表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/227

第百十九話~勧誘~


第百十九話~勧誘~



 アループ星系の行く末を決めると言っても差し支えがない大規模宙賊団の討伐を、アループ子爵家はついに完遂する。そして傭兵としてその作戦に参画した俺たちもまた、十分な報酬を受け取ることとなるのであった。





 ギルドにて報酬を受け取る手続きを終えたことで、ついに宙賊討伐作戦の報酬を受け取る。ボーナスなどはなかったので想定した報酬額より大きく外れることはなかったが、それでも大きな実入りであることに変わりはない。暖かくなった懐に、俺たちはほくほく顔となっている。だが、俺たち以上に喜びを表しているのがクルドだ。何せ数百年ぶりに訪れた故郷で発生していた宙賊の跳梁跋扈ちょうりょうばっこという名の災難を、晴らすことができたのだから当然なのかも知れない。仮に俺やシュネや祐樹たちの故郷がもし同じ状態にあると分かっていれば、クルドと同じように行動した可能性はゼロじゃない。その行動の結果として救うことができれば、クルドと同じように嬉しくなる……ような気はする。多分だが。


「……まぁ、そうね。嬉しいと言えば、嬉しいかしらね」


 その時にシュネへと話を振ってみたのだが、彼女からの返事はクルドのように喜んでいるとは思えないものだった。嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいのかなとは思える。しかし手放しで喜んでいるのかと言われると、とてもそういう風には見えない。どうしたのかといぶかしげに眉を寄せながら尋ねてみると、シュネは苦笑を浮かべながら自身の心情を教えてくれた。


「人は、理解できないものや異分子を排除しようとするから……」

「…………あぁ、そうか。そういうことか」


 実は俺自身、思い当たる節はある。俺には姉の他に兄もいるのだが、その兄が道場を継ぐこととなっていた。そして兄も十分強かったのだが、強さでいうと俺の方が強かった。兄では相手にならず、父親とすらも越えていた。まともに相手できるのは、流派当代となる祖父ぐらいで、それとて老獪さなどが発揮されなければその祖父でも俺に勝つことは難しかったのだ。

 そして姉に関してだが、彼女は初めから護身以上の技……いやわざを身に着けるつもりもなかったようなので、問題とはならなかった。少しばっかり話がそれたが、ここで問題なのはその兄だった。簡単に言えば、嫉妬されてしまったのである。俺自身はそもそも流派を継ぐ気はなかったのだが、幾ら兄にそういっても信じてはくれなかったのだ。兄弟のことなので姉が取り持ってくれたこともあって、兄との関係が険悪になるとまでには至っていなかったし、それに兄自身、道場生などに稽古をつける時などはあくまで当代候補筆頭として俺にも接してくれていたのである。それがいずれ流派を継いで当代となるからか同かは分からなかったが、それでも公私の切り替えはしていたということらしい。しかしながら、兄弟としては完全に疎遠となっていたのだ。

 それゆえに俺は、いずれ家を出た方がいいだろうなとは思っていた。しかし結果的に、大学卒業前に列車事故に遭遇して命を落とし掛け、しかもそのタイミングで召喚魔術に巻き込まれたことで魂だけがフィルリーアに召喚されるという羽目に陥ったことでそのような未来はなくなった。だがもしかしたら、シュネが言ったような顛末は俺にも降り掛かっていた可能性はある。もっとも規模としてはものすごく小さいので、クルドやアループ子爵家の人間が効けば一緒にするなと言われてしまうだろう。ただ知られなければ言われることはないので、気にしないけどな。


「つまりは、そういうことよ。だからといって、知らないとは言わないし助けないとも言わないわよ」

「ま、俺だってその立場となったらそうだろうな。そして、名乗りもしないだろう」


 別に英雄ヒーローは隠れていた方がかっこいいなどというつもりではなくて、単純に面倒だからだ。そしてそれは、シュネも同じのようだった。


「ええ。わたくしもご免被るわね。政治に直接・間接関係なく関わると、碌でもないことになるのは間違いないから」

「そうだな。そう……だよな」


 実際、フィルリーアでも現地勢力から目を付けられない為に、わざわざ行商人をしていたくらいだ。短時間で金を稼ごうとするなら、幾らでも手はあった。それこそ古代王国期の硬貨などの財貨、それからシュネが作ることのできる古代王国期と同等かそれ以上の性能を持つ魔道具などを作成して販売してしまえばいい。何よりシュネが作る魔道具は、完全に新品となる。その為だろう、魔道具の持つ性能は、古代王国期の遺跡等からごくまれに発掘される製造から一万年以上の年月の経った魔導具よりいい物ができてしまうのだ。なお、作る魔道具をデチューンして性能を低下させて売るという手もとれなくもないのだが、たとえその場合でも商売相手となるのは大抵が各国やその国の王や王族、もしくは貴族となるのは間違いない。フィルリーアにいた頃から権力から距離を取ろうとしている俺たちが、その権力との距離を縮めるような動きをすることとなるということだ。それでは、本末転倒ほんまつてんとうでしかない。だからこそ俺たちは、その手は使わずに地道に地方への行商をして宇宙に出る為に必要な宇宙船を建造する為の資金、そして必要となる資源を独自に探していたのだ。


「だけど、そういった話をしても仕方がないわ。まず、有り得ないだろうし」

「それも、そうだよな」


 シュネから聞いた話ではあるが、俺たちが今いる時間軸が、必ずしもフィルリーアへくる前と同じとは限らないらしいのだ。確かに俺たちと祐樹たちは、同じ列車に乗り込んでそして事故に遭遇したことはほぼ間違いない。しかし、俺たちが地球のしかも日本で生活していた時間軸と、今現在生きている……俺とシュネは憑依したがそれは置いておくとしてもだ。兎にも角にも、今の時間軸が召喚される前の時間軸と同じかどうかなど分からないらしいのだ。つまり、比較する対象がないので、同じかどうかは比べられない。だから、時間軸が同じなのかそれとも違っているのか。そもそもからして、同じ世界というか同じ次元なのかどうかも分からない。因みにその時、その言葉の意味について続けた尋ねたところ、パラレルワールドの可能性もあるからとのことだった。いわゆる並行世界というやつで、量子力学に準ずる考え方なのだそうだ。その話を聞いた時、並行世界……パラレルワールドとはそういうものと初めて知ったわけである。


「流石の私でも、先のことは分からないわ。ある程度の予測は、たてられるけどね」

「その予測がほぼ正解と言うのが、シュネの凄いところの一つだと思う」

「あら、シーグ。ありがとう」

「おーい。そこでいきなり、のろけないでくれお二人さん」


 いや。別に、のろけたつもりはないけど、祐樹から出た予想外の言葉に思わず視線を向けてしまう。すると祐樹は、何とも言えない表情をしながらやれやれとばかりに肩を竦めていたのだ。その様子に、今度は俺が眉をしかめたとしても俺が攻められることはない筈だ。

 正にその時、ネルから通信が入っている旨を告げられる。誰からかの通信なのか心当たりが全くと言っていいほどないので、取りあえず送り主について聞く。どうやら通信相手は、フィル・クーガンらしい。先日まで受けていた依頼の最中さいちゅうならばまだ分からないでもないが、依頼が終了してから接触があるとは予想もしていなかったので頸を傾げてしまう。はっきり言って、通信相手としては意外でしかないからだ。どうやらシュネや祐樹たちも同じ心持ちだったようで、みんなして俺と似たような仕草をしていた。その様子に、思わず微苦笑を浮かべていた。


「シーグヴァルド様、いかがなさいますか? 忙しいと、断りましょうか?」

「……ところで、シュネ。その通信だが、どういった内容なのか分かるか?」

「いえ。流石にそこまでは」


 それは、そうだよな。

 ただ通信があったというだけで、その内容までわかるわけがない。これがメールなら別だろうが、入っているのは通信だ。ただ、とても意外な人物からなので、少し混乱というか粟食ってしまったようだ。とはいえ、気になると言えば気になるのも事実。そこでここは会ってみるのも悪くないかと思いシュネたちに聞くと、彼女たちも反対する気はないようだ。そこで、話だけは聞くことにする。だが、今いるのはあくまでプライベート空間なので、せっかくのくつろぎタイムを邪魔されたくない。そこで、艦橋のメインモニター越しに通信を行うことに決める。それから間もなく、移動した艦橋でフィル・クーガンとの通信回線を開いて用件を聞き出すことにした。


「それで、何の用です?」

「うむ……実はだな……」


 何とも言いづらそうなフィル・クーガンの様子を見て、俺は首を傾げる。相手からそのような態度を取られる理由が、全く見当つかないからだ。フィル・クーガンが逡巡しゅんじゅんしていることもあって、カズサの艦橋に何とも言えない奇妙な時間が流れていく。やがて意を決したのだろう、いよいよ通信相手が口を開いたのであった。


「シーグヴァルド殿、そなた……否、そなたら全員、アループ子爵家に仕官せぬか?」

「……えっと、本気で言っているのか?」

「勿論だ」


 フィル・クーガンから重々おもおもしく出た言葉に、俺は内心で大きな溜息をついてしまった。今回の依頼を受けるに当たって、可能性としてはあり得るかも知れないなと予測していたことが現実となってしまったからだ。とはいえ、本当に俺たちへ仕官の話がくるとは……と言うのが正直な思いではある。本音を言えば仕官の話など、できればして欲しくはなかった。世の中とは、ままならぬものである。

別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。

古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。


ご一読いただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シーグにしろシュネにしろ、一子爵家なんて小さい世界に収まりきれないから、やがて軋轢を生むでしょうね。 二人も抑えつけられるのを嫌いそうなので、勧誘は断るでしょう。 クーガンが渋い顔してるのは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ