシーグ」
「分かった、分かったよ。シュネは好きなだけ、この拠点を調べてくれ」
「本当? ありがとう!」
感謝の言葉と同時に、俺はシュネに抱き着かれた。ただ、残念なことが二つある。一つはシュネが、いまだにデュエルテクターを装着していること。せっかく抱き着かれたのに、俺が感じられるのはデュエルテクターの感触だけなのだ。しかし、それ以上に問題がある。それが二つ目の問題であり、その問題というのは、俺がデュエルテクターを装着していないことに他ならない。つまり俺自身、今は生身なのだ。しかも戦闘中ではないので、魔術による肉体強化も掛かけていない。その状態で、デュエルテクターを身に着けているシュネが着いてきたのである。その結果がどうなるのか、押して知るべしなのは言うまでもないことであった。
「しゅ、しゅね……頼む、から……は、はなし……てくれ……」
「え? あ、ご、ごめんなさい! だ、大丈夫!?」
「……だい、じょう……ぶ……」
そこまでいうのが、俺の精一杯の意地だった。
そうか。俺は味方に、恋人に抱き潰されてしまうのか……などと変な考えが脳裏をかすめたところで、意識を失ってしまった。遠くで、シュネの呼び掛けているような声を聞いたような気をしながら……
瞼の裏から、光を感じる。その感じる光に導かれるように、俺は閉じていた瞼を開いたのであった。
「知らな……いや、知っている天井か……」
どうやら「彼女に抱き潰されて死す!」などと言った、情けない死は向かえずに済んだらしい。そんな俺の視界に入ってきたのは、漏らした通り知っている天井だ。恐らくだけれど、戦艦カズサにある医務室か病室だろう。そうあたりを付けたその時、すぐ近くに気配を感じる。とてもよく知るその気配、間違いなくシュネのものだ。今まで天井を見ていた視線をその気配を感じた方へ向けると、果たしてそこにはシュネがいる。しかも、俺が寝ているベッドの脇にある椅子に腰掛けている。微かに寝息が聞こえてくるので、眠っているのが分かった。
「どうしてシュネがここにいるのだろうな」
俺はベッドの上で体を起こしながら、眠っているシュネを見る。すると俺の仕草で気付いたのか、それとも偶々目が覚めたのかは分からないが、寝ていた筈のシュネが寝ぼけ眼の顔を上げる。どうもまだ、寝ぼけているように感じた。しかしそれも、僅かの間でしかない。シュネが俺を認識すると、それまでの様子が嘘だったかのように、覚醒したのだ。
「し、シーグ! 目が覚めたの!!」
「お蔭さんで。それに……体も問題ないみたいだ」
俺が病室のベッドで寝ていたことから考えると、治療用カプセルを使用した治療を受けたあとだろう。そうでないのならば、いまだに治療用カプセルの中にいる筈だからだ。
因みに、まだフィルリーアにいた頃に使っていた薬液を満たした水槽により治療は、俺たちの艦隊では既に使っていない。今はシュネがより性能を向上させ、しかも治療用の薬液を満たなくても治療できる治療用カプセルにとって代わっている。つまり、より簡便になったのである。とても、ありがたいことだった。
「シーグ! 問題ない!? 大丈夫!!」
「全然、大丈夫だ。それに、調べたんだろう? それでも異常は出なかった、だからこうして俺はベッドで寝ていた。違うか?」
「それは……そうだけれど……でもでも! 私の不注意で、シーグを、その……」
「シュネ。もういいよ」
俺はシュネの頬に触れながら、できる限り優しく声を掛けた。そもそも、あの状況が特殊だったのだ。今となっては俺たちの常識となっていることだが、通常の戦闘中はデュエルテクターを身に着けているのが普通の状態なのだ。あの時のように、俺だけがデュエルテクターを身に着けていないなどと言う状況は、ここ最近ではほぼない状況であると言える。確かにシュネ自身が言ったように、不注意と言えば不注意かも知れない。しかし、だからといって先程のシチュエーションでシュネを攻める気も問い詰める気もないのだ。
「だけど……」
「いいって。次から気を付けてくれれば、それでいい。気にするなと言っても、無理だろうけどさ」
「ごめん、ごめんなさいシーグ!」
次の瞬間、シュネは涙を流しながら俺に抱き着いてきた。既に完治していることもあって、俺は彼女しっかりと受け止める。そして俺も思いを込めるように優しく、だけどしっかりと抱き返したのだった。
俺が目を覚ましてから数日もした頃、俺の容体を気に掛けていたシュネも日常へと戻っていく。とは言うものの、その日常と言うのは、倒した敵の本拠地調査なのだが。
実際問題として、治療の為とは言え俺が寝込むという稀有な事態となっていなければ、シュネは自分が言い出した敵本拠地の調査をしていた筈なのだ。もっとも、俺が寝込んだ理由の大半はシュネにあるのだけれども、今は置いておくとしようか……ともあれシュネは本拠地の調査へ戻っていったのである。シュネが俺の看病で抜けている間、既に調査へと着手していたセレンや俊、ネルなどと合流する形で。兎にも角にも、色々な意味で調査などに関して、実力が一番のシュネが合流する。さぞ調査も進むこととなるのは、間違いなかった。
一方で俺はと言うと、まずは自身の体の具合を確認していた。治療に関しては疑う余地などないのだが、治療を受けたことで自身の具合と感覚がずれているかも知れない。若しくは、感覚のずれなどはなくても、体が鈍っているかも知れない。そのことを把握して、しっかり調整しておく必要があるのだ。何よりこれは感覚の問題だから、誰にも力は借りられない。仮に借りるとするなら、それは最後の仕上げとして組手の相手をして貰うぐらいだろう。
「……ふむ。若干だが、鈍っているのは否めない、か。だが幸いなことに、怪我の影響などと言った体の動きと感覚のずれのようなものは殆どない。しっかりと鍛錬を行えば、すぐにでも取り返せるだろう」
きっちりと感覚を取り戻せば、間もなく体のキレのようなものも取り戻せる。僅かに感じた感覚のずれのようなものも、その間に調整できる筈なのだ。そして実際、数日のうちに感覚のずれなどの修正は終えたのである。ここまでくれば、もう問題にもならない。そこで俺は、祐樹たちに任せきりとなっていた拠点周囲の警戒に参画することにした。
「お。もう、いいのか?」
「お陰さんでな。今日から、周囲の警戒に俺も加わるよ」
「そうか。シーグがいいというなら、別にいいぞ」
「おう。それで、俺がいない間だが、何かあったか?」
「問題が全くなかった、とは言わない。けど、殆どが自然に起きた現象だからなぁ」
「そっか」
つまり、敵対勢力と判断していいような存在が現れたりしたことは、俺が復活する今日に至るまでの間には、なかったというわけだ。これは、いい知らせに間違いないと言える。何であれ祐樹の言葉に安心した俺は、暫く期間が開いてしまったキュラシエ・ツヴァイの操縦をする為にコックピットに乗り込むことにした。懐かしいという感慨を覚えるほど乗っていなかったわけではないが、それに近い何かを感じる。その感覚に身を委ねていると、ツヴァイに搭載されているシエから声が投げかけられた。
「シーグヴァルド様。出発なさいますか?」
「ああ。哨戒に出る……キュラシエ・ツヴァイ、出るぞ!」
カズサから発進する前に、艦橋へ連絡する。発艦の許可を得ると、以前の拠点強襲以来、久方ぶりの宇宙へと俺はキュラシエ・ツヴァイと共に飛び出たのであった……うん。やっぱり、宇宙はいいものだな。
別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




