第百二十二話~訪問~
第百二十二話~訪問~
アループ子爵領から尻に帆を掛けたかのようにしてとっとと逃げ出した俺たちは、それからシュネ謹製の魔力波探知装置を使用する。そのお陰もあって、迷うことなく目的の場所へと向かうことができたのであった。
有視界という意味でははるか遠く、しかし宇宙的な距離で言えばすごく近距離。そこに、今回の目的地はあった。だが、その目的地がモニター越しに見えているわけではない。銀河南方で文字通り消し去った拠点と同様に、肉眼は勿論だがセンサーにも反応しないからだ。有り体に言えば、結界によって覆われることで隠蔽されているということになる。つまり、前の拠点と同様に魔力を消して魔道具自体を機能不全にしなければならないというわけだった。
「というわけで、新しい道具よ」
「何がというわけなのかは分からないけど、新しい道具?」
「そう。新しい道具よ」
その新しい道具だが、効果は魔力をゼロにするというものだ。要は、銀河南方でカズサの魔術陣砲を使った魔力を無効果する機能と同等の効果を持つ道具らしい。但し、前回と違う点は、魔術陣砲から放射するものではなく単独運用することが可能となっていることとのことだった。
「なるほど。それで、どうやって今は見えていない拠点にまで効果を届かせる気なんだ?」
「撃ち出してもいいし、転送でもできるわよ。でも、撃ち出した方が確実ね」
「転装は駄目なのか?」
「駄目、ではないわよ。ただ、距離的な問題があるから」
転送だが、何も距離を無制限に無視して行えるといった代物ではない。そこには色々な制約があって、有効範囲が限定されるのだ。つまり今回の場合、その有効範囲にまで近づかなくてはならないということになる。現在はステルス機能を最大にして航行いているので、まず相手に見つかることはないだろう。だが、それでも近づけば近づくほど見付けられてしまう可能性は上がってしまう。その点、シュネの開発した新しい道具を撃ち出せば、近づくという意味では同じだがそれでも俺たちの艦隊が近づくよりは見付かりにくいとのことだった。そこには、大きさ的な意味も多分に含まれている。やはり見付かるかどうかの要素に、大きさというのも多分に影響しているのだ。確かに全部で五隻、最大の船となる工作艦に至っては一キロメートルを超えているのだから決して小さいとは言えないだろう。
一方でシュエの開発した道具の大きさは、宇宙船に比べれば遥かに小さい。それなりにだがコンパクトに作られているので、見つかりづらさで言ったら間違いなく後者となるだろう。しかも、この道具に至ってはステルス機能まで搭載されているらしい。となれば、どう考えても宇宙船で近付くより遥か見つかり辛い。そしてそれは、俺たちクルーの安全面でも、申し分ないということだ。
「これは、どう考えてもシュネの作った新しい道具の方がいいよな」
「そうでしょ? 名付けて「ゼロエリア発生装置」よ」
「え? セロエリア……何だって?」
「だから、セロではないわ。ゼロ。「ゼロエリア発生装置」よ!」
どうやらシュネは、魔力が全く皆無となる範囲を「ゼロエリア」と名付けたらしい。そういえば、これといった名称を聞いたことがなかったなと改めて思い返す。それはフィルリーアにいた頃も同じで、名称などを聞いた記憶はない。魔力が全くないという現象、もしくは領域があるとしか把握していなかったのだ。よくよく考えてみれば、不思議な話かもしれない。魔力が過剰にある現象については「魔力だまり」などという名称があったことに対して、逆の現象については名称がないのだから……だが、別に今さらだな。それにこうやってシュネが名付けたのだから、それも解決した話だと言えるだろう。
「そうか。取りあえず、そのゼロエリア……何だっけ?」
「シーグ。「ゼロエリア発生装置」よ」
「ああ。それそれ。そのゼロエリア発生装置をとやら使うことに、反対あるか?」
『ない(わ)』
当然のように、誰からも反対意見は出ない。何といっても、シュネが作ったものだ。その品質に関しては、太鼓判を押してもいいだろう。その点は、俺たちの中で共通した思いなのだ。ともあれ俺たちは、その道具を使うことに同意する。そうなると使い方となるが、どのように使うのだろう。その点をシュネに聞くと、嬉しそうに説明をしてくれた。
その扱い方だが、割と簡単だと言っていい。ゼロエリア発生装置そのものを、目標地点まで移動させて稼働させればいいだけだからだ。問題はどうやって目標地点まで移動させるのかだが、こちらも自ら移動するので問題とはならない。つまり、ロケットを撃ち出すようなものなのだ。しかし、移動する過程で相手に存在を感知されてしまっては元も子もない。その為に、ステルス機能も搭載しているらしい。要するに、目標地点まではステルス機能を使う。そして目標地点に達すると同時に、ゼロエリア発生装置を起動させるのだ。
「それで完全に無効化できるのか?」
「少なくとも、銀河の南で相手をした拠点と同じ機能なら完全に無効化できるわ」
「違った場合は?」
「通信等もジャミングもできるから、大丈夫よ」
ほう。
魔力を無効化させるだけでなく、通信妨害もできるのか。だけど、向かっている拠点は敵の本拠の可能性が高いとシュネから聞いた気がするので、そのジャミング機能は必要なのだろうかと思わなくもない……思わなくもないのだが、聞いたらもったいないから付けたとか言われそうな気がする。何が勿体ないのかは、全く見当がつかないんだけどな!
「ま、まぁいいか。取りあえずシュネ、よろしく頼む。俺たちは念の為に、キュラシエで待機するから」
「了解よ。もっとも、大丈夫だと思うけれどね」
「そこはそれ、念の為ってやつさ。シュネの頭や技術は信頼しているけど、警戒しておいて損はない」
「それもそうね」
「そういうことだ」
警戒など、幾らしてもし過ぎることなどないのだ。油断して余計な被害を受けるなど、それこそごめん被る。それならば、後々に笑い話にでもなっていいから警戒を怠らない方がいいのだから。その後、キュラシエのコックピットに俺たちが乗り込み、待機状態となったところでシュネがゼロエリア発生装置を使用する。とは言っても、ステルス機能全開状態なので、有視界では全く見えない。専用に開発したというセンサー越しでしか、感知はできないのだ。その感知にしたって、開発者のシュネが味方にいる俺たちだからできるのである。俺たち以外ならば、有視界は無論のこと、センサーを用いても感知はできない筈なのだ。
「……反応、ないな」
「はい。感知はされていないと推察されます」
キュラシエのコックピット内で、何とはなしに漏らした俺の言葉を拾ったのだろう。キュラシエに搭載されているコンピューターのシエから、返答された。別にシエに対して聞いたわけではなかったのだが、独り言を漏らすよりは……まぁいいか。それから暫く、ついに目標地点に到着したのか、ゼロエリア発生装置が稼働したようだ。とはいうものの、魔力の領域など肉眼で見えるものではない。だからセンサー越しにしか、成功したのか失敗したのかなど分からないのだ。しかしながら、センサーの反応を見るに成功したようである。その証拠に、ついさっきまで影も形も見えなかった拠点らしき物体が、しっかりと宇宙の海に浮かんでいるのが認識できているからだが……あれは本当に本拠地なのか? 見た目的には、銀河南方地域で消滅させた拠点とほぼ同じように見えるのだけれど。
≪上手くいったわ≫
「そうか。じゃあ、乗り込むとするか。全機発進する!」
『了解!!』
直後、俺たちが駆るキュラシエが、カズサから順次発進していく。目標となるというかこれから制圧する拠点が、前に制圧した拠点とあまり差があるように見えない点は前述したように気に掛かる。だがそれも、制圧したあとで調べてみれば分かるだろう。多分だけど。またその場合、シュネやセレンや俊に任せきりっとなってしまうのだろう。とはいえ、手伝うことがあれば手伝うつもりだ。もっとも俺たちの手が必要ならば、だけれども。
カズサから発進した俺たちだが、魔力の全くない状態となっているエリアに達する前にエンジンである炉は停止させている。では慣性だけで近付いているのかというと、そんなことはない。そもそもキュラシエは、二つのエンジンが搭載されている機体なのだ。一つのエンジンは、現在稼働を停止させている通常使う炉となる。こちらの炉は魔力をエネルギー源としているという点からか、シュネが魔導エンジンと名付けている。そしてもう一つのエンジンはというと、核融合炉なのだ。何ゆえにこのような仕様としているのかといえば、シュネが名付けたゼロエリア対策である。魔導炉だけでの運用となると、魔力がないゼロエリアに侵入した時点で停止してしまう。安全装置があるので暴走などの問題は発生しないが、代わりに慣性以外の移動方法が無くなってしまうのは言うまでもない。そこで、核融合炉という全く魔力を介さないエンジンがキュラシエに搭載されているのだ。
因みに俺たちの運用している宇宙船も、同様の仕様となっている。キュラシエに搭載されている魔道炉と比べて遥かに出力が上となる戦闘艦用の大型魔導炉エンジン、それと核融合炉ではなくより出力を確保できる縮退炉エンジンを積み込んであるのだ。さらに言うとキュラシエに搭載されているエンジンは魔導エンジンと核融合炉はそれぞれ一つずつとなるが、宇宙船に至ってはそれぞれ複数のエンジンを積んでいるのだ。
話がそれた。
兎にも角にも俺たちは、キュラシエを駆り目標の拠点へと近づいて行く。だが幾ら近付いても、相変わらず何も反応はない、ただ静かに、それは宇宙の海に佇んでいるだけであった。どうやら、懸念したことは杞憂だったらしい。俺が目標物に近づくに当たって気にしたのは、今から向かう拠点も俺たちの宇宙船やキュラシエのように魔力がない領域を考慮に入れた仕様だったらというものだった。その点についてシュネに尋ねたのだが、返ってきたのは問題ない……筈という答えである。実は銀河南方で見つけた拠点も、魔力をエネルギー源とする炉だけだったらしい。だから、これから向かう拠点も同じ仕様で作られている筈だというのだ。何となく頼りない気がしないでもないが、シュネの言葉を信じて向かっていたというわけである。ただ、そこは問題ないと言い切って欲しかったところ何だけどな。
「……本当に、問題はないみたいだな……」
俺たちが一人も掛けることなく無事に拠点の近くまで辿り着くと、その様にカズサへ通信してその旨を伝えたのであった。
別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




